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真・恋姫無双 花天に響く想奏譚 10話

華狼さん

 10話です。 なんか長くなりましたがもういいやと一話に纏めます。
 
 今回はなんというかそう、なにがあったんだと客観的に訊きたくなるような部分がちょっとあります。
 でもあーいったところで出し惜しみしててもしょうがないので。 テンションマックスでつっ走ってみました。

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2012-03-14 19:57:08 投稿 / 全5ページ    総閲覧数:1531   閲覧ユーザー数:1347

 

 <10話 Standing under the same sky, Walking on the different ways>

 

 ・ignitioners ~Burnout after~・

 

 

 

 時は一刀達の時間から十日以上は前のこと。

 

 寿春の街が火に焼かれて数日の後のことである。

 

 

 救援要請を受けて集った孫家のいち早い救援・消火活動によって事態はとりあえずの鎮静の体を成していた。

 

 しかし街中は悲惨だった。 家屋は半数以上が燃え尽きていて、街中で目を開けていれば確実に炭化した家の残骸が目のどこかに映る。

 

 血にまみれた地面なんかもそのままで、 おそらく焼けた家屋のなかには『人間だった』ものが何人分も残っていることだろう。

 

 孫家の面々も、今は事態の収束とこれからに向けての行動と、様々な各種応対に追われ奔走している。

 

 

 そんな中、一帯では『黄色い布』を身に着けた大群による一件であることが早くも広まっていた。 

 

 そして、それらは『黄巾党』なる名であることもまた。

 

 人の口に戸は立てられぬ…とはしても別段箝口令が敷かれているわけではないが、『その一団によって襲われた結果、街を統治する主が逃げ出した』というのだから注目は大きいかった。

 

 交戦中に『自分達は黄巾党』と口にするものが多く、それを聞いた後に近隣の集落へと逃げた者達によって『黄巾党』なる情報は伝播、

 更には寿春を統治する、重税を課して放蕩している と言われている『袁術 公路』が民や兵を残してどこかへと逃げた、との話が立ったことも情報の広まりを強めていた。

 

 話が立った、としたのは孫策こと雪蓮達があえて言いふらしているのでは無いからである。

 

 こんな状況なのに当の袁術が出てこないのが、袁術が逃げたことを言外に露呈していた。

 

 街の人間は『袁術 公路』なる人物がどんな人間なのかは実は誰も知らない。 だが放蕩している領主だとの噂は周知の話故、事が起きればすぐさま自分だけ逃げ出すという式は容易く想像できる。

 

 

 ここまででの結論を述べれば。

 

 三公の縁者である『袁術 公路』は、『黄色い布』を身に着けた『黄巾党』に恐れをなして、民や兵を置いて逃げ出した、となっている。

 

 

 

 ・決別

 

 

 阿連を首領とする黄巾党の一団。 それらの行った寿春襲撃。

 

 結論から言えばそう、 大成功であった。

 

 

 本来の目的は『袁術 公路』の殺害であったが、残念それは当の袁術の姿が無く…もといどんな人間か知らなかったこともあってそもそも見つけられず、襲撃してから引き上げて落ち着くまで、そして数日経った今でも生き死にの情報は入っていない。

 

 だが。 悪事千里を走るの言葉然り、

 

『袁術 公路は黄巾党に恐れをなして、民や兵を置いて逃げ出した』

 

 黄巾党の名はこの袁術の悪評と抱き合わせ販売的に広まり、それが殺害に至れなかったことの代わりの結果である。

 

 殺せればそれでよかったのだが、逃げたとなればそれだけ市井のお上への不信、不満は高まり黄巾党の支持は上がる。

 

 しかも三公の縁者が『おそれて逃げ出した』ともなれば黄巾党の名に箔も付く。

 

 結果、殺せなかったマイナスを打ち消して余りある得が転がり込んできたわけであった。

 

 

 しかしながら。

 

 この一件で、阿連達の一団に大きくひびが入ることになった。

 

 

 ・

 

 

「…本当に、行くんだ?」

 

 場所は身を潜めている山の麓。 そこに集団が居た。 大別すれば見送る側の阿連達と、 

 

「…あぁ。」

 

 彼から離反するという数十人であった。

 

 その離反組の筆頭とでも言うべき男は、くすんだ金髪をオールバックにしていてライオンを思わせるような、阿連と同年代ぐらいの男だった。

 

「…阿連さん、おれはあんたが好きだ。 当然他の連中もな。 だからこそ付いて来た。

 

 …でもな、やっぱりあんたは甘い。 やるなら徹底して、街の人間だって犠牲にしてでもやりきるぐらいしねぇと朝廷はどうこうできねぇよ。

 

 あんたを否定はしない。いまさらどうこう言うつもりも無い。 でもおれ達の肌には合わねぇ。 …それだけだ。」

 

 大事の為に小事は切り捨て。 このことに関しては阿連も頭には有ることであるが、だからといって街の市民すらも自分達の野望の礎としての(それこそ物理的な)焚きつけとして、しかも過剰に使用するのは認められない。

 

 それ故に意見は食い違い、ならばと過激派の数十人が離反することと相成った次第である。

 

「…分かった。 それに、 …、分かってるつもりだよ。」

 

「阿連さん、分かってる『つもり』じゃ」

「黙ってろ! ……もうおれ達は言えた義理じゃねぇんだ。」

 

 後ろの、…えっと これと言って特徴の無い男、が最後にと諌めようとするのを金髪が止めた。

 

 空気はもう離別の雰囲気をはらんでいて、故にか鈷乃が阿連の後ろから出てきた。 灰色の毛虫のようなザシザシした髪の毛も、

 

「…ま、お互い野垂れ死なねぇよう気をつけるこったな。 せいぜい作戦立てる勉強でもしとけよ。」

 こういった棘の有る、しかし奥には優しさが見受けられる物言いも、離別組にはもう縁の無いものになる。

 

「鈷乃、軍師やのに盾持って前線出てくるのんに言われとう無い思うで? …けど、 言う通りやんな。」

 倫琥の軽口も今ばかりは精彩を欠く。 一瞬金髪の男と目が合ったが、一瞬のことだけに当人達しかそのことは知らない。

 

 

「じゃあな。」

 

 いざ短く別れの言葉を言う金髪の男に、

 

「…せめて、あの言葉は貰っていってほしい。」

 

 阿連は最後に、自分達が集った言葉を分けるために声をかけた。

 

「…あぁ。 餞別に貰っていく。」

 

 発案者は阿連だった。 自分達の行動理念。それを短く、しかし端的に表したこの言葉によって、多くが喚起されて今に集った。

 

 だから。 一事が万事、ここでの成功は他でも通用する。 その成功を願って、阿連は餞別にこの言葉を手向ける。

 

 

「蒼天すでに死す、」

 

「黄天まさに立つべし。」

 

 言葉を合わせて、目を見据えあって。

 

 

 それを最後に、離別組は阿連達に背を向けて、その場を去っていった。

 

 

 

 ・そしてまた黄色い火種は

 

 

「よかったのか?」

 

 阿連達の一団はとうに見えなくなってからのこと。 離反した輩の中での中心人物数人の内、一人がくすんだ金髪の男にそう話しかけた。

 話しかけたほうは頭の正中線で左側全体がベリーショート、右側は前髪が右目を隠すほどに全体的に長い極端なアシンメトリーな髪型をしている青年期中盤の茶髪男性である。

 

 目的地に向かう最中の、低い山中での休憩時のことである。

 

「…何がだ。」

「何ってお前、 …リンコ。 あいつはまぁ阿連さん一筋ってのはそうだけどよ、お前はそれでも惚れた女の傍に居て守る奴だってなぁ分かってるからよ。 だからこれでよかったのか、ってよ。」

 

「…なに言ってんだ。 じゃあお前はおれが色恋がらみで信念曲げるような奴だとでも思ってるのか?」

「ま そりゃ無ぇけどよ…」

 

 こういう奴だよ と茶髪は肩をすくめる。 その表情には少しばかりの同情が入っていた。

 

 

「とにかく今回の一件でおれ達でも三公の縁者を落とせるってことは分かった。」

 

 話題を変えるべく、金髪の男は改めて自分達のこれからの大きな目標を口にする。

 

 

「次に潰すのは 三公本筋の袁紹だ。」

 

 

 再び、黄色い火種は燻り出した。

 

 

 

 ・

 

 

 時は離別の一日前。

 

 離反の旨を阿連に伝えてからのこと。

 

 くすんだ金髪の男は倫琥を呼び出して、

 

「おれ達と …いや、 おれと行かないか?」

 

 迂遠にではあるが、自分の気持ちを伝えた。

 

 しかし、

 

「……、かんにんな。 ウチは阿連に付いて行きたいんや。」

 

 想いが通じることは無かった。

 

「それは、 …阿連さんだから、か?」

 

 本当に朝廷を倒すつもりなら甘いことはやっていられない。 それなら自分達と来たほうが賢明である。

 

 そう、言うことも出来た。

 

 なのにそう言わなかった理由は、

 

「過激にやるっちゅーのも要ることやぁゆうんはわかっとる。 せやけど、

 

 ウチは阿連に付いて、 …傍におりたいんやろな。」

 

 倫琥が共に来ることは無いと、分かっていたからだった。

 分かっているからこそ、一纏めにした言葉を使った。 いくつも言うのは無粋だし、 そこまでの豪胆さは持っていなかったからだ。

 

 実のところ、倫琥としてもこの気持ちがどういうものなのかは分からないでいるのが現状だった。

 

 『蒼天すでに死す、黄天まさに立つべし。』 阿連はこの分かりやすい、今で言うスローガンを自分に、自分達に与えてくれて、それ故に皆は集ってさくじつの結果を出せた。

 

 それがあるからの『付いて行きたい』という気持ちなのか、 それともそれらを除いた、一人の男として女の自分が好いているのか。

 

 打ち明けてはいないが、分からない自覚はある倫琥だった。

 

 

 金髪の男が先に去ったあと、倫琥もゆっくりと皆のもとに戻っていた。

 

 物憂げな倫琥の今はまだ自覚の無い本心を作者特権で露呈すれば。 好きだからの気持ちのほうが大きいのだった。

 

 だからこそ。 過激にやるのも必要だと分かっていても、倫琥は阿連に付いていく。

 

 

 好いた気持ちもまた、 譲れない信念ということである。

 

 

 

 

 ・はりぼてプリンセス ~改め、『Broken Princess』~・

 

 

 

 ・ぶろーくんプリンセス

 

 

 時刻は現代の時間で未明3時。 未だ光の差さない、暗く簡素な宿の一室。 寝台は一つしかなく、家具も質素な衣装箪笥が一つと小さな机。それらだけでも手狭に感じるほどの部屋で、寝台を共有して眠る二人が居た。

 内一人が、

 

「ひぅっ!?」

 

 珍妙な声と共に寝台から ガバッと上体を跳ね上げるように飛び起きた。 それは幼女寄りの年頃の少女だった。 今の今まで意識は夢の中であったが、この反応然り体を起こした体勢のまま呆然としている今の様子然り、幸せな夢見では無かったことは言うに及ばず、である。

 

「…ぅ え? 火、は… 」 

 

 火は と独白するが、今泊まっている宿の一室には蝋燭のものですら火は無い。

 

 

 火は夢の中にあった。 暗い空間で遠くに見えるは大火、かと思えば周りには血が飛び散っていることが分かる。

 

 それと同時に 怒号、複数人が走り回る音。 それらを少女は漠然と、ただ怖く感じた。

 

 恐い 怖い だから少女は逃げた。

 

 いつの間にか隣には別の人間。 手を引かれて、大火の唸りに背を向けて、

 

 暗い空間へと 二人で走って行った。

 

 

 とまぁ、そんな夢だった。

 

 ようやく夢であったことを理解して、いやしかし今の現状と今までの記憶・体験もまた現実であることも理解した少女は、

 

「…………、 ふにゃ…」

 

 再び布団へと、上から吊る糸が切れたように倒れこんだ。 それこそ緊張の糸が切れたせいだろう。

 

 隣ではもう一人、夢の中で手を引いていた人間が深く眠っていた。 普段なら少女が今のように飛び起きて、しかも自分が隣にいれば確実に目を覚ますところだが、疲れているせいでしばらくはこのままノンレム睡眠だ。

 

 

 今まさに大陸中規模での騒動になる黄巾党。 それによって統治する街を焼かれ、その身を追われた『寿春の領主様』

 

 『袁術 公路』こと『お姫様だった女の子』真名を 美羽 と、

 

 その側近『張勲 文掲』真名を 七乃。

 

 

 現在、寿春から山を越えた先にある宿場町に滞在して二日である。

 

 

 

 ・とりあえず状況説明をば

 

 

 時刻は十時。 美羽と七乃の二人は朝食と昼食の間あたりの食事中である。

 泊まっている宿の宿泊には朝食と夕食が付いているのだが、時間が過ぎていたことで外の料理屋での食事だった。

 

 時間が時間なので他の客は少ない。

 

 

「美羽様、食べられませんか?」

 

 隅の壁際の二人がけの机の上には、適当に頼んだ料理が載っているいくつかの皿。 それらを机越しにはさんで向かい合っているが、美羽は疲れた様子であまり動かないでいた。

 

「んにゅ… 眠い、のじゃ…」

 

 眠いというのもあるが、実際は疲労のほうが大きい。 纏う弱弱しい雰囲気は疲れのせいもあるが、漠然とした不安感も加わっている。

 

 それでもやはり空腹には逆らえず、思い出したように箸を取って少しずつ口に運んでいく。 その様子をみて、とりあえずは七乃も落ち着く心持であった。 いやむしろ眠そうにしつつも食事をする様はなんとも可愛らしくて昂ぶる勢いだけどね?

 

 

 

 寿春より二人で逃げ延びてから今日で二日目である。 

 

 火に燃える街に背を向けてから、二人は大体の位置関係を把握している七乃のナビで夜の山道を暗中行軍。 状況が状況なだけに美羽も大人しく歩き続けたが、流石に子供の体力と精神では夜の山中など色々と無理。

 そんな最中にうち捨てられた小さなお堂を見つけ、とりあえず今夜はここでと無断侵入、怖い怖いと渋っていた美羽だったが七乃の脚を枕に横になった途端に深く眠りに落ちていった。

 

 そして日が昇ってすぐさま二人は目的地に向かって歩き出す。 歩いているのは街道なんかではなくそれこそ単なる山道で、向かう方向は位置関係から大体の想像ではじき出しているものだった。

 

 それでも途中で今度はちゃんとした往来の有る山道に出、沿って進めば茶屋を発見、何か腹に入れるついでに話を聞けばこのままの道を進めば目的の宿場町に着くとのこと。

 

 その後にまたもや二人は歩を進め、宿場町に着いたのはその日の昼過ぎ。 寿春から逃げた翌日の昼過ぎだから約四分の三日、睡眠と頻繁な休憩を除いても十時間近くかけての逃避行だった。

 

 この間に美羽が限界まで文句を言わなかったのは、ひとえに命の危機を感じていて切迫していたからなのだろう。 窮鼠猫をかむとは言ったものである。

 

 着いて七乃はすぐさま適当な宿を取った。 すると美羽は部屋に着くなり即座にぶっ倒れた。 心身の磨耗が限界になっていたであった。

 とはしても単純に爆睡しただけだったのでそう問題は無かったが。

 

 美羽はそのまま日が落ちて夕食時になるまで眠り続け、何事かをして戻ってきた七乃に起こされて軽く夕食を摂った後もまた眠りに落ち、

 

 

 冒頭の悪い夢見を経て、今の朝食と昼食の中間の食事風景に至る次第である。

 

 

 

 ・あなたが 私が 死を望まない限りは (七乃視点)

 

 

 お昼ごはんを兼ねた食事も済んで、私こと七乃は美羽様と一緒に街中を歩いているところです。 目的は買出しと資金調達ですね。

 

 手持ちのお金だけだと心もとないので、逃げ出すときに『貰った』装飾品を街の商人の人にでも買い取ってもらうことで補充するつもりです。 『貰う』のは咄嗟に思いついた出来心とでも言うところでしょうか。 でも結果的にはこうして当面のお金の心配をしなくてよかったので良しとしましょう。

 

 昨日美羽様が宿の部屋に着いた途端に寝ちゃった後のことです。 寿春の話が伝わっているか、また伝わっているならどういう風に伝わっているのかを知るために街中に出た際に、一時的にここに留まるそのついでに品物を扱ってるっていう商人さんの一団を見つけたんです。

 見たところ小奇麗で景気も悪くない様子だったので、そこで換金することにしています。

 

 

 ところで話の上に出たことですから、お金云々からは逸れますけど一応言及しておきましょうか。

 

 寿春を襲った賊の人達の一団、彼らは『黄巾党』って名前らしいことが分かりました。

 

 早くも寿春のことは山を越えた先のここにも伝わっています。 町中を歩き回るうちにもそれは目下の話題らしくて耳に入ってきますし、それとなく道端の人に訊いてみたりもしました。

 

 その結果、今の時点では美羽様、つまりは『袁術 公路』が逃げ出したということはまだ広まっていないことが分かりました。

 

 理由としては耳に入ってきた話は基本的に、

 

「寿春の袁術ってのはこんなときぐらいきちんとやることはやるんだろうな?」

「さてねぇ… まぁ自分とこの城下町が焼けたってんだから流石に知らんぷりは無いだろ。」

 

 こんなかんじでしたから。 詳しいことが伝わるのはもう少ししてからでしょう。

 

 

 

 けどそれを知るためにいつまでも残るわけにはいきませんから。

 

 早々に『ある場所』に向かうために今は準備をしています。

 

「…しかし七乃、本当にあそこに行くのか?」

「そうですね。 今はそうするのがむしろ安全だと思えますし。」

 

 美羽様にはそのことは話してはあるんですけど、やっぱり気は進まないみたいですね。

 でもそんな不安そうな顔も、とりあえずは落ち着いた今だと余裕を持って可愛く思えるってものですね。

 

「…、のぅ七乃、賊がいなくなったのなら寿春に戻ることはできぬのか?」

 

 幌で覆った複数の荷台で商売をしている例の商人さんの馬車が見えたところで、美羽様が私にそう話しかけてきました。

 

 ……そうですね、やっぱり美羽様ですから。 それぐらいの認識しかありませんよね。

 

「…それは無理です、美羽様。 街や一帯を治める人が逃げたってなればそれだけで裁かれることになります。 当然私も一緒に、です。」

「! そ、孫策たちにどうにかさせられぬのか?」

 

 …孫策さん達、ですか。 確かに美羽様からすれば孫策さん達は『使える手駒』というような印象でしょうね。 まぁ私が『討伐とかは孫策さん達に丸投げしておけばいいですねぇ』ってよく言っていたからもあるんでしょうけど。

 

「もっと無理ですよ。 それどころか孫策さん達は私達には恨みすらあるでしょうから、私達が裁かれるともなったらむしろ賛成して、…それかもしかしたら、今にでも部隊を出して探してくるかもしれません。 そうなったら、」

「、孫策たちに …殺される、のか…?」

 

 『恨みが有る』即ち『殺される』というのはちょっと安直な気もしますけど、

 

「…少なくとも、出合ったら守ってくれることは無いでしょう。」

 

 あながち間違っては… いえ、まずそうなるでしょうね。

 

 ですがこれで美羽様も孫策さん達が恐れるに準じる対象であることは分かってくれたようです。 不安で眉を八の字にするその表情からそのことは伺えます。  はい、眼福でしたが何か?

 

「でも美羽様、あそこに行くことができればそこで私がどうにかします。 ですから今は我慢してください。

 あなたは私が守りますから。」

 

「う、む… 」

 

 一応は納得してくれたらしいところで、私達は商人さんの馬車の近くまで着きました。

 

「それじゃあ美羽様、私はちょっと行ってくるのでそのお店ででも待っていてください。」

 

 数人のお客さんが並ぶ商品を眺めているところへ私は歩を進めます。 今持っているのは手持ちの中でも割と中程度に見えた首飾りで、これがどのくらいになるのかの様子見も兼ねて売ることにしています。

 

 お金が出来たら即座に目的の地にむかいます。 そこでどう転ぶかは流石に行ってからでないとどうにも分かりません。

 

 でも。 私はやってみせます。

 

 

 死を望まないのに死ぬ なんてのは、誰でも避けたいことに変わりはありませんから。

 

 

 美羽様が、私が、真剣に死ぬことを望まない限り、私は生かすために頭を使いましょう。

 

 

 

 ・十葉チキン? なにそれおいしいの?

 

 

 十葉チキンとは。 十種類のハーブで味付けと香り付けをした、某カーネルさんのお店の新商品である。 それはもう美味しいことでしょうたぶん。

 

 

 そんな与太話はどっかへやって。

 

 さて視点は美羽である。 交渉に時間が掛かることを見越して、七乃は美羽を雑貨屋の前に待たせて馬車のほうへ。

  美羽も言われたとおりに雑貨屋の中ででも待っていようとするが、頭の中は色々な情報でいっぱいだった。

 

「……、これから妾はどうなるのじゃろうか…」

 

 細大漏らさず全てのことが理解できているわけではないが、少なくともいままでとは状況が全く違うということは分かる。

 

 昨日までは寿春の街の領主様だったのが、一日たてば追われる身。 人生万事塞翁が馬とは言ったものだが、それを子供である美羽がすぐに理解しきるのは無理無体。

 

 でも今は七乃が唯一頼れる存在。 それに何より美羽はまだ子供。

 それらが相まって、『七乃が連れ出したせいでこんなことになっている』などとは美羽は思い至っていなかった。

 むしろ『怖い状況から助けてくれた』存在であるから、なに不自由なく暮らしていた生活から一気に落ちたこの状況であっても文句は限界が来るまで言ってはいない。 そこはやはり子供なりの素直さか、はたまた子供の存外に空気に敏感な特性だろうか。

 

 なにはともあれ今は七乃が戻ってくるのを待つべきであるから。 とりあえずと目の前の雑貨屋に入ろうとした

 

 が。

 

「? …なんじゃ?」

 

 美羽の位置はその雑貨屋にむかって左の端あたりにあって、隣の建物との間の隙間の前に居た。 その隙間は人一人が通れるほどの幅があって、

 

 その少し奥に、なにやら本が落ちてあった。 乾いた土の上につい最近落ちたのか、そう汚れは見受けられなかった。

 

 美羽としてはそれがなんとなく気になったらしく、建物同士の隙間にこそこそと入って落ちている本を手に取る。

 

「…? むずかしい字じゃ… 大人が読むものか…?」

 

 それは表紙に特に絵の描かれていない、しかも題名には美羽の読めない難しい字が使われていた『薄い本』だった。

 

 …まぁ子供からすれば、自分が読めない難しい字が表紙の題名に使われていればまずそう思うだろう。 しかしそこでぽいと捨てずにとりあえずはページをめくってみるというのもまた子供らしく好奇心旺盛でよきものなり。

 

 そう、 好奇心は悪くない、のだが。 立ったまま本を開いてみると、

 

「      …!?!?」

 

 最初の空白はフリーズだとでも思ってください。 混乱一歩手前だったがどうにか踏みとどまって改めて文面に目を落とす。 落としてしまう。

 

 好奇心猫を殺す、なる言葉をご存知だろうか。 詳しい説明は省くが要は好奇心の使い所を間違えるな、ってな意味である。

 

 美羽が好奇心で開いたページ。 初っ端から全開でエr じゃなくてえらいことになっていた。

 

 要は今で言うところの十八禁小説であった。

 へまをやらかした専属の女中にその主が『お仕置き』を与える ってな内容だがこれがもう薄い本なのに『バラエティ豊か』

 『縄で固定』して『目隠し』するに始まって、

 『前後上下』全て使って、

 『種』の混ざった『水』を撒きまくる ってあれいつの間に農業の話になった? 最初のなんか畜産っぽいしどういうことなの?

 

 もとい分かってますよね、迂遠に何を言っているのか。 分からないならそのまま清くあって下さい。作者からのお願いです。

 

 でも大丈夫。 全ては主の愛故のことであり、最終的にはそれによって『出来て』夫婦になるというものだから安 心

 

 

 できるかぁぁぁぁぁぁァァァァァァァァァァ!!! 余計に不安にしかならんわ!

 

 

 当然、安心どころかどこへ向かうのかが不安になります作者自分自身的に。

 

 そんな作者のことなんかどこ吹く風、美羽は初めて触れる世界に引き込まれてもう集中。 『交わり』に関してはいくらなんでも知っててたまるか ではあるが描写が巧みで美羽ですらも分かりやすいようなのだからタチが悪い。 

 

 美羽は子供である。 が、一応ではあっても上流階級なので読み書きは一通り出来る。

 

 それに加えてこれが悪いことに、使われている表現や描写、セリフの【ピー!】な声やアレの擬音だとかが美羽にも分かる、分かってしまう言葉だったのが尚悪い。 迂遠なのよりかは直接的な表現のほうが『情緒豊か』であるのだろう。 まったくその本の作者はけしからんいくらでもどうぞほれみんな煽れ煽れ。

 

 一気に全部読んでしまったせいで様々にすっとばして色々知ってしまってほんとに早熟なんだから美羽ったら。 いやまぁ私こと作者のせいなんですけどね?

 

 

 ここここkこれはこれって知ったらいけないものではないのかだったら知ってしまった美羽は美羽はどどdどdoうすればふじこふじこ

 

 

 なんぞよく分からないノイズすら入ったような気もするが今は無視。

 

 美羽は沸いた頭で慌てて混乱していて、でもだからこそ立ったまま固まっていた。 …『立つ』『固く』ってのがなんかヤらしいとか思った人は居ないと信じています。 信じています。 大事なこと(以下略)

 

 だがいつまでもそうしていることは無かった。 黒い煙が立ち昇っているように見える美羽の頭に、耳がかすかに捉えた

 

 

   「美羽様~?」

 

 

 との聞きなれた声が届く。

 

 すると固まっていたのが嘘のように一転、ビクンビクンッ(やめぃ)と全身の毛先まで、電流どころか雷撃が直撃したかの如くに背筋が伸びる。

 

 ……!! ななななななnna七乃ぉぉぉぉっ!? いかんいかんこここれははよう戻さねば見られたら見られたらだめなのじゃぁぁ!!

 

 かと思えば今度は別の理由で慌てながらも、閉じた本を元の位置に確かこんな感じだったか と『誰も触っていません』な体を装って置いた。 残念なことに本来の位置からは随分と違う場所に移動しているのだが。

 

 そして悪いことでもしたかのように建物同士の隙間から出、雑貨屋の中に入って周りを見れば

 

「あっ 美羽様そこに居たんですかぁ、もぅ。」

 声の主である七乃と目が合った。 七乃からすれば棚のむこうから出てきたものだから、今まで外に居たとは思えない。

 

「ひや! そ の、なにゃにもしておにゃらんだぞっ? うむ、なにもまったくぜんぜん!」

 噛んでしかも単語の文字の並びがおかしなことになっている。 あからさまに何かしていたようにしか見えないが、

 

 !!! みみみ美羽様が『にゃ』って、『にゃ』って! きゃあぁぁぁぁぁぁ今夜は眠れるでしょうか私ぃぃぃぃぃぃィィィィ!

 

 

 …駄目なハイテンションに陥った七乃に、言及するだけの理性は無かった。 理性の大半は滾る自分を抑えるのに割かれていた。

 

 

 その後。

 

「な、七乃? 用事はおわったのか の?」

「えぇまぁ。 でも予想してたのよりもお金にならなかったので、今日は必要なものをそろえて明日また換金しに行きます。 だから明日あさってぐらいには出ることにしますね。」

 

 日に何度もというのは少しあやしまれるかも、との考えであった。

 

 で、あとはなんやかんやで宿に戻って、夜になって朝になって昨日と同じような状況になったところから始まる。

 

 

 

 ・

 

 

 なんだか適当? いやもうこれ以上長くなると面倒なので端折ります。

 

 寿春から逃げて三日目の昼、今日も今日とて寝起きが双方共に遅かった二人はまたも外での食事を終えて、七乃は例の馬車の群れに行っていた。

 

 今回出したのは手持ちの中でも良いものの内の一つ。 非常に緻密な細工の凝らされた腕輪で、

 

「母方の祖父母から譲り受けたものなんですが、今は旅費が必要なのでどうにか…」

 と、『多少の』嘘を織り交ぜた結果、昨日今日と分けて持ってくるとはよほど悩んだ末なのだろうと思ってくれたらしく、相応の価値にいくらかプラスした金額で買い取ってくれた。 いい人である。

 嘘とはしても先立つものが必要なのは真実故に大目に見てやって欲しい。 それに商人としても、手入れすればもっと高値で売れるとの見立てであるから双方にとって得であった。

 

 そんなわけで昨日より早くに交渉はまとまって、七乃は美羽が居るであろう雑貨屋に向かっていた。 その途中、さていざこれからの目的地に到着したらどう立ち回るかが頭をよぎる。

 

 そのことを考えていたらついつい雑貨屋を通り過ぎてしまっていた。 あららぼーっとしてました と我に返って振り返ろうとしたら、

 

 …? 美羽様?

 

 建物の間、人一人が通れるほどの隙間に、しゃがみこんだ美羽の後姿があった。  どうやら何かを手にとって見ているようだがさていったい何を見ているのやら。

 

 当然七乃は近づいて、

 

「美羽様? どうかしましたか?」

 

 声をかけた。 かけてしまった。

 

 

 ・

 

 

 七乃が昨日と同じ場所に美羽を待たせた後。 美羽は周りを気にしながら何気ない様子で目線をやって、またもや例の建物の隙間の前に移動、あの本がまだあることを視認すると、

 

 また見てみたいとの欲に逆らいきれず、再び手にとって開いてしまって集中している今現在。

 

 

 と、ここまでが美羽達視点においての過去である。 いやこんな場面で物語の時間軸を追いつかせるのってどうなのと思わないこともまぁ無いけど、そこはそれなんやかんやで良しとして下さい。 はい快諾ありがとうございます。

 

 さてなにはともあれ問題は美羽である。

 

 なんぞよく分からない偶然か運命か、はたまた作者がおかしくなったせいかは知らないが美羽は今で言う十葉チキンもとい十八禁の、漫画とまでは行かないが絵が多めの小説を拾ってしまって知識面で早熟な少女になってしまいましためでたしめでた

 

 めでたかねぇよ。

 

 今日も今日とていけない本をお供に大人の階段のーぼる~ ってな具合のシンデレラ じゃなくて美羽であるが。

 

「美羽様? どうかしましたか?」

 

「ひにゃぁうっ!?!?」

「はいっ?」

 後ろからかけられた声によって気化レベルに沸いた頭が絶対零度まで急転直下、マックス2億ボルトヴァーリーの雷霆を数十発同時に食らって黒こげ以上に全身があますとこ無く炭化しました的な、そんな爆ぜるかのような反応で飛び上がる。

 

 この反応に、いつもならもう「ひにゃぁう」なんて聞いたら鼻血ジェットで Higher than スカイハァァァイも余裕かもしれないさしもの七乃も少し驚いた。

 

 周囲に人は少なかったが、通りすがりの通行人Aがなんだありゃ視線。 それを気にしつつ

 

「あの、美羽様? なにか」

 珍しくどうしたものかと困る七乃だが一歩美羽に歩み寄る。 が、

 

「ヤ! イヤソのじゃから妾は! な!」

 何が『な!』なのかは言ってる美羽自身も分からない。 そして体は七乃からは後ずさりつつ、

 

 腕は距離を取ろうとでもしたのか前につっぱり、その影響で持っている本は手から離れて七乃の足元にあいきゃんふらい。

 

 

     なにをしておるのじゃ妾はぁぁぁぁァァァァァァ!?

 

 

 一瞬遅れて後悔するももう遅い。 七乃はその本を拾い上げて、

 

「? なんですかこの ほ ん … 」

 

 題名を見た途端に 動きと表情が鈍くなって、無機質な動きで適当に本を開くと。  あぁ、そこは特に『見せ場』だったね。 分かりやすいセリフの文字と絵がエr じゃなくてえろいことに って母音間違えたちくしょぉぉぉぉォォォォ!!!

 

「…… あの、美 羽様? これ、どうしたん ですか?」

 

 その発想は無かった な展開だったせいか、いつもは飄々とした七乃も流石に言葉が固くなる。

 いや実際七乃とてそーいう知識が無い訳ではない。 むしろ『いざ』ってな時のために知識『だけ』は持ち合わせてはいるし、故にこういった本を見たところで慌てるような反応はしない。

 

 でもまさかの美羽である。 異性交遊すらまだまだな美羽が色々すっとばしてそんな本を見ていたなんてのはいくら七乃でもフリーズの一つや二つは仕方ない。

 

「えと、 その、 こ、ここに落ちておって、 それで拾ったら、 昨日だから…」

 

 非常に気まずい雰囲気であることを察した美羽が、手はよく分からない動きでわたわた、言葉はどう言っていいのかしどろもどろしていると、

 

「………、美羽様。」

「! な、なんじゃっ?」

 

 妙に落ち着いた声音で七乃が話しかけた。 

 

 何度も言うが、流石の七乃さんでもこの一件には驚いた。 

 

 それでも。 それでもやっぱり良くも悪くも七乃さんだった。

 

 いつか、いつか美羽が年頃になったら『色々と』教え込んだりして、叶うならば美羽と合意の上で【hなのは】とか【いけないと】だったり【思いますっ!!】なことも考えていた。 あぁまったくなんて素敵な未来予想図?

 

 そんな未来予想図への輝かしい(え?)一歩が今ここに。  一度は動きの鈍った頭も即時再起動して『昨日ここに落ちていたこの本を拾った』らしいことを察した。

 

 それなら。 それなら、もしかしたら『ちょっと』時期尚早かもしれないたぶん だが、

 

「知っちゃったのなら仕方ありませんね~。」

 

 知ってしまった以上、間違った半端な知識を保つよりかはきちんと知っておいたほうが逆に健全。 開き直ったような、何かが晴れたような笑顔を七乃は美羽に向ける。

 

 これもひとえに、大切に思う忠誠心のなせる業、であった。 ほらその証拠に口の端から『忠誠心』がわずかに溢れかけてる。

 

「私がちゃんと教えてあげましょう♪」 

 

 

 小さいのに色々知ってるってのも……  いいですねっ! 

 

 

 OK、それでこその七乃さんだよ。

 

 

 美羽の明日はどっちだっ!?  

 

 

 

 

 ・Side Somebodies ~反骨娘は反抗期?~・

 

 

 ・あいきゃん! ゆーきゃんと!

 

 

「駄目だと言うておるのが分からんのかっ!!」

「分かりませんっ!!」

 

 

 本日も晴天なり。 白雲たなびく青空の下、大陸のとある場所。 広い屋敷の中で言い争いの火蓋が切って落とされた。

 

「今日こそは言わせて貰います! 今この瞬間にも軍の形では助けられない者達が居る、その者達を助けるためにワタシは一人で旅をしたいんです!!」

「ばかもん、わしへの反骨心から言っておるやつが何を言うか!」

 

 今までなら睨まれただけで尻尾を丸めていたが、今日はテンション上がってるせいか強気なことだった。

 

「そうではありません! ワタシは困っている、力を貸してやるべき者を助けたいのです!」

 

「だぁからっ! 百歩譲ってそれを許しお前が旅に出たとしても、お前のような腕力だけの輩では何も出来んわ! 昔から腕っ節のみ鍛えればいいと思いおって!」

 

「…っ、 けどっ、結局人を助けるのは実際の力でしょう!」

 

「お前はその力もそれこそ力に寄ったものじゃろうがっ!力だけでは勝てんのもいい加減に覚えんか!」

 

「しかしここ一帯でワタシに勝るやつは居ません!」

 

「わしに勝てんじゃろがっ! それに世間は広い、お前やわしより強い者なんぞ大勢おるわっ!」

 

「だからそれを知るためにも旅をさせてくれと言っているんです!」

 

「だから旅をしたければもう少し頭も鍛えろと言っておるんじゃろうが!」

 

 両者一歩も退かず口角泡を飛ばしまくる。 後ろの壁に立てかけてあった巨大な鉄棍がずるりとガゴンと倒れても気付かない。

 

「頭の未熟なお前が流浪に出たところでいいように利用されるのがオチじゃ!」

 

「そんなことはありません、ワタシは一人でやれますっ!」

 

 床が抜けるかのような勢いで足を踏み鳴らす前者、威力は劣れど負けじと一歩前に踏み込む後者。

 

「出来ん!」

「出来ます!」

「出来んったら出来んっ!!」

「出来るったら出来ますっ!!」

 

 

 結局言い合いはそれから数時間は続き、それでも決着はつかなかったという。

 

 

 ・で、数日後

 

 

 ある部屋の中。 机の上にあった書置きを持ったまま、怖い顔で身体を小刻みに震わせるのが一人。

 

 

 

  『旅に出ます』

 

 

 

「…あ っの、」 

 

 そしてその書置きを床に べしぃっ と叩きつけて、

 

 

「ばぁっかもんがあぁぁぁァァァァァァァァァっ!!!!!」

 

 

 巴群の空のもと、通る声が響き渡った。

 

「あの、厳顔様…、探したほうが…」

 

 おそるおそる進言したのは付いてきていた女中の一人。「あやつはどうした? 今日は拗ねて篭っておるのか?」「? いえ、お部屋にはいらっしゃらないようでしたが…。」 といったやり取りの後に部屋へと赴けば、姿は無く代わりに机の上には上記の置手紙。

 

 流浪に出るのを許さなかったのは、力に寄ったままではどう転ぶか分からないからだった。 しかしそれは即ちひとえに親心であり、大切に思っているからこそである。

 しかし力に寄っているのだから優しさの裏返しなど理解出来る筈もなく。しかも反抗期が突発的に起こっているこの状況。

 

 いわゆる『親の心子知らず』なのであった。

 

「知らんっ もう知らんあんなやつ! どこぞへでも行ってどうとでもなるがいいわあんの脳筋がぁぁぁぁァァァ!!」

 

 うがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ と 怒りをあらわにするのは今更ながら女性。

 

 頭には雅やかにかんざし、胸の上部と肩から二の腕ががっつり露出している、着崩した着物のような意匠の衣装を纏う谷間素晴らしい妙齢の美女だった。

 露出こそ多いが、その豪放磊落…ってのを女性に対して使っていいのかは疑問だが、とにかく豪快な性格なので下品な印象は一切無く、艶やかな『御姐さん』ってな形容がぴったり来る。 はい、『おねえさん』ですアタリマエジャナイデスカ。 

 

 この粋でいなせな『おねえさん』、

 

 名を『厳顔 伯貌』 真名を『桔梗』。 益州は巴郡を治める、豪放磊落系御姐さん太守である。

 

 

 

 ・汝、大いなる焔なるや唯消える石火なるや

 

 

 「!!」

 

 何かに反応するかの如くに ビクッと肩が縮こまるのが一人。 木々はまばらな山道をとりあえずと行く最中のことであった。

 

「き、気のせい か… だ めだ駄目だもう桔梗様のことなんか気にしたらだめだ! そんなことだと人を救ってやることなんかできないからな!」

 

 それでもきょろきょろと辺りを見回すのはそう、少女。

 

 前髪部分が一部白く…染まっているのか脱色なのかは知らないが黒いショートヘアで勝気な顔をしたボーイッシュな少女で、服装もいうなればホットパンツに、アウターは袖が無く薄手で大きく襟の立ったロングコートに似たものを着ていて活動的な印象である。

 

 しかしそれなのに女性としての出るところは思いっきり出ていて、その上アウターの前を胸の下のところで留めているから結果胸が胸がそりゃあもう強調されているから困ったもんだ。

 インナーも丈が短く腹回りが露出していて、見える胴体は細くしかし締まっている。

 

 そんなのが可愛いや綺麗、ではなくかっこいい系の美少女ってんだからこれは一発レッドカード即退場以後入場禁止だから私が貰っていきますレベルの反則であろう。

 

「…そうだ、もう桔梗様なんか気にはしない! ワタシは自分でやることが出来るんだと証明してやるんだ!」

 

 だがそんな少女ではあるが、物言い然り上記前述の通りに世の乱れを憂いて流浪に出ただけあって当然得物は持っていて相応に戦える。

 得物は手に携える、巨大鉄棍『鈍砕骨』。 育ての親であり師匠の『桔梗様』から少し前に譲り受けたものである。

 理由としては『武に関しては』『一応』一人前として『とりあえず』認めたからというものであったが。

 

 いかんせん自信過剰気味な性格と世の乱れを憂う気持ちとが余計な化学反応は起こしてしまったが故に、今の家出に近い状況となっているのが現状である。

 

 

 だが救いになりたい意気は本物。 聞くに野党は増える一方であり、実際に賊の一団によって離れたところの村が一つ壊滅していた。

 この少女もその惨状を目の当たりにしており、その際に強い者が居てやることが出来ていれば結果は違ったのではと思い至り、それが此度の家出の発端であった。

 

 頭の中にあるイメージを文にすれば。 剣を携えた武人が悪人を蹴散らして、倒れこんでいたか弱い女性に手を差し伸べている情景。

 

 いうなれば『白馬の王子様 ver東洋的』であるが、この少女が憧れるは女性の位置……では無く武人のほうである。

 

 

 

「…やるぞ。 ワタシはやってやる!」

 

 今ここに、また生まるるは新たな想奏譚。

 

「民の救いに ワタシはなるっ!!」

 

 どこぞの麦わらを髣髴とさせる様子で言い放つは、

 

 『魏延 文長』 真名を『焔耶』。 絶賛反抗期真っ只中の反骨娘である。

 

 

 結論。 本日も晴天なり。

 

 

 

 ・あとがき・

 

 

 『反骨娘は反抗期?』

 

 …なにこのアホっぽいタイトル… 私、今回色々となにやってるんだろ… (華狼、あなた疲れてるのよ。)

 

 と、言うわけで(どんなだ)

 どうも。 『これでかつる』の『かつる』とは『勝る(まさる)』の読み方を変えているのだとようやく理解した華狼です。

 てっきり『勝てる』をなにか冗談めかして言っているのとばかり。理解したときは面白いなと感心したぐらいです。

 

 

 さて今回は誰が言ったか豪放磊落系御姐さんこと桔梗さんと、ボーイッシュリベリオンこと焔耶の追加です。

 とはしても桔梗さんはこれからしばらく出ることは無いでしょうが。 メインは焔耶ですね。

 

 本来の魏延 文長の反骨とはここの焔耶がやっちゃった反骨とは違うのは分かってますが。 反骨と聞いてこんなことにしちゃいましたてへぺろ。 一刀達と出会うまでにはなんだか色々ありそうですね。

 

 そういえば厳顔と張勲の字は双方共に不明とのことでしたので。 オリジナルで作っちゃいました。 字が無いと色々面倒なので。

 ってなわけで。 ここでは『厳顔 伯貌(はくぼう)』と『張勲 文掲(ぶんけい)』でいきます。 間違っても正式な字ではありませんので。

 

 しっかし美羽と七乃のやり取りは書いててなんだか面白かったような頭抱えたくなったような。 ほんとなにやってんだろ私状態でしたね。

 

 いいぞもっとやれとか言われたらまぁそれはそれで嬉しいですが、もっと直接的な単語使って過激に! ほら! more! なんて言われたら困りものだったり。 正直あーいうの書くのは苦手なんです。

 

 あと2ch用語や他のネタの使い方合ってます? 思うままにやってるので間違ってたら訂正求む。

 

 

 ところで今回は名前に関しての私的解釈をばここで。

 

 『焔耶』 この名前を漢文として直訳すると『炎?』ってな意味になると考えてます。『耶』は疑問の助詞ですからね。

 

 これを意訳すると、『闇を祓う篝火になるも一瞬で消えるだけの石火になるも、当人の行い・努力次第』という意味に出来、故に転じて『努力を怠るべからず』こんな意味になります。 そう考えるといい名前ですね。 

 

 …いや、公式にそんな設定が有るのかどうかは知りませんが。あくまで私的解釈ですよ?

 

 つまりは『汝、大いなる焔なるや唯消える石火なるや』、このタイトルは焔耶の名前の意味そのものなのですよ。

 

 

 こんな風に私は名称を考えるのが好きです。人名・技名・武器名とか。 熟語・単語・漢字一文字ごとの意味はもちろん、全体を通しての音韻・響きの良し悪しもこだわったり。 漢字辞書は必須ですね。 調べるのも悩むのもけっこう楽しいです。

 

 この物語の題名『華天に響く想奏譚』も、悩みすぎて布団で横になってるときも考え続けて眠れなかったぐらいです。

 

 近年は現実世界でアレ(どれとは言わない)な名前を子供に付けるのが増えていて嘆かわしいやら子供が可哀相やら。

 

 頼みますから名づけた親の頭の程度をわざわざ悪し様に露呈するようなアグレッシブ自虐とも言えるバカな名づけを子供にしないであげてくださいね。 キラキラな名前は二次元に留めましょう。

 

 以上、老婆心でした。 まだ若いつもりなのに『老婆心』とはこれいかに。

 

 

 では。 美羽と七乃がどうなるのか …特に美羽はどうなっちゃうのか、

 阿連達と、彼らから離反した者達は各々どう転がっていくのか、

 

 そして反骨娘の焔耶がどんな珍道中(オイ)の末に一刀…焔耶的には桃香、と出会うのか。

 

 

 続きはまたいつか。 乞うご期待。

 

 

 次回はまた一刀達の時間軸と視点に戻ります。 テーマは『細胞分裂の強制促進による組織再生』です。

 

 

 

 PS、 ノリノリで使っててなんですがスカイハァァァイってなんのことなんでしょう? 検索しても元ネタが見つからないんですが。

 

 

 

 PSのPS、 Higher than sky はテイルズ オブ イクシリアに出てくる技です。

 

 

 


 
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