第十三話 誇り
side レイト
鏡を通り抜けるとそこは戦場だった。
「は?」
唖然としたのも無理は無い。
こちらにいた頃の世界情勢を覚えているがここまでの大規模な戦場が発生する様な状況は一切無かったからだ。
一瞬、世界を間違えたかと思ったが飛び交う魔法を見ていると間違いなくキティが住んでいる世界だからだ。時折、オレがもたらした魔法も見えている。
「どうなってんだ」
そんなことを考えていると赤毛の男が近づいて来た。
「やい、てめえ。オレと勝負しろ」
side out
side ナギ
オレの名前はナギ・スプリングフィールド、千の呪文の男だ。
オレたち赤き翼はグレート=ブリッジ奪還作戦に参加してるんだが、急に現れた男からとんでもない魔力を感じた。だからオレは待機命令を無視して飛び出した。
「やい、てめえ。オレと勝負しろ」
「あ〜、ちょっと待ってくれ。現状が掴めん」
「はあ?何言ってやがる。お前、帝国の人間じゃないのか」
「どこの所属かと言われたらオレはアリアドネーだな」
「なんで中立のアリアドネーの人間がここにいるんだ」
「簡単に言うと事故だな。新しい転移魔法を作ったんだが、色々と問題があったらしくてな。気付いたらここに居たんだよ」
「お〜い、ナギ」
置いて来た詠春達が追いついて来た。
「ナギ、ここから離れるぞ」
「いきなりどうしたんだよ」
「連合が新型殲滅兵器を使うらしい。そっちの人は?」
「アリアドネーの人らしいけど、事故で飛ばされたらしい」
「そうか、なら一緒に」
その時グレート=ブリッジ中央部で爆発が起こった。
「......アレは」
爆発を見て、目の前の男が動きを止める。
その爆発光の後には光に巻き込まれた奴らが倒れていたがグレート=ブリッジ自体には何ともなかった。一体どんな兵器なんだ?
「おい、ナギとか言ったな」
「おう、オレはナギ・スプリングフィールド、千の呪文の男だ」
「貴様は連合に所属していて、先程の兵器を使ったのは連合だな」
「そうらしいけど」
「なら、帰ってお偉いさんに伝えろ。貴様らは」
急に目の前の男の魔力が、元から高かったのに更に上がった。
「オレの誇りを穢した。よって排除する」
side out
side レイト
赤毛の男の仲間らしき奴らがこっちに来て何かを話している。
「連合が新型殲滅兵器を使うらしい。そっちの人は?」
「アリアドネーの人らしいけど、事故で飛ばされたらしい」
「そうか、なら一緒に」
その時グレート=ブリッジ中央部で爆発が起こった。
「......アレは」
オレはアレを知っている。
なんせオレが教えたことのある魔法の一つだからだ。
そしてそれを兵器として転用したと。
それはオレの誇りを穢すこと。
光が収まっていくが結果を見るまでもない。
皆死んだだろう。
アレは防御できるものではない。
「おい、ナギとか言ったな」
「おう、オレはナギ・スプリングフィールド、千の呪文の男だ」
「貴様は連合に所属していて、先程の兵器を使ったのは連合だな」
「そうらしいけど」
「なら、帰ってお偉いさんに伝えろ。貴様らは」
この周辺の残留魔力をかき集めて取り込む。
「オレの誇りを穢した。よって排除する」
「一体何を」
瞬動を使いナギの目の前に近づき殴り飛ばす。
そのまま眼鏡の男の足を掴みナギに向かって投げ飛ばす。
「おらああああ」
褐色の男が自分の体より何倍も大きな剣で切り掛かって来た。
その剣の構造を理解し、魔力を分散させ剣を分解する。
「へ?」
「雷の暴風」
そのまま雷の暴風を顔面に叩き込む。
今度は超重力に襲われるがすぐに斥力をぶつけて無効化する。
そしてこの重力を発生させていると思われるフードの男にさらに強力な重力をぶつける。
「くたばれ千の雷」
「二重詠唱、千の雷」
ナギが千の雷を放ってくるが魔力任せで中身がすかすかなので相殺すらできずに二発の千の雷を
「させぬ」
直撃する寸前でフードをかぶった子供が防御する。
防がれたので次の手に移る。
符を二十枚程ばらまく。
「汝は炎。空を舞いし気高き魂。奴らを燃やせ」
符が炎を纏いし鳥になり襲いかかる。
「神鳴流奥義、百烈桜華斬」
眼鏡の男が気を纏った刀で半分ほど切り落としたが残りの半分は見事に躱し再び襲いかかる。
「くそが、ラカン、インパクトォォォォ」
褐色の男が特大の気弾で撃ち落とす。
「そこら辺の奴らよりは素材は良いな」
「へん、オレたちは赤き翼だ覚えて置け」
純粋だな。
それが赤き翼たちの印象だった。
こいつらなら弟子にしても良いと思えたがこいつらにはメッセンジャーになってもらう必要がある。
だが、種は撒いておくべきだろう。
「お前たちはさっきの兵器がどんなものか分かるか?」
「いきなりなんだ?」
「さっきの兵器はある魔法を圧縮して作ってあるんだ」
「ある魔法?」
「回復魔法だよ」
「回復魔法がなんで兵器になるんだよ」
「回復魔法の原理は細胞を活性化させて傷を塞ぐものだ。簡単に言えば傷の治りを極端に早くするものだ。そして、過ぎたる薬は毒にもなる」
「しかし普通の回復魔法ではそのようなことには」
「そう、どんな回復魔法でも圧縮した所で意味は無い。なぜなら脳がそれを拒むからだ。だが一つだけ、そう一つだけ方法がある」
「それは教えられない」
「なぜ?」
「誇りだからだ」
「誇り?」
「なあ、ナギ。攻撃魔法でどれだけの人が救える?」
「えっ?」
「なぜほとんどの人間が攻撃魔法ばかり覚えて立派な魔法使いを目指すんだ。人を救いたいなら防御魔法と回復魔法を覚えた方がずっと人を救うことが出来る」
赤い翼の誰もが何も言い返せずにオレの話を聞き入っている。
「別に攻撃魔法を否定する訳ではない、オレも攻撃魔法の方が多い。だがな回復魔法は命を救う為にある魔法だ。それで誰かを傷つけるのはオレの誇りに反する」
話をしている間にここにいる全ての影を掌握しきる。
「だから連合はオレを敵にまわした」
この場にいる連合と思われる人間を全て、赤き翼を除く全てを自らの影によって殺す。
次々と倒れていく兵士たちに赤き翼の面々は驚く。
この戦場の勝者はオレ一人になった。
「ここで生きているのは最早オレとお前たちだけだ」
「てめえ、何をした」
「なに、簡単さ」
赤き翼の影も操り、四肢を貫く。
「こんな風に殺しただけだ」
オレはこの場から離れようと影のゲートを起動する。
「あなたは一体何者ですか」
「オレはレイト・テンリュウ。『形なきもの』だ」
それだけ告げ、ゲートに入る。
目指すはアリアドネーだ。
side out
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命は大事だ。
なら次に大事な物は?
オレの場合は愛した女性と、『誇り』だ。
byレイト