前回の仮面ライダーサカビト。
仲間たちと無免許ツーリングをしていた高校生:代々木悠貴は悪の科学者に洗脳・改造されてしまう。
激闘の末、代々木は子供を庇って攻撃を避けられなかった“仮面ライダー”に致命傷を負わせる。
“仮面ライダー”は致命傷を受けたはずの身体で悪の科学者を倒すも力尽き、代々木も必殺技の代償として意識を失った。
そして、代々木が目を覚ますと、そこはなぜかマンホールの中だった…。
目を覚ましたとき、俺は薄暗い縦穴の中に居た。
ここがマンホールだと気付くのに時間がかかったのは、暗いだけでなく身動きが取れなかったせいだ。
俺は仰向けで、腕と下半身がコンクリートの中に埋まっている。水抜き用の穴から日が射している。随分と日が高い。真昼らしい。
落ち着いて見直せば、俺の服装は改造学ラン。俺の普段着だが腰に見覚えのないものが巻いてある。
「イカすベルトだが、なんだ、こいつァ…?」
改造手術でもこんな物は付けられなかったはずだ。金色の縁取りに銀色に光る風車が据えつけられている。
ズボンを抑えるためにしては大きすぎるベルト、何に使うか、用途がサッパリわからない。
それ以上に分からないことは俺は無傷だった。
仮面ライダーとの戦いで付いた傷もなくなり、この服もマッド野郎に改造されたときに奪われたはずだ。
つまり、そいつは俺のキズ…というか、故障を修理し、この服を着せてベルトを付けてマンホールに埋めた?
…何のためにそんな手間を取ったのか、それを考える間もなく、マンホールのフタが開いた。
「お生憎様! こっちには逃げ道があるのよ!」
マンホールを跳ね上げ、黒髪の女の子が日差しを浴びながら俺の腹の上に着地した。
「あ、ゴメン」
唖然としながら女の子はただでさえ大きい目を更に広げて謝った。
どうやらマンホールに飛び込んだらしいが、俺が塞ぐ様に埋まっているので俺を踏みつけるような形にしかならない。
切羽詰った様子で飛び込んできたその女の子だったが、自分の足元…俺の腹部のベルトを見て言葉を失っていた。
「これって、まさか、あんたッ?
「? 何の話だ?」
聞き返したとき、マンホールの中に複数の影が差した。
大学生か、ダブった高校生か、それぐらいの歳に見える九人が円陣を組むように覗き込んでいる。
「…なんだ? なにやってんだ、アンタ?」
「コンクリートに埋まってる、出してくれ」
自然な質問に自然な返答をする俺。
思いっきり不審そうな目をしつつ、男たちは互いに顔を見合わせた。
「あー、まあ、いいや。とりあえず、その娘を抑えててくれてサンキュウ。
そいつ、イレギュラーなんだよ。ほらクライシス帝国とかワームとか聞いたことあるだろ?
それと同じような、人間じゃない危険生物なんだ」
イレギュラー、またその言葉か。
野球中継で何度か聞いたことがあるが、どんな意味だったか。
その男の中のひとりが、俺の腹の上で抵抗する女の子を抱き上げた。
「離してよ、変態っ! 学ランのお兄さん、助けてよッ!」
嫌がるその子の態度なんか関係ないとばかりに、痛そうな方法で強引に羽交い絞めにしている。
「無理に決まってるだろ、イレギュラー。その人、埋まってるし」
「つーか、お前らみたいなのを助けるヤツなんていないんだよ、イレギュラー」
話にサッパリ付いていけないが、ひとつだけわかっていることがある。ここで何もしなければ、俺が一番カッコ悪い。
「お前ら、その子をどうする気だ?」
「あ? 決まってるだろ。イレギュラーの収容施設に入れるんだよ、殺しはしねえ」
俺は学歴、特に国語能力に不安が有る。中学も高校も喧嘩をする場所としてしか扱わなかった俺だからだ。
だが、そんな俺でも今の言い回しの意味は分かる。収容施設では死ぬこともありうる、そう云っているようにしか聞こえない。
「よお、小娘」
「…え?」
「そいつらと一緒に行きたくないんだな?」
女の子は、しっかりと抱き固められて返事をすることもできないが、男の腕の合間から見える彼女の表情が、質問への回答になっている。
同じだ。あのとき、俺たち怪人に襲われていた子供たちと同じ、頼れるヤツが誰も居ない瞳…。
だが、あの男は、仮面ライダーは変えた。こんな目を輝かせた。
「…ン? ちょっと待て、こいつ、腰に何を巻いてるんだ…?」
どうやらさっきまでは女の子が死角になって、マンホールの上にいた連中からは見えてはいなかったらしい。
俺の腹部に付いているベルトが。光り輝く俺のベルトが。
「なんだ、お前、それッ?」
別に確信が有ったわけじゃない。だが、俺にはその言葉を躊躇う理由がありはしない。
あの男のように、あの男ならば必ずこういうだろうということが分かるから。
「
宣言と共にベルトから光と風があふれ出し、俺の身体は変わっていく。
「なんだ…なんなんだ、お前は!」
振り向きもせず、俺は背後にいる九人の男たちの驚いた顔を見ていた。
俺が引き裂いたアスファルトの上に腰を抜かすヤツ、今にも泣き出しそうなヤツ…だが、どいつにも共通しているのが敵意だった。
「…あんた…仮面ライダー…なの?」
変身すると同時に奪還した女の子は、俺の腕の中でそう尋ねた。俺の身体はマッド野郎に改造されたときに人間ではなくなった。
彼女の瞳に写っている俺の顔は、頬から額に掛けてほとんど全天が見えるU字をひっくり返したようなバカデカイ複眼があり、しかも後頭部から二本の角がモヒカンのようにV字型にせり出している。
腕を見れば、甲虫のような鎧には、手甲のように人という字をひっくり返したような意匠がメタリックシルバーで施されている。
…マッド野郎に改造された姿は、こんなのじゃなかった。誰かが俺を改造し直したのか…?
「その姿は…まさか…」
「っはぁ? っほぉ? へえ…」
「ねえ、お兄さん、あなたは…あなたは、仮面ライダーなのっ?」
仮面ライダー。
あのバイク怪人のことだったはずだが、確かに今の俺はバイク怪人によく似ている。
だが違う。 俺は違う。 俺にはあの男のように風が吹いてはいない。 風にもなれていない。
俺はあの男のように理不尽な運命に立ち向かってはいなかった。ただ将来が不安だっただけの根性無しだった。
「俺は、仮面ライダーじゃない。ただの男だ」
「よかったっ!」
俺が仮面ライダーじゃないと云った瞬間、女の子が泣いた。
仮面ライダーに会えなかったショックで泣いたわけじゃない、安堵と喜びの涙だった。
「…あ?」
「だよなぁっ、お前みたいにイレギュラーに肩入れする仮面ライダーなんか居るわけがない」
「やるぜ、お前ら…」
「いくぜぇッ」
九人の男たちは横一列に並び、全員がその手に一枚ずつのカードと、どことなく俺の付けているベルトに似た銀色の機械を取り出した。
男たちは腰にその機械を巻きつけ、カードを入れる。
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その九人に共通するのは、同じベルトを付け、それらが俺と少女に襲い掛かる気が満々という一点だ。
「さあ、俺たち仮面ライダー九人を倒してみろよ、イレギュラーッ!」
意味が分からん。
なんで、あいつらが仮面ライダーなんて名乗るんだ?
九人でひとりの女の子を追い掛け回すような奴らが、なんでそんな風に名乗るんだ?
「…助けて…くれるの?」
「なんかあいつら、ムカつくぜ」
名乗るんじゃねぇ。女の子ひとりにもタイマンもできねえ根性ナシが、あの男の名前を名乗るんじゃねぇ。
“クウガ”とか鳴ったベルトを付けていた男を中央に据えて、右隣にアギト、左隣に龍騎を並べて、そのまま九人が扇状に並んでいる。
なんつぅか、この立ち位置じゃないといけない、という決まりでもあるように自信満々に立っている。
「なんだアイツ? ディケイドライバーも無いのに変身しやがった?」
「普通じゃないから“イレギュラー”なんだろ。オルフェノクかギルスじゃないか?」
「…どちらも違うな、私の見立てでは…ショッカー系の改造人間だ」
仮面越しだというのに、なぜか俺には誰が喋っているのか感覚的に理解できた。最初の発言が電王、次がブレイド、最後が響鬼。
その後も、各々がマカモウとかグロンギとか、横文字が続き、中学でアメリカ出身の元ボクサーとかいう教師を殴り倒したとき以来、英語を習っていない俺には辛い。
…横文字だよな? 外来語だよな? これで“真火最雨”とか“馬鴨鵜”とか…まさか“魔化魍”なんて書くってことはないだろう。
「よォ、お前ら、随分と頭が良さそうだが、あれか? 大卒か? 東大?」
「ああ? なに云ってんだ? 俺はまだ十八だぜ? っつーか、こっちの響鬼なんか三十路で中卒」
そう云ったのは電王の男。
っつうか、俺、記憶力は悪い方だが、よくこいつらの名前を覚えてるな、一回聞いただけなのに。
「僕はファンガイヤとレジェンドルガの混血だと思うけどな、ねえ、正解は? イレギュラーぁッ!」
何を云ってるのかは依然としてサッパリ分からんが、とにかく俺が誰かを聞いているらしい。 だったら、いつもの喧嘩前の名乗りをするしかない。
「…俺は城南大学付属高校工業課三年、代々木悠貴だ。喧嘩上等でやらせてもらってる」
俺の名乗りに、九人の男たちは互いに顔を…っつーか、仮面を見合わせる。
「…なに云ってんだ、あいつ?」
「バカなんじゃないスか、“イレギュラー”には多い」
「違いないな、俺たち九人を相手に勝てる気なんだから…なんだ…?」
全員が弾けたように腕を振り、構えたときだった。空間が揺れた。俺と敵ライダー九人を遮るようにして、名状し難い…光のカーテンのようなもの。
ユラユラと揺れているその幕が消えたとき、そこにはさっきまでは存在しなかった三人の怪人、三人とも俺に背を向けているが、ピンクと黒と白の怪人だ。
「な…貴様は…」
「オリジン・ディケイドの一行か」
オリジン? ディケイド? なんの話だ?
話は判らないが、その三人の中央の怪人…ピンクの男が俺の方を振り返った。
「お前、この世界の仮面ライダーか?」
九人の怪人軍団と同じベルトをしているが、他の九人はベルトが浮いているが、この怪人は妙に似合っている。バーコードのようなディティールの顔面、濃いピンク色の顔面には表情はないが、妙な親しみやすさがある。
「…俺は…仮面ライダーじゃない」
「仮面ライダーじゃないって、君はどう見ても仮面ライダーじゃないか」
そういったのはピンクと一緒に来た黒くてデカい方の仮面ライダー…九人の中に似ているヤツがいる。ベルトこそ違うが黒いクウガだ。
「仮面ライダーってのは…なんつったら良いか分からねえが…俺や…あの九人が名乗って良い名前じゃねえ…」
「…? どういう意味? それ?」
「…別に名前なんてのはどうだっていい、行くぞ」
納得行かないような黒クウガを無視して、ピンクの仮面ライダーはタッチパネル式の携帯電話のような道具を取り出した。
だが、携帯電話ではない。俺の強化された視力によればモニターには例の九人を象ったような九つのエンブレムが描かれている。
「ケータッチだとぉっ!?」
「時間警察やネガの世界で行方不明になっていたそれを…どうしてお前が持っているッ?」
「…さあな」
どうやら凄いものらしいが、そもそも俺にはこのピンクたちが誰なのかすら判っていない。
分からないならば質問するしかないだろう。
「何者なんだ、お前たち」
「俺たちか? 俺たちは…通りすがりの仮面ライダーだ。覚えておけ」
云ってから例の機械のモニターにタッチしていく。
【
一筆書きでエンブレムをなぞったとき、ピンク色の仮面ライダーが変わった。
胸元に顔写真のようなものを貼り付け、額には自分の顔写真をインディアンポーカーのように貼り付けている。強そうとか弱そうとかそういう次元を色々な意味で超越したデザインだ。
「…お前ら…わかってるのか? 九対四だぜ?」
「分かってるよ。お前らがたったそれだけで俺たちを倒せると思ってる能天気なヤツらだってこともな」
苦渋に満ちた雰囲気が、あいつらに広がっている。この三人が尋常じゃないことは俺にもわかる。だが、こいつらは忘れている。
「なあ、オイ。ひょっとして、お前らも戦う気か?」
「安心してください、俺たち、仮面ライダーと戦うの慣れてますから」
「…慣れたくて慣れたわけじゃありませんけどね…」
天然気味な黒クウガに、白キバが疲れたように呟く。ボディラインと声からしてどうやら白キバは女らしいが、そんなことよりも俺はリーダーと思しきピンクのインディアンポーカー野郎の肩を叩いた。
軽く振り返ったところで、そのまま横顔にパンチを叩き込む。
「え、っちょ、ええ?」
「…ああ?」
倒れることも無く、ふら付いただけだが、イラついたような声を絞り出すピンク。
「ふざけんな、あいつらとの喧嘩は俺が買ったんだ。いきなり出てくるんじゃねえよッ」
「え、いや、喧嘩…って…?」
「ちょっと、落ち着いてください」
白いキバと黒いクウガがなだめるように近づいてくるが、それをピンクが手で制す。
「…こいつらはお前が倒す、そういうことだな?」
「当たり前だろうが」
「そうか。それなら譲ってやる、ありがたく思えよ」
大して考えるそぶりもなくピンクはあっさりと断言し、それを見ていた黒白コンビの狼狽が仮面越しでもすぐわかった。
「ちょっと、士くん!?」
「士、良いのか?」
「知るか。そいつがやるって云ってるんだからそれでいいだろ」
それでも食い下がろうとするふたりを無視して、ピンクの仮面ライダーは指を鳴らすと、現れたときと同じ光のカーテンが現れ、三人を飲み込んでいった。
「…結局、誰なんだ、お前ら…?」
「…通りすがりの仮面ライダーだ。そう云っただろ」
言い残し、本当にその男たちは通り過ぎ、カーテンが消えた後には、怪人は例の九人が突っ立ているだけだ。その九人は安堵して力が抜けるのが判った。
こいつら、仮面ライダーを名乗ってるのに、この緊迫感のなさはねえだろう。
「よお、この喧嘩…もう始まってるんだからな?」
こいつら九人があの女の子に売った喧嘩は、俺が買っているのだから。
挨拶代わりだ。軽く跳んでアイツらの目の前に降り、そこから殴りかかってひとりをノックアウト…そのつもりだった。
だが実際は、四車線道路を飛び越えて、一人の仮面ライダーを巻き込んで、そのまま反対側歩道の飲食店のショーウィンドウをぶち破っていた。
巻き添えにしたのは、たしかアギトとかいう金ピカの野郎だ。
「…この店も…アギトって云うのか」
俺は看板を眺めながら、今巻き込んだ男をチラっと見た。アギトとはどういう意味なのかはわからないが意外とよくある言葉なんだろう、なにせレストランに付けられているくらいだから。
そんなことよりも、残った連中は慌てず騒がず、響鬼の男が前に出てきた。その全身からは強烈なパワーと自信を感じる。
俺も変身してからはかなり身体能力が上がっている実感があるし、他の自称仮面ライダー連中もかなり力を感じるが、この響鬼というヤツはその中でも格別だ。
「力比べか…面白いッ、勝負だ。響鬼」
「そう、力比べだ…ただ、俺とお前の勝負じゃないがな」
キィイイン、という耳鳴りのような音が聞こえた。いつの間にか視界の中に居たはずの龍騎がいない。俺は龍騎の姿を探しつつ、ショーウィンドーに背中を預けた。
「いらっしゃいませ、こんばんはー」
言葉と同時にガラスから出た腕が俺を羽交い絞めにしていた。俺の複眼は背後を捉えており、龍騎の奴が鏡の中に居た…鏡には入れるのか、コイツは。
「その龍騎も俺ほどじゃないがパワー自慢でな、並のパワーじゃ外せない」
響鬼の紹介に、得意げに両腕に力を込める龍騎、ヤベェな。
腕力は俺より強い。締め付けられている肩が引きちぎられそうだが…この龍騎よりも強いのだ。あの響鬼という男は。
「音撃は要らねえ、拳だけで充分だ」
雄叫びを上げながら響鬼が殴りかかってくる。ダッシュで加速を付け、そのまま走りの勢いに投げ出したような拳をたたきつけられた俺の頭は揺れた。
火花が散り、俺の目に何かゴミが入った。ヤツのパンチの衝撃でヘルメットの複眼にヒビが入り、破片が目に飛んだ。
「…が…?」
「オラオラオラオラッ、オラァッ」
続けて繰り出される拳は、俺の慣れ親しんだケンカで使う肩の入っていない手打ちのジャブ。
だが、そんなクソ当りのパンチでも、一発ごとにヘルメットの中の俺の頭を、頭の中の脳味噌を揺らしたが、脳味噌の中にある俺の心は揺れない、折れない。
何発殴られてるのかは判らない、猛烈なパワーだ。ヘルメットの下では骨のひとつやふたつ折れているかもしれないし、痛いもんは痛いが…それだけだ。
「ゥオラァァッ」
渾身の肘鉄に、とうとう俺のヘルメットが割れて完全に俺の両目が露出した。
…不思議な感覚だ、残っている複眼部分は未だに後ろを見ているが、変身が解けた正面はいつもの光景が写っている…にしても痛いな。この前、ナナハンに轢かれたときもこんなに痛くはなかったぞ?
ナナハンって云えば、俺のバイクどこ行ったんだよ、アレがないと何もできない…こいつを倒したらまずはバイク探すか。
「この野郎、これだけ殴ってるのに…なんで変身解除も死にもしないんだッ」
殴ってる方が疲れてきたらしい。当然だ。後ろから押さえ込んでいる龍騎とかいうヤツが…例えば十トンぐらいとすれば、殴ってる響鬼の方はその倍くらいある。
その力をただベルトの力で変身しただけの肉体で殴りかかれば、どんな工夫があっても身体に負担が掛かる。鍛え方が足りないな。
誰だって一度や二度は経験があると思うが、喧嘩してて金属バットで三人も殴り倒せば結構疲れるだろ?
そしてそれは、そんなパワーで殴られ続け、吹っ飛びそうになっている俺の身体を抑え続けている龍騎にとっても同じだった。
「――っ?」
龍騎の力が抜けたわけじゃない、ただ腕に力を入れ続けようとして足元が留守になっただけ。
足に力が入ってないなら腕力は関係ない、俺は思いっきり前屈みになり、龍騎を鏡の中から引きずり出して響鬼に背負い投げた。
反射的に響鬼は龍騎を払いのけ…その衝撃で意識を失ったらしい龍騎の変身が解けた。だが今は乱戦の喧嘩中だ。ひとり倒した辺りがヤバイ。
「ディジェ…オンドゥルヌッコロズッ! 次は俺だぅ!」
視線を向けるまでも無い、俺の複眼の横部分が見ている。
ブレイドのヤツが、バインダーのようなものを取り出して何枚かのカードを取り出している。
【
【
【
三枚のカードを次々にベルトの中に入れ、そしてベルトが強く発光しだした。
「食らえ、ライトニング・ソニックだァ!」
猛烈なスピードで走りぬけ、俺の眼前でジャンプしたあいつの足はバチバチとスパークしている。
経験上、ダッシュしてからのドロップキックなんてのは大して痛くないはずなんだが…こいつらを甘く見ていた。
「ご、おおおおおっ?」
死ぬほど痛い。電撃が体内をのたうつ。叩き込まれた胸板が割れそうなほどに痛む。だが、割れるほどじゃない。死ぬほどでもない。俺が仮面ライダーを殺したときの蹴りはこんなものじゃなかった。
あの仮面ライダーのようにはいかないかもしれないが、俺みたいなクズでもこんなもので死んでやるわけにはいかない。
「…ああ、なるほど、カードを入れると強くなるのか…昔、やったことあるぜ。バーコードリーダーだろ」
「オンドゥルソドボッデンガーッ!?」
今のブレイドの発言はかなり聞き取りにくかったが、多分、『本当にそう思ってるのかー』だ。ここまで滑舌の悪い奴は初めて会った。
当の本人も気がついているらしく、気を取り直して次のカードを抜き放つ。
「俺のオリジナル技、マグネティブ・アイアンでトドメだ。こいつは凄いぜ。カテゴリー7で硬化した身体で4・8で相手に体当たりす…あれ、ない?」
バカだな、今頃気付いたのか…あいつの腰に既にカードファイルはないことを。 一瞬和んだが、まだまだ油断していられない。
【
ブレイドの音声を遮ったその音を聞いたのと同時に、俺の身体は宙に浮いていた。
目に見えない連打。まるで時を止めているかのような衝撃が、何発打たれたかも知覚できないスピードで、何をされているかもわからないようなスピードで全身を様々な角度から叩きのめしていく――が、痛くない。
こいつの攻撃には怖さがない。そいつの姿は俺には見えないが、奴には俺の姿が見えるはずだ。ヘルメットが壊れていて都合が良い、こういうタイプの奴にはこれが一番効く。速く動いてるなら止めれば良い。
――見えた。俺の真下で動きがピタリと止まっている。
「おぁッ?」
動きを眼で捉えていたらしいクウガが声を上げる。それもそのはず。俺のネックチョークがカブトの頸部を捉えていたからだ。
ほんの一瞬抱えていただけだが、すぐにカブトは落ちた――速く動くといっても意識も速くトぶとは、どういう仕組みなんだ?
「バカな、どういうことだ、なぜカブトの動きが止まったんだっ?」
「ンナヅェダァっ! ンナヅェダァッ!」
「念動力かなにかか、あの怪人はアギトや鬼、超能力者なのかッ」
勝手に騒いでいるあいつらに、別に隠す意味もないから教えてやることにした。
「…ガンくれてやったら、勝手に止まったぞ、こいつ」
蛇に睨まれた蛙という言葉があるが、今のは俺に睨まれた根性なし、だ。
速く動くというのは凄いことだと思うが、それだけじゃダメだ。自信がなければ俺をノックアウトできるわけがない。
もっと“神に代わって敵を倒す”とか“俺は総てを司るぐらい強い”とか“地獄に落ちてでも殺す”くらいの気合が必要だ。
とにかく、ブレイドの後ろでは、さすがにガラスに突っ込ませただけでは参らなかったらしくアギト、タフネスが自慢の響鬼は既に準備を終えている。
「…お前ら、一斉にライダーキックだ。三人分の合体キックならさすがに倒せる」
「あ、いや、響鬼、それがよ…」
「なにを躊躇ってる、行く…って、あ?」
響鬼は腰にあったはずのカードファイルに手を伸ばすが、腰元を探るがそこには何もない。
「…探してるのは、
俺は云いながら、手元の
「…な、えッ?」
「手癖が悪いんだよ、俺は」
それぞれがアギト、響鬼、龍騎、ブレイド、カブトのファイルだ。戦いながらとりあえず掏っておいた。
「どういうわけか、意識を失った龍騎とカブトのファイルは使い物にならねえが…お前らのは使えるぜ」
俺は自分のベルトには、なんだか知らんがガチャポンのメダルを入れる穴みたいなのや…もう使い道もわからないような穴がいくつかある。
それをガチャガチャ弄って、カードを差し込む場所を探し、それぞれのファイルから抜き取ったカードを一枚ずつ差し込んでいく。
――ナイフを持って喧嘩に行こうとする後輩を止めたり、万引きしたダチのポケットからブツを取り出すために使ってたスキルが、暫くぶりに役に立った。
【
【
【
「いやいやいやいやいやッ!?」
「それはない、それはない、それはないだろう、少年ッ!」
「ダディャーナザァーンッ!」
適当に読み込ませたが成功したらしい。俺の右腕は紫の炎と共に赤く染まり、その手には真っ赤な長刀が現れている。
剣は使ったことはないが、まあ金属バットと大して変わらないだろう。
なにか喚いているが、そもそもこれの止め方なんて俺は知らない。
「行くぜ」
「来るなあアアアアアッッ!?」
俺はこの武器の使い方をなんとなしに知っていた。
近づかなくてもこの武器は使える、ただ振ればいい…上段から思いっきり振りかぶると炎の剣はアスファルトを焦がしながら三人まとめて飲み込み、そのまま道路の上に投げ出す。変身も解除されて例の銀色のベルトも砕け散っている。
「峰打ち…って奴だ、安心しろ」
炎に峰があるかどうかは知らんが――と心の中で付け足し、今まで動きがなかったクウガ、ファイズ、電王、キバへと視線を向ける。
やってみるとわかるが、あまりに大人数でひとりに襲い掛かると仲間が邪魔で動きが阻害され、仲間に攻撃が当るので、まず五人が襲い掛かって四人は第二陣、ひとりをリンチにするなら悪くない作戦だ。やったことはないが何度も同じことをされてきた。
「根本的な間違いは…俺相手に、たった九人で挑んできたところだけどな」
「うるさい、やるぞ。電王。あの思い上がったイレギュラーをぶちのめすぞ」
殺意をむき出しに、他人を傷つけるのが楽しいと云わんばかりにクウガの男がカードを構えた。
やっぱりあんな笑顔だろうとなんだろうと壊すような奴には仮面ライダーは名乗らせねえ。もっと笑顔を守る、ってぐらいのヤツじゃないと。
【
【
クウガと電王の色合いが変わり、手元にはそれぞれボーガンとガバメント拳銃のような武器が出現し、もちろんその銃口は俺に向いている。
「それはズルいんじゃねえかッ?」
「キサマを殺すけど良いだろ、答えは聞いてないがなッ!」
「知るかッ、死ねェ!」
殺意剥き出しでふたりはトリガーを絞り、俺に弾丸…か? よくわからないがとにかく何かが次々と降り注ぐ。ヘルメットの割れ目を両腕で庇うが、痛いものは痛く、俺は膝を折った。
つーか、電王のヤツ、ソードの時から思っていたがやたらに声が擦れている。
そんなわけもないが、フォームチェンジをしたらもっとこう…声優みたいな声に変わってくれたら助かったのだが…そんなことを考えている間に、ファイズとキバもカードを抜き放ち、ベルトに装填した。
【
【
俺は目を疑いはしない。自分を疑ったら終わりだ。
ふたりは変形ロボットのように、どこがどうなっているのか分からないが、キバが巨大な弓、ファイズはでかいバズーカ砲のように可変し、キバはクウガの手元へ、ファイズは電王の手元へ…四人で繰り出す攻撃、どう見ても、どう感じても、あれがヤツらの切り札。
「ならば、俺もコレを使わないわけにはいかないな」
フェイタルキック。
仮面ライダーを殺した俺の持つ技の中で最大の破壊力を持つキックだ。
気に入っているわけじゃない。あのマッドに仕込まれた俺の“機能”だが、使わないわけにもいかないし、勝負となれば燃えざるをえないのが俺だ。
「勝負だ、四人とも」
クウガがキバの、電王がファイズの、それぞれ蓄積されたエネルギーを解き放つ。
それを待ち構えるように俺も大地を蹴り、あいつらが四人掛かりで放ったエネルギーの激流に脚を突き出す。
「うルォおをおおォォヲおッッ!」
バックルに取り付けられた風車が回り、周囲の空気を飲み込んでいく。
いや、空気だけじゃない。やつらの放った衝撃波を飲み込み、その分だけ俺の左足は強く輝いていく。これが俺のフェイタルキック。空中でエネルギーと激突しながらも、俺本体にはダメージは来ない…痛くも、痒くもない。視線を四人組の方へ向ける余裕さえある。俺はどんどんビームを媒介にしてあいつらからエネルギーを吸収していく。
「な、なんだァ?」
見ていると、電王とクウガも様子が変わった。電王は装甲が弾け飛んで地味な姿になり、クウガは色味が抜けて白くなっていく。
「なんで俺がプラット…クウガのヤツはグローイングにッ?」
その答えもないまま、ファイズとキバも武器の姿から変形して元の姿へ戻り、エネルギーの放出も中断され、ただ空中の俺を見上げて呆然としている。
「…食われた…俺たちの…エネルギーを…!」
「俺たちが変身に使ったエネルギーを奪い取る仮面ライダー…ッ?」
やつらの視線には覚えがある。俺が五十人を殴り倒した辺りで、残りの五十一人が俺に向けていたのと同じような…自分とは違うものを見る視線。俺の左足は奴らから吸いきった変身エネルギーを備え、力の奔流となって絡み付いている。
「まるで…仮面ライダーを倒すためだけに生まれた…仮面ライダー…ッ!」
「フェイタル…キィイイイイィックッ!」
アスファルトをぶち砕き、衝撃波が四人全員を弾き飛ばし、やつらの腰に付いていたベルトが割れるのが見えた。
振り返れば、他の五人の腰に付いていた機械も大なり小なり割れていて、既に使える様子では無さそうだ。
「バカな…変身解除だけじゃなく、ベルトを壊すなんて…お前は…お前、一体…!」
「なんなんだ、なんなんだよォ…そんな、仮面ライダーを倒すためみたいな能力…どんな仮面ライダーなんだ、お前…ッ!」
怯えたようにキバだった男が云う。いつだってこうだ、負けたヤツってのはいつだって無様だ。
「知るかよ…っつーか、俺を…仮面ライダーって呼ぶな」
「ヒイィ、すまねえ、許してくれェ、命だけは…」
「殺さねえよ、ただ…色々と聞きたいことがあるだけだ」
そこに来て思い出したが、いつの間にか例の女の子や、最初に倒した五人の姿がない。
それはそうか。あの娘にすれば俺が勝つなんて思ってなかっただろうから、その間に逃げるのは当然だし、それはそれで問題ない。戦ったのは俺の勝手だ。
だが、残りの五人は違う。ベルトが壊れたのは事実だろうが、それでも仲間を見捨てて逃げていい理由にはならない。
「まずは…何から訊くかな…あー…」
俺は変身を解かないまま、戦意を失った四人に向けて視線を送る。
訊きたいことはいくらでもある。俺の身体はどうなったのか、世界はどうなっているのか、こいつらは何者なのか、俺のバイクはどこか、俺はどうすればいいのか…こいつらが知っているとは思えないが、訊いて見るだけならタダだ。
そんな風に考えている間も、四人は怯え切ったように震えている…が、ひとりだけ違った。
「お前ら…逃げろ!」
その男は、変身前と変わらない様子で…未だに自分がファイズであるかのように敢然と立ち上がり、俺にレスリングタックルをかけた。
「ファ、ファイズっ!」
「う、うああああ!」
三人は叫び、中には泣いているヤツもいるが、とにかく走り出す。こいつらも仲間を置いて逃げていく。
「…骨のあるヤツは嫌いじゃねえ。来るならやるだけだ。 お前が生身でやるなら俺も変身を…ちょ、ちょっと待て、これってどうやったら変身が…っ?」
ヤバイ。変身の解除の仕方が分からない。どうしよう。このまま変身が解けないと飯も便所も困る、そんな風に考えていると抱きついてきたファイズの男の方が変わった。
肌が脈打つように、全身に黒いタトゥのようなものが浮かび、燃え上がるように、燃えつきるように、灰色の怪人へと姿を変えた。その姿に逃げていた四人がまたも悲鳴を上げる。
「ふ、ふ、ふえええ!」
「ファイズは…オルフェノク…イレギュラーだったのかよっ」
「バケモノだァアアア!」
泣き叫び、酔っ払いのように千鳥足で走っていく。
オルフェノク。ファイズだった男はキツネとオオカミの間のような姿で、自称仮面ライダーではないらしいが…どうしてか、俺にはコイツの獣の顔が――泣いているように見えた。
「…お前、名前は?」
「コヨーテ…オルフェノクっ!」
「そうじゃなくて、もっと日本人っぽいヤツだよ。俺は代々木悠貴、お前は?」
「
いい名前じゃねえか――そう思いつつ、俺はスーツ越しに伝わってくる歌守輝のパワーに意識が飛びそうになるのをこらえていた。
To Be Continued
http://www.tinami.com/view/395432
リメイクしたのでついでに元ネタ解説。
九人のレプリディケイド
>これはディケイド初期の九人。平成第一期メンバーでもあります。
まさか“魔化魍”なんて書くってことはないだろう。
>そう書くんです…。
レストランアギト
>よくある名前ですね! 多分、アギト最終回より後、暖簾分けか何かをした店だと思います。
鍛え方が足りないな。
>響鬼はライダー中、屈指のパワーファイター。このレプリ響鬼くんは鍛え方が確実に足りません。ッシュ
速く動くといっても意識も速くトぶとは、どういう仕組みなんだ?
>クロックアップ中のため、一瞬首を極めただけで数分間首を止められたカブトくん。
完全に能力が使いこなせていません。
“神に代わって敵を倒す”とか“俺は総てを司るぐらい強い”とか“地獄に落ちてでも殺す”くらいの気合が必要だ。
>マジでこういう方々は首を極められたりしないと思います。
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全仮面ライダー映像作品を同じ世界観として扱い、サカビトを中心に各々の謎を独自に解釈していく。
サカビト=代々木悠貴は改造人間であるが、仮面ライダーではない。
仮面ライダーを倒すために悪の科学者によって拉致・改造され、子供を庇った仮面ライダーを殺害してしまった一般人だ。
人々から英雄を奪った罪を贖い、子供たちの笑顔を守るため、サカビトは今日も戦うのだ。