No.386273 黒猫さん家でtanakaさん 2012-03-03 23:53:27 投稿 / 全1ページ 総閲覧数:1409 閲覧ユーザー数:1363 |
そわそわ。とことこ。ソワソワ。トコトコ。
「……ルリ姉。何回、同じところをグルグルと回ってんのさ」
「ま、回ってなんかないわよ。これはその――偶には運動をしないといけないから歩いて
るわけであって、他に他意なんかないわよ。ほ、本当……よ?」
「運動なら外でやればいいんじゃないかな。てか、ルリ姉が緊張しまくってるの分かってるからね」
「き、緊張……? フ……っ、闇の力を持っている私が京介如きに緊張するわけないでしょ。
むしろ、あの下僕をどう教育してあげようか考えているくらいだわ」
本当に彼が私の家に来ることに対して緊張をしているわけじゃないのよ?
だって京介を家に呼ぶだなんて、何度かあったし今更緊張するわけが――
「あたしは別に高坂くんのことで緊張してるとか言ってないんだけどなー」
「な――っ!? 何を言ってるのかしらこの子は。私くらいになると妹の考えていること
なんて何でもお見通しなんだからね!」
「わー、ルリ姉……本格的に緊張でおかしくなってるよ」
「だから緊張なんかしてないと――」
「あ、高坂くんだ」
「えっ!? ど、何処!? ふ……っ、よく来たわね京介。今からあなたに闇の眷属とし
ての生き方を教えてあげるわ」
「……嘘だけどね」
「…………」
「……」
日向との間に流れる微妙な沈黙。
何なのかしら。この、私が如何にも自爆しましたって雰囲気は。日向も黙っていないで何か言いなさいよ。
「ルリ姉が高坂くんを意識しまくってるのは分かったから、そろそろ落ち着いたらどうなの?」
「だ、だから私は意識なんかしてないと言って――」
「ただ単に家に高坂くんを呼ぶだけなのに、何でこんなにも緊張してるのかねー?」
「ただ呼ぶだけじゃないわよ……」
家に……この空間に京介が来るのよ!? とてもじゃないけど落ち着いてなんかいられないわ。
一度は別れたといえ、私はまだ京介のことが好きなんだから……
「高坂くんに電話をするだけで三日も悩んで、来るのを待つのにこんなに緊張して、ルリ姉大丈夫なの?
いきなり倒れたりしないでよ?」
「ふ、ふん……っ! あなたの姉を甘く見ないで欲しいわね。我が名は黒猫、この程度の
ことで倒れるわけがないでしょ」
そ、そうよ。私がこの程度の緊張で倒れるわけないでしょ。この身に封じられし闇の
力を抑えることに比べたら、この程度のことなんともないわ。
「ほんとかなぁ? ルリ姉、今すぐにでも倒れてしまいそうなんだけど……」
「姉さま……? だいじょうぶですか?」
「だ、大丈夫よ珠希。私は至って平常なのだから」
「平常って、すっごい顔が真っ赤になってるけどね」
「日向……あなたの今日のおかず、ニンジンとピーマンだけで構成してあげましょうか?」
「すいません! ちょーすいませんルリ姉!」
若干、涙目になりながら必死に謝ってくる日向。
「……分かってくれればいいのよ日向」
「はい。ちょー理解しました。ルリ姉は何も緊張してないし、高坂くんなんか余裕です。はい」
どうやら理解してくれたようだ。まったく、この子は自分の姉をなんだと思っているのかしら?
美しく気高い姉に対して、まるでただのヘタレのような扱いは納得いかないわ。しかし、それにしても――
「それにしても、遅いわね」
そろそろ到着してもいいはずなのに。
「お兄ちゃん。早く来て欲しいですね」
「そうね珠希」
撫で撫で……と珠希の頭を撫でるとうひっ、とくすぐったそうに目を細める。
「ルリ姉……何だかあたしとたまちゃんとの扱いが違うような気がするんだけど……」
「……気のせいよ」
私は可愛い妹に同じように愛情を注いでいるわよ?
「気のせいじゃないと思うんだけどなー」
「そんなことはどうでもいいから、大人しくしてなさい」
あまり騒いでると埃が立つでしょ。
「や、大人しくするのはルリ姉の方だからね! あたしは大人しくしてた方だからね!」
ぎゃーぎゃー、文句を言ってくる日向。まったく、あなたは京介が来るからって少しはしゃぎ過ぎだわ。
日向を宥めながら彼の到着を待っていると――
ピンポーンと鳴り響くチャイムの音。
「き、来たようね!」
ガタッと立ちあがり玄関へと向かう。私に続いて日向も珠希も付いてくる。ほんと、
二人とも京介が来るのを楽しみにしてたようね。
「よ、よう……っ」
なんとも情けない感じの挨拶。この男はどうして、こんな挨拶しか出来ないのだろうか?
せっかく女の子の家に来るのだから、もう少し気の利いた……いえ、この人にそんなこと
を期待しても無駄よね。そういう気遣いが出来る人ではないし、だけどそれがこの人の
欠点になるのかと言えばそうではなくて……あーもう、私は何を言っているのかしら?
とにかく京介を迎え入れないといけないわよね。
「よ、よく来たわね。相変わらず情けない顔をしているわね」
「会っていきなり悪口かよ……」
「ふ……っ、あなたは私の眷属なのだから悪口を言われるのは当然でしょ。少しは下僕ら
しく闇の主への忠誠を誓ったらどうなのかしら?」
そうよ。私への忠誠を誓って、何処にも行かないと言いなさいよ。
私以外の女の下へ行かないと。
「ほんと、お前は変わらないな」
「……当たり前でしょ」
私が変わるわけないでしょ。私は私。あなたのことを永遠に愛し続けるの。
「おっす♪ 高坂くん久しぶり♪」
「お久しぶりですお兄ちゃん」
「おっ、二人とも久しぶりだな。元気にしてたか?」
グリグリと二人の頭を撫でる京介。そして嬉しそうに顔を綻ばせる二人。
どうして京介は二人に甘いのかしら? 確かに妹達を可愛がってくれるのは嬉しいけど、
少しは私のことも気にして欲しいわ。私にも同じように頭を撫で撫でして欲しいわ。
「黒猫……?」
「は、早く上がりなさい。長旅で疲れたでしょ」
「別に長旅ってほどじゃないだろ。大した時間もかかってないんだし」
「長く険しい道のり。闇の眷属となって闇の力を手に入れたといっても、現状のあなたに
は大した戦闘力はないわ。そんなあなたが此処まで来たんですもの。疲れているに違いないわ」
だから早く、その二人の頭から手を退けなさい。あなたの手の位置は私の側なのだから。
「にひひっ♪ ルリ姉ったら、久しぶりに高坂くんに会って興奮してるんだよ」
「そ、そうなの……か?」
「な、何を言っているのよ!? 私があなた如きに興奮したり緊張したりするわけないでしょ!」
「ほら緊張してる。ルリ姉は高坂くんに会いたくてしかたなかったんだよ♪」
「そうなのか。黒猫がねぇ……」
「日向……何、余計なことを言っているのかしら? 本当におかずをニンジンとピーマ
ンだけにされたいようね」
「ひぃっ!? ご、ごめんなさいルリ姉!」
まったく、この子は余計なことを言うから困るわ。日向が変なことを言うから京介が
だらしない顔で私のことを見てるじゃない。少しだけバカにしたような顔で――
ただ単に京介を待って、家にあげるだけでもこの体たらく。この調子で今日一日大丈夫かしら?
始まる前から先が思いやられるわね。
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はい、俺妹です。今回は可愛い黒猫さんが書ければいいかなと思いますよ。
まぁ、まだ導入部なんですけどね。