第1話
「我思う故に我あり故に断つ」
「た、助け―――」
その言葉と共に目の前の魔法使いの首が落ちた。目の前の魔法使いは、自分を悪と認定して攻撃を仕掛けてきた。
「まったく、ギロチンに善悪もない。ただ、首をはねる道具だというのに」
そういうと、男は死んだ男の頭を掴んだ。
「我思う故に我あり故に喰う」
男がそう呟くと、頭はまるでミイラのように乾き砂となった。これは男がこの数百年で得た能力。ヨーロッパのある学者が提唱した「我思う故に我あり」という命題を詠唱として使用し、その後に『故に―――』と続く一節を唱えることで、一時的に世界の法則を組み替える異能の力。
「ふむ。魔法世界で戦争、か。まあ、私には関係ないな」
男は、そういって再び歩き出そうとするがここであることに気付く。それは、自分に名前がないことに気付いた。今までは、名前がなくても戦争などがあったため問題はなかったが、つい数十年前に大規模な戦争があったきり『戦争』は『紛争』へと縮小していた。
「・・・・・・名前がなくてはこれから生きることは出来ないな。ふむ・・・・・・では、『私』の名前を使うか」
それは、『自分たち』を殺した道具にして『自分』を生み出した人間の名前と、『自分たち』のあり方を組み合わせた名前。
「我が名は、ジョゼフ・レギオン。個にして全、全にして個。生きたギロチンなり」
劇場の役者のように天を仰ぎそう叫んだジョゼフは、二、三分そうしているとため息を吐いて歩き出した。
「ふむ。たまにこうやって叫ぶのも悪くないかもな・・・・・・ところで、そこな少女よ。私に何か用か?」
ジョゼフがそういって振り返るとそこには美しい金髪をもつ少女がいた。しかし、ジョゼフには分かった。目の前の少女は全うな人ではないということを。
「何、用というまでもない。かつてヨーロッパの魔法使いたちが探し回った『ギロチン公』を見つけたので挨拶でもと思ったわけだ」
そして、少女は自らが真祖の吸血鬼のエヴァンジェリン・A・K・マグダウェルであることを明かした。
「ふむ。それで、私にそのことを話してどうするのだ?」
「協力しないか?ということだ。この世界は私たちのような存在には生きづらい。ならば、私たちも協力して敵を倒すのがいいのではないか?と思ってな。まあ、大半はお前の力とかに興味を持ったからだが」
この世界ではヨーロッパ史上で最も有名な怪人と呼ばれる『ギロチン公』。ある時は街中に、ある時は戦場に現れ『罪人』の首を跳ね飛ばすといわれる存在。そ の身は殺した人間の血を吸っており、男であり女であり、子供であり大人であり、美しくあり醜くあるという矛盾を孕んだ存在とも言われている。
「これが、私が集めたお前に対する情報だ」
「まあ、そうだろう。元々の『私』は最も古いギロチンで殺された魔術師の魔術により生み出された自我。そして、『私』を構成しているのは『私』の子供たち であるギロチンにより殺された人間たちの血だ。ギロチンにかけられたのは老若男女関係ないだろう? つまり、そういうことだ」
「つまり、お前はさっき叫んでいた言葉の通り「個にして全、全にして個」ということか?」
「ああ。私のあり方を簡単に示すと「集合体(レギオン)」だ。故に、我が名はジョゼフ・レギオン。まあ、君の申し出はありがたい。それでは、これより我らは仲間だ」
こうして、ギロチンと真祖の吸血鬼は同盟を結び、仲間となった。ちなみに、エヴァンジェリンは300万ドルの賞金首であったが、ジョゼフはその倍の600万ドルの賞金首でもある。理由は、ギロチンにかけた魔法使いの数が万を越えていたからである。
「・・・お前のギロチンは何でも殺せるのか?」
「うむ。様々な人間の首を斬りおとしたからな。不死者であろうと殺すことは可能だ。さらに言えば、異能を持つ者もしくは『その場で最も力の強いもの』に『罪人』と認定された者に対しては絶対的優位に立つ」
「・・・なるほど。まあ、そういうことはおいおい話せばいいだろう。それよりも、これからよろしく頼むぞ『ギロチン公』?」
「ああ。こちらこそな」
ギロチンと吸血鬼はこうして出会った。これから始まるのは怪人としての一生。
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