第52話『学園祭編その17 武道会④』
2人が建物の前に立ち、会話をしていた。
龍宮さんと古菲さんの実力はこの時点でも離れすぎてる。
半魔族したら一瞬で終わりそうだけどないね。
「やっとまともな戦いが見れる」
「今までのは序の口ですし、相手が一般人じゃあ勝負にもなりませんよ」
「そうね」
エヴァと刹那さんの言うとおりすぎる。
相手が一般人しか出てないと手加減するしかない。
「あ、あの~、私一般人じゃないのにやられたんですが」
愛衣さんが顔を伏せながら手を挙げていた。
小太郎に負けたのがショックだったのだろう。
うん、前より強くエヴァの別荘で鍛えてる小太郎に勝てるわけも無い。
「愛衣ちゃんはエヴァちゃんの別荘で修行してないから勝てるわけ無いわね」
「実力の差が天と地を比べるほど無駄だ」
「……私って」
「まあまあ」
落ち込む愛衣さんを刹那さんが慰めていた。
妙な光景でちょっと苦笑いしてしまう。
とまあ、そんなこんなしていると朝倉さんの声が会場内に響く。
『では次の試合を始めたいと思います! この場所を提供していただいた龍宮真名選手とウルティマホラの2002年度チャンピオンの古菲選手です!! これはかなり期待できる試合になるでしょう』
古菲さんの名前が出た瞬間、観客が今までより盛り上がる。
どうやら古菲さんのファンが多くいる様だ。
両者の準備が出来たみたい。
今回は達人同士の戦いで、迫力のある激戦間違いなしだろう。
「ネギ、どっちが勝つと思う」
「龍宮さんは銃使用不可能な分、不利ですね。古菲さんは近距離特化した戦いをするから……どっちもどっちかな?」
「龍宮さんって強いの?」
「強いですよ。彼女は近距離だろうと関係しないんです。おそらく今回も」
銃を持っていれば最強、無いなら前みたいに500円玉による指弾実行。
達人でさえ、まともに当たると飛ぶほどの威力を持つ。
『両者準備はよろしいですね? ファイト!』
朝倉さんの合図で試合が始まった。
両者が小声で会話してるが、大体知ってるため聞かなくていい。
「フッ」
龍宮さんが鼻笑いすると同時に古菲さんが背後に吹き飛んだ。
吹き飛ぶ際、わざとダメージを無くす様に自ら背後へ体を動かした。
「強いわね」
「明日菜さんは見えたんですか?」
「ネギの魔法の射手の方が早いし」
「さすがにやるな~」
「小太郎君は見えたわけ?」
「なめんなや、見えとるで。軌道はやけど回避する自信はないけど」
小太郎に回避できるなら誰でも回避できる気がする。
朝倉さんが500円玉だ! とか叫んでいた。
「くーちゃんにダメージは無いわね」
「自らダメージを削減するのは基本だな」
「私にも出来るかなぁ」
「愛衣、私たちは魔法使いだからそういう技術より防御魔法を強化した方が早いわ」
「そうでしょうか?」
首を傾げ、疑問を抱く愛衣さん
呪文詠唱前に攻撃されたら一瞬で終了する。
経験済みである僕が言うんだ、間違いなし。
「常に魔法で攻撃するタイプならパートナーに任せればいいだけだ」
「僕も後方魔法使いですし」
「それはないない」
明日菜さん達の否定する声が揃う。
何もかもが酷い。
試合場から銃弾のような音が響く。
「おっ!? 500円玉を連射している」
「あのお金、私にくれないかしら」
「明日菜さん……」
「バカレッド、哀れだ」
あまりの念願に呆れるエヴァ。
「だ、誰が哀れよ! しょーがないでしょ! 私に両親いないし」
「そういう意味じゃない。落ちてる金を拾う姿を想像して哀れだと思っただけだ」
「なるほど」
いえいえ、明らかに可哀相な表情で明日菜さんを見てますよ?
明日菜さんはようやくエヴァの真意に気づき、顔を顰めるが試合に視線を向ける。
視線の先には古菲さんが一瞬で八極拳の活歩を利用し、龍宮さんの懐に入る。
攻撃に入ろうと右拳を突き出すが、姿がブレて空を切る。
後方へ下がった龍宮さんは500円玉を弾き、古菲さんの顎に当たる。
「顎に当てた瞬間、連射を開始。後方へ飛ばすか、やるな」
「何枚持ってるんですの?」
「わからん。おそらく100枚以上だろ」
「100枚だとすぐに無くなるのでは?」
滅茶苦茶どうでもいい会話です。
明日菜さんは飛んでいく500円玉を見ていた。
「ほう、布槍術か」
「いまどき珍しい術使うんやな」
古菲さんは布を使って槍の様に扱い、次々と500円玉を叩き落す。
観客も騒がしくなって大盛況。
今度は瞬動で龍宮さんの懐に入る。
「またか、同じ手は通じっ!?」
「攻撃を防いでしまえばこっちのもんね」
常に指弾していた左手が布によって封じられた。
抗おうと恐らく抜け出せないだろう。
古菲さんはチャンスと思い、封じてる布を自分に寄せる。
逆らうことができずそのまま前に引っ張られるが、右手には10枚以上の500円玉があった。
「硬気功!」
近づいたお互いの攻撃が同時に当たり、会場に響くような激音が鳴る。
お互いのお腹に500円玉、拳がめり込む。
そこからシーンと静かになる。
理由は試合場の2人が動かないからだ。
静かに待っていたら、2人とも倒れこんだ。
『……両者気絶によりこの試合は引き分けとします!!』
「うおおおおおおおおおお」
「すげえ試合だったぜ!」
「菲部長一生ついていきます!!」
会場の盛り上がりと拍手が周りを包み込む。
試合場に倒れてる2人は係りの者に運ばれていった。
「クーちゃん大丈夫かな」
「あのくらい大丈夫だろ」
「最後の攻撃の音が凄かったですね」
「あれで気絶してもおかしくないな」
結局、この試合は引き分けになった。
次の試合は高音さんと田中ロボの試合か。
「次はお姉様ですね、がんばってください!」
「もちろんですわ」
愛衣さんの激励に勝利の確信を持つ高音さん
果たして脱げずに勝てるだろうか、それともやはり世界の真理として強制かな?
並行世界だと絶対100パーセント確定だ。
『次の試合は高音・D・グッドマンVS実験体ロボ田中さんだぁ!! 果たしてポロリはあるのか!』
「そんなのありませんわ!!」
わざわざ突っ込みを入れる高音さん。
気にするとフラグ成立になるから止めた方がいいと思う。
「せいぜい負けてこい」
「そういえば」
「どうかしたの? 刹那さん」
「古菲さんの様子見に行った方がいいんじゃ」
「刹那だけ見に行けばいい」
「うわぁ、エヴァちゃん最悪……ネギはどうするの?」
「自分の試合が終わったら行きますよ。今はちょっと」
脱げるか、脱げないかどうか調べておきたい。
それに目の敵にもされていないから状況が違う。
何で参加したのかも理由すら知らない。
色々と確認しておかないと後で悔いを残すかも知れない。
いつの間にか真剣な表情になってる僕をジーッと眺めていた明日菜さんが溜息をはく。
「ネギはここにいるのね。刹那さん行きましょ」
「そうですね。ではまた」
2人は古菲さんの所へ向かった。
腕を組み、試合場を睨む小太郎に話しかけてみる。
「小太郎君はいかないの?」
「大丈夫やろ」
「一応行って見たら? 次の試合は限りなく虚しいから」
「……まあええわ。ちょうど聞きたい事もあるんやった」
こうして、邪魔もじゃない、小太郎は古菲さんの元へ向かいました。
聞きたい事って何?
気にはなったが、小太郎の事だと興味が失せた。
「どんな試合になるだろう」
「相手はロボですけどアリなんですか?」
「アリだろう」
「そんな……」
『お互い準備ができたようですね! では試合ファイト!!』
司会がもう投げやり過ぎるが、これも前と同じだ。
高音さんがロボに向けて宣言する。
「何も無いようですが、中途半端な格闘で私に勝てると思わないことね!」
そんな戯言無視するかのように田中ロボは口を開き、銃口みたいのが出てきて白い光線が放射される。
危険を感じた高音さんが悲鳴を上げながら体を左に傾け、回避する。
「なななな、何ですのアレは!?」
『どうやら実験体のロボで威力の制限が弱いらしいレーザーを持っているようです』
「何ですのその設定は!」
田中ロボが連続でレーザーを放射する。
回避しきれず服が破れていく。
スカートが半破りになった時、下着が見え会場が盛り上がる。
田中ロボは歩くごとに機械音が鳴る。
高音さんは近づいてくるごとに恐怖で青ざめる。
「ひっ!? いやあああああああああああああああああ!!」
火事場の馬鹿力で田中ロボが上空へ飛んで行った。
上半身まで脱げなかったか、残念すぎる。
愛衣さんとエヴァは予想外の結果に呆れていた。
「……お姉様」
「脱げたな」
前者は心配と哀れみ、後者は確信だ。
さすが脱げ女の運命(さだめ)を持つだけの事はある。
まったくその通りだから
『次の試合は15分後に行いたいと思います。しばらくお待ちください』
何もかも仕組まれている気がして嫌になる。
目を閉じて、ジーッと時間経過するまで待っていると気配が4つ帰ってきた。
一つは試合でスカートの被害を負った高音さんなのは言うまでも無い。
「ネギ」
「やっぱ魔法は凄いわ」
小太郎が人前で妙な事を発言した。
奇妙な視線で見つめた後、明日菜さんと刹那さんを見る。
「どうかしたんですか?」
「あのね、フードの人がくーちゃんのケガを治したのよ」
「ネギ先生を知ってたみたいです」
「アルが?」
明日菜さんの言葉にエヴァが反応した。
僕がいなくても治療フラグは成り立つのか。
「次、ネギの出番ね」
「高畑先生は強いですよ? 学園長を除けば学園一ですから」
「よく海外にも任務で赴任してますし」
ガノード倒した半年後、タカミチと戦い、本気を発揮した。
僕は威力がどれぐらいかわざと受けたら、何キロか飛んでしまったほどだ。
あの時はビビりましたよ、ダメージは皆無だったが。
「大丈夫ですよ。タカミチは手加減しなきゃいけないし」
「ネギもでしょ?」
「ネギもだろ?」
二人の言葉に頷くが、わかりきってる態度で言われるのはつらい。
愛衣さんが僕の右手を両手で包み込むように握り激励をくれた。
「がんばってください」
「はい」
返事をくれた事を確認した愛衣さんは両手を離し、高音さんの隣に移動した。
そっちの方へ見ると、高音さんがこちらを見るが、赤くなってそっぽを向いた。
先ほどの事を気にしてるらしい。
前の方が被害酷かったから全然気にしない。
僕はベンチから立ち上がり、軽く手首の運動をする。
素手と無詠唱で戦うことになるからだ。
無詠唱でも派手な魔法は使えないし、超さんの警戒が一番の理由。
あ、でも一つだけやっておかないといけない事があった。
「さてとそろそろのはずだから準備しますか。権限の鍵監視モード発動」
体内にある権限の鍵が赤く輝き、僕の全身に一瞬だけ赤色のオーラが放出される。
この世界では絶対反応できないほどの速度でオーラが消える。
魔法世界に移動したイレギュラーや色々と気になるため、広範囲に監視を広める。
これで、いつでも対応可能だ。
『これから次の試合を開始したいと思います。両選手は準備をしてください』
「ネギ、がんばってね」
明日菜さんの声援を聞いたら負けるわけにはいかない。
刹那さんやエヴァ、愛衣さんも応援してくれてる。
あれ? 高音さんの声が聞こえない、と首をかしげながら僕は建物の入り口前に向かった。
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次の話から展開がちょっと早くなります。
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