No.392408

迷子の果てに何を見る 第十話

ユキアンさん

変わらぬものなど在りはせぬ。
故に世界はおもしろい。
それが自らの危機だとしても、な。
byシン

2012-03-16 08:33:45 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:3102   閲覧ユーザー数:2967

第十話 本契約

 

 

side シン

 

唐突に儂は呼び起こされた。

起こされると同時に頭の中に情報が叩き込まれる。

 

『今更儂に何の用じゃ』

 

『目の前の彼女を救う為に力が必要だっただけだ』

 

儂の力が必要だとは思えなかった。

儂よりも確実な力をこいつは手に入れているからだ。

だが、情報の中にそいつがこの世界に居ないことが分かった。

だからこそ儂を起こしたのだろう。

 

『どうなっても知らんぞ』

 

『完全に消し飛ばしたりしないなら好きにして構わん。ただし接近戦のみだ』

 

その言葉に儂は歓喜した。

久しぶりに暴れられるのだから。

そして儂は目の前の女に襲いかかった。

 

 

side out

 

 

 

 

side レイト

 

体をシンに明け渡しオレは森羅万象の操作に集中する。

まずは接近戦で凍らない様に周りの熱をかき集め身に纏う。

元からシンの体は人間の体より頑丈で色々な環境にも適しているのでそれほど苦労は無い。

次にベクトルの操作。

これは単純に真の体が発するベクトルを2倍にするだけ。

これもたいした苦労は無い。

ここからが本番である。

エヴァの体と接触するたびに彼女の今の状況を理解していく。

体力や魔力量、浸食率や肉体の損耗率、そして精神と肉体に融合している精霊。

 

(厄介だな、まるで癌の様に浸食していってやがる)

 

『闇の魔法』で取り込んだ魔法の精霊たちがエヴァの魔力を取り込み勝手に増殖していくのを理解していく。精霊をどうすれば良いのかを次々と理解していく。理解しなければ操作することが出来ないから。理解して把握して解釈して解析してそれらを呑み込み取り込んでいく。

一つオレは失敗をした。精霊なんて物は理解できるはずが無いのにオレはそれを理解してしまった。

そしてこの世界から弾き出される感覚に陥る。この世界に来た時と同じ感覚に。

 

(おいおいまさか『根源』に至ったのか。不味い、今ここで弾かれたらエヴァは確実に壊れる)

 

そんなこと認めない。

エヴァが壊れること等オレが絶対に認めない。

 

『シン、エヴァに組み付け』

 

『なぜじゃ』

 

『オレのミスでこの世界から弾き飛ばされる。その前にエヴァを救いたいが時間がない』

 

『ことわ』

 

『言うことを聞け』

 

根源に至った為か一瞬でシンを理解し少し分解する。

 

『貴様、儂を理解したのか』

 

『時間がない、今だけでも良いから言うことを聞け』

 

『............分かった』

 

渋々ながらもシンは答えてくれエヴァに組み付いてくれた。

オレは他の全ての操作を止め、一気にエヴァと精霊のつながりを剥がして捨て去る。

そうするとエヴァの暴走は止まり倒れそうになるのを抱きとめる。そしてシンを再び封印するとちょうどエヴァが目を覚ました。

 

「...........................レイト」

 

「そうだ、エヴァ」

 

「......夢なのか」

 

「そんな訳あるかよ」

 

「レイト、私はお前のことが好きだ。傍に居てくれ」

 

ぼろぼろと涙をこぼしながらエヴァがオレに縋り付く。

残酷だとは思うがオレは事実を述べる。

 

「すまないエヴァ。オレは世界に嫌われたようだ。もうじきオレはこの世界から弾き飛ばされる」

 

「そんな、嫌だ。やっとお前に見てもらえたのに、やっと気持ちを伝えられたのに」

 

だんだんと弾き飛ばされる力が強くなるのを感じる。持って後数分だろう。だからオレも気持ちを伝える。

 

「エヴァ、オレもお前を傍に置いておきたい。だが、今のオレでは世界そのものには勝てない。だから待っていて欲しい。オレは必ず戻ってくる。その証として」

 

影の中から一つの弾丸を取り出し足下に叩き付ける。叩き付けられた弾丸を中心に陣が広がる。

 

「これは......本契約の、いや少し違う」

 

「これはオレが作った新しい契約の陣だ。オレとエヴァ、どっちが上でどっちが下なんて関係が嫌だったから対等な関係を結ぶ為だけに作った専用の契約陣だ」

 

「レイトと私だけの」

 

「基本は本契約と一緒だがな。それでもいいか」

 

「ああ」

 

そしてゆっくりとオレとエヴァはキスを交わす。そして陣が輝き2枚のカードが現れる。

一枚にはいつも通りのオレの絵が、もう一枚には一冊の本を持ったエヴァが。

それらを素早くコピーし、一枚ずつ持つ。

そして限界が近づいて来た。

オレの体がゆっくりと透けてきた。

 

「そろそろ時間のようだ」

 

「そうか」

 

「エヴァ、寂しいだろうが待っていてくれ」

 

「わかったよ」

 

「必ず、必ずここに戻ってくる。だから」

 

「ああ、私は不死だからな。いつまででも待っていてやる。でもな、出来るだけ早く帰って来てくれ。でないと私は死んでしまうかも知れん」

 

「そうだな、今回のことで意外と寂しがり屋だって分かったからな」

 

「笑うっ」

 

怒鳴ろうとするエヴァの口に再度キスをする。

 

「行ってきます、オレのエヴァ」

 

「......今度会う時はキティと呼べ」

 

照れながらもエヴァの方からキスをしてくれた。

 

「分かったよ」

 

そしてオレは完全にこの世界から消えた。

 

「早く帰って来いよ」

 

 

side out

 


 
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