No.388974

気になるアイツの今、昔。

cpfizzさん

某サイトの感想レポで、出逢った頃の二人を思い出し、ものの十数分でガタガタガタと書き上がったネタ。
最初の頃はスッゴイ嫌な子だった小狼くんが、まさかさくらちゃんの永遠の伴侶になるとはねぇ。
当時の自分を見返したら、とんでもなく素晴らしい赤面顔を見せてくるんだろうなぁと想像したら文章が止まらなくなりました。(^。^;)
▼2012/03/14:作品を公開するアカウントを変更しました。

2012-03-09 01:47:59 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:3293   閲覧ユーザー数:3290

『まだ手こずってるのか』

 

「お、おい! それ……」

 小狼は焦りと恥ずかしさが入り交じったような顔で、画面に向かって抗議をする。

「ほえ?」

「私のビデオコレクションですけれど?」

 さくらと知世は彼がなぜ急に声を荒げたのか分からず、頭の上に?を浮かべ彼を見る。

「いつ撮ったんだ!? そんなの!」

 怒っていると言うよりは完全に慌てている様子の小狼。表情は必死に冷静を装うとしているようだが、声までは誤魔化せていない。

「さくらちゃんが栄光のカードキャプターとして活躍している時ですもの! あの凛々しいお姿を見逃す事は出来ませんわ!」

 突如目の色が変わり、知世の周囲がキラキラと輝き始める。小狼が仕舞ったと思った時には既に遅く、彼女はさくらの素晴らしさについて語り始めていた。

「さくらちゃんの素晴らしさは、どんな時にも決して諦めない所にあります! 大好きな人のためならどんな困難にも立ち向かって行きますもの!」

「そ、そんなこと無いよ~。私だってヤダなぁ~って思った事あるよ?」

「でも、私はさくらちゃんが諦めた所は見たことがありませんわ! そこがさくらちゃんの……」

 話しの対象がさくらへ移ったことで小狼はホッと胸を撫で下ろし、そのままビデオが流しっぱなしになっている画面へ視線を移す小狼。画面の中でやはり目に付くのは、まださくらと出逢った頃の、やたらと彼女へ突っ掛かっている自分の姿――。

 あの時は思いもしなかった。出逢った頃の彼女はただの女の子で、魔法に関してはずぶの素人。助けてやらなくちゃ、守ってやらなくちゃ、何も出来ないと思っていた。

 それがカードを追いかける内にいつの間にか、自分をも上回る魔法遣いとなり、今では……。

 小狼はジッとさくらの横顔を見ていた。時折照れ、呆れながらも熱心に知世の話しを聞いている。

 今から思えばあんなに高圧的な態度を取った事がすごく悔やまれる。恥ずかしい事この上ない。いや、当時の自分から見れば、今の自分の方が恥ずかしいのかもしれないが……。

 小狼は心の中で画面の中の幼い自分に、真っ直ぐ言葉をぶつけた。がむしゃらに突っ走っているだけの当時の自分に。

(――この気持ちはお前から何と言われようと、誇れるものだ。誰に何と言われようとこの気持ちは変わらない。俺はさくらが誰よりも好……)

「どうしたの? 小狼くん」

「うおっ!?」

 急に視界に飛び込んできた少女の顔に驚き、少年は一歩後ずさる。いつもなら決して上げないような声を上げて。

「小狼くん?」

 不思議そうに小首を傾げるさくら。サラリと頬の上を零れていくはちみつ色の髪が、キラキラ光って見える。覗いた首筋の白さが、キョトンとした表情と相俟って余りに魅力的で、小狼は吸い寄せられるように彼女へ近寄り……。

「え? え? 小狼くん!?」

 無意識のうちに抱き締めていた。

 腕の中でモゾモゾと動き回る彼女を優しく包み込む。

「さくら…………」

 小狼は優しく名前を呼ぶ。ありったけの想いを込めて。

「…………」

 さくらも小狼の口調からその想いを汲み取り、そっと背中へ手を回し……。

「あらあら。お二人ともラブラブですわね♪」

「!! …………////」

「あ!」

 今の状況を思い出した小狼は、慌ててさくらを引き剥がした。その表情には赤い色が爆発している。

「ほほほ…………」

 見れば、知世は嬉しそうに微笑み、その右手には既にビデオカメラが握られていた。

「…………」

 反対にさくらはなんだか機嫌が悪そうだ。口を真一文字に結び、ジッと小狼を見つめている。

 いくら鈍い彼でも今回は、その理由にすぐ思い当たった。

 前触れもなくいきなり抱き締めて、恥ずかしさの余りいきなり引き剥がしたのでは、一方的すぎてさくらでなくても怒るだろう。

 だが、困ったことに……、その拗ねたような表情も、小狼は可愛いと思ってしまうのだ。もう一度優しく抱き締めあげたいと思う反面、ちょっと意地悪して怒った顔をも見てみたいという気持ちもある。例え、彼女から嫌われても自分は絶対に彼女を嫌ったりはしないだろう。それだけ彼女のことが……。

 小狼は心の中で小さく嘆息し、未だ彼女達の後ろの画面に流れている、昔の自分に零した。

 ――惚れたら大変だぞ。いつも彼女が愛おしくて、そんな気持ちをどうしたらいいか分からなくなるからな。と。

 少年はしばし、抱き締めようか、意地悪をしようか、思案に暮れていた。


 
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