――夢
その中は、意味を成さない「カタチ」の山
バラバラの「希望」の具現
実現できないコト、失ったモノ、叶えられないネガイ
その全てが、シチューのようにかき混ぜられている
そう、夢の秩序は「無秩序」
混沌(カオス)の縮図、始まりのカタチ
ねぇ、夢を見たことはある?
「『夢渡りのアリス』、次の夢はなんだい?」
―たしか、小さな女の子の夢
「子供の夢、無秩序の見本みたいな夢なんだろうね」
―そうだね、子供の夢は大抵そんなものだ
「この無意識の海、夢が集まる海原を支えるもの……か」
―?どうしたの『夢喰い猫』、いつもならもっと嬉しそうなのに
「子供の夢は大好物だ。それは変わらない」
―君がこの海の話をするのは珍しい。何か考え事でも?
「……」
―この無意識の海で隠し事は出来ないよ
「……私たちは、この海にたゆたう夢を、『悪夢』となるだろう夢を喰らい潰す存在だ」
―そうだよ、私たちは『夢渡り』……無意識の海が、悲しみと憎しみに沈まぬよう夢を渡る
「生きとし生ける者の夢は幸福であらねばならない」
―夢ってそういうものだよ
―叶えられないから、届かないから、せめて夢でぐらい幸せになるべきだ
「無意識の海に『悪夢』が蔓延れば、生き物は生きることに絶望してしまう」
―それは悲しいことだ
「幸せのため、夢を渡る」
―それが『夢渡りのアリス』
「そして『悪夢』を生む夢を喰い潰す『夢喰い猫』の私」
―そう、私たちは幸せを守るの
―生き物が安心して眠るために……
「……本当に、そうなのかな」
―えっ?
「『悪夢』は、確かに悲しいことだ。でも、悲しいことからいつまでも逃げてて良いのかな?」
―逃げることはいけないこと、なのかな?
「そうは言わない。逃げたい時が、誰にでもある」
―なら、夢の中ぐらいは幸せでいようよ
「でも、いつかは向き合わなきゃ」
―『悪夢』と?
「“辛いこと”や“怖いこと”と」
―なんで?ここは無意識の海、夢の中。夢で逃げたらいけないの?
「逃げ続けて、それで幸せになるのかな」
―誰もつらい思いはしたくないはずよ
「でも、それを乗り越えてこそ、生き物は成長するはずだ」
―怖いわ
「私も怖い。でも、全てから逃げたくはない」
―つらい思いをしても?
「逃げてばかりじゃ前を向いて歩けない」
―生きることに絶望してしまうわ
「私は、信じてみたい。生きるもの全ては、そこまで弱くないって」
―『夢喰い猫』……
「ごめんよ『夢渡りのアリス』、私のわがままで」
―……私たちが夢を渡らなければ、この海はどうなるの?
「すぐに『悪夢』に沈みはしない。そう信じてる」
―それでも『悪夢』が悲しみを振りまいたら?
「その時は私たちの出番だ」
「世界は、そこまで弱くない。でも……どうしようもなく辛く悲しい時は、夢に逃げれば良い。ここは無意識の海。生ける全ての『幸福』が集い生まれる場所なのだから」
―……わかったわ。私も、少しだけ頑張ってみるわ。この海が、いつまでも幸せであると信じて―
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夢幻(ムゲン)の中を跋扈する1人と1匹のお話