No.392433

世界を渡る転生物語 影技1 【その世界の名は】

丘騎士さん

 俺自身の死。

 それは月の女神ルナが変化していた猫を庇った事により起こってしまった。

 本来ではありえない俺の死に、ルナちゃんは自分のせいだと落胆し、俺に謝罪する。

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2012-03-16 10:35:54 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:8280   閲覧ユーザー数:7999

ー光 渦 激 流ー

 

 ルナちゃんに見送られ、【転生の門(ランダムゲート)】の奔流に飲み込まれた俺。

 

 今現在、俺はその【転生の門(ランダムゲート)】に渦巻く光の奔流に翻弄され続けていた。

 

 落ちているのか、飛んでいるのか……上下左右に俺の体は荒波に飲み込まれるように錐揉みにもみくちゃにされながら光の波に攫われ、いずこかへと俺を運び去っていくように見える。

 

 あまりに眩く、あまりに激しいその光……まさに自分さえも見失いそうなその光の中で、俺は必死に流れの先を見据え、ふとした瞬間に光に飲まれ、失われんとする自分の意識を強く保とうと必死に意識を集中し続ける。

 

 まるで体が光に解け、消え去ってしまうような感覚に恐怖を感じつつも、俺はひたすらに目的地へと到達することだけを願い、じっとこらえ続けた。

 

 そんな中、光の波を見据える俺の目の前で光の奔流がその混沌とした流れを一点に集約し始める。

 

 濁流とも呼べる流れだった光が清流とも呼べるような綺麗な流れになり、その流れが光の塊となって空間に干渉しだす。

 

ー空 間 開 扉ー

 

 そしてそれは、何かガチンという連結されるような音と共に……恐らくはこの光の渦の世界とどこか別の世界を繋いだのだろう、その音と共に俺の目の前で光の門となってその扉を開き、閃光が俺の視界を埋め尽くした。 

 

ー吸 引 現 世ー

 

『おわああああああああああああ?!」

 

 その閃光の中、俺の体は光の門に吸い寄せられるように……光の渦に押し出されるように。

 

ー開 扉 抜 出ー

 

 俺の体はきゅぽん、という間の抜けた音と共にその光の門を抜け、俺は新たな世界に産声を上げる事となった。

 

「およおおうあおおうあああああおおおええええあああ?!」 

 

ー地 面 連 転 ー

 

 しかしながら、この世界に抜け出した勢いがあまりにも強く、立ち止まることも出来ずに意味不明ななんとも情けない声をあげながら俺は脚をもつれさせ、初めての世界で地面をゴロゴロと転がるという失態を演じ続けていた。

 

ー背 面 激 突ー

 

「ぐぅ!」

 

 しばらく地面を転がったところで、何か硬いものに背中をぶつけ、ようやく俺の体の回転は止まる事となり、ぶつかった衝撃で一瞬息が詰まったがたいした事はなさそうなのでそこらへんは重視しなかった。

 

「うおお~……目が回った……」

 

 ただ、転がり続けたことにより今現在逆さまになって目を回している俺は、動く事も出来ずにしばらくそのままで固まっていたのだが……ようやく視界が戻り、意識がはっきりし始めたことで周りを見渡す余裕が出来た。

 

 ふと、俺がこの世界に入り、転がり始めた先を見るとすでに【転生の門(ランダムゲート)】と呼ばれた光の渦を巻く空間はなくなっており、青々と生い茂る草々に俺の転がった後がくっきりと残っているだけだった。

 

 とりあえず、この世界についての情報を得るため、立ち上がった俺は、ふと俺の回転を止めてくれた背中に当たる硬いものを振り返って確認した。

 

 ──それは、実に立派な樹木の幹だった。

 

 遥か頭上に緑の葉を揺らし、葉の隙間から木漏れ日が差し込む。

 

 俺の前世、あの田舎でも見なかったほどの太い幹といい枝ぶりの、巨木といえるほどの樹木。

 

 それが、俺の前後左右に、縦横無尽に、森林として広がっていたのだ。

 

 そして、それに気がついた瞬間、俺は大きく深呼吸をする。

 

 清廉で、それでいて濃い緑の匂いが俺の鼻腔を満たし、肺を満たす。

 

 実に澄んだいい空気だった。

 

(しかし……すっごい森林だな……)

 

 そんな空気を楽しんだ後、俺の頭を埋めつくしたのはそんな素直な感想だった。

 

 種類的にも、大きさ的にも見たこともが無いほどの巨木に興味を持った俺は、その幹に触ろうとそっと手を伸ばし─ 

 

ー小 手 触 樹ー

 

 自分の意識する体の感覚とは大分遅れて(・・・)巨木に触れる。

 

「……え?」

 

 なぜ、という思いを浮かべた俺の視界の中。

 

 その俺の視界に写ったのは、樹木の幹に触れる……小さな手。

 

 そして、俺が触れるまでの距離の長さ。

 

 俺の口からでる声の甲高さ。

 

「え? え?」

 

 咄嗟に木の幹から手を放し俺は両手を自分の目の前にかざす。

 

 その両手には、紺色の皮製、指先が出るフィンガーレスタイプのグローブが装着されていた。

 

(いや、それはいい! そうじゃなくて?!……まて、まてまてまて?! なんで俺の手がこんなにちっちゃいの?!)

 

 正直、あまり容姿と見栄えがよくなかった俺だが、体は一応180cm越えで結構大きい部類に入っていた。

 

 その身長に見合ったように脚や手も大きく、少なくとも俺の手は、こんなに柔らかそうな小さな手ではなかった。

 

 ゲーム好きな俺は、様々なゲーム機器を持っていたが、その中でもPSPを手に乗せても指先と手首近くの掌が見えるぐらいには大きかったのだ。

 

 腕のリーチだってこんなに短くはなかった。

 

(いや……嘘だろ?! いや、いやいや、まさかな!)

 

 恐る恐る両手から視線を外し、自分の体を見るために視線を下に移して行く。

 

 黒い皮製の頑丈なブーツが俺の視界に移し、そのサイズに内心驚愕する。

 

(ちっさ!)

 

 28cmの靴のサイズだったはずの俺の足は、そのサイズを半分ぐらいに減じていた。

 

 腿をむき出しにし、その半分まで伸びている黒いスパッツ状の履物と、その上に履いている皮製の紺色のハーフパンツ。

 

 所々にポケットの着いた、紺色の半袖ジャケット。

 

 そして上半身を包む、体にフィットするタイプの黒い半袖シャツ。

 

(う……嘘だろ?! ま、まさか……鏡! そうだ鏡だ!)

 

 この世界に来てから感じていた違和感。

 

 巨木や背の高い草花たち。

 

 妙に低い視線。

 

 そしてこの手や足の小ささ。

 

 心にわきあがる不安を拭いきれないまま、俺は鏡代わりになるようなものを探す。

 

 森林の濃い空気の中を駆け回りながら、俺はこんな森に鏡なんてあるわけないじゃないかと自分の考えにがっかりする。

 

 しかしながら、じっとしていても仕方ないと歩き回ることにした瞬間、ふと風に乗って感じられるひんやりとした湿った空気。

 

 俺はその気配を頼りに、鬱蒼とした木々の間を駆け抜け、森林の中を突き抜ける。

 

 そして森を突き抜けた先に広がるのは─

 

「うわあ……」

 

ー清 湖 面 輝ー

 

 清廉という言葉がしっくり来るほどの青く透き通った、美しい湖だった。

 

 川からの水が注ぎ込まれ、下流と思しき場所から水が流れていくその湖面は、ゆらゆらと小さな流れを起こしつつも、森や太陽をその身に移しこむほどの美しさを誇っていた。

 

(……そうだ、ちょっと喉も渇いたし……こんなに綺麗な水なら飲んでも大丈夫だろう)

 

 ふと、喉の渇きを感じた俺は、気持ちを落ち着ける意味でも、一端休憩を入れようと湖面を除きこみ、水を掬おうと手を伸ばす。

 

ー鏡 面 水 湖ー

 

(え……ルナちゃん?!)

 

 そんな水を飲もうとした俺の視界、湖面に映る……腰まで伸ばした蒼い髪がさらりと流れ、やや釣り眼気味の緑色の瞳に二重まぶた。

 

 ふっくらとした唇に、しかしながらルナちゃんよりも幼い顔立ちの美少女(・・・)が湖面にくっきりと映し出されたのだ。     

 

 そんな美少女ともいえる外見の子が、俺に向かってその手を差し出してた。

 

 俺と同じ姿勢で(・・・・・・・)

 

「えっ……?」

 

 瞬間、停止した思考でじっと湖面に映る美少女と思しき少女と見つめあう事になり、俺はその表情を見て固まった。

 

 その美少女の顔を彩るのは驚愕であり、それは俺の心境を如術に表していたからだ。

 

 そして、それと同時に湧き上がる疑惑と、それにつらなる確信。

   

(……いやいや、はは、そんな馬鹿な?!)

 

 俺は咄嗟に顔を挙げ、湖面に映った人物を探し、四方八方を見渡す。

 

 しかし、周囲に誰がいるはずもなく……湖の精とか、そういうファンタジーな話がない限りはこの場に存在するのは……俺唯一人。 

 

 呆然とする意識をどうにか奮い起こし、俺は恐る恐るもう一度湖面を確認する。

 

 そこに写ったのは相変わらず、ルナちゃん似の美少女の姿。

 

(あはは、おいおい……これが俺だって……事?) 

 

 自分の震える両手を恐る恐る顔へと持っていく。

 

ー顔 面 手 触ー

 

 その手に伝わる、顔の柔らかい感触と、顔に感じる手の暖かさ。

 

 もちもちとした触感。

 

(うわ、やわらか~い) 

 

「って……、なんでだ! どうしてこうなった?!」

 

 くだらない事を考えた矢先、俺は思わず頭を抱えて天を見上げた。

 

(何故、何故ビール腹だったオッサンボディーが子供になってる?! これじゃまるで……一部で流行ってる……そう、【男の()】ってやつじゃないか?!)

 

 そう、視界が低いのも、手が小さいのも、全部……自分の体が小さくなったからだと判明した。

 

 判明してしまったのだ。

 

 つまり……そう、俺は子供になっているのだ!

 

 ……見た目美少女といっても過言ではない外見の小さな子供に!

 

(……って、まてよ?! もしかして!!)

 

 俺は外見上の不安にかられ、咄嗟に下半身の状態を確認をする事にし─ 

 

「…………あったよ。……よかった……、本当によかった……!」

 

 そこにあった愚息を確認して、確かにあったことに心底安堵した。

 

(よかった。前世が男なのにいきなり性転換とかされてたらどうしようかと思ったぞ……!) 

 

ー深 遠 溜 息ー

 

 ほっとしつつも、この状態に対して深く安堵の息を漏らす俺。

 

 ……そして当然のように湖面に映る俺もそれに習うように安堵の溜息を漏らし、俺の溜息が湖面に波紋を作る。

 

(やっぱこれが俺なんだよな……ルナちゃん、これはちょっとないんじゃないかな……)

 

ー腰 落 座 地ー

 

 ふと力が抜け、湖の傍でがっくりとうなだれ、〇rzとなる俺。

 

ー手 紙 落 衣ー

 

 そんな両手をついて落ち込む俺の上着の胸ポケットから、零れ落ちるように俺の目の前に落ちる、四角く白い紙。 

 

「ん? なんだこれ……手紙か?」

 

 そう、白く四角い便箋に包まれた、それは手紙であり、何だろうと宛名を確認するかのように便箋を裏返すと─

 

「!? 差出人がルナちゃんだ! だどするとこれは!」

 

ー乱 雑 破 散ー

 

 きっとこの状況についてルナちゃんが書いてくれた手紙に違いない! と、俺は封筒を乱雑に開いて中身の手紙を取り出し、書いてある文章に目を通す。

 

『お疲れ様です。ルナです! おそらくこの手紙を見ているということは転生世界にたどり着いたものと思います』

 

(うん、まあたどり着いたよ。いろいろと予想外だけど……)

 

 やや丸文字のその文面に、諦めに似た気持ちで突っ込みつつも、俺は読み進める。

 

『【転生の門(ランダムゲート)】がつながった事で、その世界の情報が得られたので、その世界の大まかな世界観を書いておきます。その世界は、貴方が元いた世界とは違い、争いごとの絶えず、闘争が日常化し、貴方の世界では考えられない武術、そして神秘たる魔術のようなものが発展している世界のようなのです』

 

「……マジで?」

 

 この一文で、俺は頭の中が真っ白になった。

 

 精々、ガキの喧嘩しか経験したことがない現代人が……現代戦争よりは恐らく多少はましであろうが、いきなり闘争が日常な世界に放り込まれるというのである。

 

(いや……ないでしょそれ!? なんか対処法とかあるの?!)

 

 その現実に愕然となりながらも、何かそれに対処する方法はないのかと手紙を読み進める。

 

『さすがの私も、私自身の命を救ってもらって、尚且つこちらの言い分で転生してもらったというのに、いきなり争いに巻き込まれてThe Endとなり……こちらに舞い戻ってくるのでは貴方に対しても、こちらに対しても申し訳がたたないので……貴方の望んだ学習機能能力に付随する形で『進化細胞』というものもつけさせてもらいました。効果の詳細は後述してありますので、そちらを読んでください! 簡単に説明しちゃうと、体を鍛えれば鍛えるほど、脳を使えば使うほど、その能力が進化し強化されていくものです。なのでがんばって鍛えてくださいね!』

 

(なるほど……生き残りたければ強くなれって訳ね……。ぁぁ……争いの耐えない世界とか……オッサン、平穏無事に生きたかったです……)

 

 俺の心を諦めが占める中、俺はその能力の説明を読むために一枚目の手紙をのけて二枚目の手紙に差し掛かった。

 

『ところで外見は気に入ってくれましたか? 生前の姿は名前と同様に使えない使用となっていたので、下界の資料を参考にし、【男の娘】なるものが流行ってる、報告書にあがっていましたのでその設定を参考にし、それなら私と同じ外見でいいじゃない! と張り切ってみました!』

 

(いや、いやいやいや! それ一部の大きなお友達や、腐った女子って書く人たち限定ですから?! ルナちゃん知識偏ってないか?! 誰だこの報告書あげたの!! あれか?! ルナちゃんの部下は実は腐った女子って書く人種なのか?! それに、そこは張り切る必要ないよね?!)

 

「ええええ~……」

 

 驚愕が俺の頭の中を埋め尽くし、オーバーフローして軽く眩暈を覚え、額に手をあてて再び空を仰ぎ見る俺。

 

(はあ……今更行っても変わらないだろう。外見もよくなったんだし……まあいい……続きだ)

 

『そんな見た目に付随して、年齢のほうも前世での32歳から→6歳に変更しました! ……本当は赤ちゃんからやり直しだったんですけど、親元の都合がつかなかったので……赤ちゃんの過程を飛ばしならもすぐ自分の意思で動けるように、その年代にしました! すっごい若返りですね! いい青春をおくってください! お姉ちゃん、応援してます!』 

 

(よ~し、ちょっとまとうか?! 争いありまくりな世界で6歳ってルナちゃん! 一体俺にどうしろと! というか、俺と自分の外見を一緒にして姉気分を味わいたかっただけどかないよね?! こんなんで俺に何をさせたいんだッ!)

 

 つっこみがありすぎて思わず苦渋に満ちた表情になるのを自覚しつつ、どうにか心を沈めて3枚目の手紙に視線を落とす。

 

『さて、ここからは貴方の望んだ能力と、私が選んだ能力の説明と使用方法です。これをうまく使って第二の人生を桜花爛漫に楽しんでくださいね! ……本来ならば貴方の望む安全で優しい世界を用意したかったのですが……【最高神】様の指示と、私の力が至らぬばかりにご迷惑をかけてすいませんでした……。私の出来うる限りの能力を付随したつもりです。どうか……どうか無事で……そしてどうか幸せになってください!』

 

(いろいろつっこみたいが……まず桜花爛漫に楽しむってどういう意味だよ!)

 

 と思わず軽く突っ込みながらも、手紙を読み進める中……後半のルナちゃんの後悔に満ちた謝罪の文章を噛み締める。

 

(はぁ……まあ……中間管理職も辛いだろうしな。仕方ないか……今更こうなった時点でルナちゃんを責めても始らないし)

 

 ほとんど諦めの気持ちで、そう結論付けた後。

 

 謝罪文の後に書かれていた能力説明の欄を確認する事にした。

 

 そこに書かれていたのは─ 

 

 

 

1.【解析眼(アナライズ・アイ)

  

 【観る】という学習概念からその身に宿すことになった能力。

 

 眼前に移る万物の物体構成・使用方法などを瞬時に把握し、その本質を理解する……【識る】事により、その内容を自分自身に還元する力。

 

 【解析開始(アナライズ・スタート)】という発動語句で【完全自動解析(フルオートアナライズ)】を発動。

 

 後述の【無限の書庫(インフィニティ・ライブラリー)】の能力と組み合わせることにより、ごくごく少量の例外はあるものの、ほとんどの物質や事象の解析・記憶・技術の蓄積が可能。

 

 

 

2.【無限の書庫(インフィニティ・ライブラリー)

 

 【記す】という学習概念から刃に与えられた完全記憶能力。

 

 【解析眼(アナライズ・アイ)】で視認・分析・解析した結果等を書式状態に変換し、脳内に作られた仮想空間の書庫に保存する。

 

 外見的参考としては、某仮面でWな本棚を思い浮かべてもらうといいだろう。

 

 また、検索機能により、自身に起こっている現状に見合った知識・技術を自動で検索・反映させる機能も搭載されている。

 

 常時、記憶した機能を閲覧する事が可能。

 

 精神的に構成された独自的空間であり、膨大な知識と能力を統括するために仮想人格と呼べる存在が存在している。

 

 

 

3.【進化細胞(ラーニング)】 

 

 【鍛える】という肉体的学習概念から刃に備え付けられた能力。

 

 【解析眼(アナライズ・アイ)】・【無限の書庫(インフィニティ・ライブラリー)】で解析および蓄積した技術知識・解析結果をその体に反映させ、その技術を使用可能にする能力。

 

 また、その得た技術を使い続け、完全に熟知したといえるランク……スキル上でいくとランクS=Masterとなり、その状態に到達できた瞬間、それを応用・強化し、さらにはそれを超える技術を扱えたり、創り出せるようになる。

 

 またこの細胞は常に現状維持・および進化状態にあり、成長限界というものがない。

 

 そして常に成長を続けるという能力上、何らかの事情で長く動かないことによる筋肉の劣化・技術の退化などを完全に防ぐ効果がある。

 

 実質肉体の身体能力がピークに達すると思われる25歳以降は上記の通り、劣化・退化を防ぐためにそれ以上の加年は行われなくなり、肉体上の歳を取る事はなくなる。

 

 また、怪我・病気・身体の欠損なども正常身体の維持・進化という判断から、治癒・復元がおこなわれ、現状以上の状態を保とうとする。

 

 それに伴い、一瞬で身体全部が完全消失するというような事がない限りは、実質的な死亡状態にはなりえない。

 

 ただし、細胞の活性化の意味において、栄養不足等に陥ると【進化細胞(ラーニング)】能力が大きく減退するので注意すること。

 

 

 

 

(……おいおいおい……まてまてまて!? 【解析眼(アナライズ・アイ)】・【無限の書庫(インフィニティ・ライブラリー)】は、まあ……俺の望んだ学習能力としてはかなり……いや大幅に強化してあるが……望んだ通りの学習能力ともいえなくはないだろう。これに関してはルナちゃんに感謝だな)

 

 与えられた能力の非常識さに再びふらっと眩暈を起こしながらも、俺はその後にあった問題の能力に目を落とす。

 

(だけど……一番最後のこれは……ぶっちゃけ限定的とはいえ不老不死だろこれ?! いいのかこんなんつけて?! ルナちゃん神の立場的に大丈夫か?!)

 

 普通に生きて、普通に死ぬつもりがとんだチートの塊になってしまったために、逆にルナちゃんの立場を心配する羽目に……〇rz 

 

 学習能力までは確かに普通だったのだろう。

 

 しかし【進化細胞(ラーニング)】については……恐らくではあるが、かなりギリギリの橋を渡ったのではないだろうか。

 

 先ほどの手紙を読む限りの予想ではあるが……この転生先の世界の事情を知ったルナちゃん。

 

 行き先を変更する事も出来ないため、俺の最後の願い事であった『ルナちゃんが能力を決めてくれ』という頼み事に着目。

 

 尚且つ俺を死なせないためにルナちゃんの権限ギリギリの容量をもってねじ込んできた能力なのではないかと思う。

 

(まあ、この世界に送られることも……どうやらルナちゃんには不本意なことだったみたいだし……) 

 

 考えは尽きないが……すでに賽は投げられている。

 

 もう、俺はこの世界で生きていくしかないのだ。

 

 ならば、使えるものは全力でもって使い、日々を生きていくしかない。

 

 たとえ、それが自分が望まずに与えられたものであったとしてもだ。

 

「まあいいや……ここは割り切って開き直ろう!」

 

 この世界で生き残るためと腹をくくった俺は、早速とばかりに手紙に書かれてあった能力に慣れる所からはじめることにした。

 

「おっし……それじゃあいくぞ─」

 

❝【解析開始(アナライズ・スタート)】❞

 

 俺は、俺の両目に付加された能力、【解析眼(アナライズ・アイ)】の発動キーワードを口から紡ぎだす。

 

 その言葉を発した瞬間、俺の体内部……脳内に呼びかけるように俺自身の言葉が響き渡り、俺の体の内部で反響するかのような感覚が湧き上がった。

 

 そして、その言葉に反応し、俺の体の中……頭の中だろうか……どこかで聞いたような声が聞こえてくた。

 

(『キーワード確認。本人の認証完了。【解析開始(アナライズ・スタート)】……【完全自動解析(フルオートアナライズ)】起動』)

 

 その言葉と共に、俺の瞳にターゲッティングサイトのようなもが映し出され、次々とサイティングが増えていく。る。

 

(『【完全自動解析(フルオートアナライズ)】の起動に伴い、【無限の書庫(インフィニティ・ライブラリー)】・【進化細胞(ラーニング)】の連動開始。……能力同士の連結を確認。連動率……100%! 差異・互換修正……100%! 暴走率確認……0%! 以上をもって能力同士の連結を確認。最終コード開放。【完全連結完了(フルコネクト)】!』)

 

「ッ…………!」

 

ー体 躍 細 胞ー

 

 その瞬間、体中の脳が、血が、骨が、神経が。

 

 いや、俺の体全てを構成する全細胞がざわめくような感覚と共に、視覚とは別に脳内内部空間と思われる真っ白い……どこまでも真っ白い空間が映し出される。

 

 その真っ白い空間の中、自分という存在を中心に広がる、どこまでも……それこそ無限に続く空っぽの本棚の列。

 

ー記 録 書 化ー

 

 能力の発動に呆然としている俺を置き去りにし、瞳のサイティングが目の前に広がる全てのものにそのターゲッティングを施し、自動で【解析(アナライズ)】を始め、それは俺の内部空間で無地の分厚い書籍となると、解析した結果をそこに高速で記し、内容を埋め尽くすと本が閉じられ、背表紙に内容の題名を記しながら、その書籍は空中を舞い、空であった無数の本棚を埋めていく。 

 

(『大気成分・構成要素確認……解析完了』)

 

ー記 録 書 化ー

 

(『空気・構成要素確認……解析完了。人類が呼吸に適したものと判断。安全基準クリア』)

 

ー記 録 書 化ー

 

(『大地・土の構成要素確認……解析完了』)

 

ー記 録 書 化ー

 

(『湖・水の構成要素確認……解析完了。人類が飲食に使用できる水準をクリア』)

 

 といった感じで、有象無象もお構いなく、どんどんと埋まっていく俺の中の本棚。

 

 目の前のもの全てが知識として本になり、本棚に納められていく脳内映像は呆然としていた俺に驚愕を与えてくれる。

 

(なんというか、すごいなあ、これ)

 

 そんな脳内映像を見て呆然としていた俺ではあったが、俺は今自分が置かれている現状を確認しながら、自分のこの先……自分がどう生きていくべきかという事について思想をめぐらせる。

 

 この映像はこの能力の特性だから慣れる努力をすることにするとしても、現状を鑑みると……。

 

『唐突にこの世界に現れた、なんの知識もない6歳児が森の中で一人遭難している』

 

 という、なんとも絶望的な状況になる訳だ。

 

 知識系的には能力でどうどでも補えることは確実ではあるが……とりあえずは自分の命を守るためのもの……自己強化と衣・食・住を確保する方法を考え、かつ、確保しなくてはならない。

 

 正直言えば、食事を取らなくても【進化細胞(ラーニング)】の効果で死ぬことはなさそうではあるが……栄養不足だと【進化細胞(ラーニング)】という能力が十全を発揮できないらしい。

 

 それに、死ぬことがないのに腹が減り続けるとか……それはなんという拷問なのだろうか。

 

 冗談ではない。

 

 あとはそれらを得るために、6歳という年齢でどうやってこの世界のお金をどう稼ぐか、である。

 

(いや、子供が働くとか無理っぽいよなあ……どうしようかこれ……。あ~もう、せめてもう少し年齢が高ければやりようがあるのに!)

 

 いっても始らないようなことを考えつつ、生きるために必要な水はこの湖で確保できていることだし、と考え、さしあたっての問題として、食料調達から始じめる事にしつつ、湖の水を掬って呑みながら考える。

 

(……そういえば、まだ自分の名前も決めてなかったな。自分で自分の名前を決めるっていうのも変な感じだけど……)

 

 何をするにもついて回る自分の名前がない事に気がつき、思わず苦笑してしまう。

 

 前の姿とまったく変わってしまった自分の体を眺めつつ、自分に合うような名前の候補をあげて行く中─ 

 

 ふと、水面に映る自分の姿をじっと見つめる。

 

 この髪の色……蒼。

 

 風に靡きながら光を反射する様は青い炎を思わせる。

 

 その様子から……焔。

 

 これから起こりうる争いを乗り越えるために……心に……刃を。

 

「……うん。見た目はこんなんだけど……せめて名前だけでも男らしく、かっこよく! 俺の名前は蒼焔……蒼焔 刃(そうえん じん)!」

 

 自分でもどうかなとは思う名前ではあったが、自己を確定するための名前なのでやはりかっこいいものを選びたい。

 

(……正直、ちょっと中二病入ってるけどな!)

 

 そんなくだらない事を考えつつ、俺は俺の名前を自分に言い聞かせるかのように呟き、納得する。

 

(そういえば、この【解析(アナライズ)】や【無限の書庫(インフィニティ・ライブラリー)】って自己解析もできるのかな?)

 

 そんな事を考えつつ、内部空間の【無限の書庫(インフィニティ・ライブラリー)】に意識を向けると─

 

(『アクセス確認。マスター認証【蒼焔 刃】自己能力の確認要請を受諾。【解析(アナライズ)】開始…………完了。把握しやすいようにディスプレイ形式に表示します』)

 

 真っ白い空間に電光掲示板のようなものが浮かび上がりつつも、その背後には書籍が飛び交っている様子を見て、自分のことながら関心していると─

 

 その電光掲示板のようなディスプレイに文字が浮かび上がり、俺の現状を示す能力が映し出された。

 

 

 

 

 

登録名【蒼焔 刃】

 

種族 人間?

身長 102cm

体重 27kg

 

【基本能力】

 

筋力    D

耐久力   D

速力    D

知力    D

精神力   D

魔力    D

気力    D

幸運    B

魅力    S+ 【男の娘】補正

 

【固有スキル】

 

解析眼   S

無限の書庫 EX

進化細胞  A+

 

【知識系スキル】

 

現代知識  C

 

【作成系スキル】

 

料理    C

 

【魔術系スキル】

 

無し

 

【戦闘系スキル】

 

格闘    D

 

【補正系スキル】

 

男の娘   S (魅力に補正)

 

【ランク説明】

 

超人    EX⇒EXD⇒EXT⇒EXS 

達人    S ⇒SS⇒SSS⇒EX- 

最優    A ⇒AA⇒AAA⇒S-  

優秀    B ⇒BB⇒BBB⇒A- 

普通    C ⇒CC⇒CCC⇒B- 

やや劣る  D ⇒DD⇒DDD⇒C- 

劣る    E ⇒EE⇒EEE⇒D-

悪い    F ⇒FF⇒FFF⇒E- 

 

※+はランク×1.25補正、-はランク×0.75補正

 

【所持品】

 

衣服一式

 

(『表示終了。引き続き【自動解析(オートアナライズ)】に移項します』)

 

 ディスプレイの奥で飛び交う書籍が、再び活発に動きを活動する。

 

 瞬く間に埋まっていく知識の集約された書籍達。

 

 そんな光景を見つつも、俺は先ほど示された自分の基礎能力の事を考える。

 

(なるほど……運と、この……外見以外は俺は子供という事もあってやや劣るといった評価なんだな。それにしても……なんだ男の娘補正って?! そこまで魅力の強調をしたかったのかルナちゃん?! いや、女神を模したんだから当然なのか? それに人間? って……まあわからんでもないけどさあ……)

 

 解析結果に頷きながらも、かなり納得のいかない補正スキルに思わず突っ込みをいれてしまう俺。

 

 人間? に至っては恐らく【進化細胞(ラーニング)】の効果のせいだろう。

 

 不老不死をもつ人型を人間に分類するかどうかで迷ったのだろうか。

 

 なんとも微妙な雰囲気になりつつも、俺は当面の生きるという目標の元……俺は森に入りながらも【解析(アナライズ)】結果を元に食べられる植物を探し始める。

 

 ちょこちょこという歩き方がぴったりな歩幅で草を書き分け、【無限の書庫(インフィニティ・ライブラリー)】から示される情報を元に食べられる植物を採取する作業に入る俺。

 

 そして唐突に、【無限の書庫(インフィニティ・ライブラリー)】から告げられる、この世界の元となった名前。

 

(『転移世界情報を確認。平行世界名……【影技(Shadow Skill)】』)

 

(……肉体言語の世界なんですね……わかります)

 

 名を失い、転生した結果……その代償としてなのか、徐々に前の世界の一般常識以外の知識が欠落し、漫画やアニメなどの物語の内容が断片的情報でしか思い出せなくなっていく中。

 

 そんな中でも肉体言語という言葉が出たのは、驚異的身体能力を使って闘うシーンが多い漫画だったような記憶があったからだ。

 

(そっか、そういう世界もあるんだな……唯できれば……平穏無事がよかったんだけどなあ……)

 

 そんな事を思いながら採取作業に勤しむ俺。

 

 前途多難な行く先を思わせる、俺の遭難一人旅はこうして始ったのだった。 


 
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