No.385182

天馬青年の怪奇ファイル:EP1・悪魔のツイスターゲーム 

天馬さん

自作バカエロホラー小説でございます^^ 夏休みを利用して、親戚の沢尻姉妹の済む尻見沢に遊びに来た主人公の天馬くん。 そこで彼は、美しい4姉妹とともにバカエロい怪事件に巻き込まれていくのだった・・・w

2012-03-01 15:43:36 投稿 / 全15ページ    総閲覧数:1047   閲覧ユーザー数:1040

   ※※※

 

 僕の名前は天馬英雄(テンマヒイロ)。どこにでもいる、ごく普通の大学生である。

 …ただ一つだけ普通と違う所があるとすれば、僕には霊と戦う力があるという事だ。

 

 これは、僕が今まで体験した、身も凍るような怪奇事件の数々を記録したものである。

 

【ep1:悪魔のツイスターゲーム】

 

「てんまー!てんまぁー!」

 

 バスを降りると、停留所のベンチでそわそわした様子で座っていた年頃12~3の少女が弾けるように立ち上がり、細い腕をちぎれんばかりに振りながら、僕の元に駆け寄って来た。

「やあ、沙夜子ちゃん!久し振りー」

 

 彼女の名前は沢尻沙夜子。これからお世話になる、僕の親戚の家の4姉妹の末っ子である。

 彼女達の両親は仕事で出張する事が多く、この夏休みも大きな仕事をこなすために海外に出張していた。

 そこで、小さい時から彼女達と仲が良く、ヒマな大学生であり、人畜無害で彼女達を襲う心配の無い僕に、お目付け役として白羽の矢が立ったわけである。

 

「わーい!てんまぁ!」

 

 沙夜子ちゃんは、身を屈めて待つ僕の腕の中に子犬のように飛び込むと、首にしっかりとしがみつき、僕の胸にぐりぐりと頭をこすりつける。彼女のサラサラした長い髪からほんのりと漂うシャンプーの香りが、夏の風に乗って僕たちの間をすり抜けていく。

 沙夜子ちゃんは僕の顔を見上げると、長い睫毛に縁取られた大きな瞳で僕の目を覗き込み、愛くるしい笑顔を浮かべながら、言った。

「ねえ、抱っこ!」

 

 …うう~ん、可愛い。でもそろそろ沙夜子ちゃんも抱っことかする歳じゃないし、回りの目も気になるし…。それにいきなりのスキンシップ攻撃で俺の股間がバイオハザード状態だから、あんまり今の前屈みの体勢を崩したくないんだよなぁ…。

 しかし僕が曖昧に笑っているのを見て、沙夜子ちゃんは眉を寄せてほっぺを膨らまし、もう一度瞳に『抱っこしてほしーの波動』を込めて僕を睨み付け、言った。

「ねえ、抱っこぉ!」

 くっ…!ダメだ!可愛すぎて抵抗できない!この際思いっ切り抱っこして、きちんと発育…もとい成長してるかどうか確かめてやろう!それが親戚のお兄さんとしての義務でもある!

「よおーし、それ!」

「うきゃー☆」

 沙夜子ちゃんの脇の下に手を差し入れ、出来るだけ高く掲げてやる。

 そうして澄んだ青空と輝く太陽を背に、両手を翼のように広げて無邪気に笑っている沙夜子ちゃんを見上げると、空から落ちてきた天使を受け止めているような錯覚を覚える。

 …まあジーンズを盛り上がらせながらそんな詩的な事を言ったって様にならないか。僕は無邪気に「高い、高い」とはしゃいでいる沙夜子ちゃんを見てちょっと悪戯心をおこし、沙夜子ちゃんの脇の下を支えている手をコチョコチョと動かした。

「ふぎゃwwwらめぇwww」

 不意を突かれた沙夜子ちゃんは身をよじって足をバタつかせ、僕の股間を思い切り蹴りあげた。

「うごっ!」

 沙夜子ちゃんは破損ヵ所を押さえてうずくまる僕の前にフワリと着地すると、心配そうに僕の頭をなでなでする。

「まうー、いたいのいたいのとんでけー」

 …いや、さするなら下の方をお願いします…。

 

「クスクス…」

「!?」

 

 そんな僕と沙夜子ちゃんの様子を見ておかしそうに笑いながら、停留所の陰からもう一人の女の子が姿を現した。

 年頃は14~5くらい。肩までの髪を二つに結って、すらりとした長い手足にショートパンツが眩しかった。沙夜子ちゃんはちょっと病的なくらい色白だが、彼女は対照的によく日焼けしていて、健康的な印象を受ける。

 沢尻4姉妹の三女、沢尻美香ちゃんである。

「天馬お兄ちゃん、久し振り…」

 美香ちゃんは伏し目がちにはにかみながら、消え入りそうな声を出した。

 スポーティーな外見とは逆に、恥ずかしがりやな性格なのだ。

「美香ちゃん、久し振りー」

 なんとか立ち上がって笑顔で挨拶すると、目が合った美香ちゃんは慌てて顔をそらしてしまう。

「お姉さんになったねー」

 緊張をほぐしてあげようと、昔のように美香ちゃんの頭をクシャクシャと撫でる。美香ちゃんは初めはビクッと身を固くしたが、すぐにリラックスしたように身体の力を抜いて、頬を染めながら僕の顔を上目遣いに見上げ、呟いた。

「…天馬お兄ちゃんも…」

「んっ?」

「…天馬お兄ちゃんも、かっこよくなった、よ…」

「そ、そうかい?」

 コクン、とうなずく美香ちゃんを見て、僕までなんだかドキドキしてしまった。確かに美香ちゃんは前に会った時よりお姉さんになっていた。胸とかお尻とか…このくらいの女の子の成長はものすごいものがある。

 僕は照れ隠しに軽口を叩く。

「でも、全然モテないんだけどね。都会に行くと、僕なんかよりカッコいい人たくさんいるし」

「そんなこと!」

 突然美香ちゃんが、らしからぬ大きな声を出した。美香ちゃんは自分でも驚いたようで、ハッと我に帰ると、再び真っ赤になって小さな声になってしまった。

「そんなこと、ないよ…」

「ああ。ありがとう美香ちゃん」

 僕はもう一度感謝の気持ちを込めて美香ちゃんの頭を撫でると、横でヤキモチを焼いてほっぺを膨らませている沙夜子ちゃんの頭もなでなでし、二人をうながした。

 

「さ、そろそろ行こうか。愛奈ちゃん達も待ってるし」

 

 

 …そして僕は、沢尻家へと向かったのだった。そこであのような恐ろしい体験をしてしまうなんて、この時は知るよしも無かった…。

   ※※※

 

 水の張られた睡蓮畑に囲まれた道を、三人で並んで沢尻家を目指し、歩く。

 まだまだ世間では夏真っ盛りだったが、この山奥の尻見沢は深い緑に囲まれており、背の高い木々が強い日差しから守ってくれるし、水田や水路などの水場が多いため、空気もヒンヤリと湿っており、とても過ごしやすい場所だった。

 実際に避暑地としても利用され、夏休みともなれば観光客の姿もちらほらと見られる。

 あたりは夏の深い緑や睡蓮の薄桃色と黄色、紫陽花の青紫色や百合の白と、様々な色で彩られていた。  池から聞こえてくる蛙の鳴き声や水路を流れる水の音、林から微かに聞こえてくる鈴虫やひぐらしの鳴き声が耳に心地いい。

 僕は澄んだ空気を思い切り胸に吸い込み、久し振りの尻見沢の空気を満喫する。

「う~ん、やっぱりいいなぁ尻見沢は!こんな所に住んでるなんて羨ましいよ」

 それを聞いた美香ちゃんは恥ずかしそうに目を伏して答える。

「でも、何にもないから…」

「え~?そんなことないよ。僕はいつかこっちで暮らしてみたいな」

「ほんとっ!?」

 美香ちゃんのツインテールがピョコンと反応した。でもまた自分の大きな声に驚いたのか、恥ずかしそうに下を向いてしまう。そして、慌てて話をそらすように、沙夜子ちゃんに顔を向けた。

「そうだ!天馬お兄ちゃんと遊ぼうと思って、昨日ゲーム買って来たんだよねー沙夜子」

「まうー!面白そうなの!」

 沙夜子ちゃんは興奮し、鼻息を荒げた。

「へえ、なんのゲーム?僕、強いよ?」

 身体を動かさないゲームならね!ホッヒヒ!

 沙夜子ちゃんと美香ちゃんは顔を見合わせて悪戯っぽく笑い、口を揃えて言った。

「「秘密!」」

「え~?」

 美香ちゃんは間に沙夜子ちゃんが入ると喋りやすいようで、楽しそうにおしゃべりをはじめた。

「でも、まだそのゲームしたことないんだ。天馬お兄ちゃんが遊びに来るからって、近所の中古のオモチャ屋さんに行って、美香が選んだんだよ。…あ、中古でごめんね。美香、あんまりおこづかいないから…。でね、見たことないゲームだったけど、なんかカッコよかったし、お店のおじさんが都会で流行ってるって教えてくれたから」

「そっか、楽しみだな。後でやろう!」

「うん!」

 美香ちゃんは嬉しそうに笑った。

 

 …沢尻家へ向かう道、沙夜子ちゃんは良く慣れた子犬のように僕の回りをクルクル回ってまとわりつき、それは嬉しそうに腕にしがみついてきたり背中におぶさってきたり、かと思えば突然姿を消して太ったカエルやカタツムリを捕まえて戻ってきたりした。天狗のような子だ。

 美香ちゃんはそんな僕と沙夜子ちゃんの少し後を、ニコニコしながら歩いていた。なんだかとても幸せそうな様子である。

 …やがて道路脇の緩やかな坂道の先に、小綺麗な二階建ての一軒家が見えた。目指す沢尻家である。

 

「ああ、久し振りだなぁ…」

 

 僕は何度目かの「久し振り」に浸り、ベランダに干してあるサイズや好みも色々な女の子達の下着を見て、これから始まる夢のような夏休みへの予感に、期待と股間を膨らませたのであった。

 

 …そうだ、愛奈ちゃんや詩織さんに会うのも久し振りだ。美香ちゃんだって見違えるように女の子らしくなってたんだ。あの干してある下着のサイズを見るに、元々発育の良かった愛奈ちゃんなんかかなりの事になっていそうだぞ。ムヒヒ。詩織さんのほうは、相変わらず沙夜子ちゃんと同じで貧にゅ…スレンダーなんだろうな。

 

 …彼女達の下着を眺めながら、そんな妄想に浸っていた時である。

 

 二階のベランダ、彼女達の下着越しに、窓の向うで人影がこちらを見下ろしぼんやりと立ち尽くしているのが見えた。

「…あ、愛奈ちゃんか詩織さんかな?」

 僕の呟きを聞き、美香ちゃんが首をかしげる。

「えっ?お姉ちゃん達は晩ご飯のお買い物に行ってるから、まだ帰ってきてないよ?」

 そして、不思議そうに僕の視線を追った。そこに吊るされている自分達の下着を見て、美香ちゃんは顔を真っ赤にして僕の肩をポカポカと叩く。

「見ちゃダメッ!もう、天馬お兄ちゃんのエッチ!」

「ホッヒヒ!ごめんよ。ホッヒヒ!」

「まうー、てんまのエッチ!」

 沙夜子ちゃんは意味もよくわかってないくせに便乗して、楽しそうに僕のケツに蹴りをくれた。

 美少女達にエッチエッチとなじられて夢中になっていると、気がついた時には、二階の影は消えていた。

 

 今思えばこれがあの恐ろしい事件の予兆だったのだが、その時はまだ知るよしも無かった。…と毎回のように煽りつつ続く。

   ※※※

 

 美香ちゃんは玄関脇においてあるアロエの植木鉢をヒョイと持ち上げ、その下に隠してあった鍵を拾い上げた。

「鍵の隠し場所、変わってないんだね」

「えへへ…。このあたりは泥棒なんていないから」

 美香ちゃんが笑いながら扉を開ける。すると沙夜子ちゃんが真っ先に飛び込んだ。

 玄関にペタンと座り込むと、白いおみ足から可愛らしいピンクのサンダルを外し、きちんと揃える。

 …サンダルをきちんと揃えるのはいいけど、その間ずっと足を開いて白ワンピの影からパンモロしてるのは神が僕に与えたもうた試練なのかね?試練大好きですもっと下さい。

 そんな風にまた前屈みになっていると、立ち上がった沙夜子ちゃんがピョンピョン跳ねながら僕の事を急かす。

「てんま早く早くおいで!沙夜子のお部屋で遊ぼう!」

「わ、わはは。お邪魔します…」

 沙夜子ちゃんに手を引かれながら、なんとか靴を脱いで足を使って揃える。そんなふうに興奮してはしゃいでいる沙夜子ちゃんを、美香ちゃんはお姉さんらしくたしなめた。

「沙夜子、天馬お兄ちゃんは疲れてるんだから、ちょっと待ってね」

「ぶぅー!(`3´)」

 手を放し、後ろで組んで不満そうな声をあげる沙夜子ちゃん。カワユスなぁ…。

「美香ちゃん大丈夫だよ。荷物だけ置いたら、早速遊ぼうか」

「う、うん…!」

 美香ちゃんのツインテが嬉しそうにピョコピョコ動いた。沙夜子ちゃんの手前お姉さんらしくしてるけど、本当は早く遊びたかったらしい。この僕と。ホッヒヒ!

「それじゃあ天馬お兄ちゃん、いつもの部屋に荷物を置いたら美香達の部屋に来て。美香、麦茶もっていくね」

「うん、ありがとう!」

 …美香ちゃんと沙夜子ちゃんは相部屋である。その上の二人のお姉ちゃんはそれぞれ自分の部屋を持っている。そして、『いつもの部屋』というのはお客さん用に空いている部屋の事だ。

 それぞれの個室は全て二階にあり、一階は居間や応接間。台所にお風呂など、基本的にみんなで使う部屋の階である。

 美香ちゃんはサンダルを脱ぐと麦茶を準備しに台所に姿を消した。

 僕は沙夜子ちゃんに導かれ、二階に行くために田舎らしい木造りで急勾配な階段を昇る。

「てんま♪てんま♪」

 沙夜子ちゃんは上機嫌でおかしな歌を歌いながら、軽やかなステップで階段を上がっていく。

 僕はというと、目の前で弾む沙夜子ちゃんの可愛らしいお尻や、元気一杯に跳ねる白い生足に目が釘付けになりながら、ローアングラーと化して低姿勢で階段を這い上がっていた。他に誰もいなかったらオオカミになっていたところだぜ…!

 なんとか階段という試練を乗り切り、冷たくて心地よい木の廊下を、客室を目指して歩く。

 沙夜子ちゃんは自分の部屋に小さなポシェットを放り投げると、走って僕の後についてきた。

 客室の襖を開くと、少し据えた木の匂いと、畳の良い香りが鼻孔をくすぐった。

「ああ、やっぱり落ち着くなぁ、この部屋!」

 部屋はお客が来るという事で、綺麗に掃除されていた。開け放たれた窓の外からは、マイナスイオンを含んだしっとりとした外気が流れ込んで来る。ちょうど窓の前の木の枝に止まっていた小鳥が、突然の来客に驚いて鳴きながら飛び去っていった。

「うう~ん…!」

 僕は満足すると、大きく背伸びをし、荷物を下ろして畳に寝そべった。

 うん、最高に気持ちいい!

「きゃはー☆」

 

 ドムッ!

 

「ぐぇ!」

 

 不意に衝撃が腹を襲い、僕はカエルが潰れたような声を上げてしまった。…何か柔らかいものが僕のお腹の上にのしかかっていた。…もちろん沙夜子ちゃんである。なにこの騎乗位。本当に次から次へとじゃれついて来るなぁ…。

 僕は目を固く瞑り、思いっ切り嘘臭いイビキをかいて寝たふりをしてみた。

「んごぉ~、ふごぉ~」

「まうー?てんま?」

 沙夜子ちゃんは不思議そうに僕の顔をペタペタ撫でたり、ほっぺをつまんで伸したり、瞑っている僕の目を無理矢理開いたり(とてもお見せ出来ない顔です!)していたが、あんまり僕がかたくなに寝たふりをするので、僕に跨がったままピッタリとくっついて、一緒に寝たふりを始めた。

 エ、エロ熱うぅぅぅい!

 頬と頬が密着し、穏やかな寝息(寝たふりだけど)が僕の耳を熱く湿らせた。 夏物の薄手のワンピース越しに、彼女の華奢で柔らかな身体の形や心臓の鼓動までもがはっきりと伝わってくる。

 

 もう止めてぇ!天馬のライフは0よっ!

 

僕は人差し指を伸ばして、沙夜子ちゃんの脇腹をグリッとつついた。

 

「むきゃあ!」

 

 スイッチでも押されたみたいにゲラゲラ笑いながら飛び起きる沙夜子ちゃん。

 僕も上半身を起こし、イタズラが成功したみたいな笑顔を浮かべる。せせり上がった息子を誤魔化すために…。

 

 かくして、荷物を降ろして身軽になった僕は、沙夜子ちゃんとともに彼女達の部屋へと向かった。

 

 …まさかその部屋に、あのような恐ろしい物があるとは、その時の僕には知るよしも無かったのだ…!毎回恒例だが…。

 

  ※※※

 

 美香ちゃんと沙夜子ちゃんの部屋、いわゆる『子供部屋』に入ると、なんとも女の子らしい甘酸っぱい香りがふんわりと漂って来る。

 二人共同で使えるだけあって、部屋自体はなかなか広い。しかしいかにも義務教育のただ中らしく、ごちゃごちゃと色んなものがあるので自由に出来るスペースはそんなに広くはなかった。

 壁際には二人の勉強机があり、二人の2段ベッドがあり、古めかしいテレビがあり、洋服ダンスがあった。

 壁には学校カバンやカレンダーがかけられている。そして窓際には謎の植木鉢。…これは夏休みで学校から持って帰ってきたものだろう。

 美香ちゃんの机に目をやると、いかにも控え目な美香ちゃんらしくキチンと整頓されており、文房具やノートなども微かなピンク地に、見えるか見えないかくらいの花柄をあしらったものだった。オジサン、奥ゆかしい娘は大好きです。

 片や沙夜子ちゃんの机は天才科学者のデスクみたいにごちゃごちゃとしている。チラシの裏や藁半紙などに落書きしたものが詰み上がっており、回りの壁にまで貼られていた。…机の上にクレヨンが出しっぱなしである。そして机の隅の虫かごの中では、カタツムリがのんびりと角を伸ばしている。

 筆記用具などもキャラクターのイラストがプリントされたものばかりで、まだまだお子様といった印象だ。

 僕が興味深く部屋を観察してる間、沙夜子ちゃんは落書きの山から自信作を引っ張り出して感想を求めてきた。

「これ、昨日描いたの!てんまにプレゼント!」

「あ、ありがとう」

「それからこれ!てんまにお手紙書いたの!後で読んで!」

「はは、嬉しいなぁ」

 僕が来るのを楽しみにしてくれていたらしく、かなりのハイテンションだ。

 

 …やがてドアの外から美香ちゃんの声がかかる。沙夜子ちゃんが部屋の隅から折り畳み式の小さなテーブルを引っ張り出して、組み立てた。そこに美香ちゃんが持ってきてくれた麦茶を3つとお菓子を乗せたお盆を置く。クッションを3つ並べ、ほっと一息。

 

「お部屋、あんまり片付いてなくてごめんね」

 美香ちゃんがポッキーをかじりながら申し訳なさそうに言った。

「いや、このくらいのほうがかえって落ち着くよ。僕の部屋なんてもっと散らかってるしね。足の踏み場も無いから部屋を歩く時は竹馬を使うんだ」

 …どうやらウケたらしい。沙夜子ちゃんも「あるあ…ねーよwww」とお腹を抱えて笑っている。

「そうだ、そろそろどんなゲームなのか教えてよ」

「あ、今出すね!」

 美香ちゃんは立ち上がると押し入れに上半身を突っ込み、ガサゴソとゲームを取り出した。

 それにしても、ああ…押し入れから突き出された美香ちゃんのピチピチした張りのあるお尻…。柔らかそうな太股にすらりと長い足……ハァハァ…絶景だよ…!

 そんな僕の邪悪な視線なんかつゆ知らず、美香ちゃんは横長の箱をズルズル~っと引っ張り出す。

 …まあ、日頃様々なゲームをやっているもんだから、正直言って生半可なゲームを出されても知ってるものばかりだろう。でも、せっかく美香ちゃんが選んでくれたゲームだ。しかも僕のためにおこづかいをはたいて買ってくれたゲームではないか。万が一知ってるゲームでも、美香ちゃんのために多少大袈裟に喜んであげようではないか。

 …しかしあのサイズ、テレビゲームとかではなく、人生ゲームのようなボードゲームだろうか?…ん?あの、パッケージでくんずほぐれつしながら微笑んでいる男女の写真、あれは……!!

 

 美香ちゃんが箱を掲げ、誇らしげに言った。

「ジャジャーン☆『ツイスターゲーム』でーす!」

 

「イィヤッホォォォォォォォォォゥイ!!やったあぁぁぁぁぁ!!ありがとうございます神様あぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 僕は両手を高く掲げ、神様に届くように、心の底からの歓喜の咆哮を上げた。

 僕の予想以上の反応に、美香ちゃんも大喜びだった。

「わぁ!天馬お兄ちゃんに喜んでもらえて、美香とっても嬉しいな!」

「嬉しいに決ってるじゃないか!美香ちゃんが選んでくれたんだから!ヒャッハー!」

 性的な意味で!ホッヒヒ!

 沙夜子ちゃんも僕のリアクションを見て感化され、興奮して飛び跳ねている。

 …しかしまさかこんな所で美少女達と気兼ねなく身体を重ねる事ができる18禁じゃないリアルエロゲに出会う事ができるとは!

 美香ちゃんは嬉しそうにツイスターゲームを選んだ経緯を話してくれた。

「あのね、沙夜子は難しいゲームできないから、みんなで出来るわかりやすいゲームがいいと思ったんだ!それでオモチャ屋のオジサンに聞いたらね、ちょうど良いゲームがあるって…。美香、どういうルールかまだ知らないんだけど、そんなに面白いの?」

「最高です!最高のチョイスです美香様!さあ、早速やろう!早く早くほら準備してほら早くやろうやろうムヒヒヒヒ」

「わーい!楽しみ!美香、負けないからね!」

「まうー!沙夜子も!」

 

 …ふふふ、美香ちゃんに沙夜子ちゃん。そんなふうに無邪気に喜んでいられるのも今のうちだよ。すぐに恥ずかしい格好にしてあげるからね…ムヒヒヒ。

 

 

 …しかしその時、僕はまだ知るよしもなかったのだ。後に恥ずかしい格好をするのは僕の方だと言う事を…!

  ※※※

 

 簡易テーブルを脇にどけてスペースを作ると、いよいよツイスターゲームのシートを床に広げる。

 

 うおぉぉぉぉぉっ!実物を目の前にするとテンション上がるぜぇぇぇぇぇ!

 

 白地に並ぶ赤、青、黄、緑の丸を見てると、その上でこれから展開されるであろう淫靡な宴…もといちょっと照れながら恥ずかしいポーズをしている沙夜子ちゃんと美香ちゃんの幻影が見えてくるようだ…!たまらん!

 美香ちゃんはわくわくした様子でさらに箱の中を手探りする。

「あれ?まだ何か入ってる」

 美香ちゃんが取り出したものは、人生ゲームのルーレットのようなものだった。数字は書いておらず、上記の4色のマスに『右手』『右足』など、四肢の名前が書いてある。…知ってるぜ、それ!

「それはスピナーって言うんだよ。一人がスピナーを回す係で、ゲームをする人は出た目の場所に順番に手足を置いていって、先に転んだ人が負け」

「わぁ、天馬お兄ちゃん詳しいっ!」

「まうー!沙夜子でもできる!面白そう!」

 喜んでピョンピョン跳ねる二人。この二人の美少女とこれから上になったり下になったり6になったり9になったりすると思うと、興奮して力がメテオになってしまいそうだ。いいですとも!

 

「さてさて、誰から始めようか」

 正直言って相手は美香ちゃんでも沙夜子ちゃんでも私は一向に構わんッ!

 美香ちゃんがまず、遠慮がちに提案する。

「天馬お兄ちゃんはお客さんだし、天馬お兄ちゃんと遊ぼうと思って買ったから、最初は天馬お兄ちゃんがいいと思うな…」

 ああ…天馬お兄ちゃん天馬お兄ちゃんって…可愛い奴よのぅ…。

「じゃあ、一人は僕でいい?」

「うんっ」

 満足そうにうなずく二人。

「じゃあ、もう一人h」

「ヴァッ!」

 予想通り、若干喰いぎみに沙夜子ちゃんが挙手。こういう競争ごとでは控え目な美香ちゃんは遅れを取ってしまう。沙夜子ちゃんでもいいんだけど、美香ちゃんの様子を見るとなんだか涙ぐんできている…。

「み、美香だって天馬お兄ちゃんとやりたいもん…」

「まうー、沙夜子もてんまとやりたい!」

「でも、美香が、美香が買って来たのに…」

 

 …いかんぞこれは。美少女達にやりたいやりたいと取り合われて興奮している場合じゃない。二人とも泣きそうになってるじゃまいか^^;

「まあまあ、それじゃあまずは二人が先にやるかい?」

「いやっ!天馬お兄ちゃんがいいっ!」

「やだっ!てんまとやりたい!」

 どないせーっちゅーんど!

 …仕方ない、今回はどちらかというと美香ちゃんの気持ちを汲んであげたいからなぁ…。

 僕は身を屈めて沙夜子ちゃんの目線に合せ、説得を試みた。

「沙夜子ちゃん、このゲーム、美香ちゃんが僕と遊ぼうと思って買ってきてくれたんだって」

「……」

「美香ちゃんの気持ち、考えてあげてみてくれないかな。できるよね?沙夜子ちゃんは良い子だから」

「………」

「終わったら次はすぐ沙夜子ちゃんの番なんだから。それにほら」

 僕はスピナーを手に取り、沙夜子ちゃんの前でルーレットを回してみせた。沙夜子ちゃんの目が興味津津の様子で釘付けになる。

「スピナー回す役もけっこう楽しいんだから。ね?」

「………うん!沙夜子スピナー回す!」

 沙夜子ちゃんは顔を輝かせてスピナーを受け取ると、風力で変身できそうなほどギャンギャン回し始めた。…ホッ、どうやら説得は成功らしい。

 美香ちゃんは潤んだ瞳を手の甲で拭うと、安心したように笑顔を取り戻した。

「ありがとう天馬お兄ちゃん」

「いやいや。さあ、ゲームを始めようか!」

 ホッヒヒ!

 ―その時である。

 

「!?」

 

 視界の隅…美香ちゃん達のベッドの陰に、立ち尽くす蒼白い男の姿が見えたような気がした。

 慌てて周囲を見渡すがそれらしい人影は無い。壁にかかった制服でも見間違えたのだろうか?

 しかし、この感じ…さっきから僕の股間がギンギンになっているのは、いつものアレでは…!?

 

 説明しよう。僕は霊の気配を感じると股間が霊気に反応してギンギンになるのだ。鬼太郎の妖気アンテナのようなものである。

 …まあ欠点といえば、近くに可愛い女の子がいる時は通常の勃起と区別がつかない事だ。あとは疲れ魔羅とも区別がつかない。

 …だから興奮している時と疲れている時は、判断は慎重に下さねばならないのだ。

 今回は、一体…!?

 

「天馬お兄ちゃん、美香、負けないよ~!」

 美香ちゃんが動きやすいように髪をポニーテールに結び直している。手を頭の後ろに組んでいるので、すべすべツルツルしている可愛らしい脇の下に、すくすく発育中の形の良い胸が無防備に僕の前に晒されて……うん、これはただの勃起だな!

 

 

 …しかし僕は、後になってこの軽率な判断を後悔する事になるのだが、この時はまだ知るよしも無かった…

 

  ※※※

 

 さあ、散々引っ張ったが、ついにツイスターゲームの始まりだ!ムヒヒヒ!

 

「ジャンケンポンッ!」

 

 僕と美香ちゃんはジャンケンをして先攻後攻を決めた。先攻は美香ちゃんだった。

 沙夜子ちゃんは誇らしげにスピナーを僕らの方に向けると、審判役を与えられた事に満足してニンマリ笑い、「ジャッジメントですの☆」とばかりにゲーム開始を告げた。

 

「まうー!それじゃあ沙夜子がスピナーを回しまーす!沙夜子がね!どぅるるるるるるる…」

 もの凄い巻き舌で擬音を発しながら、沙夜子ちゃんがスピナーを回転させる。

「じゃじゃん!右手、緑!」

「始まっちゃった…なんか、ドキドキするな…」

 

 スピナーの指示通り、美香ちゃんがシートの緑のマスに手をついた。

 ツイスターゲームのシートというのは、緑、黄、青、赤の順番で、それぞれの色が一列で並んでいる。

 第一投目なので、シートの外から屈んで右手だけを伸ばして緑のマスに乗せている状態だ。そしてゲームが始まったという昂揚した表情で、美香ちゃんが僕を見上げて挑戦的に微笑んだ。

「次は天馬お兄ちゃんだよ!」

 

 …ってゆうか前屈みの美香ちゃんの胸元がうおおおぉぉぉぉぉぉっ!!

 肩ヒモが外れてシャツと肌の間が離れ、今にもB地区が……ってノーブラですとぉぉぉぉぉぉっ!?

 さっき両手を上げてポニテを結ってた時にそうじゃないかとは思ったけど、これはいかんだろう!

 そっかぁ~、家に女の子しかいないから無防備なんだなぁ~!いかんなぁ…けしからんですよこれは!注意しようかどうか…。いや、そんな甘いことは言ってられない!もう勝負は始まっているのだ!隙を見せた方が悪いのである!そこを狙わないのは手心を加えるという事で、全力を尽くしている相手に失礼ではないか!…という事でその胸の隙間は遠慮無く視姦させてもらうぜ!ご馳走さまです美香ちゃんムヒヒヒヒヒヒ!

 ゲームが始まったばかりだというのに早くも『身体を使うエロゲ』ことツイスターゲームの洗礼を受け、僕の股間は最初からクライマックスだった。

「……ま、てんま!」

「ほぇっ!?」

 …どうやら沙夜子ちゃんからコールを受けていたらしい。あまりに興奮し過ぎて気付かなかったw

「てんま、ちゃんと沙夜子のお話し聞いてて!ジャッジメントだよ!まうー!」

「ごめんごめん、作戦を考えてたんだよ」

 …完全ランダムなゲームなのに何を考える事があると言うんだろうか。しかし無垢な天使達は疑うという事をしらないようで、あっさりと納得してくれた。

「左足、赤!」

「おっけー」

 …チッ!赤は美香ちゃんのいる緑とは反対側の列である。これでは美香ちゃんのピチピチボディと触れ合う事が出来ないではないか!

 …まあいい。まだゲームは始まったばかりだ。これからいくらでも美香ちゃんと絡み合うチャンスは来るだろう。今は流れに身を任せるか。

「右足、黄色!」「左足、赤!」「左手、緑!」「右手、赤!」……

 順調にゲームは進んで行く。美香ちゃんも次第に良い格好になっていくのだが……ここで僕は奇妙な事に気付いた。

 

「てんま、右手、赤!」

 

 ……何故だ!?何故いつまでたっても僕と美香ちゃんの身体が触れ合わない!?

 それだけじゃない。先ほどから美香ちゃんは端の緑と、その隣りの黄色の目しか出ていない。

 そして、僕に至っては緑と反対側の赤の目しか出ていないのだ!

 今や僕と美香ちゃんは、青の列を隔てて完全に別々に別れていた。

 僕は赤の列に順番に左足、右足、右手、左手の体勢になっている。何この一人フュージョン!?

 この目の偏り方は異常だ!僕は美香ちゃんとフュージョンしたいのだ!これは明らかに何者かの意思…僕と美香ちゃんを触れ合わせないという意思が働いているのではないか!?ひどい!そんなのってあるかよ!

 …その時である。

 

「くるるぁっ!」

 

 沙夜子ちゃんが、何か煩わしいものを振り払うかのように、怒鳴った。

 美香ちゃんが驚いて沙夜子ちゃんを見る。

「沙夜子、どうしたの急に大きな声出して」

 沙夜子ちゃんは迷惑そうに眉をひそめて、呟いた。

 

「誰かが、邪魔する…」

 

「えっ?」

 僕と美香ちゃんは顔を見合わせた。

 美香ちゃんはあきれたように笑ったが、…僕は笑えなかった。

 …家族は気付いていないようだが、沙夜子ちゃんは非常に霊感が強く、感化されやすい体質を持っていた。

 小さい時から無くしものの場所を言い当てたり、見えない誰かと会話したりする事が、しばしばあった。天然の霊的な才能は明らかに僕以上だろう。

 

 …という事は、やはりここに来てから度々現れる人影は、霊だったのか。さっきから股間がギンギンなのも、僕の霊感が警告を発していたのだ。…やっぱりね!僕がこんな無邪気に楽しんでる美少女達によからぬ劣情を抱くわけがないじゃないか!ホッヒヒ!

 僕も普段の霊感は(アンテナ以外は)人並みで、先ほどのようにふとしたきっかけで視界の隅に霊を捉える程度の、ほとんど役に立たないものである。しかし『ある条件』を満たせば、僕も意図的に霊に干渉する事ができる。

 ……これは、この『いつまでたっても美香ちゃんと重なれない現象』は、明らかに霊による悪戯だろう。そうであるならば、僕は………

 

 絶対に許さないッ!

 

 モテない男に偶然舞い込んだささやかな幸福をぶち壊しやがって!お前がスピナーの目を思い通りにできるってんなら……

 

 

 その幻想をブチ殺す!

   ※※※

 

 霊めッ…!せっかく美香ちゃんとキャッキャウフフするチャンスなのに、邪魔しようとするなんて!なんびとたりとも僕の紳士タイムを妨げる事は許さん!たとえ貴様がどんな無念な理由があって死んだ可哀相な霊だとしてもだ!

 

 とにかく、こいつがどのような霊なのか、何が目的なのかわからないと対策のしようがない(なんとなく僕と美香ちゃんのフワフワタイムを邪魔しようとしている事は分かるが)。…となれば、少々危険が伴うが、霊を挑発してみる事にしよう。そうすれば反発した霊はムキになって、よりはっきりと意思表示をしようとするはずである。

 

 …となれば……!

 

 ちょうどよく沙夜子ちゃんのコールが入る。

「どぅるるるるるるる!じゃん!てんま、右足、赤!」

 

 フッ…また赤か…!いつまでもこの僕がお前の思い通りになると思うなよ?

「赤、赤…。次はどこに足を置こうかな……アッー!?」

 

 僕は足を踏み外したフリをして、わざと大袈裟に転び、美香ちゃんの方に転がっていった。

「きゃあ!」

 猫のような四つん這い状態だった美香ちゃんにぶつかり、体勢を崩した美香ちゃんが仰向けの僕の腕の中に倒れ込んで来る。…フッ、どうだ!ゲームに負けて勝負に勝つというやつだ!…って、

 …ふ、ふあぁぁぁぁ~!

 

 美香ちゃんのホットパンツからすらりと伸びるすべすべの太ももが僕の内腿を滑っていく。僕の膝が美香ちゃんの脚の間に滑り込み、美香ちゃんの敏感なお尻がビクンと跳ねた。

「ふぁっ、くすぐったい!」

 ああ、やっぱり美香ちゃんはあちこちムチムチと発育がいいなぁ。薄着だから身体の形がはっきりとわかるよぉ~!これだよ、僕がツイスターゲームに求めていたものは~!

 ……はっ!いかんいかん、興奮してる場合ではない!

「あ~あ、負けちゃった」

 僕はいかにも悔しそうに苦笑いを浮かべてみた。美香ちゃんはちょっと得意げに「天馬お兄ちゃん、弱い~」と笑うと、僕の肩にコツンと顎を乗せた。

「えへへ、でも天馬お兄ちゃんに抱っこしてもらうの、久し振りだな」

 うほぉぉぉ!これはちょっと予想外だったぜ!なんて従順で可愛い奴なんだ…!

「なんだ、言ってくれればいつでも抱っこしてあげるのに」

 いやマジでいつでもウェルカムでございます。しかし美香ちゃんはフワッと身を放すと、悪戯っぽく笑って可愛い舌をちょこんと突き出す。

「いいよーだ。美香、もう子供じゃないもん!」

「本当かぁ~?」

 僕は両手をワキワキして美香ちゃんをもう一度抱っこしようと手を伸ばした。…もちろんふざけてですよ?

「きゃ~!キャハハハ!」

 美香ちゃんがキャッキャと笑いながら身をよじり、僕の胸をポカポカと叩く。

 

 ……その時である。

 

 カシャーン!

 

 沙夜子ちゃんの手から、スピナーがこぼれ落ちた。

「沙夜子、どうしたの?」

 

 美香ちゃんの呼び掛けに、沙夜子ちゃんは答えなかった。ただうつむいたまま呆然と立ち尽くし、ピクリとも動かない。

 回りの空気が一気に重みを増し、気温さえ下がっているように感じる。

 ねっとりと粘度を増した冷たい空気が部屋の中を渦巻き、ポスターや沙夜子ちゃんの落書きを揺らした。窓の外でも木々の葉が不吉を囁き合うように、ザワザワと身を揺すっている。

 …不穏な空気を感じ、美香ちゃんが僕の手をキュッと握った。圧倒的な霊気の前に僕のアンテナはギンギンである。美香ちゃんの手のひらの柔らかさのせいではないはず。

 

 

「…沙夜子?具合、悪いの…?」

 

 ……沈黙。長い髪が顔を隠しているため沙夜子ちゃんの表情を確認する事は出来なかった。

 …しまった!まさか…最悪の事態だ…!

 

「は あ゙ あ゙ あ゙ ぁ゙ ぁ゙ ………」

 

「…さ、沙夜子?」

 異常を察知したのか、美香ちゃんが慌てて沙夜子ちゃんに駆け寄ろうとする。僕は咄嗟に、美香ちゃんの手を掴んで引き止めた。

「美香ちゃん、近付いたら危険だ!」

「でも天馬お兄ちゃん、沙夜子の様子が…!」

「む゙あ゙あ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙!」

 

 突然、沙夜子ちゃんが地の底から湧き上がってくるかのような叫び声を上げた。いつもの沙夜子ちゃんのゴマアザラシのような愛くるしい声とは似ても似つかない、男の声だ。

 驚いた美香ちゃんが僕の腕にしがみつく。おっぱいが柔らかいがそれどころではない。

 

「ニ・ク・イィィ……」

 

 沙夜子ちゃんの小さな身体から、邪悪なしわがれ声が発せられる。その言葉に込められたどす黒い憎しみに、冷たい汗が頬を伝う。

 

「オ・マ・エ…!」

 沙夜子ちゃんの細い右腕がスッと上がり、不自然に強張った手つきで僕を指差した。その手は死体のように蒼白く、青ざめた血管が浮き出している。死斑すらも現れているようだった。

「天馬お兄ちゃん、沙夜子が、沙夜子が…!」

 愛する妹の豹変に、美香ちゃんが泣きながら僕にすがりつく。

 

 うかつだった…!まさか沙夜子ちゃんが取り憑かれてしまうなんて!

 力の弱い霊だと思って油断していた。挑発した事で何かしてくるかとは思ったが、沙夜子ちゃんに取り憑く事ができるとは想定外の力である。…沙夜子ちゃんは先ほど見た通り、自分で霊を振り払う事が出来るほどの霊に対する防御力を持っている。それが、どうして……?

 

 …とにかく僕の紳士タイムを邪魔しただけでなく、美香ちゃんと沙夜子ちゃんまでも巻き込むとは…!天が許しても、この美少女の味方、天馬英雄が許しちゃおけねぇ!若干僕が霊を挑発したせいのような気がするけど、…とにかく許さんッ!

 

 

 ※※※

 

 霊め!ちょっと悪戯する程度ならば穏便に成仏させてやろうと思ったが、沙夜子ちゃんを巻き込み、美香ちゃんを悲しませたのはやり過ぎだったな。悪いが荒っぽい方法で滅させてもらうぜ!

 

 僕はポーチから素早くギャグボールと鼻フック、耳栓目隠しと手錠を取り出した。急な状況で準備不足だが仕方がない。…しかしこれだけで対処できるだろうか?

「天馬お兄ちゃん!」

 僕が除霊できる事を知っている美香ちゃんは、僕の取り出した見知らぬ道具の数々を見て救いを求めるような目を向けた。本来の用途を知らない無垢な美香ちゃんに対し若干申し訳ない気持ちになったが、僕は力強くうなずいて美香ちゃんの気持ちに応えた。

「安心して美香ちゃん。沙夜子ちゃんはきっと取り戻すから!」

「天馬お兄ちゃんお願い…!沙夜子を助けて…」

 僕は拘束具の数々を構え、豹変してしまった沙夜子ちゃんと対峙した。

 

「お゙あ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙!」

 

 僕が抵抗する意思を見せた事で、霊は沙夜子ちゃんの口を借り、怒りの咆哮を上げる。

 部屋中の紙が舞い上がり、窓ガラスがビリビリと悲鳴を上げた。

 長い髪が巻き上がり、一瞬沙夜子ちゃんの口許が見える。

 愛らしく血色の良かった肌は屍のように青ざめ、ひび割れていた。

 サクランボのようだった可憐な唇も、血の気を失って紫色にひび割れている。

 …許せんッ!女の子をこんな姿にするなんて!

 

「美香ちゃん!」

「えっ?なあに天馬お兄ちゃん」

「この道具を使って、僕を拘束してくれ!」

「えっ?これ、自分に使うの?」

「早く!説明している時間は無い!」

 

 霊は今にも攻撃に移りそうだった。ポルターガイストにより周囲の物を巻き上げて、こちらの様子を伺っているようだった。しかしどういうわけか、美香ちゃんを攻撃に巻き込むつもりは無いようだった。考えてみれば、あいつが指差したのも僕だけである。

 …とにかく僕は手短に美香ちゃんに拘束具の使用法を説明し、美香ちゃんは戸惑いながら僕にギャグボールを装着していく。そして、目隠しにより視界が闇に包まれた、瞬間である。

 

『見える…!』

 

 そう呟いたつもりだったが、実際は口にギャグボールがハマっているので、よだれを垂らしながら「ふごぉ…」と唸っただけである。…しかし今はそんな事を言っている場合ではないのだ。

 今や僕のエーテル体は僕の肉体を離れ、ピンク色の輝きを放ちながら虚空の闇を浮かんでいた。肉体の五感は、エーテル体に移っている。

 そして闇の中、沙夜子ちゃんのいた方向に、蒼白い人型の発光体がはっきりと見えた。

 坊主頭で、冴えない青年のようだった。年は20歳そこそこだろうか?僕の姿を確認すると、威嚇するように唸り声を上げる。

 しかし…その下半身は樹の幹のように奇妙に変形しており、その根元で身体を半分飲み込まれ、眠っているのは…

 

 …沙夜子ちゃんだった。

 

『貴様ッ!』

 

 バチンッ!

 

 現実での僕の肉体の両手が、後ろ手に手錠によって拘束された時、僕のピンク色のエーテル体の両腕がバチバチとスパークし、変身ヒーロースーツの腕の部分のような装甲が、僕の両腕を包み込んだ。…あの道具だけでは腕の強化が限界のようである。しかし、必ず沙夜子ちゃんは助け出す!

 

 人間は不自由である時、その不自由な部分を補うために他の部分を発達させるものである。

 目が不自由な人は聴覚や触覚などで補うものだ。そういう人は、視界以外の感覚は健常者よりも発達しているケースが多い。

 僕の霊能力は平常時は一般人とさして変らない。ただ、幼いころの霊衝により股間だけは霊に対して異様に敏感だが、それ以外は本当に人並みなのだ。

 …しかしそんな僕も一つだけ他と違う特殊能力があった。それは――

 

 『拘束した部分の霊的能力の強化』である。

 

 つまり視覚を拘束すれば霊視や千里眼、口を拘束すればテレパシー、腕を拘束すれば物に触れる事なく動かす事が出来るのだ。それも他人に…美少女に拘束してもらったほうが効果は高い。

 

 これが僕の能力『ソウルバインド・ミー』!!(私を魂ごと縛って☆)

 

『美香ちゃん、危険だから下がって!』

 

「えっ!?て、天馬お兄ちゃん?」

 

 美香ちゃんは突然頭の中に響いた声に驚き辺りを見回し、それから足元でうずくまっている僕の肉体に視線を落とした。

『美香ちゃん、後で説明するから、今は僕の言葉を信じて隠れていてくれ!』

「う…うんっ」

 美香ちゃんはもう一度不安そうに辺りを見回すと、意を決したようにうなずいて、ベッドの隅に隠れて布団を被った。

「天馬お兄ちゃん、頑張って!」

『任せといて!』

 僕はエーテル体の両腕の装甲を打ち合わせ、構えをとった。

 そして霊に向き直った時だった。ハサミやコンパス、カッターや鉛筆などの文房具が、雨あられと散弾のように僕の視界を埋め尽くしていた。

『うおおおぉぉぉ!!』

 

   ※※※

 

 うおおぉぉぉ!美香ちゃんが離れたとたんに容赦無しかよ!

 

『上等だッ!』

 

 迫る凶器の散弾を前に、僕のエーテル体は自分の肉体の前に陣取り、拘束された肉体に意識を集中する。

 自分の思い通りに動かせないというゾクゾクするような不自由さに、僕のエーテル体に巨大な力が流れ込み、エーテルから溢れ出したエネルギーはスパークし、さらにバチバチと輝きを増していく。…そこ!マゾとか言わない!

 

『おおおぉぉぉっ!』

 

 五感を封じた事で極限まで研ぎ澄まされた第六感により、世界は急激に色を失い、音を失い、そして動きまでも失っていく。

 

 今や僕の目前で凶器の雨は完全に動きを止めていた。…しかし極限の集中力を要するこの状態は長くは持たない。せいぜい現実時間で2秒程度だろう。

 しかし両腕を強化霊装で包んだ状態ならば、2秒あれば充分だ!

 僕は手錠をかけられた両手に意識を集中する。その瞬間、エーテルの両腕が二筋のピンクの閃光となり、文房具の弾幕の間を縦横無尽に縫い、疾った!

 

 シュパパパパパパパンッ

 

 閃光が収まった時には弾幕はすっかり僕の目の前から消えていた。消えた文房具は全て、僕の両手に握られている。

 

『やれやれ、叩き落として壊しでもしたら二人に怒られちゃうからな…』

 僕は両手の文房具を床に落とした。美香ちゃんが信じられないというように目を丸くしているのが見える。

 霊の見えない美香ちゃんからしたら、沙夜子ちゃんから放たれた文房具の弾幕が僕の目前で止まり、パタパタと床に落ちたようにしか見えなかっただろう。

 ……それにしてもこの力…、たかが浮遊霊や自縛霊にこれ程の力があるわけがない。これは、やはり…。

 攻撃が失敗し怒り狂う青年の霊の、木の根のような下半身に取り込まれた沙夜子ちゃんに視線を移す。

 眠っているような沙夜子ちゃんの表面を無数の細かい根のような触手が覆い、その先端は沙夜子ちゃんのエーテル体と結合している。つまり何らかの理由で沙夜子ちゃんに取り憑く事に成功した霊は、沙夜子ちゃんの巨大な霊力を利用して僕を攻撃しているという事だろう。ってゆーか…

 あンのジャガイモ野郎ゥ!沙夜子タソと結合するなんて1兆光年早いんじゃダラズがぁッ!僕だって沙夜タソと結合したくて毎晩眠れぬ夜を過ごしているというのにッ!!

 ……いかんいかん冷静になれ。沙夜子ちゃんを救うにはどうしたらいい!?

 

 …やはりあの青年霊を沙夜子ちゃんから直接…

 

『斬り離すッ!』

 

 僕は意を決し、一直線に霊に向かって行った。エーテル体である今は重力など関係無い。空を飛ぶ夢のような感覚である。…しかし霊装が腕しか無い状態では、それほどのスピードは期待出来ない。

 霊は僕に物理攻撃が通じない事を悟ったのか、両腕を触手のように変化させ、振り上げた。エーテル体への直接攻撃に切り換えたのだ。

 

 ヒュパァン!

 

 触手は鞭のように風を斬り、炸裂しながら僕目掛けて打ち込まれる。

 迎え撃つ僕の手刀の型に合わせて霊装の形も変形し、霊を斬り裂く霊刀となった。

 

 シュバッ!

 

 身に迫る鞭の一撃を間一髪、一閃で斬って落とす。

 …イケる!

『ぐおぉぉぉぉぉぉっ!』

 霊が再び怒りの咆哮を上げる。僕を近付かせまいと両腕の鞭を目茶苦茶に振り回し、暴れ回る。

 せいぜい今のうちに暴れておくがいい!

 間も無く霊刀の間合いに入ろうとした、その時だった。

『!!』

 霊が沙夜子ちゃんの身体により深く根を挿し込み、霊力を吸い上げた。

「かはっ…ぁっ……!」

 沙夜子ちゃんが苦しげに身体を反らす。…くそっ!沙夜子ちゃん、すぐ助けてあげるから!

『うおおおぉぉぉ!』

 剣の間合いに入った!食らえっ!

 

 ドシュッ!

 

 剣閃が霊の肩口から袈裟掛けに走り、深く斬り裂かれた傷口から霊気が青い閃光となって噴出する。…手応えはあった。

『やったか!?』

 青年の霊と目が合う。その口許が一瞬、笑った。

『なっ!?』

 

 メキッ…!

 

『ぐはっ…!』

 

 横から丸太で殴られたような重い衝撃が襲い、僕のエーテル体は元の場所まで撥ね飛ばされた。

 

 ……なんだ?何が起きた?…霊体がバラバラになりそうな衝撃。これ程の力を…!こんな強い相手とは出合った事が無い…。

 霊はさらに沙夜子ちゃんから霊力を吸い取り、バキバキと巨木のように変形し、膨張していく。鞭のようだった触手も、今や大蛇のごとき様相で僕にとどめを刺そうと唸りを上げている。沙夜子ちゃんの小さな身体はどんどん霊に取り込まれていってしまう。

 未だかつて無い、巨大で絶望的な相手…。

 …だからって…。

 

「天馬お兄ちゃん!天馬お兄ちゃん負けないでぇ…!」

 

 突然血を吐いた僕の肉体を見て、美香ちゃんが泣きながら叫ぶ。…そうだ。

 僕は沙夜子ちゃんを取り戻す。

 美香ちゃんの笑顔を取り戻す。

 そして……

 

 

『僕は貴様を倒し、今度こそ二人とツイスターゲームをさせてもらうッ!!』

 

  ※※※

 

 もはや霊は沙夜子ちゃんの霊力を吸い取り、巨木の怪物と変貌していた。

 醜く膨張するにしたがい僕のつけた傷口までもが溝を埋めるように再生してしまう。

 その度に囚われの沙夜子ちゃんに太い根が融合するように突き刺さり、貪欲に霊気を吸い上げた。

 

 くそっ…!あいつを沙夜子ちゃんから引き剥がさないと、いくら攻撃しても再生されてしまう!それに、あんな状態では沙夜子ちゃんの魂が持たない!

 どうする!?一体、どうすれば…!

 

『沙夜子ちゃん!沙夜子ちゃん目を覚ませ!』

 

 沙夜子ちゃんの魂に呼び掛ける。

 

《ゴオォォォォォォォォ!!》

 

 霊は僕の声をかき消すように、憎悪に瞳を紅く燃やし、叫んだ。

 …その時である。

 大蛇の群のような根の束から上半身だけ現れていた沙夜子ちゃんの霊体が、青年の霊と同じ憎悪の紅い瞳を見開き、怒りの咆哮を上げたのだ。

 

《あぁぁああぁぁぁぁァァァァァ!》

 

 突風のような激しい衝撃波が僕を襲い、必死に足を取られぬよう踏みとどまる。

 

 ……どういう事だ!?

 

 青年の霊と沙夜子ちゃんが同時に僕を睨み付ける。その紅い瞳から、同時に一筋の血の涙が流れた。

 

 …これは……同調……?

『!!そうかっ!』

 

 ドドォッ!!

 

 再び繰り出された大蛇のような触手の一撃を何とか躱す。この距離ならそう易々と食らう事は無い。

 

 ツイスターゲーム中、何かのきっかけで力の弱かった青年の霊と沙夜子ちゃんの感情がシンクロしてしまったのだ。

 だから弱い霊なら弾く事の出来る沙夜子ちゃんが、あの程度の霊に取り憑かれてしまったのだ。

 沙夜子ちゃんの怒りを沈め、冷静さを取り戻させれば、同調が途切れて自らの力で振り払えるだろう。

 そうなればエネルギーの供給が絶たれ、奴の力に見合った矮小な姿に戻るはずだ。

 では、きっかけは…?沙夜子ちゃんは何を想い、霊に同調してしまったのか…?

 

 バチィンッ!

 

 丸太のような触手の一撃が、僕のすぐ横で激しく炸裂する。寸での所で躱し、距離を取る。

 

 …いや、逆だ。沙夜子ちゃんのその時の気持ちを導き出すにはとても時間が足りない。人の気持ちというのは刻一刻と変化していくものだ。

 …でも、霊は違う。霊の気持ちは変化しない。ただ一つの想いに縛られ、つき動かされるのだ。

 

 

 ツイスターゲームが始まってから起きた現象…。

 出目が偏り、美香ちゃんと僕はいつまでも触れ合う事は無かった。だから僕はルールを破り、無理矢理美香ちゃんの側まで行った。ホッヒヒ!そしてイイ感じでイチャイチャできたわけで…。フヒィ!

 ……しかしここで沙夜子ちゃんの様子がおかしくなった。霊と気持ちが同調し、取り憑かれてしまったのだ。

 霊は僕が憎いと言った。…その気持ちは沙夜子ちゃんのものでもあるんだ…。

 ……霊の気持ち…。それは恐らく嫉妬だろう。どういう経緯か知らないがあの青年はあのツイスターゲームで男女がイチャイチャするのが気に食わないのだ。…主に男の方を。

 つまり自分がそうしたかったのだろう。ツイスターゲームを買って好きな女の子とキャッキャウフフと楽しみたかったのだ。

 十中八九童貞だなこいつは。思考が童貞的である。

 …まあ童貞である事は置いておこう。つまりこの童貞の霊はツイスターゲームを買って女の子と戯れる妄想をしていたが、そもそも相手もおらず、いつか女の子と戯れる時を童貞的に夢見ていた所、童貞的不慮の事故などで亡くなってしまったのだ。だから童貞の自分が女の子とイチャイチャするために買ったツイスターゲームで、他の男が良い思いをするのが許せないのだ。(断言)

 美香ちゃんは中古で買ったと言っていたから、恐らく家族が遺品整理で中古雑貨屋に売ったのだろう。(言い切り)

 …では、沙夜子ちゃんは?沙夜子ちゃんは何に嫉妬したのだろうか?

 

『うわっ!?』

 

 ビュォッ!

 

 横薙ぎに振り回された巨大な一撃を、間一髪転がって躱す。

 

 カサッ…

 

『!?』

 

 地面を転げた時、何かがポケットから落ちたのに気付く。

 あれは…!

 僕の脳裏に、さっきの沙夜子ちゃん言葉が蘇る。

 

『てんまにお手紙書いたの!後で読んで!』

 

 …僕は戦いの最中だというのも忘れて、その手紙を開いて、吸い込まれるように読んでしまった…。

 

  ※※※

 

 オモチャ屋で売っているような可愛らしいレターセットの便箋には、蛍光ペンを使った拙い文字で『てんまへ』と書かれていた。

 ハート形のシールの封を外し、中から手紙を取り出す。…手紙も便箋とお揃いの柄である。

 

《ううぅぅぅぅぅぅ……!》

 

 僕が手紙を取り出したのを見ると、霊の動きが明らかに鈍った。思うように身体が動かないようだった。青年の霊が戸惑い、焦る。

 沙夜子ちゃんの、怒りに支配された紅い瞳は、まるで炎が消えたように穏やかな青へと鎮まった。そして、僕の様子をじっと見ているようだった。

 

 手紙には二枚にわたって沙夜子ちゃんのちょっと汚い字と不思議なイラストで彩られていた。漢字はあまり多く無かった。

 …沙夜子ちゃんは強い霊感の影響か、同年代の子よりも精神的に幼かった。学校でも、少し変わった子として扱われていた。

 それでも愛らしくて優しい沙夜子ちゃんはみんなの人気者だった。僕も想像力豊かで独特な視点を持っている沙夜子ちゃんと話すのは大好きだし、尊敬もしていた。

 文章には簡単な漢字しか使われていなかったが、自分の名前の『沙夜子』という漢字はしっかりと書かれていて、沙夜子ちゃんが一生懸命練習している姿を想像すると、なんだか微笑ましい気持ちになる。

 僕は沙夜子ちゃんの書いてくれた手紙を読み始めた。

 

 

『てんまへ 

 

 元気ですか。沙夜子はとても元気です

 てんまがとまりに来てくれてうれしいです。てんまが来るのずっと楽しみにしていたよ

 沙夜子はいつも学校でお勉強してます。お勉強はたいへんです。沙夜子は頭がわるいのでなかなかついていけません。

 だけど早くおとなになりたいからお勉強がんばります。

 てんまはさとう先生みたいに沙夜子のこと頭がわるいって言いません。

 おもしろいね てんさいだねって言ってくれます。沙夜子はとってもうれしいです。

 てんまは大人なのにさよこのお話しをちゃんときいてくれます。

 沙夜子のお話しでたくさんわらってくれます。てんまのわらったお顔がだいすきです。てんまがわらったら、沙夜子はとってもうれしいです。

 沙夜子が大人になったらけっこんしてくれるって言ってくれたから、沙夜子はとってもうれしいです。

 たくさんお勉強して、早くてんまのおよめさんになりたいです。

 およめさんになって、かわいいドレスをきたいです。

 沙夜子はてんまのことがだいだいだいすきです。

 夏休みのあいだ、いっぱいあそびましょう

 

      沙夜子より』

 …そして次の紙には、色鉛筆を使った明るい色彩で、絵が描いてあった。

 絵の中では、僕と思われる小さい男の子と、沙夜子ちゃんと思われるその3倍くらい大きい女の子が手をつないで、幸せそうにニコニコしていた。

 花やウサギ達に囲まれて、空には虹がかかっていた。

 

『沙夜子ちゃん……』

 

 沙夜子ちゃんの瞳から、一筋の涙が流れた。

 

 そんなに……そんなに僕の事を想ってくれてたのか。そんなに僕と遊ぶのを楽しみにしてくれていたのか。それなのに僕は、彼女の気持ちも知らずに美香ちゃんとばかり……!

 

 沙夜子ちゃんの純粋な気持ちに心打たれると同時に、激しい後悔の念が去来する。

 沙夜子ちゃんに芽生えた淡い恋心を、知らなかったとはいえ僕は踏みにじった事になる。

 …現実の沙夜子ちゃんの肉体でも、温かい涙が頬を伝っていた。

 僕の肉体は相変わらず目隠し鼻フックにギャグボールだが。

 

 美香ちゃんはちゃんと隠れて………あれ?み、美香ちゃん…!?

 

 美香ちゃんが立ち上がり、ポロポロと涙を流しながらベッドの陰から姿を現したのだ。

 

「沙夜子っ……」

 

 …しまった!テレパシーを上手くコントロール出来ずに手紙の内容が美香ちゃんに伝わってしまったのか!

『美香ちゃん危ない!隠れるんだ!』

 

 しかし美香ちゃんの耳(テレパシーだから耳というのもおかしいが)には届かなかった。

 美香ちゃんが沙夜子ちゃん目指して駆け出す。

『くっ!』

 

 我に返った霊が力ずくで沙夜子ちゃんの霊体を幹の中に取り込み、咆哮を上げて美香ちゃんに触手を振り下ろした。

 僕だけを狙うはずじゃなかったのか!?取り乱して見境が無くなっているのか!とにかく霊的に無防備な美香ちゃんが攻撃を受けてしまったら、失神では済まない深刻なダメージを受ける事になる!

 

『美香ちゃん!』

 

 僕は左腕の霊装を盾に変化させ、美香ちゃんの上へと飛び、丸太のような触手に立ち向かった。

 この圧倒的な攻撃を正面からまともに受け止めるのは無理だろう。盾に角度をつけて少しでも力を逃がし、逸らさなくては。しかしそれでも左腕はただでは済むまい。でも…!

『左腕はくれてやる!』

 

 ドドドォッ!!

 

『ぐうぅっ!』

 

 恐ろしい衝撃が全身を襲い、エーテルの左腕が消滅した。…しかしなんとか攻撃を逸らすことには成功した。

 

 

 …美香ちゃんは沙夜子ちゃんの側に駆け寄ると、崩れ落ちるように膝立ちになり、沙夜子ちゃんを固く抱き締めた。

 

「沙夜子、沙夜子…!ごめんねぇ…!」

 

   ※※※

 

「沙夜子、沙夜子…ごめんね…!」

 

 美香ちゃんは泣きながら、沙夜子ちゃんの小さな身体をしっかりと抱き締めた。

 意識を奪われているはずの沙夜子ちゃんの瞳からも、温かい涙がポロポロとこぼれ落ちる。

 

 青年の霊は空気を読んで…もとい沙夜子ちゃんとの同調が途切れて苦しんでいるようだ。意志を取り戻し始めた沙夜子ちゃんの霊体から、逃げ出すように触手が這い出し、縮んでゆく。

 …美香ちゃんは沙夜子ちゃんに頬を寄せ、震える声で語り出した。

 

「ごめんね沙夜子…!美香が悪いよね、ズルいよね……ひっく…!約束破って、ごめんね…!」

 

 …約束を破った?何があったんだろう。

 

「沙夜子、天馬お兄ちゃんの事、大好きだもんね。いつも天馬お兄ちゃんが来るの楽しみにしてたもんね………」

 

 美香ちゃんの胸から想いが溢れ、僕の頭にも流れ込んで来る。

 

 …気がつくと僕は、ベッドの中で落ち着かない様子で目を輝かせている沙夜子ちゃんを見下ろしていた。…これは美香ちゃんの記憶だろうか?

 目覚まし時計を見ると、もう夜の10時だった。いつもだったら寝ている時間なんだろう。

 …しかし沙夜子ちゃんは一向に眠る気配が無い。美香ちゃんは見兼ねて、沙夜子ちゃんを寝かせようとしているようだった。

 沙夜子ちゃんは網の中の魚みたいに、布団の中で元気に跳ね回っている。

 

「まうー!てんま来るの明日?明日かなぁ?」

「もお、ちゃんとカレンダーに印つけたでしょ?明日じゃないったら」

「えぇ~!沙夜子、早くてんまと遊びたいの!」

「いい子にしてないと、天馬お兄ちゃん来てくれないよ?」

「ぶぅ~!」

「ね?良い子は何時に寝るんだっけ?」

「……9時…」

「そうだよね?ほら、早く寝ないと天馬お兄ちゃんじゃなくてオバケが来ちゃうぞ~!」

「いやー!」

 沙夜子ちゃんが驚いて、頭からすっぽり布団をかぶる。パジャマのズボンに包まれた可愛いお尻が布団からはみ出している。カワユスなぁ…。

「みー」

 沙夜子ちゃんが顔を出し、美香ちゃんに呟いた。…今更だけど、沙夜子ちゃんは美香ちゃんの事を「みー」と呼ぶ。

「怖いから一緒に寝て?」

「もう…」

 美香ちゃんは、オバケの名前を出して脅かしてしまった事を後悔しながら、沙夜子ちゃんの布団に入る。沙夜子ちゃんは嬉しそうに「えへへー」と笑った。

 美香ちゃんは、沙夜子ちゃんの気を紛らわせるために、何か安心する話を探す。

 

「…大丈夫だよ沙夜子。オバケが来たら天馬お兄ちゃんがやっつけてくれるでしょ?」

「まうー」

「天馬お兄ちゃんが来たら、いっぱい遊んでもらおうね」

「まうー、沙夜子、てんまが来たら一番に遊んでいい…?」

「うん、いつも良い子にして、毎日ちゃんとお勉強したらね」

「うん!ちゃんとお勉強する^^」

「天馬お兄ちゃんが来たら、何して遊んでもらおっか」

「まうー…、鬼ごっことね、なわとびとね、お姫様ごっことね…それから…虫捕りと…塗り絵と………あと…………」

 …やがて安心したのか、沙夜子ちゃんの声は次第に小さくなっていった。

 いつしか声はしなくなり、沙夜子ちゃんは布団の中で可愛らしい寝息を立てて、眠りについていた…。

 

 

「…それから毎日、沙夜子はちゃんと良い子にしてたし、お勉強も毎日してたよね。毎日、頑張ってたよね…!

 だから、約束だから、美香、沙夜子に一番に天馬お兄ちゃんと遊んでもらおうと思ってた。それなのに、美香……!」

 

 秘めていた想いが溢れ出し、美香ちゃんのすすり泣きは、号泣に号泣に変わっていく。

 

「…美香、天馬お兄ちゃんの姿を見たら、嬉しくなっちゃって、ヒック、すごく嬉しくて…!…だって、美香も本当は天馬お兄ちゃんに遊んでほしかったの…!だって、美香も……、美香も天馬お兄ちゃんの事、大好きなんだもんっ!う、うわぁぁぁぁぁぁんっ!」

 

 おほおぉぉぉぉぉぉ!?もういいよ!二人とも結婚しようよ!まとめて面倒見るから!

 

「う、うわぁぁぁん!約束破ってごめんね沙夜子…!ゲーム買ったの美香だからって、ズルいよね…そんなこと言われたら沙夜子どうしようもないもんね…!美香、意地悪だよね…!ごめんね!約束破ってごめんね沙夜子!美香が悪いのっ!だから……」

 

 美香ちゃんが沙夜子ちゃんの華奢な身体をしっかりと抱き締め、泣きながら叫んだ。

 

「…元の可愛い沙夜子に戻ってよぉ!!」

 

 カッ!

 

 その瞬間、根に包まれていた沙夜子ちゃんの霊体が、目も眩むような激しい輝きを発した。

 

《ギョエェェェェェェェェェェ!!》

 

 霊が身を焼かれたような悲鳴を上げ、沙夜子ちゃんから弾き飛ばされる。そして、植物が枯れるのを早送りで見るように、急速に元の大きさに縮んでいった。

 

 …泣きじゃくる美香ちゃんの身体に、沙夜子ちゃんの小さな手がしっかりとしがみついた。…その手は、先ほどまでのように蒼白くひび割れた手ではなかった。柔らかく、血の通った愛らしい手。

 

 …美香ちゃんが、沙夜子ちゃんの変化を感じ取り、ハッとして顔を覗き込む。

 

「………沙夜子ぉっ……!」

「……みー……!」

 

 沙夜子ちゃんの愛らしい大きな瞳が美香ちゃんの目を捉え、大粒の涙が溢れ出す。そして、その表情が、クシャクシャと崩れた。

 

「う、うわぁぁぁぁぁぁぁん!みー、みー…!うえぇぇぇぇぇん…!」

「沙夜子っ!ごめんね!ごめんね……!」

 

 二人の姉妹は固く抱き合い、その涙はお互いを許し、罪を洗い流していった…。

 

 

  ※※※

 

 お互いを許し合い、固く抱き合って泣きじゃくる沙夜子ちゃんと美香ちゃん。

 …誰に罪があるというわけではないかもしれない。美香ちゃんだってまだ子供だ。理性ではわかっていても感情に負けてしまい、あのような間違えを犯してしまう事もあるだろう。

 沙夜子ちゃんだってそうだ。約束を破ってしまった美香ちゃんが、僕と楽しそうに遊んでいる様子を見たら、嫉妬を感じてしまうのは無理もない。

 そしてこいつも…

 

 僕は青年の霊へと向き直った。

 

 力を失った霊は、完全に戦意を失い、かと言って腰が砕けて逃げる事もできずに怯えた様子でジタバタと這いずっている。

 

 …本来霊とは、良いとか悪いとか言うものではない。ただ、生前の未練によって、そう在るだけなのである。良いとか悪いとか言うのは人間の線引き、都合なのだ。

 こいつも、沙夜子ちゃんと同調し取り憑いてしまった事は偶然と言えば偶然だし、その偶然取り憑いた少女が強い霊力を秘めていたというのも、また偶然である。

 様々な偶然が重なり、大きな事件になってしまったのだ。本来ならばツイスターゲームのスピナーの出目をいじる程度の力しかない霊なのである。それだけの存在だ。

 

 …しかし、こいつに悪気があろうと無かろうと、人間に害をなす存在ならば、排除しなければならない。人間は昔からそうして生きてきたのだ。

 

 ……最後の仕事だ。

 

 こいつは沙夜子ちゃんに取り憑き、無垢な魂を弄び苦しませた。その事で美香ちゃんまで悲しませた。傷付けようとした。

 

 人を傷付けた霊は、滅さねばならない。

 

『…おい、お前…』

 …まだ何か仕掛けてくるかもしれない。僕は油断せず、ゆっくりと間合いを詰める。

『ひいぃっ!』

 満身創痍の青年は、腰が抜けているらしく惨めな様子で悲鳴を上げた。

『ゆ…許して下さい!』

『…駄目だ』

 僕の方も満身創痍であった。霊体へのダメージは肉体へのダメージにイメージ変換される。霊体にアバラはないけど、僕はあいつの一撃を受けてアバラが2~3本折れたような衝撃をイメージしてしまい、実際そのようなダメージを受けている状態だ。動く度に鈍い痛みが身体中を走る。

 

『…お前は僕の大切なものを傷付けた。…これが許せるほど、僕は大人じゃないんだよ…!』

『ひいぃぃぃぃぃ!ゆ、ゆるしてっ…!』

『…許しなら地獄で沙夜子ちゃんに乞うんだな!』

 …いやいや、沙夜子ちゃんまだ死んでないよ!しかも地獄って…!いや、ここは勢いが大事だ。動揺を見せてはならない。

 僕は出来るだけ感情を殺し、残った右手の霊刀を振り上げ、上段に構える。

 青年が涙をためながら足元にすがりついて来る。

『頼むよ!まだ消えたくないんだ、やり残した事があるんだ!だって、だって…』

 …くっ、いけない!耳を傾けるな!刃が鈍る…!

 青年が強い想いのこもった瞳で僕の目を覗き込んだ。

 

『俺だって可愛い女の子とツイスターゲームがやりたかったんだものぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!』

 

『うっ…!』

 …この、イノセンスのラストシーンのような悲痛な叫び…!同じだ…この僕と…!だ…駄目だっ!出来ないっ!このチワワのような純粋な瞳の霊を斬るなんて…僕には出来ないっ!

 ……いや、駄目だっ…!こいつをこのままにしておいたら、いずれまた人間に害を及ぼす事もあるだろう。今、僕が滅さないと…!

『くおぉぉぉ!』

 

 自分の感情をかき消すように気合いの声を振り絞り、再び霊刀を振り上げる。

 迷いを、断ち切れ!

 

『ヒイィッ!』

 

 青年が神を拝むかのように両手を合せ、頭を垂れて足元に蹲る。

 

『………くっ……うぅ………』

 

 …気がつくと、視界が潤潤と歪んでいた。瞳の奥から、次々と生暖かい涙が溢れ出してくる。

 ……くそっ、なんで、何を泣くんだよ僕はッ…!

 

 カシャーン

 

 霊刀が僕の手をこぼれ落ち、床を転がった。身体から力が抜け、僕は膝から崩れ落ち、座り込んだ。こぼれる涙が、膝を温かく濡らす。

 

『ちっくしょぉぉぉぉぉぉぉ!』

 

 …なぜ切れないか?その答えはもうわかっている。

『ヒイィィィ…消える前に一度でいいから女の子とツイスターゲームがしたかったよぉぉぉ……』

 

 こいつは、こいつは……

 

『ツイスターゲームで女の子とくんずほぐれつイチャイチャして、あーんな事やこーんな事がしたかったよぉぉぉ……』

 

 こいつは僕だ!僕と同じなんだ!

 

『うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!』

 

 

 …僕は青年の霊をしっかりと抱き締め、大声で泣いた。

 

   ※※※

 

 カラカラカラ……

 

 スピナーの回る軽快な音が、心地よく部屋の中を走っていく。

 …しかし音の軽快さとは真逆に、僕と沙夜子ちゃんの表情は重く、真剣そのものだった。

 

 ごくり…

 

 沙夜子ちゃんが喉を鳴らす音までが聞こえるようだ。

 

 カララ……ラ…

 

 スピナーの勢いが次第に弱々しくなってゆくのに反比例して、僕らの緊張は強くなっていき、重苦しい沈黙が場を支配した。

 

 ………ッ。

 

 スピナーが止まる。

 

「はーい!天馬お兄ちゃん、左足、赤!」

 

 美香ちゃんの明るい声がスピナーの目を告げた。

「やった!」

「まうー!?」

 僕の安堵の叫びと沙夜子ちゃんの悲鳴が同時に上がった。今の目のおかげで、僕の姿勢はだいぶ楽になるのだ。

 

 現在僕と沙夜子ちゃんは複雑にこんがらがっていた。

 僕は仰向けに鳥の手羽先のようなキツいブーメラン型になっており、沙夜子ちゃんはその上でうつぶせに両手足を伸して、橋かトンネルのような体勢になっていた。沙夜子ちゃんは多少プルプルしていたが、僕に比べればずっと楽な姿勢である。

 …しかし今の目で、攻守は完全に逆転したのだ。

 僕はそろっていた両足を崩し、スピナーに従って左足を伸ばす。沙夜子ちゃん橋の向こう側である。

 伸した足に合わせて身体全体を楽な体勢に持っていく。…僕の身体は、仰向けのまま沙夜子ちゃんの下に潜り込んでいった。僕の顔は、ちょうど沙夜子ちゃんの顔のやや下くらいだ。

 うひょおお!かわゆいゆいの沙夜タソの身体の下だよー!

 ちょっと辛そうに顔を赤くしている沙夜子ちゃんと目が合う。沙夜子ちゃんは吹き出しそうになり、笑って力が抜けないように必死にこらえていた。可愛いいよぉ~!ああ…両手をバンザイのように伸してる無防備な膨らみかけの胸…すべすべの脇…。こ、こ…

 

『これだよぉぉぉぉぉ!これがツイスターゲームの醍醐味だよぉぉぉぉぉぉぉ!』

 頭の中で、山田くんの歓喜に震える声が響いた。

「こ、こら、うるさいっ!」

『ご、ごめんよ天馬氏ぃ。でも俺、こんな美少女とこんなに近付いたの生まれて初めてなんだよぉぉぉ!ああぁぁ~!サラサラの髪の毛が天馬氏の顔にかかって…良い香りだよぉぉぉぉ!くんか!くんかくんか!すーはーすーはー!』

「自重しる!わかったから興奮するなって!僕の心まで乱れる!」

『そんなこと言って天馬氏ぃ、自分だって沙夜タソにハァハァしているくせに~!今の俺は天馬氏と一心同体だからわかりますぞぉ~?』

「くっ…!」

 

 ブツブツと自分の中の山田くんこと先ほどの霊と会話している僕を、目の前の沙夜子ちゃんが不思議そうに見つめる。

「まうー、お化け何か言ってる?」

「い、いやぁ~、ははは…、負けないぞってさ…」

「まうー、沙夜子だって負けないもんね」

 

 …まさかこの純粋無垢な沙夜タソに邪な野郎共の汚れきった心の内を説明するわけにもいくまいて。

「お化け、はやく天国に行けるといいね!」

 沙夜子ちゃんが、ナイショ話をするようにコショコショ声で僕の中の山田くんに語りかけた。

 

 ……そうなのだ。山田くんに同情してしまい、どうしても斬る事ができなかった僕は、山田くんの未練を断ち切る形で彼を成仏させる事にした。そのままでは相手の肉体に触れられない彼を僕の中に入れて、女の子とツイスターゲームをやらせてやろうというわけだ。

 …沙夜子ちゃんは一度彼とシンクロしていたので、彼の気持ちは大体理解していた。…まあ無垢な沙夜タソは青年のムラムラした性欲というものが理解できなかったようで「ほんとうはツイスターゲームでみんなと遊びたかったけど、上手く言えなかった」というふうに、絵本的な解釈をしたようだった。…まあそう思ってくれていればやりやすい。

 そんなわけで沙夜子ちゃんと美香ちゃんには、山田くんが満足するまでツイスターゲームに付き合ってあげようと説明し、二人も心よく協力してくれて、今にいたるわけだ。

 …それにしても山田くんはよほど興奮しているのか、まだ1ゲーム目の中盤だと言うのに今にも成仏しそうな勢いである。それも沙夜タソがあまりに可愛いらし過ぎて生きてるのが辛いゆえであろう。

『て、天馬氏ぃ、勝負に勝つために、沙夜タソの首筋や脇の下にフーフー息を吹き掛けてくすぐるのですぞー!』

「な、なにを卑猥な…!そ、そんなけしからん事できるわけフーフー!フーフーフーフー!ヒッヒッフーフーフヒィ!」

「んぁっ…!」

 沙夜子ちゃんは突然首筋に息を吹き掛けられ、ゾクゾクッと震えてくすぐったそうに肩をすくめた。

「やん、くすぐったいよてんま!ずるいー!」

 うはあぁぁぁぁぁぁ!可愛いよ可愛いよ沙夜タソォォォォォォォォ!

 自分の中で山田くんが萌え悶えているのがわかる。

「ふふふ沙夜子ちゃん、相手の身体を押したりしなければルール違反ではないのさ。このポジションになった事はまさに僥倖…!それ、覚悟しろ沙夜子ちゃん!」

 肩をすくめたって庇う事のできない可愛いお耳にフーフーする。

「ひぅっ!らめぇ、くしゅぐったいのぉ!」

「ふいひひひフーフーふひフーフーフーフー」

「あっ、あ~~!らめぇ!てんま、そんなとこフーフーしないれぇ!」

 必死に顔を反らす沙夜タソ。くっ!ゆるしてくれ沙夜タソ!これも全部山田くんを成仏させるためなんだ!

 …自分の中でも山田くんが興奮して猛り狂っているのがわかる。このロリコン野郎めッ…!しかし迷える霊を成仏させるのが僕の役目…。沙夜タソ、とどめだっ!

 首から上に神経を集中している沙夜タソの、無防備にさらされていた脇に、不意打ちで思い切り息を吹き掛けた!

 

「ひゃうー!」

 不意を突かれた沙夜タソは一際大きく身体を反らし、その勢いで手を滑らせて、僕の顔の上に倒れ込んできた。

 

 僕の顔の上に、沙夜タソの膨らみかけたちっぱい苺ましまろが……

 

 ふみゅっ☆

 

 

『ふ わ あ あ あ あ ぁ ぁ ぁ ぁ !』

 

 

 …そして山田くんは、二つの意味で天国へと昇天して行った……。

 

   ※※※

 

「ふふっ、……あ…、さ、沙夜子ダメぇっ…。太ももくすぐったいったら…!くふふっ…!」

「まうー、みーの身体あったかくて柔らかーい!ふふふっ…」

 

 小鳥のさえずりにも似た、女の子達の楽しげな黄色い嬌声が、部屋の中を明るく満たしていく。

 僕は今スピナーを回しながら、目の前のツイスターゲームのシートの上で繰り広げられている、美少女達のめくるめく百合ワールドに股間を熱くしていた。

 自ら参加して直接触れ合うのもたまらんですが、こうやって美少女達が絡み合ってる姿を色んなアングルから観賞するのも良いですなぁ…ハァハァ…!

 

 …そんなわけで、山田くんが天国へと昇った旨を二人に説明した後、僕らは愛奈ちゃんと詩織さんが帰ってくるまでの間、楽しくツイスターゲームで遊んでいる所だった。

 スピナー役が回ってきた時は心の中で舌打ちしたものだが、やってみるとこの役は素晴らしいものである。

 僕は二人が手足以外を地面についていないか確認する名目で、様々な角度から沙夜子ちゃんのワンピースの中や美香ちゃんのキャミソールとホットパンツの隙間を楽しむ事が出来た。最近の3D美少女ゲームで、カメラアングルを自由に動かせるような感覚である。ホッヒヒ!

 

「あっ!天馬お兄ちゃん!沙夜子ひざ着いた!見て!」

「まうー!ついてないついてない!」

「な、なんだってぇー!?沙夜子ちゃん、そのまま動かないように!」

 僕はより正確に判定するために地面に腹這いになり、沙夜タソのお尻側から這うように接近した。より正確に判定するためにだ。何か問題でも?

 さて、審議中なわけだが……

 

 …ふわあああああぁぁぁぁ!四つん這いの沙夜子ちゃんの白ワンピが重力で垂れて、白いお肌との間がたくさん空いてりゃよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!すらりと長い足、白パンツに包まれたちっちゃいお尻、引っ込んだお腹に可愛いおヘソまでが一望できりゅうぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!どこの絶景スポットだよぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!

 …くっ!胸のあたりがもうちょっとゆったりした構造ならなぁ…!下パイどころかトップまで全部拝めたのにいぃぃぃぃ!

 

「天馬お兄ちゃん、どう?」

 

 …あっ、膝とか正直まったく見てませんでしたすみません。しかし、どちらかが負けたらこの美味しい役目が終っていまう!まだまだ楽しませていただきますよぐへへへ!

「うーん、これは着いてないねぇ…。続行!」

「まうー☆」

 沙夜子ちゃんが目を輝かせて僕に感謝の合図を送る。こちらこそご馳走さまでしたムッヒヒ!

「まうー!天馬、今度はみーがヒザついた!」

「ついてないよー!」

「よっしゃあぁぁぁぁ!美香ちゃん動かないでねぇぇぇぇぇ!」

 僕はプロレスのレフェリーのようにシュバッとダイビングし、美香ちゃんの真横の床にベチャリと寝そべると、目を血走らせながら判定を始めた。

 み、美香ちゃんの雌豹のポーズ真横から見るとスタイル良過ぎるよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!

 たわわに発育中の瑞々しいオパイは、美香ちゃんが重心を動かす度にプルン☆プルン☆と楽しそうに揺れる。キャミソールがちょっとめくれて、スポーツで引き締まった綺麗なウエストとおヘソ、あどけなさの残る背中がチラチラと覗いている。そして高く突き出された可愛いヒップ、そこから伸びるピチピチした太もも……後ろから頬擦りしたいぃぃぃヤッホォォォォォォォォォォイッ!!

「てんま、沙夜子の勝ち?」

「うーむ、これままだ着いてないようだね」

「でしょ?」

 美香ちゃんがホッとしたように僕に笑顔を向ける。ああ…心が痛いけどスピナー役だから仕方ないよね。ホッヒヒ!

 …そのように夢のような時間を満喫していた時であった。

 

 ガララッ

 

 玄関の方から、ドアを開ける音が聞こえた。

 

「ただいまー、みんないる~?」

「お姉ちゃん、天馬さんの靴!」

 

 この声は…

 

 沙夜子ちゃんがミーアキャットみたいに素早く立ち上がって耳を澄せ、歓声を上げながら部屋を飛び出して行った。美香ちゃんも慌てて立ち上がり、僕の手を引き一緒に玄関へと向かう。

 …階段を降りると、沙夜子ちゃんが眼鏡をかけた16~17歳くらい胸の大きい女の子の持つ買い物袋に鼻先を突っ込み、子犬のようにフガフガと物色していた。そのとなりにいる清楚で美しい19~20くらいの髪の長いお嬢さんが、困ったように笑いながら沙夜子ちゃんをたしなめている。

 

「愛奈ちゃん!詩織さん!」

 

 二人が同時に顔を上げ、花が開くみたいに極上の笑顔を輝かせた。

 

「天馬さん!」「天馬くん~!」

 

 うほおぉぉぉぉぉぉ~!二人ともすげえ綺麗になってるよぉぉぉぉぉぉぉ!

 愛奈ちゃんはやはり2階ベランダに干してあった下着の通り、素晴らしいオパーイに成長していた。美香ちゃんはまだ発育中で「プルン☆プルン☆」といった感じだが愛奈ちゃんは「たゆん☆たゆん☆」といった感じである。清楚な印象なのにすごくエロい、グラビアアイドルみたいな綺麗な身体をしていた。白くレースのついたキャミソールに、黒のフワフワしたミニスカートから伸びる生足が眩しかった。

 そして詩織さんは相変わらず貧にゅ…スレンダーな美しい身体つきである。沙夜子ちゃんとよく似ていて、沙夜子ちゃんが美しく成長したらこんな感じになるのではないだろうかと思わせる。淡い桜色のサマードレスにチューリップハットが、なんだか育ちの良いお嬢様のような印象である。白いうなじと鎖骨が儚げでよろしい。

 

 詩織さんがフンワリと上品な笑顔を浮かべて言った。

「天馬くんお疲れ様~。沙夜子達と遊ぶの大変だったでしょう?元気が有り余ってるから~。…二人とも、天馬くんにありがとうって言った?」

 美香ちゃんと沙夜子ちゃんは僕の両側に来て腕にしがみつく。

「うん!天馬お兄ちゃんと新しいゲームしたの!」

「まうー!とっても楽しかった!」

 それを聞いて、詩織さんは優しい笑顔を浮かべる。

 愛奈ちゃんが買い物袋を下ろしながら、美香ちゃんに訪ねる。

「お留守番の間、何か変わった事なかった?」

 それを聞いた僕たち3人は、顔を見合わせてから、声を揃えて言った。

 

「「なんにも!」」

 

 僕たちの顔には、秘密を共有しあったもの達の浮かべる、ちょっとイタズラっぽい笑顔がたたえられていた。

 

「?」

 

 

 愛奈ちゃんと詩織さんが、不思議そうに顔を見合わせ、首をかしげた。

 

 

 カラララ……カラララ……

 

 庭の花壇に飾ってある風車の回る音が、なんだかスピナーの回る音のように聞こえた。

 

 

 

~おしまい~


 
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