No.386959 博麗の終 その14shuyaさん 2012-03-04 22:59:11 投稿 / 全2ページ 総閲覧数:519 閲覧ユーザー数:514 |
【混迷】
レミリアは、縁側の踏み石できちんと靴を脱いで、霊夢の部屋へと向かっていた。
従者を外で待たせたまま、ずっと無言で、ゆっくりと向かっていた。
そこで待つ者を思いながら、独りで。
罠がないことはわかっていた。
八意永琳との話が終わったあたりで、全ての結界が解かれたことを知覚していたのだ。
霊夢のいる部屋を隔てるものは、残すところ障子一枚。
開けば霊夢に会えるという状況を迎えている。
が、レミリアはそこで立ったまま、微動だにしない。
まるで立ちすくんでいるかのように、ただ視線だけを部屋の中へと向けている。
時間だけが流れていく。
無言のまま、レミリアはただそこに居る。
半分だけ満ちた月の輝きで、部屋の方向へ影が伸びている。
障子には、羽のある小柄な輪郭が少しだけ歪に映し出されている。
月がゆるゆると登り、影はさらに小さくなっていく。
周りにいる者には長く、当人たちには短い時間が過ぎていく。
と――――
部屋の中で、かすかな音がした。
軽いものが擦れたような、微細な音だった。
レミリアは、待っていたのだ。
「もう、いい?」
また中で、スッと擦れる音がした。
「はい。どうぞお入りください」
レミリアが、障子を開く。
月明かりと羽のある影が部屋に広っていく。
中にはふくらんだ一式の布団と、平伏した八雲紫の姿があった。
『邪魔だな……』
障子を開いたレミリアは、霊夢を見ることができなかった。
平伏している八雲紫が、レミリアと膨らんだ布団の間に位置していたからだ。
背の低いレミリアの視点では、紫の身体と布団の下半分ほどしか見えていない。
『この期に及んでも隠すのか?』
やや気にはなったものの、早く霊夢の元へと行きたかったのだろう。
そのまま歩み寄ろうと歩を踏み出そうとしたところで、制止の声をかけられた。
「どうか障子を閉めてあげて下さい。他ならぬ、霊夢のために」
下を向いたままではあったが、意思の通った力のある声だった。
だからというわけではないだろうが、レミリアは素直に従って、無造作に部屋を閉じた。
「これでいい?じゃあ、会わせてもらうわよ」
布団のすぐ傍にいる紫の横に向けて、無警戒に歩いていく。
距離にして九歩。時間など数える間もないくらいのものだ。
しかしその歩みは、近づくにつれてぎこちのないものになっていく。
最後の一歩などは、踏み出すまでに、紫の深い溜め息一つ分の時間を要した。
そして。
レミリアは霊夢を見下ろして、固まっていた。
歩み寄るほどに歪んでいった顔は、今、完全に悪魔のそれであった。
「…………どういう……こと、なの?」
搾り出すような、呻くような、苦悶の声で問いを口にした。
ふるふると身体が震えていて、右手からはギリギリと握り締める音がした。
紫はゆっくりと頭を上げただけで、何も答えなかった。
呆れるほどに洗練された所作で、レミリアの方をへと体を向けて見つめるだけ。
ただ、物言わぬ口と覚悟を決めた瞳が、何よりも雄弁だった。
美しかった霊夢の顔は、あらゆるところが引き攣り、強張っていた。
レミリアはおもむろに布団を引っぺがした。
霊夢は捨てられた操り人形のような格好をしていた。
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幻想郷の要は、霊夢なのです。