第50話『学園祭編その15 武道会②』
「そういえば、次ってどうなるの?」
「トーナメントとか言ってたが、表見てないな」
「私が見てきましょうか?」
「リイスちゃんが?」
「と言うか誰も見てなかったの?」
「行きますよ? えい!」
リイスが手を前に出し、親指と中指を弾く音を鳴らすと、リイスの目の前にモニターとなって表示された。
愛衣vs小太郎、エヴァvsやられ役A、クウネルvsやられ役B、明日菜vs刹那
ネギvs高畑、楓vsやられ役C、古菲vs龍宮真名、高音vs田中
どうでもいいけど、順番が滅茶苦茶でいいのか?
「げっ!? 刹那さんとだ」
「そうみたいですね」
「僕はタカミチ、か」
「大丈夫なんですか? 高畑先生は強いですよ?」
そりゃ戦艦のアレを撃破したぐらいだから強かったけど。
ここだと手加減するしかない。
「咸卦法を使ってきますから油断は禁物だと」
「せっちゃん、そんな心配ないで」
「確かにそうなんですが」
「心配なんやな~」
木乃香さんの言葉にうつむく刹那さん。
さっきから向こうで爆発音がうるさい、気にしないでおこう。
「ところでルーシーちゃんって強いわね」
「エヴァちゃんと互角に戦っとる」
生命強化を施したフェイ、ルーシーが弱かったら逆に驚く。
あれでも手加減してるように見える。
「エヴァちゃんの攻撃を弾いたわね。そして、エヴァちゃんの上から氷の柱が落ちてくる所を必死にかわすっと」
冥府の氷柱という単語が聞こえた。
ああ、やっぱり全ての属性を使えるように設定したのは正解だった。
理由はまだ秘密。
「ああ、同点やな」
「ちょっと見てきますか」
・・・・・・・・
「終わりましたか」
「ああ。お互い倒れそうも無いから中断だ。なるほど私並みか」
「そのようだね」
エヴァとルーシーがお互い握手を交わす。
でもさ、ルーシーの魔力全然減ってないよ?
「僕の知ってる魔法はまだ少ないんだ」
「私の家に魔導書がある。その本で習得したら全力でやれるな」
「別に僕は戦いが好きじゃないんだけど、目的のために戦ってたわけだから」
「そうなのか?」
「うん。前の僕は鎖に縛られてたからね。今の僕は自由を満喫したい」
魔法世界の崩壊、完全世界、???の復活、どれもこれもフェイトの役目だった。
だがそれは、今のルーシーには関係ないこと。
まあ、一部達成した後、ガノードに堕とされてるけど。
「ネギ、トーナメント表見てみると意外な人がいますね」
「ん? 愛衣さんと高音さんも残ってたな」
「コタローとね。愛衣もお気の毒ね」
「どうしたの? 影の薄いアーニャ」
「影薄いとか言うな~!」
手を上げて抗議するアーニャをまあまあと咎めようとする明日菜さん。
「さてと、誰か撃ち合いしよう? 明日菜さんでいいや」
「私かい!」
「しかも拒否権無しで」
「ひど!」
僕と明日菜さんは一定距離を取る。
こうやって打ち合うのも何百年ぶりなのやら。
色んな世界に飛んでると時間がわからない。
修行空間から異世界に飛んでるから時間経過も計算しにくい。
外時間で1000歳を迎えてるが、異世界の時間まで含んだらどれぐらいか検討できない。
今はソレとして、僕からだと一瞬で終わりそうだから先手はレディーファーストですね。
「それじゃあ明日菜さんからどうぞ」
「ええ。……魔法の射手だけ?」
「何でもいいですよ? 僕は魔法の射手系、しか使いませんから」
「よかった~。じゃあ遠慮なく行くわよ!」
明日菜さんは張り切るが、誰も集束は使わないなんて言ってない。
無詠唱から撃ってくるだろうなぁ。
だが違った。明日菜さんの周りに赤いオーラが包み込まれた。
あの色、あの魔力といい、まさか……
「アタラクシア・エル・テオタナシア 神殺の咆哮」
「っ!? この魔法は……くっ! 雷の暴風!」
名前を示すこの詠唱、呪文はまさか……
2つの光線がぶつかりあう。
雷の暴風が神殺の咆哮に押され気味だが、
「ネ、ネギ、雷の暴風では神殺を防げない」
やっぱり聞き違いじゃない、アスナが使っていた神殺の咆哮か。
勢いは明日菜さんが勝ってるのに余裕なさそうな声色で呟く。
でもね、使い始めたばっかの魔法で勝てると思われても困る。
伊達に1000年以上生きていないんだから。
「権限の鍵、解析実行。魔力、効力分析完了、天空の審判」
僕と明日菜さんの間に人が見えるレベルの光が照らされる。
光が雷の暴風の方へ照射されたその時、黒く変化し、神殺の咆哮の勢いが止まる。
「え? 何で」
「あ~あ。もういいや」
このまま爆発させたら別荘が崩壊してしまう魔力を感じた。
「神殺の咆哮、消去(デリート)」
言ったのかわからないほどの速度で呟く。
2つの魔法が掻き消えた。
「嘘」
「ふう、一つだけ聞きたいんですが、その魔法どこで?」
「え? 夢の中で誰かが呟いてた詠唱を真似してみたの。もちろん練習はしたわよ」
夢、か。
アスナの記憶が明日菜さんに見せたって所か。
神殺の咆哮、神に作られたと本人が思えばどんなモノでも消滅できるんだっけ?
権限の鍵は対象に入らないって言ってたな。
「はぁ。この魔法消費激しいわ」
「星光破壊より反則やないん?」
「消費が低い分、そっちのほうがいいわ」
「でもすごいですね。ネギ先生の雷の暴風を防ぐなんて」
刹那さんにほめられた明日菜さんは照れていた。
当たってもダメージ少ないから別にいいけど。
「私の闇の魔法で木乃香のも吸収してやる」
「吸収系って反則なのね」
「明日菜のソレも吸収されてオジャンやな」
「というか、それしかできないの?」
「そんな事無いわよ。ルーシーちゃん」
「雷の暴風レベルも撃てますよ」
「リイスちゃん、よく知ってるわね」
「はい」
リイスは空間認識能力持ってるし、相手が何の力を持ってようがお構いなしで解析できる。
グリモワールの力って反則過ぎる。
とりあえず、リイスには能力制限かけないと。
「リイス」
「何ですか?」
リイスの耳に声を呟く。
「あまり力を見せないで」
「どうしてですか? 私やネギに世界の修正力は効かないですよ」
「宇宙……は効くんだけど」
僕の言葉にリイスは腕を組んで考える。
手をポンと合わせ、小声で言い出した。
「じゃあ、私とパクティオーしませんか? そうすれば真格者への道がほんのちょっと進みますよ?」
「……そういえばしてなかったっけ?」
「そのパクティオじゃないです。私の契約です。グリモワールの契約をしてませんから」
「わかった」
あれ? 力の制限話はどうなったんだ?
まあいいか、制限は超さんがいる学園祭の終わりまでだし、リイス自身守る気なさそうだ。
「ネギ君、リイスちゃん何をする気なん?」
「契約」
「ちょっと待て!」
「待つのは嫌です」
物凄い勢いでリイスが僕の唇を奪った。
下を入れてくるたびに頭の中に情報が流れてくる。
何これ、訳が分からない。
遺跡、宇宙空間で浮いてる建物、宇宙を覆い尽くすほどの巨大な機械、巨大の戦艦がその場の空間を覆い尽くすほどの数、謎のエネルギーで惑星を汚染している光景、
見たことのない黒、赤、黄色が混じった大空に描かれた魔法陣など無数の知識が。
「これで終わりです」
リイスは残念そうに、未練タラタラしてそうな表情で離れる。
離れるのはいいが、情報が入りすぎてなんか気持ち悪い。
「リイス、これは」
「だから契約ですよ。これで私の力をある程度使えるようになってるはずです。
まあ、ネギには必要ないかもしれませんが」
木乃香さんがリイスの隣に来て問いただしてきた。
「何の契約なん?」
「私って魔導書じゃないですか。その契約をするの忘れてまして」
「ああ。じゃあネギ君が強くなったんやな」
「そうですね」
知識以外何も習得していないのだが?
「そんなことよりあすの事をどうするかだな」
「そうでしたね」
「刹那さんとだっけ? 私絶対負けるわ」
「明日菜さんも強いですよ?」
そういえば、小太郎はああ、海岸のほうか。
海岸の方では水が膨れ上がったり、弾けたりしていた。
水圧を甘く見ていたのか、それに飲み込まれたと見せかけて瞬動で脱出。
「小太郎君、いつ来たの?」
「好きに入っていいって言ったからな。ネギが」
「エヴァンジェリンさん、夕映さんやのどかさんに魔法教えてますよね?」
「ああ、成長が早いな。念話で聞いてくるぐらいだから部屋でやっているのだろう?」
「正確にはこの別荘の部屋、ですけど」
茶々丸さんがエヴァの隣に寄ってきた。
「魔法の本を見て勉強って所ですか」
「エヴァちゃんの所は量が多いからね」
うんうんと頷いていた。
魔法の本か、使えない本は全て捨てたから仕方ない。
未来やら並行世界、異世界の魔導書ぐらいしかないし、僕以外触れられない部分も存在する。
明日菜さんがさきほど使った魔法も禁断区域の本だ。
「ネギ先生~!」
こちらに走ってきた夕映さん、のどかさん、アーニャってあれ?
「アーニャ、どうして一緒なの?」
「何となくよ」
「アーニャさんも卒業するほどの知識を持ってるみたいでしたので、修行してもらってる所を」
いつの間にしたんだろう。
見てなかったからそう思うだけなのかもね。
「とりあえず全員を集めるか」
「ややこしくなってきましたね」
そして……
全員がここに集まった。
小太郎は地面にへばりつき、疲れでだらけていた。
他の人はまだ大丈夫だったが。
「数時間ぶりだけど、成果は無いな」
「エヴァちゃんそれは当たり前やで」
ごもっともな意見です。
「私もアーティファクトなし戦闘はきつい」
「普通はそうじゃないかと」
「夕映ちゃんのアーティファクトすごいな~」
明日菜さんが羨ましそうに夕映さんを見る。
初心かと思えば、ある程度の弱点まで分かる辞典だから、か。
「ですが、名前分からないと意味ないのですよ?」
「私のはハリセンだし」
「大剣になれるじゃないですか」
「でも刹那さんみたいに連撃できるわけでもないんだけど」
「そう言われましても……」
それでも明日菜さんはやっていけると思うが。
覚醒すれば素手でどうとでもできる。
知らないからしょーがないな。
「全員の成果を聞こうか」
エヴァが仕切るの? まあいいけどさ……
皆が結果をエヴァに話す。小太郎はめんどくさそうに話していたが、成果なしとか?
「夕映とのどかは既に中級に近いだろうが、戦闘経験は初心だな」
「はいです」
「私と夕映は後衛の方がいいと思います」
「それは当然だ。で、刹那はいいとして明日菜も魔法と剣が強くなっていると」
「はい。少しずつですけど驚くほど強くなってます」
「そうなのかな~」
「そうですよ」
魔法世界に行ったらかなり上昇するんだけど、今以上に。
「千雨は私のアレで呪文を」
「いやいや、それは無いんじゃないかと」
「それは決定だ。だが今は基礎を高めるべきか」
「永遠にいらないです」
本人からしたら嫌過ぎるな。
立場が千雨さんだったら僕も却下要請をするが、何も問題ない。
「アーニャも少しだけだな」
「夕映やのどかに付きっきりだし」
「そのおかげで色々と学べました」
まあこの辺は別に、ね。
「木乃香は……どうでもいいな」
「何でや!」
「星光破壊の開発だろ? 完成しなくても上級でも通用する」
「それがなかったらウチ、雷の暴風、燃える天空ぐらいしか撃てん」
「それで十分だろ。後は実践だ」
「そうやな……」
「治療魔法は何処へ?」
本題の魔法を聞いてみたが、2人は固まった。
「ああ!」
「すっかり忘れてたな」
両手を合わせる木乃香さんとエヴァって忘れないで。
それをしてくれないと石化はどうするの?
権限の鍵で、てのは面倒だからご勘弁願いたいです。
「治癒魔法だろ。魔力を使いこなせない事には意味が無い。せっかくナギや私以上の魔力を持ってるんだ」
「エヴァちゃん以上なん?」
「当たり前だ。あいつの魔力で私は登校地獄を受けたんだ」
「じゃあネギ君は?」
「ネギは?」
ここでしーんと沈黙する。
「何で皆さん黙ってるんですか?」
「いや、だってねえ」
「うん」
腫れ物扱いされているような視線を感じる。
小太郎以外、顔を引き攣ってるしひどいな。
「ネギの魔力ってどれぐらいなの? 出してみてよ」
「どこにですか」
「全身で魔力を高めてって意味」
「ああ…でもここでやると問題が」
「問題って何やねん! そんなん無視してやれ」
「無視って……君は馬鹿なの?」
楽しそうにはしゃぐ小太郎を見て思った。
魔力を開放したら、ガノード以上の結果を生み出しそう。
ってかこの人達は世界を滅ぼしたいの?
「ネギ君の魔力見てみたい!」
「そうですね!」
「私も見たい~」
全員が僕の方を見ていた。
期待する視線で、だ。リイスとさっきから一言も呟かないルーシー以外は。
「それよりそろそろ時間ですよ。早く行きましょう」
僕は全員を無視して、別荘から抜け出した。
時間が完了してるから皆もネギの後を追っかけた。
~武道会場~
人が予選より多く集まっていた。
場所も全方位から中心を見るという位置。
前も思ったけど10メートルはやばいほど短い。
水の部分を入れても15メートル?
図ったこと無いから分からないけど、とにかく狭い。
「選手席は外で、着替えるのが中って訳ね」
「選手控え席、やろうけど」
「どうでもいいわ。とにかく刹那さんに勝ってネギと戦ってみたい」
明日菜さん……
「私がネギ先生に勝つ可能性は考えませんの?」
「無いわね。ってあんた誰?」
明日菜さんの背後に高音さんと愛衣さんが立っていた。
顎に手を当て親密な表情で明日菜さんを見ている。
愛衣さんは言うまでもなく僕を見てるが……
「高音さんに愛衣さん、こんにちわ」
「はい。ネギさん」
「小太郎に瞬殺される可能性は高いわね」
その時、朝倉さんが舞台に立ってマイクを通して叫んだ。
『これからトーナメントを行います。第1回戦の選手はあそこの入り口に立ってください』
朝倉さんが建物の入り口を指差した。
何かルール違うんだけど気のせい?
たいした歴史の影響はないから別に気にしないけど。
小太郎と愛衣さんが向こうへ行った。
「どっちが勝つと思います?」
高音さんがにこやかな表情で聞いてきた。
どっち?
愛衣さんって無詠唱だと弱いから無駄だと思う。
接近戦も弱そうだし、素手や箒で戦うような動きも出来ない。
「うん。小太郎かな」
「……勝負すればわかりますか」
観客から拍手と大声が聞こえた。
愛衣さんが緊張しながら試合場に立つ。
小太郎は掌を開き握り開き握りを繰り返す。
実力上がってないというがエヴァ視点からという意味。
それにしても、クウネルいないなぁ。
『では、試合開始!!』
開始の合図が発動。
愛衣さんはカードを箒に変えて、腰に構える。
まるで抜刀術のような構え。
「ほないくで」
「え?」
そう呟いた瞬間、小太郎は地面を蹴って愛衣さんの懐に移動する。
小太郎の右手に黒い気を覆っているのが見えた。
そこでようやく気づいた愛衣さんは無詠唱の風盾を展開しようとしたが、小太郎の攻撃に対応できず場外へ飛ばした。
右手から黒い気が愛衣さんのお腹に当たり、後ろに吹き飛び場外の水に落ちた、って所か。
バシャバシャと手足を動かし助けてる愛衣さんがいた。
小太郎は助けに行こうとしたが、僕は溜息を吐く。
「泳げないのか……光の1矢」
僕は助けるため、愛衣さんよりちょっと離れた所に魔法の矢を当てる。
水が盛り上がり、溺れている人を巻き込み会場に押し上げられた。
その際、水が小太郎や朝倉さんを巻き込んだとさ。
「毎回思うけど、ネギのやる事が酷い」
「まともな助け方は無いのか?」
「極移だと魔法だとバレる」
「バレはしないだろ?」
それがバレるんだよ。
超さんの警戒視線を感じるし、おそらく今のも見られてる。
「リイスちゃんやルーシーちゃんも出ればよかったのに」
「出たらますます激しい戦いになりそうだな」
「どうなるか見てみたいけど、そうなら優勝が遠ざかっていたわね」
「ネギ坊主」
こちらに向かって歩いてくる古菲さん
その隣には龍宮いや、隊長か、懐かしい。
「やあ、ネギ先生」
「こんにちわ。龍宮さんも出るんでしたね」
「ああ。私の試合はネギ先生の前だからまだ先だよ」
「その相手がワタシあるね」
「クー、手加減は無用だぞ」
「真名も手加減無用アル」
始まってもないのに2人とも戦う気満々だ。
古菲さんはお得意の構えを取り、龍宮さんも銃を構えるってええ!?
「ちょっと龍宮さん? 銃は駄目なんじゃあ」
「大丈夫さ。試合では代わりの物を使う。クー、試合で」
銃を腰に直してから、そのまま建物の中へ入っていく真名さん
代わりの物って500円玉ですね。
龍宮さんが立ち去った場所を見ていた古菲さんは僕のほうに向いて
「ネギ坊主、勝ち進む事が出来たら勝負するアル。この武道会ルールで!」
「いいですよ」
「約束アルよ!」
僕と古菲さんは約束した、という証でお互いの右拳を合わせた。
なぜか明日菜さん達の視線いや、観客の方からの視線が痛かった。
これはきっと木乃香さん達だな。
その時、試合場の中心に立つ朝倉さんが会場全体に声が響く。
『では次の試合を始めたいと思います! 次の選手は準備をお願いします!』
次の試合が始まるらしい。
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