No.388267

あっぱれ!天下御免~よろず屋千波営業中~よろず屋メンバー その1

青二 葵さん

今回も参加型小説になってしまった。

ワイワイする方が楽しいけど。

さて、今回はあっぱれ!天下御免のほうです。

続きを表示

2012-03-07 19:48:58 投稿 / 全5ページ    総閲覧数:2891   閲覧ユーザー数:2744

ある日の昼下がり、またしてもよろず屋"千波"にて一人寂しく部屋にいる深い青色のフレームをした眼鏡を掛けている男、岡崎 (あおい)

今日も今日とて、暇な時に依頼が来なくて暇を持て余している。

なぜ、彼が店にいるかと言うと今日の店番のシフトが彼であるからだ。基本、シフトでも無いメンバーも詰めているはずだが珍しく出払っている。

本当なら学生の本分である勉強でもして暇を潰せばいいのだろうが、そんな事が出来るのは余程真面目な人物であろう。

彼は勉強しようと思っても、行動できない人間。ようは面倒くさがりなのである。

畳を背に寝転がり天井を見ながら、

 

「(他の人たちは何やってんだろうなあ……)」

 

よろず屋"千波"に所属している他のメンバーに彼は思いを馳せるのであった。

 

一方、よろず屋"千波"のメンバーの一人である白髪のショートの少年、墓守(はかもり) (むくろ)は水都 光姫と八辺 由佳里と共に北町の通りを練り歩いていた。

骸は光姫と良い玉露がないかとか、最近いい茶葉が置いてある店がどこにあるかなどと茶について語っていた。

その隣で、由佳里は噂に聞いていた最近開かれたクレープ屋のクレープを幸せそうな顔で食している。

そんな中とつぜん光姫が話を変える様に聞いてきた。

 

「のう、墓守よ」

 

「……何だ?」

 

「最近、転校生の噂をちと耳にしたのじゃが。本当か?」

 

「ああ、本当だ。蒼が南国先生に直接聞いたらしい」

 

「成程な。あまりに珍しい事じゃったんで、つい気になっての。お主なら、なにか知っておると思った」

 

「……なんでも知ってる訳じゃないがな」

 

そんな、二人の話が気になったのか由佳里が口を挟む。

 

「ふぉんほに、めふらひいふぇすね」

 

「ハチよ、食べてから喋らんか」

 

光姫が咎めるように言うと由佳里はすぐさま口の中にある分のクレープを味わいながら呑み込み、喋り直す。

 

「ほんとに、めずらしいですね~。転校生なんて、ここ数年に一人いるかいないかですし」

 

「そうじゃな。一体何の因果でこの学園にきたのやら。しばらくは話題になりそうじゃの」

 

光姫がそう予測し、それから転校生へと話の話題が移ろうとした時だった。

 

「誰か!!そいつを止めてくれ!!」

 

後方から、突然必死な大声が聞こえてくる。

なんだと思い、周りの人々が声の方へと視線を集める中、三人も自然に周りと同じように声の方へと視線を移す。

人ごみを払いのけるように三人のいる方向に向かってくる人影。先程の声からして、面倒な予感が骸と光姫はしてならなかった。

そして、走ってくる人物が人ごみの中から出てきて容姿が確認できたかと思うと、先程と同じ声が響く。

 

「スリだ!!俺の財布をぱくって行きやがった!!誰かそいつを――――」

 

「オラッ!邪魔だぁっ!!怪我したくなけりゃあ道を開けろ!!」

 

台詞を遮るようにして叫ぶ人物は、長ドスを振り回しながら人ごみを無理矢理裂く様にして逃走している。

どう考えても十中八九、彼がスリなのだろう。

 

「あわわ!?どうしましょう光姫様!?」

 

「そう慌てるな、ハチよ」

 

「でででも、スリがこっちに来てますよ!!」

 

「銀次」

 

光姫が短く名前を呼ぶと、彼女の隣に長身で銀色のリーゼントのような髪型の男がバラを(くわ)えながら突如現れる。

 

「お呼びかい?お嬢」

 

「うむ。あの盗人を引っ捕えるのじゃ」

 

「お安いご用さ」

 

光姫の指示でじごろう銀次が、いざ、スリに立ちはだかろうとした時にとつぜん骸が前に出る。

それに気付いたのか、スリは叫ぶ。

 

「おい、テメエどきやがれ!!」

 

そう言って、長ドスを勢いよく振りかざした瞬間、

 

「…遅い」

 

その一言と共にスリは小太刀の峰で顎を下から上へと打ち抜かれた。

 

「――ぐっ!!!」

 

そのままの勢いで、スリは浮遊したかと思うと背中から倒れて行き、動かなくなった。それから、空中で手放した長ドスが少し遅れてスリの近くに落ちる。

それはそれは、鮮やかな手並みだった。(まばた)きする時には、既に吹っ飛んでいるのだから。

それから右手に逆手で持っていた小太刀を腰にある鞘に戻し、スリの長ドスを持っていた反対の手にある財布らしきものを拾う。

 

「顎を打ち抜いたから、脳震盪(のうしんとう)にでもなってるだろう。……しばらくしたら動ける」

 

一瞥してから骸が呟いた後、息を切らせて彼の元に駆け寄る人物。

 

「あ…ありがとうございます」

 

本当に息も絶え絶えにお礼を述べる人物。財布の持ち主だろう。

 

「ほら、大事に持って置けよ」

 

そう言って、骸は彼に財布を手渡す。その後も、財布の持ち主はひっきりなしにお礼を述べる。

いずれお礼を、と言う言葉を残すとそのまま彼は去って行った。

 

「どうやら、我が輩の出番はなかったようだな。にしても、心を揺さぶられる手並みだったぜ」

 

「相変わらず、鮮やかじゃのう」

 

銀次、光姫の順で感心の台詞を述べる。

 

「よろず屋の手前、謝礼を貰えなかったのはどうかと思うが」

 

「なあにを言っておる。"わざと"狙われるような真似をしたくせに、よく言えたもんじゃ」

 

骸の言うことに対して光姫は呆れたように言う。

それは、骸の行動の真意が分かっているような言動であったが、由佳里はよく分からなかった。

 

「え?一体どういう事ですか?」

 

実際に疑問を口に出した。わざと狙われるという、一般人からすれば危険極まりない行為をしたのだからその疑問も当然と言える。

 

「簡単な事さ、うっかり。"わざと"狙われて倒すことによって。自分は狙われたから先程のボーイを倒した。だから、謝礼はいらないと言う風にするつもりなんだろう?回りくどいが俺はそう言うの、嫌いじゃないぜ」

 

「さて…どうだかな」

 

銀次が的を射た考えを言い感嘆するが、骸はそれをあえてはぐらかす様に答える。

ちょっとした照れ隠しだと、二人は分かっていたので特にそれ以上は何も言わなかった。

 

「かっこいいです~墓守さん」

 

由佳里は由佳里で銀次の説明からか尊敬の眼差しを骸に向けている。

 

「通して下さい!北町奉行所です!」

 

そんな時に今度は別の方向から幼さの残る声が聞こえる。

3人の奉行所の格好をした人物が来たかと思うとその中に見知った顔が一人。

 

「銭方か……」

 

「水都様!?それに墓守様まで……」

 

骸が名を呟くとこちらに気付いたのか少女は思わぬ人物に会ったので、驚きの声を上げる。

少女の名は銭方 真留。

クラスは乙級三年のさ組で北町奉行所に所属する岡っ引きである。

髪留めに平世通宝と言う、大江戸学園で使用される通貨を大きくしたような物でサイドを留めている。

そんな彼女は早速、自らの仕事を果たすために驚きを横に置き、尋ねる。

 

「先程、スリが出たと言う騒ぎを聞きつけてきたのですが、もしかしてそこに倒れているのが――」

 

そう言葉を区切って、奉行の三人が倒れている骸が倒した人物に目を向ける。

 

「お主らの考えている通りじゃ。こやつがスリには違いない。ワシとハチと銀次、そして墓守が証人じゃ」

 

「成程、そうでしたか。ちなみに倒したのは銀次様ですか?」

 

「いいや、ワシではない。やったのは墓守じゃ」

 

光姫の話を聞いて、真留は少し呆れたように言う。

 

「まったくもう。こう言うことは私達奉行所に任せてくれればよかったのに……いくら剣豪生と言えど、危ないことはしないで下さいよ」

 

「向こうから襲ってきた。……正当防衛だ」

 

正義感の強い真留の事だからか、心配の言葉を投げかける。

しかし、真留の台詞に反論するように静かにそして淡々と骸は言う。

正当防衛と言われて、真留は返す言葉が無くなった。

 

「むう、そう言われては返す言葉がありません」

 

「それよりもほれ。そやつは連れて行かんのか?いつまでも通りに寝かせておくと返って心配になる」

 

「そうですね。光姫様の言う通り、私は仕事をしに来たんですから責務を果たします。事件の報告をしてくるので、お二人は犯人の捕縛をお願いします」

 

そう言って、真留は連れて来ていた二人の岡っ引きに指示を出して踵を返して行った。

それを見届けた後、光姫が口を開く。

 

「ここはこやつらに任せて、ワシらは引き続き美味いものを探しに行くかの」

 

「そうですね~。ビックリしたら、お腹が減ってきちゃいました」

 

「ハチもある意味底なしじゃな。ところで、銀次。呼び出しておいた手前すまぬがお主はどうする?」

 

「気の向くままにいい風呂とチェリーボーイを探すさ。またな、お嬢。いつでも呼んでくれよ」

 

銀次はそのままいい笑顔で去って行った。

去って行ったというより、一瞬で消えたのだが。

 

「……」

 

骸は銀次に追われるかもしれない見知らぬ誰かに冥福を祈った。

一応、この場から離れる時に骸が安全のためにスリの脳震盪について岡っ引き二人に話したのは余談である。

 

 

別の一方、南町にてよろず屋"千波"メンバーの内の二人がここにいた。

金縁の眼鏡に長髪のポニーテール、真紅の瞳をした男性、(はざま) 征志狼(せいしろう)

そして、黒髪のベリショートで黒眼の男性、樺原(かはら) 龍也(たつや)

二人は依頼を受けて南町奉行所に向かっていた。

 

「よりによって、二人同時に依頼するとは……それほど、切羽詰まっているのだろうか?」

 

「まあ、実際てんてこ舞いですからねえ。夜中に消火活動に参加するよう緊急で依頼されることも少なくなかったし。おかげでこっちは眠い眠い」

 

龍也が疑問を口にした後、征志狼は眠そうにあくびをしながら答える。

征志狼の言う通りよろず屋"千波"に最近は特に奉行からの依頼が多い、一応夜中だろうがいつでも依頼は受けると言う話ではあるので特に問題はないが、連続で真夜中に呼び出されるとなるとさすがに精神的に来るモノがある。

 

「まあ、ウチは儲かって良いんだけどな」

 

「面倒なのに変わりはない」

 

征志狼の言うことを本当に面倒そうに龍也は返す。

その時にちょうど南町奉行所の門が見えてくる。

そこの門番が二人の接近に気付いたのか、門番の内の一人が征志狼と龍也に近づく。

 

「征志狼様と龍也様ですね?どうぞ、中にお入り下さい。逢岡様から話は伺っておりますので」

 

「そりゃどうも」

 

丁寧な言葉で門番の人に言われ征志狼が返事をした後、二人はそのまま門をくぐった。

そして、出迎えたのは水色のポニーテールをした、いかにも温和な印象を与える笑みをした少女だった。

 

「逢岡さん直接の出迎えとは、意外ですね。てっきり、仕事をしている最中のところを案内されるかと思っていたのに」

 

「依頼と言う形で頼みこんだのはこちらですから、依頼主が出迎えないと失礼になると思いまして」

 

南町の奉行、逢岡 想は征志狼の言葉にそう返して微笑みかけたあと、真剣な表情になる。

 

「ようこそ来てくれました。征志狼くん、龍也さん。早速お話がありますので中へどうぞ」

 

「ああ」

 

龍也が返事をしたあと、想の後ろに続き案内される形で二人は奉行所の中へ入って行った。

そのまま、廊下を歩きいくつか角を曲がったところで一つの(ふすま)に辿り着く。

想が丁寧な所作で開けた後、どうぞと言わんばかりに催促され二人は入る。

どうやら応接室のようで、高そうな机と座り心地のよさそうな座布団が目に入る。

 

「どうぞ、お座り下さい」

 

想は襖を閉め、そう催促する。

二人が座った後、想も正座で相対する。

 

「それで依頼の内容は以前依頼しに来た通り"天狗党一味の捕縛"、でよろしかったでしょうか?」

 

龍也がそう本題を切り出し、想はそれに頷く。

 

「はい。以前にそちらで依頼した情報から、天狗党が拠点としている武家屋敷に張り込み。いつ、どこで、どの武家屋敷が会合に使われているかを観察しました」

 

「その結果、次の会合がどこで行われるか分かったと」

 

「はい。征志狼くんの言う通りです。天狗党はどうやら決まった周期に会合を行い、そして決まった順番で武家屋敷を使っていたのです」

 

「言い切るあたり、確かみたいですね」

 

「ええ、あまり看過出来ませんから。全校集会も近いですし、あまり不安を広げたくはありません」

 

想はいつになく熱の籠った口調でそう言う。

表情自体は真剣だが、内心焦っているのだろう。

 

「しかし、俺たちを頼る意味。分かってるのか?」

 

淡々とした口調で龍也は問いかける。

組織が組織以外の所に頼る事、それは力不足を意味する。

それが治安機関となればなおさら一般生徒の不安は増すと言うもの。

そもそも、上部組織である幕府(生徒会)が機能していないのだから下部組織である奉行(風紀委員)が事態を収められるはずがないのだろうが。

 

「それは……重々承知です。ですが、悔しいですけれども私達には現状を維持するだけで手一杯です」

 

想は悲痛そうに顔をゆがめて弱音を吐いた後、俯きかけた顔を上げて続ける。

 

「決して、奉行で働いている皆さんを信頼していないとかそんなことではありません!が、本当に私達ではどうしようも」

 

そうしてまた弱気な感じに戻る。

最初の一言の所を強気に発言するあたり、組織の人達の力量を信じているのだろう。

それから彼女は切り替える様にして頭を振る。

 

「ともかく、私にできる事は一刻も早く事態を収拾するように努めることです。手段は非道ではない限り問いません」

 

「「……」」

 

その言葉に二人は黙考する。

温情があるとして定評のある想が、その温情を捨てた。

それほど、学園の事を(うれ)いているのだろう。

そう二人が考えている時、襖の方から声がする。

 

「すみません。お茶をお持ちしました」

 

「どうぞ」

 

想がそう言うと、襖が開き女生徒とお盆に載せられたお茶が目に入る。

女生徒は三人の前にお茶を置いて回る。

全部置き終わったあと廊下に戻り、

 

「失礼しました」

 

そう言って、襖を閉めた。

育ちのいいところなのだろうか、一連の動作がとても丁寧だった。

 

「さて、せっかくお茶が届いたのですから頂きましょうか」

 

そう言って想は早速、湯呑に手を付けようとしたその時に龍也から口が開かれる。

 

「詳しい話がまだだが」

 

龍也の言葉に想は動作を止め硬直し目をパチクリとさせる。

 

「引き受けて…くれるのですか?」

 

「引き受けるも何も、ここに来た時点で引き受けてる」

 

何を言ってるんだとばかりに龍也が言うが、征志狼がまさかと言った感じに考えを述べる。

 

「もしかして、引き受けて貰えないと思ってました?」

 

「え?しかし、あの時に報酬の前払いはしていませんでしたし、具体的な報酬も提示していませんでしたから、てっきり依頼料の多い方を優先させるのかと……」

 

二人は想のその言葉に顔を見合わせる。

 

「一応、依頼を受けたらその依頼を完遂するまで普通他の依頼は受けないんですけど……」

 

「報酬に関しても具体的な報酬は完遂してからそれに似合う分を貰っている。提示された報酬だと実際受けた時に釣り合わない場合もある。それに余程の危険がない限り前払い報酬もない」

 

征志狼が依頼での説明をし、龍也が補足するように報酬についての説明をする。

 

「はは…そうでしたか」

 

それを聞いた逢岡は力なく笑う。

そして、途端に恥ずかしくなった。

先程まで頭を下げかけそうなほどに、熱弁と言うか、胸の内をさらけ出してしまっていたのだから。

 

「お顔が赤いですよ?」

 

「……少し部屋が熱いだけです」

 

征志狼の指摘に想は少々苦しい言い訳をしながら手で自身を扇ぐ。

なぜか、その行動に妙に微笑ましさを感じる。

 

「にしても、あの逢岡さんから手段は問わないと言う台詞を聞くとは思いませんでしたよ」

 

「すみませんが、あまり弄らないで頂けると嬉しいのですが……」

 

征志狼が少し掘り返すように言うと想は意図を察したのかやんわりと、釘を刺した。

 

「あらら、見抜かれてましたか」

 

「貴方と蒼さんは人を弄る癖があるらしいですからね、注意するようにと長谷河さんから言われたんですよ」

 

「そりゃまた、残念な話で」

 

征志狼と想が話している隣で龍也はあまり関係ないとばかりに一人、茶を啜ろうとする。

そして気付いた。

 

「(茶柱がある。珍しいな)」

 

こっちも割とどうでもいいことに気付いたのだった。

 

 

それから詳しい依頼内容が話された。

と言うよりも、作戦内容に近い気もしたがあまり気にしないでおく。

依頼主の言う通りに動き、あとは臨機応変である。そして、依頼が遂行されるのは同日の夜。

二人の男が月に照らされながら目的地へと向かっていく。

ただ、普段の二人と違う所と言えば天狗の面を被っていると言うことだろう。

もちろん、これは天狗党が使用している者と同じ面である。奉行所や火盗らが捕らえた天狗党の面を想が許可を得て拝借したのだ。

 

「狼の字が入ってるのに天狗の面を被る。これいかに」

 

「それなら俺も龍の字が入ってる」

 

征志狼が呟き、龍也がそれに同調する。

征志狼は表情が見える程度に面を外し、隣にいる龍也を見る。

 

「作戦と言うほどの事でも無いよな?これからやることって」

 

同じく龍也も征志狼と同じように面を外す。

 

「俺にとってはどうでもいい。言われた事をやるのがよろず屋だからな」

 

「相変わらず、ドライな事で」

 

「実際、そう言うモノだ」

 

「それじゃ」

 

征志狼の言葉を合図にとある武家屋敷を前に二人は面を被り直し、

 

 

「仕事と行きますか」

 

 

依頼が始まる。

 

さすがに門の前に天狗党の連中はいなかった。

わざわざ居場所を知らせる様に天狗面の門番を置く訳ないだろうが、面を外した門番もいないのはどう言う訳だろうか。

居場所を知られないためにわざと門番を置いてないと言うのもあるだろう。恐らくは、表にいない分を内側の警護にまわしている可能性もある。

 

「そろそろ、騒ぎ始めてもいい頃ですが」

 

征志狼がそう呟いた時に、呼ぶ子が鳴り始める。

あちこちから半鐘の音も聞こえ始め、一部の空が明るく見える。

二人は念のため他の天狗党と出くわさないように、物陰に隠れている。

想からの作戦はこうだ。

まず、天狗面をした二人が緊急連絡と称して屋敷に詰め寄る。事情を聞くためにそのまま天狗党の首領の(もと)へ案内されるようなら、そこで首領を捕獲。そのまま奉行か火盗に連れて行くか、もしくは向こうが来るまで暴れるかのどちらかである。

門前で他の天狗党に話だけを聞かれるなら話した後に押し通り、首領をいち早く捕縛し大立ち回りをする。

基本的に突っ込んで、捕らえて、暴れる。いたってシンプルな内容である。

しかし、さすがに最初から奉行や火盗が屋敷に張り込んでいては、勘付かれる可能性があるために近くには居ない。

二人からの連絡が入るまでは、いつも通りに消火活動や他の天狗党を追うことにする。その方が気付かれにくい。つまり到着するまでは二人だけで天狗党を相手にするということになる。

ちなみに、今回の事は火盗と北町の奉行所にも折り込み済みである。

出来る限り、屋敷の近くを通るように心掛けるらしいがその近くがどれくらいの距離になるかは分からない。

それに北町の奉行である遠山 朱金が火盗をよく思っていないため、私情をはさまないとも限らない。さすがに今回は天狗党の首領の捕縛が掛かっているため、つまらないことはしないだろうが。

 

「おい、騒ぎが大きくなってきたぞ」

 

「さて、天狗の鼻を折りに行きますか」

 

龍也の言葉通り、大分騒がしくなってきたので二人は物陰から出る。

ここからは少々、演技力がいる。

天狗党の会合が行われている屋敷の門の前まで走り、そのまま勢いよく門を叩く。

すると、

 

「ここは御前がおられる屋敷であるぞ!一体何事か!?」

 

門扉(もんぴ)を勢いよく放ち怒鳴る天狗の面をした人物が現れる。

どうやら、情報通りにここで天狗党の会合が行われているらしい。

 

「き、緊急事態なんだ!至急に御前に会わせてくれ!!」

 

征志狼が本当に慌てている様に振る舞う。

なかなかの演技力であると隣にいる龍也も感心していた。

 

「緊急だと?そのような連絡は入って来ていないぞ。何かの間違いではないか?」

 

「当たり前だ!連絡を入れる奴が火盗に捕まって、ここの情報を吐きやがった!」

 

「なに!?本当か!?」

 

勿論、用意した嘘であるがあっさり引っ掛かってくれた。

そこで龍也が口を挟む。

 

「ああ、本当だ。今もここに火盗が向かっている。だから、至急に御前に会う必要がある」

 

最後の押しとばかりに龍也は落ち着いた口調でそう言う。

 

「いや、私が御前に連絡しておこう。貴様らは他の者たちと共に火盗を食い止めるようにせよ。無事に事が運べば御前から褒美を取らす様に進言しておく」

 

しかし、さすがに都合よく通してくれる事はなかった。

 

「(プランB?)」

 

「(ああ、押し通る)」

 

征志狼が小声で龍也に話しかける。

さすがにこれ以上、食い下がるのは無理そうだ。

言われて動かない二人の様子に(いぶか)んだ目の前の天狗は、声を掛ける。

 

「どうした?早くいかんか。ここで話している所をそこらで走っている奉行や火盗に見られる訳にはいかん。早く行け!」

 

最後あたり命令するように強気で威圧する。

そこでようやく二人は動き出す。

 

「ちょいと失礼」

 

その一言と共に征志狼は愛刀である『狼王丸(ろうおうまる)』を目にも止まらぬ速さで斬りつける。

斬られた天狗党は前のめりに倒れる。

 

「き……さ、まら」

 

最後にそう呟き、門番の天狗党の男は倒れた。

とうぜん、門番は一人であるはずもなく、呆気にとられていたもう一人が意識を取り戻し、龍也に斬りかかる。

 

「貴様ら、よくも!!」

 

大きく上段から剣道の面のように振り降ろされる剣を龍也は、左の腰にある短剣を勢いよく抜き放ち相手の剣を反らす。

 

「な、に……」

 

驚きの声を上げながら剣は大きく横に反れ、勢いを殺せぬまま龍也の正面から体の左側面の外れに落ちて行く。

龍也は右の腰にもある短剣を逆手で持つと、素早く正手に持ち替え自身の左側面にいる天狗の胴を斬りつけ、さらに左手で背中を斬りつける。

 

「ぐぁ…ぁ」

 

声を上げながらドサリともう一人の門番は倒れる。

二人は、そのまま堂々と門をくぐる。

騒ぎを聞きつけてか、屋敷からどかどかと天狗面が庭先に出てきて二人を囲む。

 

「何者だ!!」

 

「何だかんだときかれたら」

 

「乗らないぞ」

 

「えー……」

 

征志狼がネタに走ろうとしたところを龍也はあっさりと拒否する。

とうぜん、そんな行動を見てふざけていると取るのが普通である。問いかけた天狗は憤慨するように声を荒げる。

 

「ふざけているのか!?同じ面をしておきながら、なぜ同志を手に掛ける!!」

 

「いいや、俺らは最初(ハナ)から同志なんかじゃない」

 

「なに?どう言うことだ!?」

 

「こう言う事さ」

 

征志狼がそう言うのを合図に二人は面を捨てる。

カランコロンと音を立てて捨てられた面の中の素顔を天狗党が見た時に、何人かが息を呑んだ。

 

「……"千波"の…連中か」

 

天狗の一人がそう呟いた時に、ざわざわと騒ぎ始める。

 

「まさか……あのよろず屋か」

 

「いかにも」

 

更に別の天狗が呟いた時に龍也がそれを肯定する。

 

「まあ、正体も明かしたところで。どっちが捕縛に行く?」

 

「お前でいいだろ。俺の戦い方は後の先を取るカウンター型だ。逃げるだろう奴を捕まえるのには向いてない」

 

「了解。それじゃ、お先に」

 

征志狼がそう言うと、屋敷を背にしている天狗の一団に突っ込んでいく。

 

「御前を守るのだ!!そいつを屋敷の中に通すな!!」

 

幹部らしき天狗党が指示を出すと、征志狼の正面にいる天狗は身構える。

 

「邪魔だ」

 

さらに征志狼が加速したかと思うと、二人の天狗の間を風のように通り抜ける。そして、そのまま屋敷の中へと征志狼は入って行く。

その後、間を通り抜けられた二人は糸の切れた操り人形のように倒れた。

 

「な…に?くっ、追え!!追え~!!」

 

驚いている間もなく、天狗党の幹部が次の指示を出す。

その言葉にハッとなった他の天狗は、急いで征志狼のあとを追おうするが、一人の人影がそれを阻む。

 

「悪いが、これも依頼だ。通す訳がない」

 

そう言って龍也が二本の短剣を持って仁王立ちする。

先程、倒れた二人の事もあってか動揺が広がっている。

 

「何をしている、全員でさっさと倒してあいつを追うのだ!」

 

そう幹部から発破をかけられて、天狗の一人が雄叫びを上げながら突っ込んでいく。

 

「うおおおおおおぉぉぉ!!」

 

「ふっ!」

 

短く息を吐き、右手の剣で相手の剣を弾く。

 

「はっ!!」

 

次に息を吐く時には左手の剣で相手の胴を的確に突く。

 

「ぐう……かはっ」

 

うめき声を上げて一人、また倒れる。

 

「くそ、てやああああああ!!」

 

「うおりゃああああああああああ!!」

 

一人悪態をつきながらも突っ込み、それに続く様にもう一人天狗が突っ込む。

 

「一気に掛ってこい。効率が悪い」

 

そう言って、一本、剣を投擲する。

まるで、矢のように飛んでくる剣に為す(すべ)もなく突っ込んできた天狗の一人は脳天を撃ち抜かれる。

 

「そんな…バカな……」

 

いきなり剣を投げるのはさすがに意外だったのだろう。いとも簡単に当たった。

だが、相手は一方の剣で弾きもう一方で攻撃している。今は投げたため一本しか持っていない。ならば、防ぐだけで手いっぱいになる筈だと考え、もう一人の天狗はそのまま突っ込む。

 

「もらったああああ!!」

 

そう言いながら、大きく振りかぶり、振り下ろす。

当然ながら、横に弾かれる訳だが、相手はもう一本の剣を右手には持っていない。つまりは素早い攻撃に転じる事はない。

このまま返しで斬りつければ取れるはず。

が、そんな思惑はすぐに崩れさる。

 

「油断大敵だな」

 

「ごふっ!!」

 

浅はかな考えと言わんばかりに龍也は『拳』で攻撃に転じる。

鳩尾(みぞおち)捉えた一撃に、天狗は怯む。さらにそこから剣が振り下ろされる。

 

「ぐはあぁ!!」

 

そのまま天狗が倒れ、龍也は数歩ほど前に出て右手を空へと伸ばすと、先程の天狗の頭を打ち抜き上へと飛んだ剣が手の中へと納まる。

そして、右の剣の切っ先を向けて淡々と宣言する。

 

「貴様らはここで幕引きだ」

 

 

屋敷内に入った征志狼は天狗党の首領がいる部屋へと目指す。

会合と言うからにはそれなりに広い部屋が使われているはずだ。

そう考えて、大きい部屋を片っ端から開けて行く。

時折、屋敷内に残っている他の天狗に出くわすが、全て斬り伏せて行った。

そうして、一つの部屋の前を通りかかった時に『御前(ごぜん)』と言う言葉が聞こえたので足を止め、耳を澄ませる。

 

『一体何の騒ぎか、分かったのか?』

 

いかにも威圧的な感じがする声で問いかけている。恐らく、この声の主が『御前』だろう。

 

『はっ、どうやら。かのよろず屋がここに押し掛けているようです』

 

幹部らしき男の声がそう報告する。それに、何人かが驚いたような声を上げる。

 

『まさか、千波屋か!?』

 

『全員が剣豪生と言う、凄腕の……』

 

その報告を聞いた時にざわざわと騒ぎ始める。

 

『御前、今すぐにここを離れるべきです。我々の計画は御前なしでは実行できませぬ』

 

『その通りです。すぐにここを離れるべきです。失礼ですが御前の腕前と言えど、さすがに厳しいかと思われます』

 

『……うむ』

 

他の幹部の進言に御前は唸る。

そして決断する。

 

『ここまで来たのだ、たかがよろず屋風情に邪魔されてはならん。すぐに退散の準備だ。残りの同志にはよろず屋を食い止める様に言っておけ』

 

『はっ』

 

どうやら、退くようだ。

見過ごすと言うよりも、聞き過ごすつもりなど毛頭ない。

頃合いとばかりに征志狼は襖を蹴破る。

バン!

そんな音ともに襖は倒れ征志狼は堂々と中へ入る。

突然の事に周りの天狗は入って来た男を一斉に見る。

 

「貴様、何者だ!」

 

「どうも、天狗の鼻を明かして折りに来たよろず屋です」

 

征志狼は軽いノリで質問に答える。

 

「貴様が……」

 

忌々しそうに、幹部らが睨みをきかす中で御前が諫めるように口を開く。

 

「まあ、待て。貴様が(くだん)のよろず屋だな?」

 

「正確には、よろず屋の一人ですがね」

 

「細かい事はよい。よろず屋と言う事は金さえ積めば何でもやると聞いた。ならば、金をやるからここで俺を見逃さぬか?」

 

御前の魂胆はひどくハッキリしていた。

よろず屋としては、確かに金さえ積めば何でもやる。だが、彼は一つ勘違いしていた。

 

「どうだ?俺を見逃すだけで大金が手に入るのだ。なんなら、今ここで見せてやってもいい」

 

そう言って御前が幹部の一人に目配せすると、千両箱を取り出し中身を見せる。

確かに中には大金と言えるほどの小判が所狭しと詰められている。

だが、征志狼の答えは決まっている。

 

「悪いが、一つ勘違いしてるな」

 

その征志狼の真剣な言葉に全員が顔をしかめる。

それに疑問を持った御前がいち早く口を開く。

 

「なに?どう言うことだ」

 

「確かに金を受ければ何でもやるが、依頼を受けた以上はどれだけ金を積まれようが乗り換える気はない。そんなことしてたら、有利になるのは裕福な奴ばかりだ。客層も限られる。故に交渉は決裂だ」

 

「成程、それなりの矜持があるか」

 

「そう言うことだ」

 

「ならば、我々にも矜持はある。ここは逃がさせてもらうぞ」

 

その御前の言葉に幹部らが刀を一斉に引き抜く。

 

「上等だ」

 

征志狼の言葉を皮切りに天狗党とよろず屋千波との戦いが始まったのだった。

 

続く。

 

 

~あとがき劇場~

 

ええ、懲りずにやってしまいましたとも。

 

こんなんで果たして恋姫学園が進むのか。

 

スランプの防止にはなると思いますけど、私自身続けられるか不安要素が……。

 

じゃあ、最初からやるなと言うのは無しにして下さいね。

 

時折、変化を求めて新鮮さを出さないと人間飽きが出るらしいですから。

 

そんな訳で、今回もユーザー参加型と言うことで『あっぱれ!天下御免』をお送りしたいと思います。

 

今回参加してくれたのは、

 

・龍々さん(華原 龍也)

・狭乃 狼さん(狭 征志狼)

・骸骨さん(墓守 骸)

 

の以上三名です。

 

ありがとうございます。

 

一応、いつでも募集していますので参加したい方は気軽に声を掛けていただいて結構です。

 

それでは次は恋姫で。

 


 
このエントリーをはてなブックマークに追加
 
 
5
0

コメントの閲覧と書き込みにはログインが必要です。

この作品について報告する

追加するフォルダを選択