第四話 立派な魔法使い
side レイト
エヴァとの旅は順調だった。
追っ手も来ず、オレの魔法の修行とエヴァの魔法の修行はどちらもトップクラスになって来ていた。
そんなある日、急に魔力を多数感じた。どうやら魔力を封印した状態でオレたちを包囲し、包囲が終わると同時に封印を解いたのだろう。
「なあエヴァ、こいつらが立派な魔法使いって奴か」
「そうだ」
「..................弱すぎないか」
「これでもまだましな方だろうな」
弱いとしか感じられなかった。
チャチャゼロの内蔵魔力よりも少ない魔力。
素人っぽい包囲の仕方。
音を立てながら接近。
伏兵もいない。
「何を考えているんだ」
「正義である我々が負けるはずが無いとかだろうな」
「バカだな」
「ケケケ御主人ハヤク切ラセロ」
「チャチャゼロ、すまんがちょっとオレに任せてくれないか」
「ナニスンダヨ」
「ちょっとおちょくって、後顔見せかな。エヴァも良いか」
「たまには構わんだろ」
「チッ、シカタネエナ」
「ありがと」
そんな話をしていると包囲を縮めた魔法使いたちが見えて来た。
そして正面に立っていた男が声を上げた。
「とうとう追いつめたぞ、闇の福音」
「何ですか貴方たちは」
「貴様こそ何者だ」
「質問に質問で返すのは失礼ですよ。ただでさえこんな夜中に大声を出すなんてちょっと常識を覚え直して来てくださいよ」
男たちが怒るのが手に取る様に分かる。
「魔法の射手、【連弾・光の59矢】」
いきなり魔法の射手を打って来たのでエヴァとチャチャゼロを抱えて木の上に飛び移る。
「危ないですね、警告をするのもマナーですよ」
「黙れ、闇の福音の手先め。我ら正義の魔法使いが貴様らを討つ」
「自分で正義とか言って恥ずかしくないんですか。後オレは手先ではなくて盟友ですから。そこんとこよろしく」
また魔法の射手が色々な方向から飛んでくるのでとなりの木に飛び移る。
「鬼さんこっちらっと」
そのままオレは魔法使いたちと鬼ごっこを始める。
こちらからは一切手を出さずに次々と木を飛び移っていく。
side out
side エヴァ
先程からレイトは攻撃もせずにただ逃げ回るだけだった。
何をしているかは分からなかったが先程から何カ所かで魔力でも気でもない別の力を感じていた。
おそらくまだ見ていない種類の魔法を使うのだろう。
「レイト、これからどんなことが起こるんだ」
「ちょっとした呪いだよ。仕掛けるのに時間が掛かるけどああいう正義バカに地獄を見せるには一番の呪いだよ」
顔色一つ変えずに言うレイトに私は恐怖したがそれもすぐに晴れた。
「一体どんな呪いなんだ」
「降霊術の一種で怨みを持つ霊を幻視させて幻聴させる簡単なものだよ」
確かにそれは正義バカどもには十分な効果を発揮するだろう。
正義を語って殺したものに悩まされるのだから。
「よし完成。迷える魂たちに一縷の奇跡を」
レイトの詠唱が済むと同時に後ろの方から悲鳴や怒声や魔法が放たれる音が聞こえてくる。
そんな中、一人だけこちらを追ってくる者がいた。
side out
side ???
急に霊が見えたときはびっくりしたが実体を持っていたりする訳ではないので無視して闇の福音とその盟友の男を追いかける。すると何を思ったのか男が木から降りて来た。僕は油断すること無く剣を構える。
「なかなか良い根性をしている。名前を聞かせてもらっても良いかな」
「人の名前を尋ねるときはまずは自分から名乗るのがマナーでしょ」
男が最初にしていた挑発をそっくりそのまま返す。
「ははは、一本取られたな」
闇の福音が面白そうに木の上から笑っていた。
「いやぁ〜、失敗失敗」
男が少し恥ずかしそうに頭をかく。
「オレの名前はレイト・テンリュウだ。これで君の名前を聞かせてもらえるかな」
「......ラークです」
「ふむ、ラークか。それでラークはなぜオレたちを狙うのかな」
「オレたちが正義で吸血鬼は悪だからだ」
「本気でそう思っているのかい」
「そう思って何が悪い」
「ならなぜ吸血鬼は悪なんだい」
「吸血鬼は人を襲って血を吸うからだ」
「少し話を変えよう。君は肉は好きかい」
「何の意味がある」
「良いから答えて」
さっきまでと全く同じはずなのに僕にはこれを黙秘するという選択肢が思いつかなかった。
「好きだが」
「なら君も立派な悪だ」
意味が分からない。肉が好きと答えただけで悪だと断言されてしまった。反論しようとしたがその前にレイトが続きを話し始める。
「肉が好きということは肉を食べている。それは生きる為に必要なことだ。これは分かるかい」
「ああ」
「肉を食べるということは動物を殺すということだ。これは悪なのか」
「生きる為に必要なんだからそんな訳無いだろうが」
「なら吸血鬼は悪ではなくなる。なんせ生きる為に必要なんだから」
「吸血鬼は化け物なん「それ以上言えば殺すぞ」っ......」
レイトの態度が一変として変わる。殺意が垂れ流しになり殺されると思った。
しかしそれもすぐに収まる。
「もし、ラークが家畜の豚だったとしよう」
「.......ああ」
「家畜の豚からして人間はどう見える」
レイトが言いたいことは分かった。
豚から見れば人間は化け物だ。
何も言えなくなる。
「ふむ、どうやらオレが言いたいことは伝わったようだ。ならラークには一つの情報と一つの技を見せよう。化け物とは理性を持ちながらに誰かを己の欲望の為に蹂躙するものだ。そしてこれが私が編み出した技だ。一度しか見せないぞ。左手に魔力、右手に気。合成」
その後何が起こったのか分からなかった。一瞬にして持っていた剣をおられ、仲間たちも魔法触媒を壊され意識を刈り取られていく。
「これがオレが編み出した咸卦法だ。今まで誰も出来なかった、気と魔力を使った肉体強化技。心を空にし、同等量の魔力と気を合成することでできる」
すごいと思った。今まで誰も出来なかったことを彼は簡単にやってのけてしまった。
「今のラークになら出来る。やってみろ」
無理だと思う自分がいる。だが彼の言う通りなら出来ると思う自分がいる。
そして僕は彼の説明通りに動く。
「左手に魔力、右手に気」
途端体が軽くなった。何が起こったのかすぐには分からなかったが、これが咸卦法何だと理解できた。
「これで能力的には同じ土台に立てたな。こいよラーク。此所からが本番だ」
その後、どうやって戦ったかは覚えていない。意識を手放す直前に聞こえて来たのは彼の、いや彼らの思いそのものだった。
「オレたちは悪だが、誇りある悪だ。誇りある限りオレたちは化け物ではない」
今なら分かる。彼らなんかより盲目的に正義を語る僕たちの方が化け物だ。
side out
side エヴァ
「全く貴様は何を考えているんだ。あんな奴に説教こいて咸卦法まで教えて」
本当に意味が分からない。いきなり絶対に手を出すなと言った途端ラークとか言う男の前に立ち説教を始めるなんて誰が予想できるか。しかも咸卦法という世紀の発明を簡単に教えて何の得があるというのだ。
「あの呪いってね、解呪したり威力を弱める方法ってもの凄く簡単なんだ」
「?」
「死者の魂を弔うか、目を反らさない」
「つまり正義バカどもでは絶対に解呪できないということか」
「けどラークは目を反らさなかった。彼はこれから本当の”立派な魔法使い”になれると思ったからこそあんな説教をしただけさ」
「なぜそんな必要がある」
「だってさーーーーーーーーー
理解されずに孤独なのって辛いことだからさ」
そう言って悲しそうな顔をするレイトがとても愛おしく感じた。
side out
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自分から求めた称号に何の意味が在る。
称号そのものに価値は無い。
あるのはそこまでに積み重ねた経験だろう。
byレイト