第二話「ここって、ネギまの世界だよな!?」
やあ、俺の名はアルトリウス・ノースライト。つい先日七歳になったばかりの転生者さ! なんて挨拶はどうでもいいとして、どうやら転生には成功したようで、前世の名前やらなんやらは思い出せないが、ネギまの世界に来たようだ。きちんと見た目は英雄王。ただし英雄王(子供)だがな。
ん? どうして発言が曖昧かって? そりゃ、俺の姉や幼馴染の名前を聞けばいやでもわかるさ。さて、それはいいとして、時間操作術式の改良でもするか。今のままじゃ、半秒も時間を停止できずに魔力が尽きるほど効率が悪いからな。目指せ、瀟洒なメイド長。
「……びに来……よ、……ウス。アルトリウス?」
……っと、ついつい夢中になっていたが、姉さんが俺を呼んでいるな。集中しすぎるってのも考え物だな。さて、術式はほんの少し改良できたおかげで、消費魔力を0.1%程度は軽減できたし。この程度でやめて姉さんのところに行くか。
「遅かったけど、何かしていたの、アルトリウス?」
「ちょっと魔法の練習をね、レナ姉さん。それで、何か用?」
そう、俺の姉の名前はレナ・ノースライト。RAGNAROKの登場人物だ。性格こそ違えど見た目はそのままだから、最初俺はRAGNAROK世界に転生させられたんじゃないかって思った。
だが、それは思い違いだった。それを、幼馴染の名前を聞いたときに思い知らされた。
「アリステルちゃんとディートリッヒちゃんが遊びに来たから、呼びに来ただけよ」
「ふうん。わかったよ」
アリステル・シュナイダーとディートリッヒ・シュルツ。共にオイレンシュピーゲルとスプライトシュピーゲルに登場する少女だ。こちらは見た目と性格はそのままだ。二人以外の四人はいまだに見かけないし、RAGNAROKの登場人物も二人以外は見かけないことから、偶然か共通人物として存在しているかだろう。
両方とも女の子、それも二つ年下だ。小さな村だから、同年代は意外と少なく、遊ぶにしても彼女たちくらいしかいないのは事実だが、釈然としない。
だから仕方なく、少しだけ姉さんをからかってから遊びに行くことにする。
「で、その間に姉さんはリロイ・シュルツさんとお話しするんだね? ごゆっくり~」
「そ、そそそ、そうだけど、ごゆっくりって何よ! そういうのはリロイに言いなさい!」
顔を真っ赤にして姉さんは叫ぶ。リロイ・シュルツ。ファミリーネームこそ違うが、やはりRAGNAROKの登場人物、リロイ・シュヴァルツァーその人だ。ちなみに姉さんと同い年で、ディートリッヒの兄にあたる。
「え? リロイ義兄さんがどうしたの?」
「ア~ル~ト~リ~ウ~ス~!」
そして、姉さんの婚約者でもある。まだ二人とも十二だから結婚はしていないけど、二人ともまんざらではないようだから、もう少しすれば甥の顔を拝めるかもしれない。
それじゃ、姉さんが完全に怒る前にとんずらさせてもらいますか。
「それじゃ、二人を待たせるわけにもいかないから、行ってきます!」
「待ちなさい!」
ダン! と踏み込みの音だけを残して家の外へ逃げる。捕まって姉さんに叱られたあげく、幼馴染に責められるのは勘弁だからな。
「ったく、アルトってば遅いっすよー。オレを待たせるって信じらんねー」
「あたしは別に待ってる気はしないけどな」
「ごめんごめん。姉さんをからかってたら少し遅れた」
口調が悪く、少し間延びした感じに喋るのがアリス。男勝りに喋るのがディー。基本的にはアリステルをアリスと、ディートリッヒをディーと呼んでいる。
だってさ、ディートリッヒって男性に付ける名前だし。性格的に男勝りになったのはこの名前のせいじゃないのかと俺は睨んでいる。
「それじゃ、いつもと同じく近くの森で魔法の練習でもしようか。杖は持ってきた?」
「とーぜんっす」
「ああ」
そして三人とも魔法使い見習いだ。俺以外は
で、森までやってきたわけだが。いつも思うことだが、二人とも飲み込みが早い早い。魔法の射手程度なら失敗することはまずない。アリスは飛行術に優れ、ディーは身体強化に優れている。ネギまの原作に従うなら、アリスは移動砲台型の魔法使い、ディーが魔法剣士だろう。
俺? 俺はそこまでの才能はない。神に願ったのは成長性であり、才能ではないからだ。だがあえて言うならば、後方支援型の魔法使いだろう。成長し、体術もまともに使えるようになれば話は変わるだろうがな。
「プラクテ・ビギ・ナル 『魔法の射手 光の三矢』!」
「プラクテ・ビギ・ナル 『魔法の射手 雷の三矢』!」
「あっはは、ドキドキしてきた~!」
俺の光の矢とディーの雷の矢を、アリスは飛んでかわす。飛行術の適性が高いため、通常ではありえない速度・角度で曲がるアリスに、俺たちの矢はかすることすらできない。まあ、簡易障壁すら突破できない程度に威力を抑えているから、直撃してもかすり傷一つない……はずだ。
「ザーフィア・フォイ・エル・スプライト 『魔法の射手 火の六矢』!」
「お、個人用の始動キーか……かっこいいじゃん」
おい、始動キーを個人用に変えるのは構わないが、森の中で火属性の魔法を使うな! ディーも、森が燃え始めているのに落ち着いて、いや、現実逃避して批評するな!
あああああ、俺の得意属性は光と火だから鎮火できない。氷と闇にも適正はあるが、鎮火できるほどの威力はまだ出せない。咒式には一応水を出すものもあるが、瞬間発動できるほど演算に長けているわけでもない、ってか、瞬間発動なんかしようとしたら脳神経が焼き切れる。
どうすれば、どうすればいい!?
「チク・タク・ク・ロック・オクロック 来れ氷霊 大気に満ちよ 白夜の国の凍土と氷河を 『こおる大地』」
「アル・イル・ル・ディア 『魔法の射手 戒めの風矢』」
森林火災になりかけたところで、高速詠唱された『こおる大地』が全ての火を包み込み消し去っていく。ついでに飛び回っていたアリスは捕縛されて空中に固定される。
この声にこの始動キー。どう考えてもあの二人だ。俺、逃げてもいいでしょうか?
「あれ、兄貴にレナさん。あたしたちに何か用か?」
「まあそれもあったのだけれど。とりあえず全員そこに座りなさい」
……遅かった。姉さんは怒らせると本当にやばい。冷徹で容赦がなくなる。リロイさんに期待したいけれど、リロイさんはリロイさんで『あきらめろ』と目で訴えている。
「森で魔法の練習をするのはいいけれど…………」
「…………だから。わかった?」
「「「わかりました、ごめんなさい」」」
大体一時間に及ぶ長々とした説教が終わりを告げる。俺たちのことを思いやっての怒りであることは分かっていても、あの冷え切った眼で見られると背筋が凍るような錯覚に陥る。
「さて、俺から言わなきゃいけないことがある。村の男大半、しばらく村を空けることになった」
……ん? 男が総出で村を空けるような出来事なんてあるのか? しばらくったって、リロイさんのしばらくは数日ってわけじゃないだろうし……
「ルドルフ・ハプスブルグがこのあたりにまで手を伸ばしたらしいわ」
「で、俺らのような野良魔法使いまで駆り出された。よかったな。まだ幼いあんたは選考外だ」
ルドルフ……ハプスブルグ!? 1300年ごろにドイツ王になった、あのルドルフ一世か!? まだ無名に近いルドルフ一世が侵略する土地なら、ここはドイツからほど近い場所だ。だとすると、ここはオーストリアかそのあたりだろう。
やべー。しばらくって、数年単位の可能性が出てきたぞ。それまではほとんどこの村の守りがなくなるってことじゃん。
「で、だ。戻ってこれたら……」
なんだ? リロイさんと姉さんが顔を赤らめるとは。まさかここで告白するわけでもあるまいし。
「私たち、結婚するわ」
「「「………………ええええぇぇぇぇぇえぇぇぇぇえ!!??」」」
まじか、マジで告白しやがった! むしろここに来る前にプロポーズしてたな! 最大級の死亡フラグをありがとう! リロイさんなら死にそうにないがな!
「まあ、その、なんだ。俺が帰ってくるまで、村を頼んだ」
「あ、はい。わかりました」
転生前は、魔法使いなら女でも何とかなる気がしていたが、最後は体力勝負になる。女よりは男のほうが、最終的には有利になることが多い。ならば数少ない男である、俺が頑張るしかない。
村に俺たちが帰る頃には、リロイさんを含めた男性陣のほとんどがもういなかった。
しばらく、さみしくなるな。
ネタの多い七百年前の登場人物
アリステル・シュナイダー スプライトシュピーゲルより。MSS要撃小隊<
この世界ではオリ主の幼馴染。火属性に長けており、飛翔もうまい。始動キーは『ザーフィア・フォイ・エル・スプライト』。
ディートリッヒ・シュルツ オイレンシュピーゲルより。MPB遊撃小隊<
この世界ではオリ主の幼馴染。風と雷に秀でている。始動キーは『アイン・ベレンダー・シュヴァルツァー』。
リロイ・シュルツ RAGNAROKより。傭兵ギルド元S級傭兵『疾風迅雷のリロイ』。原作での名前はリロイ・シュヴァルツァー。
この世界ではシュヴァルツつながりでディートリッヒの兄に。妹と同じく風と雷に秀でている。始動キーは『アル・イル・ル・ディア』。レナの婚約者。
レナ・ノースライト RAGNAROKより。フリーの暗殺者『冷血のレナ』。優しい性格は生来のもの。
この世界ではオリ主の姉で氷に長けている。始動キーは『チク・タク・ク・ロック・オクロック』。
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そしてネギまの世界に転生した俺。
だが、そこは一見ネギまではないような……?