No.384884

痛みという名の騙しあい

日宮理李さん

杏子メインという感じで書こう、そしてバトルシーン書く練習しなきゃという考えからこうなりました。※ブログのものと同じです。

2012-02-29 19:51:57 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:561   閲覧ユーザー数:561

 魔法少女となったアタシとさやかはお互いを見合うようにして立っていた。

 場所は、学校の校庭。そして、深夜だ。月明かりがアタシたちを照らすよう輝いてやがる。

「……?」

 学校の中は誰もいないようだ。電気が補助灯しか点いていない。

 まさかこれから誰も来ないとは思うが……、もし仮に誰か来たとしても一瞬で距離を詰めて気を失わせればいい。ただ、それでも注意しなければいけないのは力加減だ。加減を忘れて手刀で首を吹っ飛ばす……なんてことをアタシたちはできる。

 ――まぁ、仕方が無いことさ。

 だから、それを忘れてはいけない。だが、戦ってる最中にそんなことを考える余裕がアタシにもさやかにもそんときにならなきゃわからない。

 だから、こういう深夜に歩くような連中が来ないことを祈るばかりだ。まぁ、学校なんて深夜に来るもんじゃないだろ。通ってないからなんとも言えないが、ほら見てみろ。

「……」

 薄暗くて、何かが出そうじゃんか。幽霊なんか本当にでやがったら、出るかもしれないって、そんな感じの噂があれば……。この時期来るかもしれないがそんなのさやかにだって、ほむらにだって、他の連中にさえ聞いたことがない。

 まぁ、まどかには聞いたことないけどおそらくそんな噂なんてない。一番確実なのはマミに聞くのだが、あいつに聞くのはなんだか心が拒否する。だから、あいつには聞かない。

 ――そうしなければ、あいつの元を去った意味がない。でも、今はこうしてマミの家に下宿してるからそんな意味はもはや無意味かもしれない。だったとしてもあいつに聞くのはアタシが許さない。それは誰がなんと言おうとも……だ。

 だから、――たぶん大丈夫だろうと思う。まぁ、だめなら殺してしまうしかないけどな。そう、来る奴が悪いんだ。聞き分けがない子供なのだから、

「ふぅ……」

 用意しとけば、損はなしってな。だからって、殺すフィールドにいれなければそんな心配事不要だ。

「あんたのそれ便利だよね」

「そうか? ただ疲れるだけだよ」

 そういって、アタシは出現させた結界魔法の壁を叩いた。これで多少なりともましになっただろう。近くに人がくれば余計不審にみえるかもしれない。それはそうだろう、真夜中に突如して壁のように存在している赤い色の檻。しかもそれが学校全体を包み込んでいるなんて知ったら気味が悪いだろ。少なくともアタシはそう思う。

 でも、これで空を飛んでくる以外この結界に入ってくることはなくなった。もしこれで入ってくる奴がいるなら、そいつは考えるまでもなく、敵――。そうアタシは認識する。警告はしたんだから、 ――仕方がない。

「なぁ、さやか。ほんとにこんなのが必要なのか?」

 槍をさやかに向けてる手前、言ってる意味がわからないが……。本当に重要なのだろうか。意味があるようには到底感じられない。

「当然でしょ……? 限界値ってのは誰にでもあるって知ってるよね? 徒競走が早い人……遅い人、泳ぐのが得意な人、野球が好きな人とか……いろいろあるでしょ?」

 確かにお腹の減り具合がわからんきゃ、ご飯は美味しくないときがあるけどさ。

「……そうか?」

さやかが目を閉じ唸りながら、

「でもさ、やっぱり人間ってさ。限界ってのがあるんだよ。それはあたしたち魔法少女にしたってさ、限界は当然あるじゃない? ほら、これを見てよ」

 さやかが右手でお腹にある自分のソウルジェムをはずすとアタシに見せつける。ソウルジェムはさやかの脈動を感じているように、中の液体が音をたてるよう泡立っていった。

 そして、それを下に戻すのを確認して

「……ソウルジェムがどうかしたのか?」

 それが気味の悪いものに見えアタシは、視界から逸らした。目を逸らしたところで何も変わらないのはわかってるはずなのに……な。

「これがどんどん黒くなればなるほど、あたしたちは弱くなっていく。だからこの今の穢れが何もない状態にグリフシードを使って浄化していくしかない。知ってるでしょ?」

「そうだけどさ、わざわざそれの限界値を知るってことは……お前はさ、ひょっとしてマゾなのか? 別に人の趣味にくちだすつもりはさらさらないんだけどな、もしもそういう意味での頼みごとならアタシはパスだね」

 そう痛みを感じるだけなんて、ただの変態だ。だけど、それを悪いとはアタシは思わねぇ。人の趣味だ。人の趣味に口をだすほど、アタシはおかしくはない。だけど、そのためにアタシを利用するってならアタシは別だ。

 そのためにアタシはいるんじゃない。

「はぁ!?」

 さやかは一瞬にしてゆでタコのように真っ赤に顔を染めた。言わなくてもわかってた。さやかがそういうことを考えてるわけじゃないって。

 ――少しからかっただけさ。

 それを否定するように大きくさやかは息を吸って、

「何言っちゃってくれてるの! あ、あたしはそういったことなんてやったこともしようと思ったことなんてない! きょ、興味がないわけじゃないけどさ! マゾとかサドとかそんな気さらさらないよ!」

 その言葉を始めとして、アタシは槍をただ伸ばした。まっすぐにさやかへと、それは不意打ちってやつだ。

「っ! あんたってさ――」

 それを瞬時に判断したさやかが長剣でそれを弾いていた。だから、槍を元のリーチへと戻す。秒数にしてだいたい二十秒ほどといったところか。相変わらず瞬発力だけは強い娘だと思う。

「やる気ないとか言ってる割にはじめてるじゃないの! しかも勝手に!」

 長剣を振り回すさやかがそういつつ後ろに距離を取ろうと動くのが見えた。

「やるってのに、いつからとかないだろ?」

 だから、第二射を向けた。戦いってのに待ったも、始まりもない。いきなり始まっていきなり終わる。生きるか死ぬかの瀬戸際だ。

 だから、アタシからそれをはじめても誰も文句はいえない。

「ぐぅ……!」

 それを見てさやかは右へと歩き出す。――いい考えだと思う。この攻撃は直進する攻撃。だから、左か右に大きく移動してしまえば、狙いがそれてしまう。

「だからって――」

 それを許してしまう奴なんていない。だから、アタシは伸ばすのと同時に念じた。

 ――分かれろと。その意志を感じて、槍が何一定間隔で拘束を外していく。複数の関節部の結合部分が顕になる。その姿は三節棍。槍の形はそこには残っていない。だからこそ、直進以外の攻撃が可能となる。

「はぁ!」

 それを身体でバネのように使ってねじり込む。――ただ、右へ右へと振り下ろすように。そうすることで分かれた槍が段階的に右へと曲がっていく。

ただ追跡する――さやかの身体を追っていくように。槍の刃の矛先がさやかへと直線になるのを確認して動きを止める。

「はぐぅ」

 それがさやかの背中へと到達する瞬間にあいつはそれを上へと身体を反転させる力を利用して弾き返した。

「――やるじゃないか、さやか!」

 だから、そのまま上から下へと振り下ろす。弾き返したところでこの攻撃は更なる追撃を行える。それがこの武器の強みだ。

「何回あんたの戦い方を見てると思ってるの……! だから!」

 振り下ろすよりもはやく一歩を踏み込み、さやかはこちらへと走り始めていた。槍を引き戻すには ――間に合わない! そう思った時には左手に魔力を込めていた。

「そんなに長くしたら、そのぶん自分の身を守ることができないんじゃないの!」

 そういって、さやかが飛び跳ねると長剣をこちらへと向ける。突撃してくるつもりなのだろう。でも、そうはさせない。

 だから、右手の槍を投げ捨てるよう離すと左手を前に向けた。赤い光がいっそう強くなる。

「何もあんたとマミだけじゃないんだよ、複数使えるのは――」

 そして、それを解き放った。――射殺せと命じて。

「ぐぅふ! っあ!」

 それは見事に的中した。さやかの右胸を貫くようにしてそれは伸び続けていった。貫いたという感触がアタシを包み込む。それを確認して、槍の伸張を止めた。

「なぁ、さやか。やめないか……。アタシはあんたが傷つくのも傷つけられるのもいやんだけどさ……。他のやつなら構わないだけど――」

 その言葉と同時に槍を魔法で消す。いやその言葉の続きを消すために、それをしたんだ。聞かれたくないただそれっだけのためにさやかを浮遊させた。

 それにより、重力の影響で数メートルの高さからさやかが落下した。これで頭が冷えてくれればいいんだけど。

 ――まぁ、無理だなとアタシは思う。それだからこそ、美樹さやかなんだから。

「いてて……、あんたさぁ、派手にやってくれるじゃない。お陰でこのままだとあたしはただの露出狂だよ」

 立ち上がるさやかの右胸元はその後ろがよく見えるくらいの穴が開いていた。そしてそれの影響によって女性特有の胸が一部がみえる。それを狙ったわけじゃないのなぁと腕を組んで、

「ばーか、ここにはアタシしかいないし、あんたの貧相な胸なんて見たって何も思わねぇよ」

 本当は違った。もっと、別の場所でさやかの綺麗な肌が見たかった。だけど、それを面と向かっていうほどアタシは正直もんじゃない。だから、言葉を濁す。

「くそ! そんなことないのに……」

 さやかが下をうつむく。そしてその穴が蒼い発光色に包まれたかと思うと、綺麗にふさがっていた。

「傷は癒えても服は治せないってか」

 ここからでもはっきりと見えた。さやかの胸にあるピンク色の乳房が。

「そこまではわからなかった。服は治らないみたいね。あっ、こっちみんなよ! よし、じゃぁ、これでと」

 そういって、顔をトマトみたいに赤くしたさやかはそれに気づいたのかマントを胸元を隠すように巻きつけ、

「よし、じゃぁ続けようか」

 こちらを見るその顔はもう赤くはない。

「やっぱ続けるのか?」

 右手に魔力を集中させ槍を召喚する。

「当たり前でしょ、一回やられただけじゃ、あたしのソウルジェムはまだびくともしない」

 確かにさやかのソウルジェムは濁りをほとんど入っていないようにみえる。だけど濁らないはずがない。ここらじゃよく見えないだけだ。槍を強く握りしめる。

「じゃぁ、一気にケリをつけるしかないんだな」

 槍を強く握りしめる。なら、起き上がれないくらいボコボコにするしかない。それが終わったら、二人でお風呂に入るのも悪くない。

「そうね、あんたにあたしが倒せるならね」

 そんなことを考えてる気もしないさやかは、すごくいい表情でこちらを見ていた。男らしいというのかそういう真剣な顔だった。

「ほざけ、さやかがアタシに勝てるわけがない――」

 長剣がアタシの右頬をかすった。

「へへ、さっきのお返しかい?」

 頬に触れると血が出てるのに気がついた。やっぱり、さやかと戦うのは面白い。そう思う。最初に会った時からずっとずっと、そう思ってた。アタシと同じ心を持った少女。そして戦えば戦うほど強くなる魔法少女と。

「いいや、あたしの胸を見た代金だよ」

 真剣な顔して何を言ってるんだか……だから、

「意味わかんねーぞ、さやか」

 その言葉の返しなのか長剣が連続して飛んでくるのが目に入った。

「接近できないなら、長距離からって発想か!」

 それを一ずつ回避していく。時に当たりそうになったものは槍で矛先を変える。投げたものの方向を変えられないのは知ってた。だから、少し触れるだけでそれは当てもしない場所へと飛んで行く。

「相変わらず、猪突猛進ってか」

『何を!』と声を張り上げたさやかは先程の倍以上のスピードでそれを投げてくる。

「ちっとは、頭を使えって!」

 数を増やしてもやること変えなきゃ意味ねぇ。それに対してアタシがスピードを上げて対処すればいいだけ――。

「知ってる! だからこうした!」

「えっ!?」

 その声は回転途中だったアタシのすぐ近くから聞こえる。ちょうどさやかに後ろを向けた時にそれは聞こえた。

「うらぁ!」

 その声と同時にアタシは背中に痛みを感じた。上から下へと振りかざされる刃物による痛みを。

「ぐっ!」

 その痛みに耐えながら右手に力を入れた。

「いけっ!」

 それがアタシに答えるように伸びて、

「ぐあぁ!」

 それに当たり押し上げていくのを感じる。だから、そこから右足に力を入れて、

「うらぁ!」

 左から右へと乱暴に振り回した。その影響で地面にはアタシの血が飛びちっていく。

「はぁはぁはぁ……」

 それをモロに受けたと思われるさやかは土埃の中で倒れていた。どれくらいの速さと威力を出したのか自分でもわからない。ほとんど反射的だった。

「へへへ、やるじゃないか。やっぱ、杏子はそうでなくっちゃね」

 そういって長剣を支えにしてさやかは立ち上がっていた。頭のどこかが切れたのか血が出ている。アタシも予想以外のダメージを受けた。

「あはは……」

 血が出てるのはアタシも同じか。それもこんなに回りに飛び散らせたんだ。アタシのほうが出血が多いかもしれない。さっきの一撃はどうやら首まで斬りつけてきたみたいだな……、首筋がチクチクしやがる。

 ――まぁ、魔法少女に出血なんてものは関係ない。背中が暖かくなるのを感じた。さやかほど早くはないが傷は治しておいて損はない。ある意味で人間っていう部分を捨てられないところなのかもしれないな。

「大分辛そうじゃないか? やめるか」

「やめるわけないじゃない……バカにしてるの?」

 言葉とは裏腹に足にきているのか、小刻みに足が震えていた。でも、さやかは笑っていた。それを否定するかのように。

「そんな姿じゃ、ざまぁねぇんだけどさ?」

「む、武者震いってやつだよ! そう、そうに違いない。あたしがあんたに震えたりなんかしない。ずっと、ずっとね! あたしのほうが――」

 それを言わせる前にさやかへと槍を投げ込む。――当てようとは考えない。脅しのつもりだった。

「つ、強いんだから!」

 でも、それが到達してもさやかはそれを言葉にした。自分のほうが強いと。

「強いか……」

 それは本当の強さなんだろうか。かつて、アタシも強さを求めた。それは自分を守るため、自分を隠すため……そういうのが積もり積もって誰よりも強くなろうと考えた。

 そのときに出会ったのが巴マミだった。

「じゃぁ、一気にケリをつけるしかないね。そう強いってのに答えるためにはさ!」

 全身に魔力を行き渡るように集中する。今のさやかにアタシを止める術はない。あったとしてもさっきみたいに油断しない。確実に息を止める。そういう気持ちでぶつからないとあいつの心は折れない。

 ――それがあいつの強さなんだろう。――ぶれない心。

 だからこそ、心の中で念じた。かつて、巴マミに名付けてもらった幻惑の魔法『ロッソ・ファンタズマ』と。

 魔力がアタシを貫いて輝いた。そしてそれが人の形を構成する。

「なっ、杏子が増えた!?」

 長剣の支えをなくし、こちらへと長剣を向ける。

「何を言ってるんだ。最初からいたさ」

 そうこいつらはアタシ自身……、だから最初からここにはイタ。さやかは

「一人、二人……って、五人の杏子!? これは魔法……」

 それを数えるよう指を差してきた。だから、それに答える。

「そう、さやか。あんたが癒しの魔法少女っていうなら、アタシは幻惑の魔法少女さ」

 幻惑でもそれは幻覚。

「でも、それって使えなくなったとか、マミさんが言ってたけど」

 何かを思い出すかのようにこちらへと顔を向けた。正確にはアタシの顔をした幻惑に。

「あぁ、そうだな。そうだったかもしれないな」

 余計なことを教えなくていいのに。確かに――使えなかった。間違いない。アタシはちょっと前までなくしていた。いや、使うことを恐れていたかもしれない。

 それは巴マミの元を去ったこととか、たくさんの理由がある。その結果として満たされない理由から、アタシは違うものによって栄養を取ろうとした。でも、それでもそれは満たされなかった。

「だから、これでおしまいさ! さやかぁ!」

 ――でも、それは今は満たされてる。それがわかるか、さやか?

 アタシが一歩進むと、幻惑も同じように進む。右手に力を入れれば同じように力を入れる。さやかは何かを考えるよう下をうつむいた。

 ――それは決して口にしないけど、取り戻すことができたんだよ。一人の少女によって……な。

「……?」

 ここから挽回する策でもあるのか? とてもあるようにはアタシには思えないけどな! だからこその幻惑魔法『ロッソ・ファンタズマ』なのだから。

 ――アタシだけの無敵な魔法。

『この調子でもっと人数を増やせば、ロッソ・ファンタズマは無敵の魔法技になるわ!』そうあの人は言ってくれたっけな、アタシに。お姉さん、いや師匠と呼べるあの人が。

「だぁああ、どれが本体かわかりゃしない……」

 さやかの悲鳴に似た叫びを聞いて、アタシは口元が緩んだ気がした。さやかの反応が予想通りなのもあるけど、戦いの中だってのに、どこか愛らしさまである。それが可笑しく思えた。さやかがそんなだから、アタシは笑っていられる。だから、それをアタシは悪くないと感じることが出来た。

「なぁ、さやか――」

「――じゃぁ、全部殺ればいいってことだよね?」

 アタシの声を遮るように面を上げたさやかの表情に一瞬だけ恐怖を感じた。それはなぜか的確に幻惑じゃない本体であるアタシを睨めつけていたから。さやかなりの野生の勘ってやつかもしれない。

 だからって、この攻撃をやめるつもりはない。一歩ずつ進む、動けないのか動かないのかさやかを討ち取る。ただ、それだけを心に描いて。

「はぁ!」

 幻惑が次々とさやかへと攻撃を加える。それによって、防戦一方になるのが見えた。時に幻惑となり、時に実体となり少しずつだか確実に終末へと近づいてるのを感じる。

「そうやって、いつまで耐えてるつもり?」

「うるせぇ、増えるなんてずるいだろ!」

「戦いにずるいっていうのはないんだよ」

 服が削れているのに目が行く。なんだかんだ言ってさやかもアタシと同じように確実に刻み込んできてる。

 なら、攻める準備もさやかにはできてるんだろう。

「ふぅ……!」

 防戦一方だったさやかが右足を踏み込んだ……、おそらく左か……!

「ふっ!」

 かけ出していた足を思いっきり体重をかけ、スピードをおとすと、

「それで回避したつもり――」

 さやかの長剣がちょうど、アタシが本来踏み込んでいただろう場所を横一線に切り裂いていた。

「当たらなきゃ意味ないだろ?」

 この台詞はそういうときに使うものだ。槍に力を込める。下がった瞬間一気に距離を詰める! 幻惑による同時の攻撃。どれが本体か見分けがつくわけがない。

「――知ってる……、だからこれで!」

 さやかのスピードは落ちずそのままこちらにきた。そして、それを振り下ろす。

「確かにね! 良い攻撃だよ。でもそいつは――」

 幻惑だ。

「だから、甘いんだよ!」

 斬り裂かれた幻惑から、さらに幻惑のアタシが生まれる。

「うるさい!」

 それがさやかを包囲していく。一人ひとりと確実に追い込む。

「はぁ!」

 それを気づかせるわけにはいかない。だから、攻撃することもやめない。連続して突く、突く、振り下ろす。それでお終いだった。

「残念だな、さやか。これで終わりだよ」

「くぅ……」

 ――包囲終了。アタシの幻惑がさやかの全てを包囲する。あとは槍を全員で突けば、もう結果は見えてる。さやかの顔には焦りとなぜか楽しさを感じた。

「逃げ場なしって?」

 そして、さやか上を向いた。それからの行動ははやかった。確かに上へと逃げればこの包囲は突破できる。

 だからこその包囲だった。だから問う。

「さやか、どうしてそこが空白だったか考えなかったのか?」

 それは明らかな誘いであったから。

「――考えたからだよ。本来の目的を忘れてない?」

 その言葉を最後にさやかはアタシが召喚した槍に貫かれて空を飛んだ。

 

☓ ☓ ☓

 

「おい! さやか! おい! 起きろってば!」

 ソウルジェムは確かに浄化したはず……、さやかの手元から奪い取ったそれは確かに最初の穢れなき青い光を放ってる。それでもさやかは目を開けようとも動こうともしない。

 アタシの攻撃によって、吹き飛んださやかは気を失って、元の制服姿へと戻った。ボロボロだった魔法少女の服と違って、それはとても整われていた。だからこそ、外見上は問題なく見えた。大丈夫に見えていた。

だけど、アタシの声は届いていないのかさやかは目を開けない。答えてくれない。

「そうだ……!」

 さやかの制服を乱暴にめくって、下着を乱暴に投げ捨てると耳をさやかの胸元に押し付けるように乱暴にくっつけた。

「あっ……!」

 音は何もしない――そうだった。とても大事なことを忘れていた。アタシたちの肉体ってのは、もう肉体と呼べるものでないんだ。いわゆる、傀儡のような人形。このソウルジェムが操ってるんだ。

それに答えるよう相変わらずさやかのソウルジェムは脈動をうつように、泡をたてていた。こいつが壊れてなければ大丈夫なはずなのに……、どうして目を開けてくれないんだよ。お前が全力出来たからアタシもそれに答えた。

ただ、それだけなのに……。

「ん……」

「さ、さやかぁ!?」

「えっ、な、何あたし一体? ど、どうして……!?」

 目を開けたさやかは顕になった肌を隠すように服を寄せていた。顔はさっき見た以上に赤面して、身体を守るかのように縮こまってる。

「きょ、杏子、まさかへんなことしてないよな?」

「はん、どうだろうな? 仮にそうだったとしてお前どうすんだ?」

 ――大丈夫だった。よかった。ほんとになんもなくてよかった。これで意識不明の重体って何かになったら、アタシの目覚めが悪い。こうしてと言われたもんだからってのは、理由にならない。やっちまったものはやっちまったものさ。

 だから、こうして生きてると実感させる動きをするさやかをまた見ることができて、ほんと安心した。もう、二度と大事なモノを失いたくない。

「ちょっと、後ろ向いてて!」

 そういって、アタシが捨てた下着をまた同じ場所につけようとしていた。

「あん、別にアタシたち女同士だろ、まぁ魔法少女なうちらに通用するものなのかはわからねぇけどさ」

「うるさい! さっさと向けよ」

 悲鳴に近い声を上げたので仕方なく後ろを向くことにした。もう、魔法少女である必要はない。そう感じた私は、

「ふぅ……」

 いつもの私服へと変わった。

「み、見るなよ!」

「後ろ向いてるのに、どうやって見るんだよ。あれか、逆に見て欲しいっていうアピールか……なんだっけか、ほむらがなんか言ってたなツン……なんとかってやつ」

 答える前にもういいよと言われたのでさやかを見た。いつのものさやかがそこにいる。

「結界はいらないか」

 そう念じて、結界を消す。

「実はちょっと杏子に責められるのも悪くないかもと戦ってる時、思った」

 真顔でこいつは何を言ってるんだろう……。

「え、まじで」

 呆れてそれ以外言葉が出なかった。

「嘘に決まってるじゃん」

 さやかが微笑んだ。相変わらずこいつの笑顔は何もいえないくらい綺麗。天使がいるっているなら、きっとアタシにとっての天使は、こいつだろう。

 そんなことを考えてたら、手を触られていた。

「あんだ? 何も出ねぇよ。まぁ、菓子ぐらいならポケットからだせるけど?」

 そういって、アタシは右ズボンのポケットに入っていた小型のスナック菓子の袋を取り出すと、

「食うかい?」

 微笑み返した。

「ありがと、でもさこの傷ってあたしがつけたんだよね? 治らないの?」

 首にうっすらと傷跡があるのかさやかの視線を感じる。

「治るさ、ただ時間が必要なだけさ。腕が折られたとか足がちぎれただとたぶん再生するのに一ヶ月くらいかかる。昔さ、やんちゃしてた頃はいつも傷だらけで戦ってたな。今思えば馬鹿みたいだけどさ」

「そっか、なんかごめんね。手間をかけさせて」

「いいさ、別に……。これはアタシのけじめさ。一方的にやるなんてアタシの柄じゃないし、そんなのを父さんたちがいたら絶対に許さないしな……」

 

 後々、さやかに限界ってのがわかったか聞いてみたら、

「戦いに集中しすぎてわからなかった」

 全くこいつは……と、アタシは笑い返すだけだった。

 


 
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