No.385757

ナンパ

アインさん

彼女持ちの人間が、ナンパは駄目!!

2012-03-02 23:47:45 投稿 / 全2ページ    総閲覧数:5749   閲覧ユーザー数:5399

「どうして、俺様に恋がやってこないんだ!」

とある日の放課後の2-Fの教室にて、島津岳人が魂の雄たけびを上げた。

「だから?」

直江大和は、ため息交じりで真相を尋ねる。

「大和。ナンパ行こうぜ!」

「断る」

即断った。

「何でだよ!?」

「いや、そういうの興味ないし」

厳密に言えば、マルギッテ・エーベルバッハと付き合っていたからだ。しかし、公になれば色々と互いに問題視なるため今は一部の人間しかしらない。そして、島津岳人は知らない側である。

「ていうかさ。どうして俺なんだ? キャップを連れて行ったほうがいいと思うぞ」

岳人は力なく首を左右にふった。

「キャップはダメだ……。そういうのは全然興味ないじゃん」

「……なるほど」

顔の前で拝むように手を合わせる岳人。

「頼む大和。俺のナンパに協力してくれ!」

「そう言われても………」

脳裏に恋人のマルギッテの怒ったイメージが思い描く。バレたら『狩られる』可能性大だ。

「なら……取引だ」

岳人は大和に一冊の古ぼけた本を渡す。

「………こ、これは」

その本を見た瞬間、大和は震えだした。

「大和がまだ手に入れていないヤドカリに関する本だ。それを取引にしてもか?」

「お、おおおおおお!!!」

震えだした声は驚愕にとなり、マルギッテの怒ったイメージからヤドカリへと変わる。

「取引成立だ!」

次の瞬間には、岳人の両手を大和は握っていた。

 

――――――※※※――――――――※※※――――――――※※※―――――――――※※※――――――――※※※――――――――

 

一方、偶然2-Fの教室に通りかかった忍足あずみがそれを聞いていた。

「……さて、どうするか」

あずみは少し考えるが、すぐに携帯でとある人物にこの出来事をメールを送ってあげるのだった。

 

――――――※※※――――――――※※※――――――――※※※―――――――――※※※――――――――※※※――――――――

 

休日。イタリア商店街。

その名のとおり、イタリアをモチーフにした町並みで、映画館やカフェ、レストランなどが軒を連ねている。川神駅から徒歩三分という立地条件もあって、観光地や地元の若者の間で大変人気が高いスポットだ。

しかも、今日は休日ということもあってか、人の通りが普段よりも多い。特に若い女性のグループと、それを狙っているだろう男性グループの姿があちらこちらに見られた。

「さあ、行くぜ大和。色気むんむんのお姉さんを探そうぜ!」

明らかに下心丸見えの岳人。

 

数時間後。

 

岳人は泣いていた。結果は惨敗だったからだ。

しかし、とある女性に対して『俺と一緒にプロテイン飲みませんか?』とか『お姉さんはこの筋肉男の俺を好きなりませんか?』などナンパする言葉さえ間違っているナンパをしていた。果たしてそんな男が女性に好かれるのか…………否である。

「岳人。真面目にナンパする気あるか?」

「あるに決まってるだろ!」

そう声をあげるものの、伝わってくるのは情熱ではなく、やはり下心の二文字。端から見ている大和でさえ、あからさまにそれがわかる。

「あのさぁ……岳人、相手の選別がよくないぞ。あからさまに用事がありそうな人に声をかけたって応じてくれるわけないだろう? それと趣味に走りすぎて、釣り合いそうもない女性に声をかけるのも減点だぜ。相手にも選ぶ権利はあるんだからな……それに……」

それどころかナンパの一声が悪いやトークが酷すぎるなど、スタート時点でマイナスだと注意する大和。

「そこまで言うんだったら、大和が手本みせろよ!」

注意した当然の流れか岳人は、大和にナンパしてみせろと攻められる。内面、めんどくさいと思った大和だが、キョロキョロと辺りを見回して目星をつける。

後方から華やかな白いワンピース姿の女性が歩いていた。腰の辺りまで伸びたつ赤髪を、洋服とお揃いの白い帽子におさめていた。下を向いていて表情こそよく分からないが、佇まいから穏やかな雰囲気が感じ取られた。

「じゃあ、あの人に声かけてくるから、ちょっと待っててくれ」

大和はそう言い残すと、気負った様子も見せずに岳人に背を向けた。

「すみません。道を聞きたいんだけど、ちょっといいかな」

「……それは地獄の道案内ということですか?」

「え?」

予想外の返事に一瞬、間が空いてしまう。

女性は下を向いていていた表情を大和に見せた。

「………げ」

絶句。女性の正体はマルギッテだった。

「ふふ。大和にナンパされるなんて幸せです♪」

確かに嬉しそうな顔をしているが、その表情には狼がいた。

「なんでマルさんがここに? それにその姿って……」

「これは貴方が送ってくれた私服で、ここに来れたのは女王蜂のおかげです」

「え?」

マルギッテの後方はるかにあずみが細く笑っている。

「さぁ……大和。二度とこのようなことをが起きないようにホテルに行きましょう♪」

大和の腕を組みそのまま動く。

「おいおい、そのままお持ち帰りする気か大和――っ!?」

何も知らない岳人は悔しそうな顔で見つめつつも大和は、マルギッテと共に人混みに消える。

「……アタイも甘いな」

あずみもそれを見届けると舌打ちしながら消え、岳人は……。

「ぢくしょう―――! 俺もあんな感じでナンパして持ち帰りてー!!」

何も知らない状況を勘違いしながら、悲痛な叫びをするのだった。

――だけど断言する。

 

彼女持ちの人間が、ナンパは駄目です!!


 
このエントリーをはてなブックマークに追加
 
 
9
4

コメントの閲覧と書き込みにはログインが必要です。

この作品について報告する

追加するフォルダを選択