No.388742

壱壱壱漆→零弐零伍

瀬川 彩さん

1117→0205…と読みます。青の祓魔師の、志摩家四男金造(11/17生まれ)と次男柔造(2/5生まれ)の、それぞれの誕生日のお話です。本当は2/5のオンリーイベントで漫画になってるはずのお話でした。来年の2/5までには漫画に出来てると良いなあと切実に思います…(ノ∀`)

2012-03-08 19:54:18 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:625   閲覧ユーザー数:622

 

 いつもであれば、布団から離れるという行為は彼にとって非常に困難極まりない、一大事業である。その結果、許される時間ギリギリまで己の睡眠欲を満たす行為に邁進する事となり、食欲がそれを凌駕し空腹に堪えられず自分から起きるか、はたまた痺れを切らした家族に強制的に起こされるか…そんな朝を迎えるのが、金造の常であるのだが。

 

 その日。金造は微睡みから意識が覚醒すると同時に、普段の彼からは想像するのが難しい程鮮やかに…何の躊躇いも未練も無く布団から飛び起きると、寝間着のまま廊下へと飛び出した。派手に音が立つのも気にせずドタドタと足早に進み、目的地である居間の前へ到着するやいなや、廊下と居間とを隔てる襖を勢いよく開く。

「おー金造。今日は何や早いやないか。珍しなあ?」

「お父、おはよお。」

「おはようさん。」

 居間の真ん中にどっかりと腰を下ろし、手に馴染んだ湯飲みで濃いめのお茶を啜りながら、視線は新聞から反らさない。志摩家の主である八百造は、足音だけで居間へやってきた人物が金造であると看破していたようだ。当の金造は辺りを見回して、首を傾げている。

「柔兄は?」

「まだ朝稽古から戻っとらんぞ。」

「ほうか。」

 今来た廊下を戻ろうとする金造に、八百造は読んでいた新聞を一旦置くと、しっかりと…しかしそれは決して厳しくなく、優しさを多分に含んだ視線で見据え、言葉をかけた。

「金造、誕生日おめでとう。」

「おん。ありがとう。」

 金造はいかにも嬉しそうに、人なつこい笑顔を浮かべて答えると、再びドタドタと音を立てて廊下の向こうへと去って行った。

「何やあの笑顔…そないに誕生日が嬉しいんかいな。」

 若干腑に落ちない物を感じつつも、我が子の成長を喜ばない親はまずいない訳で、例に漏れず八百造は口元を綻ばせて1つ歳を取った息子の背を見送ったのだった。

 

 

 

 廊下を進むんだ先で金造は、丁度稽古から上がってきたであろう柔造に出くわした。

「柔兄、おはよう。」

「おん、おはようさん。…たまに早く起きたんなら、朝稽古に顔出しい。」

 いつも同じ面子だと馴れが出て、だれるんが困んねん…柔造はボソリと愚痴をこぼして、金造に向き直る。

「お前、誕生日やんな? おめでとう。」

「ありがとお!」

 末の弟が見たら『誰!?』と即突っ込みを入れたであろう、満面の笑顔をもって金造は答えた。

「…何や金造、そない喜ぶ程嬉しんか? 子供みたいやなあ!」

 金造のあまりの喜び様に柔造は思わず茶化してしまったが、当の本人はまるで気にしておらず、それどころか逆にへへっと嬉しそうに笑うのであった。

「やって、これで柔兄とは4こ差やん? 1こ縮まってん!」

 誇らしげに胸を張る金造に、堪えきれず柔造はブハッと吹き出した。

「金造…ほんま、かいらし事言いよるなあ…!」

「ちょっ…笑うなや!」

 肩を震わせクツクツと笑う柔造に、金造はやや傷ついた面持ちでボソボソと話し始める。

「…やって俺は、柔兄の背中見て大きゅうなったようなもんやし…何や柔兄に近づけたみたいで、そんで嬉しいんや。」

「……ほうか。」

 柔造は金造の頭に手を伸ばし、わしゃわしゃっと力任せに撫でると、ニッと笑って言った。

「お前は、よう出来た弟やな!」

 ひとしきり金色の髪を乱して気が済んだのか、その調子で朝稽古も来ぃや! と声をかけて、柔造は稽古の汗を流すべく風呂場へと去って行った。残された金造は廊下の真ん中でその背中を見送り、視界から柔造が消えた後にポツリと呟く。

「よう出来た『弟』かぁ………チェッ。」

 

 

 

 背後に金造の視線を感じながら風呂場へと向かった柔造は、静かに思いを馳せていた。

 

 …誰に言われた訳でもなく、当たり前んように祓魔師なって、気がつけば俺の後ろに立ってくれとる。

 それで俺がどんだけ楽になっとるか…どんだけ救われとるか。

 …きっと、あいつは気付いてへんやろなあ…。

 調子づかすんも癪やから、教えてはやらんけどな。

 

「…感謝しとるんやで?」

 

 柔造はひとりごとを呟いて、汗と一緒に湯に流したのだった。

 

 

 

          ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 時が流れて2月5日。バタバタと派手な足音が廊下を右から左へと移動して行く。

「柔兄! 誕生日おめでとお!!」

 スパーン! …と、乾いた音を立てて勢いよく開いた襖の向こうから、金造が飛び込んできて祝意を表した。

「…おん。」

 嬉しそうに目を輝かせる金造とは対照的に、柔造の表情は怪訝であった。

「? 何や、柔兄。けったいな顔しとるで? 誕生日、嬉しないん?」

 不思議そうに首を傾げる金造に、柔造は答える。

「せやかて金造。お前の誕生日ん時、差ぁが縮まった言うて喜んどったやろ?」

「おん。」

「こんで元通りやで?」

「……!!」

 言われて今まさに気がついたのか、雷に打たれたような…ひどくショックを受けた表情をした金造に、盛大に笑い出しそうになるのを柔造は必死の思いで堪えた。しばらく呆然とその場に立ちつくしてしていた金造だったが、無理矢理に笑顔を作って(本人は上手く出来たと思っていたが、誰が見ても『引きつった笑い』と表したであろう)強がって見せる。

「…い、嫌やわ~柔兄。金造様はそこまで懐狭ないで? 柔兄の誕生日やもん、祝うに決まっとるやろ!!」

「ほうか~。男前上げよったな、金造!」

「せやろ~?」

 金造は必死で平静を装いつつも、その場から逃げるように自分の部屋まで戻って来ると、クソックソッと毒づきながら何の罪もない壁をガンガンと殴るのであった。

 

 同じく自分の部屋へと戻った柔造は、隣の部屋に面した壁から響いてくる音と振動に、いよいよ我慢出来なくなって肩を小刻みに震わせて笑い出す。極力声を漏らさいように努めたのは、柔造なりの金造への愛情の表れだったのかも知れない。

 


 
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