第27話『次への前兆』
~エヴァの別荘・森~
無詠唱による転移で明日菜達の所に来た僕は2人に話しかける。
「明日菜さん、刹那さん」
「ネギ」
「ネギ先生」
僕の声に気付いた2人が修行を止めて僕の方を見る。
何で止めちゃうのかな?
「ところで、明日菜さん」
「何?」
「刹那さんの下、いえ稽古付けてもらってどうですか?」
「う~ん、刹那さんの動きは見えるんだけど回避しきれないわ」
予想通りか、刹那さんは明日菜さん以上の瞬動使えるから反応出来ないか。
今後、改良の余地ありって段階にしておこう。
「実戦形式でやってくれませんか?」
「わかりました」
「わかったわ」
ネギに賛同した2人は互いに距離を取る。
ハリセン? 剣にしてもいいぐらいだ。
「明日菜さん、アーティファクトに魔力を送り込んでくれますか?」
「え?」
明日菜さんが疑問を浮かべて首を傾げる。
「そうです。そうすると本領発揮できるんです」
「そうなんだ~」
明日菜さんは魔力を開放し、アーティファクトに送り込む。
すると、ハリセンが黒い大剣に変わる。
変化した時、明日菜さんと刹那さんが驚愕していた。
「さてと」
これならどうにかなる!と明日菜さんは意気込む。
刹那さんも明日菜さんの気配を感じ取り、刀に気を送り込む。
お互い準備も出来たね。
「明日菜さんからどうぞ」
「行くわよ!」
「はい!」
明日菜さんが地面を蹴り前へ走り出し、刹那さんの前に一瞬で着く。
「っ!?」
「はあああぁっ!」
大剣を上から思いっきり振り落とす。
振り落とす音がここまで聞こえた。
音が鳴るほどの大剣を刀で受け止める。
受け止めた反動が激しいのか、斜めに威力を流す。
「咸卦法」
明日菜さんがそう呟いた。
魔力と気の同化を使い、斜めに流された大剣をカードに戻し後方へ下がる。
刹那さんも同時に後方へ下がった。
中身が見えそうで見えないや。
もう少し短ければ見えたのに、酷いじゃないか!
男の純情をっとアホな事を思っているネギだった。
「やりますね」
「この状態だとすごく調子が良いみたい」
「確かに何か違います」
「私、力が湧いてくるわ!」
2人は楽しそうに修行をしていた。
刹那さんと明日菜さんは相性がいい。
前も仲が良かった。でも、力が湧いてくる効果なんてあったっけ?
色々と記憶を探るが当てはまらない。
と、その時、刹那さんが左足を上げ、明日菜さんを蹴り飛ばす。
「くっ!?」
数メートルほど吹き飛ばされている明日菜さんは大剣を地面に突き刺す。
その行動で速度が落ち、ダメージを失くした。
「よし、鍵を利用して闇の魔法使ってみるか」
2人が刀と大剣の打ち合いをしてる中、ネギは鍵を自分の中に入れる。
この感触、何か気味が悪い。
得体の知れないエネルギーが流れてくる。
鍵の内部には謎のエネルギーが存在する。
多分、このエネルギーが僕の中を同化していくのだろう。
それは置いておこう、今はやるべきの事をやっておかないと。
「使えるのか? 制御できるかどうかやってみるか」
手を前に突き出し、周りを見る。
草木など緑いっぱいの光景だった。
「掌握」
周辺に立つ草木が枯れていく。
ネギの闇の魔法は魔力だけじゃなくエネルギー源となる全てが対象。
つまり、人間なら気、魔力など。
どんどんと草や木が枯れ果てた瞬間、前で戦っていた2人もバタンと倒れた。
2人が倒れたと感じたネギは掌握を止め
「う~ん、これはこれですごいな。暴走しない」
さっきと違う光景を見て満足そうに頷く。
本来より遅い速度だけどこれで十分だな。
「1秒、約10メートルの範囲か・・・・・・成功したから元に戻すか」
掌に集まったエネルギーを全て解放した。
周りの自然が回復していく。
僕は2人に近づいて声をかける。
「大丈夫ですか?」
「大丈夫じゃないわよ……力が入らない、わ」
「それはそうですよね、僕の魔法ですから」
僕の魔法と言ったら明日菜さんと刹那さんがガクッと落ち込んだ。
落ち込むと言うよりも呆れて声に出せない状況かも。
「やっぱりネギのせいなのね」
明日菜さんが遺言の様に残して永遠に眠る様に逝ってしまった。
逝ってしまった明日菜さんに向かって手を合わせお祈りをしてあげた。
「勝手に殺すなっ!?」
「おおっ!? 勝手に人の心読まないでください」
「これは……」
疲れ切った表情をしてる刹那さんがわからないと首を捻った。
そういえば、闇の魔法の掌握は初めてだったね。
「ネギの魔法で私たちの力を吸収したのよ」
「そ、それってすごくないですか?」
驚いた刹那さんが感心していた。
でも、この魔法って欠点だらけなんですよね。
弱点を心の中で呟く。
明日菜さんが僕を横眼でじーっと見つめて
「刹那さん、やる気が無くなったからエヴァちゃんの所いこ?」
「はい。そうですね」
「修行する気あるんですか?」
「ネギのせいよっ!」
耐えきれなくなったのか?
明日菜さんが僕の頭に突っ込みのハリセンを入れてきた。
入れてきた角度が45度とはさすがだ。
「じゃあ、行きましょうか」
「待ってください」
「え?」
僕は刹那さんの真正面に立ち、こう言った。
「おかえりなさい。ご主人様かご奉仕します。ご主人様って言ってみてください」
「ネギ!?」
「ええ!?」
僕の突然の爆弾発言に明日菜さんが驚き、刹那さんは顔を真っ赤にしてうろたえる。
「え、え~と、そ、その~」
「ご主人様じゃあ抵抗があるならネギ様でもいいですよ」
「自分の生徒に何を言ってんのよ! このエロネギ!」
エロネギ……懐かしい言葉を聞いた。
いいじゃないか、刹那さんのメイド姿は滅多に見れないんです!
前見たのは和服タイプばっかだったし、ゴスロリタイプなんて見たことすらない!
いっそのこと、写真に収めたいぐらいです」
「ネギ、声に出てるわよ」
「え?」
「あうぅ……」
明日菜さんが顔を引きつらせながら僕に指摘してきた。
「どっからですか?」
「いっそのことから」
「そ、そうですか」
何だ、そこからか、なら大事な部分は聞かれてないな。
前は刹那さんのゴスロリ姿を見た事ありませんでした。
どちらかと言うと和服製? どういうか知りませんけど。
「どうでもいいから、行きましょ」
「明日菜さん、体力あるんですか? ここから500メートルはありますが」
「そんなにあるの!? 体力持たないわ」
ネギの掌握の影響で明日菜と刹那の体力はゼロに等しかった。
魔力も気も全て範囲に入っているためである。
さすがの刹那さんも表情が少し悪い。
「仕方が無いですね、僕の魔力を」
「というか、転移した方が早いんじゃない?」
「私もそう思います」
「……わかりました。極移」
僕は魔法陣を地面に展開。
範囲2メートルぐらいにし、このまま発動させた。
景色がいきなりエヴァの建物に切り替わる。
「疲れたぁってああ!? 木乃香、何でメイド姿になってんのよ!」
休もうとしてた明日菜さんが一歩進んだ途端、立ち止まって指を右に差し出す。
僕もその方角を見てみると、
「ネギく~ん、どうや?」
メイド姿の木乃香さんが嬉しそうにクルリと一回転した。
スカートが風に乗ってフワッと捲れるがまたしても中身が見えなかった。
「似合います!」
「ありがとう。せっちゃん!」
そう言うと、木乃香さんが嬉しそうに喜んでくれた。
まあ、その後は刹那さんの方に行ってしまったが。
「ちくしょう……」
「何がちくしょうなんだ? ネギ」
「スカートの中が全然見えないと思って、刹那さんも木乃香さんも人が悪いです」
「なるほどな……」
「ってエヴァンジェリンさん、いつの間に?」
「ちくしょう……と悔しがってる表情を見てからだ」
うわ、全部見て聞いてたのかよ。
嫌な予感がしてエヴァを見るとその表情はニヤニヤとしていた。
「ネギ先生」
「こちらに来てたのですか」
向こうの建物から出てきたのどかさんと夕映さんが僕に話しかけてきた。
2人を見ると魔力を感じたがとても小さい。
弱レベルの『雷の暴風』は撃てるだろう。
「明日菜さん、回復しました?」
「する訳ないでしょ!」
「え? 漫画だと1コマで無傷になってるのが」
「それはギャグマンガでしょ!?」
う~ん、明日菜さんはてっきりそのジャンルの人間だと思ってた。
欠伸をした明日菜はベンチに寝転んで目を閉じた。
「明日菜、寝ちゃったなぁ」
「掌握使ったからね」
1秒に10Mって弱くなってるのは事実。
0コンマ1で100KMが通常のはずなんだ。
小さくなってる影響で全能力まで弱体化してしまってる。
世界の修正力か宇宙意志かどうかもわからん。
「エヴァンジェリンさん、向こうの森は枯れてしまいました」
さきほどいた森の方角を差す。
そこには黒色になった森の果てがあった。
黒くなってる範囲が約10M
エネルギーを返しても黒くなってる部分は変わらなかった。
顔を顰めたエヴァは頭を抱えて唸った後、溜息を吐く。
「一旦、ここを出ないとできないな」
「じゃあ、出ますか?」
「出れるかッ!」
「出られるようになる残り時間は?」
「後1時間だ」
「そんなに……とりあえず、やる事はやっておきましょうか。のどかさん、夕映さん」
ある事を実行しよう。
この鍵が存在するって事は魔法世界で何かがあるという事か?
なら、夕映さんやのどかさんを鍛える必要がある。
強くさせるのにも時間が無さ過ぎる。
裏技というか反則技を使うしかない。
「はい」
「何ですか? ネギ先生」
「2人揃って横へ並んでくれますか?」
「え? あ、はい」
のどかさんが返事をして、のどかさん、夕映さんと順番に並んでくれた。
二人とも何かするのか、とドキドキしてるようだ。
「では、始めます。 潜在能力強制開放」
僕は自分の中にある鍵を元に2人の潜在能力を引き出す。
すると、2人の体が青いオーラに包み込まれる。
あっちの方で遊んでいる木乃香さんと刹那さんがこちらに気付く。
「ん? 魔力が大きくなってる。そうか、これは」
エヴァは2人の現象を見て理解した。
そう、これは潜在能力を引き出し魔力に変換する行為だ。
行為といっても術式が存在している訳ではない。
魔法でもないから仮名として行為と称してるだけ。
エヴァが気づいたのは魔力が増えて何かが小さくなってると感じただけ。
「己の力を信じ、全ての力よ、今こそ解き放て」
2人に纏ってあったオーラの色が赤色に変わり膨れ上がる。
膨れ上がったオーラは馴染んだのか、小さくなり2人の体の中に吸い込まれた。
「終わりましたよ。これで多少の助けにはなると思います」
この行為、はっきり言って精神的に疲れる。
生命、機械なら極限まで能力を引き出すことができる。
但し、自分には使用できないのが欠点の一つ。
「何が変わったのでしょうか?」
「呪文使ってみてください」
「え?」
「そうですねぇ、魔法の矢10っと呟いてみてください」
「わ、わかりました」
のどかさんは距離を少し置いてから声を上げる。
「魔法の矢10」
体が声に反応し、青いオーラが噴き出してから魔法の矢10発分が発射された。
魔法の矢は無意味に立ってるそこら中の柱にぶちあたり粉々に砕けた。
「魔法が使えました……」
「のどか、ネギ先生」
「ん?」
「私も使えるのですか?」
「使えるけど、基本的な魔法訓練はしてくれないと中級魔法もきついですよ?」
「そうですか」
夕映さんが自信満々な表情になっていた。
この行為を元にどんな影響があるんだろう。
でも、一つだけ聞く必要があるな。
それは……、
「夕映さん、のどかさん、メイド服着ないんですか?」
「え?」
「ええ!?」
「ネギ君、メイド好きなん?」
2人が赤くなっていた。
木乃香さんはジト目で僕を見る。
まるで下心満載と思われているのか?
僕は只の子供だぞ、と心の中で叫ぶ。
「違いますよ」
狼狽しながらも真面目な表情で返事を返す。
しばらく僕を見ていた木乃香さんはコホンとわざとらしく咳をして、そっと両手を合わせ
「おかえりなさいませ、ご主人様。こんな感じ?」
照れ笑いしながら僕に聞いてきた。
まさか木乃香さんがやってくれるなんて思わなかった。
「エロネギ」
僕の頭をポカンと軽く小突く。
この感じは明日菜さんしかない。
「起きたんですか」
「こんだけ騒げばね」
明日菜さんがのどかさんと夕映さんを見る。
「ねえ、ネギ」
「何ですか?」
「いい加減、回復したいんだけど」
「返しますよ。えい」
自分の魔力もプラスして明日菜さんの体内へエネルギーを送り込んだ。
ヘルマン対策ぐらいは取っておかないとね。
そろそろのはずだ。これで攫われたら笑うしかない。
「ふう、刹那さんには?」
「忘れてました」
木乃香さんの隣にやってきた刹那さんが僕を涙目でみていた。
「ネギ先生、忘れないでくれますか?」
「ごめんなさい。木乃香さんと百合関係になってると思いまして」
「ネギ君、ウチは百合興味無いって!」
「私もです! このちゃんとは親友なだけです」
木乃香さんと刹那さんが大きく声を上げて否定する。
それはいいが刹那さん、だけを強調しすぎです。
「マスター」
遠くから声がした。
声がした場所を見ると茶々丸さんがエヴァの近くまで歩いてきた。
茶々丸さんは見慣れてるからなぁ。
今はロボだっけ? 生命化させるのはまだまだ先の話だけど近い内に実行すべきか。
でも、実行すべき時期は超さんがいなくなってからだね、と心の中に置いた。
「何だ?」
「そろそろ時間になりますが」
「ああ、ネギとその他ども! もう外に出られるぞ」
「は~い」
「ネギ、行きましょ」
「そうですね」
僕達はここから出て行った。
最後に気になる事があった。それは……
出る前、エヴァが茶々丸さんに何か言った後、茶々丸さんは出口へ向かっていった。
その頃、展開は動いていた。
学ランを着て尻尾をはやした少年が嬉しそうにしていた。
その少年は学園結界接触する寸前、懐から出した札を当てる。
すると、結界が少年を認識できなくなった。
侵入に成功した少年は建物を飛び越えて、走り出す。
学園内で一番大きな建物の上に乗り、
「ネギ、決着に来てやったで」
と小声で呟いた。
この少年の名前は犬上小太郎。
修学旅行でネギに負け、謎の男に運ばれたという情けない過去を持つ。
そして、もう一人いた。
景色と同化するように動くから誰も気づかない。
普通の人も何の違和感もなく行動していた。
橋の上にニュルニュルするスライムみたいな生き物が出現して、喋り始めた。
「ヘルマン様の言ったメンバーを攫う」
「それが私たちの存在意義ね」
「ネギ=スプリングフィールド、君の可能性を見せてもらうね」
どうやら3匹と言ったところだろうか。
しかし、こいつらの言ってる可能性とは一体何の話なのか。
「では、神楽坂明日菜は私が攫う」
赤いスライムが言った。
青いスライムと緑のスライムは頷き、次の行動を言う。
「私は危険人物を封じる。緑はヘルマン様の所へ」
「了解」
ポチャンと水の音を立たせ、高速で行動を開始した。
赤、青、緑と呼ぶらしい。
いつの間にか黒いコートを着た人物が同じ所に立っていた。
髭を生やして老け顔ってどう見てもおっさんにしか見えない。
「あの夢通りなら君の力を見れるのだろうな。フフフ……」
暑苦しいコートを着た変なおっさんが嬉しく呟いた後、どんだけ結界が脆いんだよ、と思うほど簡単に侵入した。
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第27話