No.38433

ミラーズウィザーズ「プロローグ」

魔法使いとなるべく魔法学園に通う少女エディの物語。
そのプロローグ

2008-10-30 23:20:15 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:459   閲覧ユーザー数:428

 

   *

 いつの間にか太陽は沈んでいた。

 日の入りが済んだばかりの空はまだ薄明るく、木々の覆い茂る雑木林の中は斜陽の木漏れ日が落ちる。しかし足下は暗がりにぼやけ、このまま走り続けるには不安を覚え始めていた。それでも少女は走る。懸命に走り、形振り構わず逃げ続ける。

 そこは道なき雑木林。一体どちらに向かえばいいのかもわからずに、足を止めてしまう。

 どこからともなく鳥の騒ぐ声が聞こえた。野生が奏でる警告の飛鳴。それが意味するところを理解し、少女は身を固くする。

 風を切る何か。見上げる暇もなく、それは空か降ってきた。

 柔い光の塊だ。生命の光色が目に飛び込んで来る。

 それは魔力だ。幽星気である魔力は本来なら薄く陽炎のようにしか見えはしないのだが、『霊視』の能力を持つ少女の瞳には、その幽世の光がはっきりと映っていた。

 空より放たれた魔力は煙のように空気溶け込み、風のように流れを見せる。そして刺すように地面に直撃し、拳大の穴を穿った。

 明らかに敵意を持って練られた魔法の光。その光の奔流が少女を貫くべく、天から降りそそいでいるのだ。

 足を止めた瞬間の狙い撃ち。少女が身を隠す盾にと飛び込んだ木々は、向かい来る光の衝撃に軋みをあげて爆ぜて削れ、幹をえぐった何かに対する悲鳴の代わりに大きく揺らぐ。

 樹齢数十年の樹木ですら防ぎきれぬ魔法砲撃から、なんとか逃げおおせた少女は空を仰ぎ見る。

 いた。

 隠れようとぜず、隠れる必要もなく、その姿はまさに威風堂々といった趣があった。

 沈んだ太陽の残り日に照らされて映る白い影。空を箒も使わずにかけ翔てみせ、魔法を撃ち降ろした女魔法使いが一人。

 その女は全身白一色の魔道衣と、これまた白い外套を優雅にはためかせ、その割に綺麗な顔に似合わぬしかめっ面のまま、苦々しく少女を見下ろしていた。

 少女はつば唾を飲み込み、喉を鳴らす。

 女魔法使い同士の魔法戦と言えば聞こえがいい。しかし、実際には空かけ翔る白き魔法使いが一方的に地を逃げ惑う少女をいたぶっているようにしか見えはしないし、現状はその通りといえる。

 無論、逃げ惑う少女も魔法使いの端くれではある。ただし、『霊視』は出来るが、ろくに魔法を使えない落ちこぼれと周囲から後ろ指差される下級魔法使い。もう何度となく『魔弾』といわれる魔法砲撃を撃たれているのに、反撃の一つも出来ないでいることがそれを証明している。

 ただ、二人の実力差は歴然であるのに、落ちこぼれのはずの少女は運良く未だに逃げ延びているのだ。それが文字通り少女を見下している女魔法使いの顔が歪んでいる原因なのだろう。未だに仕留められない自分の不甲斐なさに、白き女魔法使いは苛立ちを感じているのだ。

「いつまで逃げるおつもりです。大人しく投降すれば、悪いように致しませんのに」

 幾度目になるだろう白き魔法使いの宣告。

 言われた少女も、彼女の言う「悪いようにしない」という言葉が嘘であるとは思っていない。これまでの攻撃も死なないように手加減してくれているのも肌で感じている。そうでなければ、実力差を考えれば少女が今二本足で立っていること自体、説明がつかない。つまり、投降しても本当に命までとることはないのだろう。むしろ少女には今攻撃されている理由の方に心当たりがないぐらいなのだから。

 しかしだ。いくら死なないように気を使ってもらっていると言っても、有無を言わせぬ突然の奇襲で魔法砲撃を行い、それで一方的に投降しろと言われて、はいそうですかと従えるわけがない。

 少女は走り疲れ荒れた息を整えようと、必死に肺に空気を送り込む。その間も投降を勧める白き魔法使いからは一時も目を離せない。目をそらせば、指先一つ動かせば、容赦なく『魔弾』を撃ち降ろされる。その緊張が少女の動きを束縛する。

 最低限の防御魔法すら使えない少女は、身をひるがえして攻撃をかわす以外の術を持っていない。唯一の能力と言っていい『霊視』により、魔力弾の弾道を視て、そこから逃げ去るしかないのだ。それなのに逃げ出すタイミングが計れず、睨み合うことしか出来ないのである。

 互いに呼吸を読み合う静かな時。その均衡を崩すように、白き女魔法使いが空からゆっくりと地上に降りて来る。白いマント外套がはためき、音を鳴らす。

 蛇ににら睨まれた蛙のような少女の様子を見て、余裕を感じたのかもしれない。女魔法使いの口元は先程よりは柔らかく、笑みをたたえているようにも見える。

「そろそろ諦めましたか? あなたがわたくしに勝てる道理がないことぐらい、初めからわかっておいででしょうに?」

 その丁寧な口調が、逆に少女に反感を覚えさせる。

 確かにその通りなのだ。落ちこぼれと言われ、事実、初等魔法すらろくに使えない、分類上だけの魔法使いである少女。しかもその相手が「統べる女」と異名される上級魔法使いだ。手も足も出ないのは自明の理といえる。

 それでも突然襲いかかってくるような卑怯な相手に、端から白旗を振るのは少女の信条、目指す魔法使いとしての道に反するもの。それに攻撃から逃げているうちにはぐれてしまった連れの安否も気にかかる。このまま捕まってしまうには納得出来ない理由が一つでもあれば、少女は全力を賭して逃げてやる。それが少女の性格であり、生き方であった。

(ほほう。ぬし主、まだ逃げるというのか? なぜ追われているかもわからんというのに。何を考えておる? いや、何も考えてなぞおるまいか。追われれば逃げたくなるのは人間のさが性。それは我もわからんでもない。何せ我は数十年にも渡り、欧州を逃げ回った『魔女』じゃからな)

 どこからともなく聞こえてくる声。しかし、誰もその声に応える者はいない。唯一、その声が聞こえるはずの少女が命からがらの逃走の真っ最中だ。一々、他の者には聞こえない、幻聴の如き声に関わっている暇はない。ただ、無神経にも高みの見物で薄ら笑いを浮かべている幽星体の魔女の声に口元を歪めるだけだった。

(それでどこに逃げる? そちらには何もないぞ。深い森で朽ち果てる気か? せめて逃げる方ぐらい考えい)

 また、どこからともなく声が聞こえてくる。声の主は実体を持たぬ幽星体だけの存在。恐らくは、少し離れた場所で何気なしに空中に漂っているのだろうが、少女が女魔法使いに追われ始めてからは、どこかへと姿をくらましている。それなのに声だけは少女の精神に直接届いているのだ。恐らくは魔女の『遠話』の魔法。

(そんなこと言うなら助けてよ。実体がなくても、どっちに逃げたらいいかぐらい。誘導出来るでしょ。それにはぐれちゃった連れがどこにいるかとか)

 さすがに、言われっぱなしも癪だったのだろう。少女が心中で『遠話』に応えた。

(なぜ我が主を助けんとならん。面倒臭い)

(やっぱり、あんたって最低っ!)

(当然じゃ、我は『魔女』じゃからな)

 当たり前の問答だった。助けろだなんて『魔女』相手に馬鹿げた要求である。

 そんな少女と魔女の心中話なぞつゆ知らず。近付いても動きを見せない少女を見て、やっと大人しくする気になったかと相対する白き女魔法使いの肩から力が抜けた。

 一瞬の油断。それを最後のチャンスとばかりに、少女は再び林の木々の間に飛び込んだ。

 躊躇ない逃走という選択に、白き魔法使いもまた、迷いはない。少女を追い駆け出すと

「あなたまだっ!」

 苛立った言葉と同時に魔法構成が組みあがる。

(ほうれ、また来るぞ)

 不可視の魔女の警告、しかし、その警告が役に立つとは、とても言えるものではなかった。

 刹那、樹木の葉は食い破られるように飛び散り、魔法の光が地をえぐる。

 その魔法起動の早さは尋常じゃない。魔法構成は呪言魔術なのに、その構成を手による印契で無理矢理に置き換えて起動する。理屈はわかるが少女には真似出来ない高等技術である。

 白き女魔法使いは両手で別々の印を切り、『魔弾』を次々に発現させる。呪文演唱もせずに、呪言魔術が使えるなんて、明らかに魔法使いとしての格が違う。

 それでも、少女も伊達にここまで逃げおおせたわけではない。どんな無様でもいい。ただ当たらなければいいと、体のあちこちを地面や周りの木々に擦りつけながら、身をよじって魔法砲撃をかわす。

 足がもつれそうな、しどろもどろな回避。それでもまた直撃を免れたと安堵したのもつかの間、少女は耳を疑った。

〈我が手は翼。鳥は行く先を臨み、我が羽で其を掴む。即ち貫く大願は御手による翼なり〉

 呪言魔術の響き。初等魔法なら印契で簡易起動が出来る女魔法使いが呪文演唱を行ったのだ。

 今の今まで魔力塊を放つだけの『魔弾』しか使ってこなかったのにそれはない。

 夜という闇がいち早く来たのかと錯覚するほど黒い魔力の発動。業を煮やした女魔法使いが選んだ魔法に、少女の顔は引きつった。

(ほほう。面白い魔法じゃな。自分という殻を開き、周りの空間に自分を満たす。ガント魔術の応用か)

(そんなにすごいの?)

 たま堪らず少女が聞いた。

(我が見える主なら、視ればわかるじゃろ)

 言われて少女は振り返る。

 白き女魔法使いの背から黒い触手のような翼が生えていた。元々は幽星体に宿り、幽星気として在るはずの魔力が、色濃く現体を果たしていた。

それが徐々に太く大きく、彼女の周囲を埋め尽くす。

 白い外套と魔道衣に身を包み、黒い魔力をまとうその姿は、まるで悪魔の翼を持った堕天使のよう。

 その黒き波動がわななく。それが怪物の咆哮にも聞こえた。

 今までの魔力弾とは次元が異なるのは一目でわかった。少女が唯一持つ、霊視能力なぞなくても誰にでも目の当たりに出来るほど濃い幽星気。女魔法使いが奥の手として持つと噂される『黒羽』と呼ばれる力場の魔法だった。顕現した力場はまるで生きているように蠢き、形を自由に変える。そしてその触手を伸ばし、少女に襲いかかった。

 毒々しい見た目に反し、『黒羽』には魔法的な派手さはない。ただ黒く蠢く魔力を力場として操るだけの魔法。それは単純であるが故に力強い。

 この『黒羽』、原理は魔力塊を相手にぶつける初等魔法の『魔弾』に近い。だが自分の魔力を千切って飛ばすだけの『魔弾』に対し、体内の魔力を直接力場に変換する『黒羽』は威力も段違いで、その出力の差は数十倍にも及ぶ。何より黒き力場は術者の支配下にあり自由に操れる、いわば巨大な魔力の手なのだ。単に飛び退いて避けただけでは追撃され、簡単に押し潰されるだろう。

 そしてなにより、空を自由に翔る白き女魔法使いが使えば、空中から自由自在に『黒羽』が襲いかかってくるのだ。その黒き触手に届かぬ空間などない。逃げ場なく、ありとあらゆる方向から『黒羽』が伸ばされ空間を浸蝕される。

 その迫り来る黒い羽をまともに喰らえば一溜まりもない。それを直感的に感じ取った少女は、咄嗟に『炎』の魔法を組み上げる。

 どうせ成功しない魔法制御。落ちこぼれと言われる少女にとっては賭けみたいなもの。普段なら、制御に失敗して自らの腕まで燃え上がる『炎』を、今まさに襲い掛かってくる『黒羽』に叩きつけようというのだ。

 それは魔法使いならではの判断だ。やはり魔法には魔法でしか抗えないものだ。

(やっとやる気になりおったか。しかし、主の魔法は成功すまい。)

 そんなことは少女の方がよく知っていた。しかし、言われたら言われたで腹が立つ。

 魔術式の完成までの一瞬がもどかしい。『黒羽』を操る女魔法使いは、もう逃す気がないのだろう。少女の四方に魔法の触手を伸ばして囲い込む。そして、眼前に迫る黒き浸蝕が口を開いた。

 少女は回避の為に、全力で大地を蹴る。迫り来る魔法を『霊視』によって正確に読みとり、回避すべき空間を割り出す。そして渾身の思いで身を捻る。

 これまで幾度となく繰り返してきた回避動作。だが今までの『魔弾』のようにはいかず、着ていた魔道衣の裾が黒き触手に喰われてしまう。そして服だけに飽きたらず少女の身にも黒き顎が喰いかかった。

〈我が炎よ〉

 発現の言葉。

 同時に真っ赤な紅蓮が顕現する。生まれ出でたばかりの炎が、日の落ちた林を照らす。

 それと同時に身を裂く痛みと炎による熱傷に顔をしかめた。炎は少女にまとわりつくように腕の中から湧き上がっている。腕が燃えているのだ。案の定、魔法の制御に失敗した。

 恐怖の声を上げたい思いに駆られる。それを懸命に抑える。

 今はこれが狙い通りの策。自らの手が魔法の炎に包まれたのは少女の狙いそのままなのだ。

 少女は燃えさかる右腕を、目前まで迫っていた黒い波動に自ら喰わせた。

 自らの腕が敵の魔法に飲み込まれ幽星体に異物が食い込む感触。血の気が引き、息が止まる。

 何かがねじ切られるような音がした。魔法の力場と魔法の炎の衝突。互いの魔力が混合しながらも反発する。

 襲い来る黒き力場が、腕にまとわりついた炎に押しやられる。

 それは一瞬だった。黒き力場は少女の身を焦がす炎を食い尽くし、紅蓮を消し去ってしまう。魔法の格の違いによる力負け。それも当たり前の結果だ。魔法の組成も、術者の実力も、何もかも相手が上だった。

 しかし、僅かにでも相手の魔法を相殺したことで身をよじる空間が開いた。少女は無心でその隙間に飛び込む。

 黒き触手の魔法を操る女魔法使いが目を疑った。少女の体が、綺麗に相殺され削られた『黒羽』の間を素通りしていく。そして、そのまま地に転がった少女は、素早く起きあがり再び駆け出した。

「なっ、何を」

 漏れ出た声。あまりの出来事に、女魔法使いは目もくれず逃げていく少女を追うことを忘れてしまう。

 呆けるとはこのことだ。女魔法使いは自らの使命を忘れ、少女を追いかけるという判断が遅れてしまった。

 単なる『魔弾』ならともかく、その名の通り、自らの羽の如く自由に動きを操作出来る『黒羽』によって逃げ場無く囲まれた状況から、少女が脱して見せたのだ。あまりに意外で、そして心底驚かされた。

 落ちこぼれと侮っていた少女が、制御すら出来ていない初歩魔法で自らの奥の手である『黒羽』を避けたことに動揺が走る。しかも、制御に失敗した自らの身を燃やす魔法炎を『黒羽』の波動が消し去り、消火出来ることも計算に入れた行動。何より魔法と魔法のせめぎ合いで生まれた空間に飛び込むなど危険極まりない。まさに自殺行為だ。一瞬でもタイミングを間違えば二つの魔法の激突による衝撃を一身にくらうことになるのだ。

 あまりにも予想外過ぎる。ありえない。女魔法使いは自分でも気付かずに奥歯を噛みしめていた。

 そう言えばおかしいと思っていたのだ。いくら『霊視』が出来るとはいえ、それで攻撃魔法が回避出来るなら、世の魔法使い達は魔法戦に苦労しない。どんなに目が良くても、回避というのは判断能力、機動性、そして防御魔法の使い所。様々な要素が絡み合って出来る行為だ。

 それなのに『飛翔』の魔法で圧倒的に優位な頭上を抑えて、魔法砲撃しているのに、一向に当たらない。あまつさえ空間を包み逃げ場を奪う『黒羽』まで避けられる。あの少女は本当に落ちこぼれなのか、そんな疑問が頭を駆けめぐる。

 白き女魔法使いは今までに起こったことを一瞬で思い返し、一瞬で反省した。理由はわからないが今この時点で少女が逃げおおせているのは事実。ならばどうすればいいのか、その対策をこれまた一瞬で立てた。魔法戦に置いて、思考の早さは必須条件だ。無論、白き魔法使いはそれに劣っているわけではない。

 『黒羽』を何とか避けた少女だったが、その代償として自らの魔法で右腕に熱傷を負ってしまった。いや、魔法の制御に失敗するのはいつものことで、自分の魔法でのダメージはそれほどでもない。しかし、掠っただけの『黒羽』が少女の腕をしび痺れさせていた。幽星体を侵す魔力ダメージ独特の苦痛に耐え、一目散に雑木林の奥へと逃げていく。

 見れば『黒羽』に喰われたのか、少女の外套が無惨に引き裂かれ崩れていた。やはり『魔弾』とは質が違う。『魔弾』では布地が破れることはあっても崩れるなんてことはない。必死に駆けながら、少女は外套を脱ぎ捨てた。

(命がいらんと見えるな、主)

(仕方がないでしょ。私の体が通れる隙間がないんだから)

(そういうことを言っているのではないわ。主がやってのけたことの本質はもっと……)

 なぜかしら、幽体の魔女は言葉を濁した。

 そういえば、女魔法使いの追撃が止んでいた。随分離したとはずなのに嫌な予感がしてならない。不安に苛まれ、少女は走りながら振り返ってしまう。

 走り逃げた分だけ遠ざかった追っ手。女魔法使いは追わずに先程の場所に留まっていた。しかし、先程と違うのは、その影が大きく、大きく膨らんでいた。

 そこには二翼の黒き翼を広げた白き魔法使いが眼を閉じて浮いていた。

 大き過ぎる。先程の『黒羽』など比べ物にならないぐらいに巨大な黒翼。周りの木々を巻き込んでも止まらず、どんどん大きく膨らんでいく。空間を食い荒らす魔法が白い外套までも黒く染め、風もないはずなのに大きく舞っている。

 丁度、昼から夜へと変わる時。黒き二枚の翼が夜を誘う。

 少女は呆気にとられ、口を閉じるのも忘れてしまう。『黒羽』の初撃を見たこともない方法で避けられた女魔法使いは、手加減を止めたのだ。

 何の声もなく、女魔法使いは少女へと急加速する。

 全力全開の『黒羽』。そしてその巨大な魔力塊と共に『飛翔』による突撃が開始された。あまりにも単純な魔力量による力押し。それが彼女が出した結論。巧妙な手で避け逃げる少女に、一番有効な攻撃方法だった。

(さて、次はどうする?)

 意地の悪い魔女の問い。それはもう、少女の小手先の魔法では防ぎようのない魔力量だった。出来損ないの初等魔法では削ることすら出来ない高濃度の魔力をまとった突撃に、少女は当たるなと念じて地に転がるしかなかった。

 眼前を全て黒に塗り替えられて、少女は静かに死を覚悟する。

(あれ? 私、殺されるの? 悪いようにしないって嘘だったの? 私、なんでこんなことに。どうして? 私が何か悪いことした?)

 まるでスローモーションのように見える黒の衝撃が迫り来るのを待つ少女は、心中に疑問と苛立ちを膨らませていった。

(それもこれも、全部あんたの所為じゃない!)

(阿呆が、我が何かしたか? 都合が悪くなると直ぐ人の所為にするとは、主もほとほと仕込みが悪いの。人間の器が知れるというものじゃ)

 この後に及んで、見えざる存在と心中言い争いをする少女、エディ・カプリコットは、どうしてこんなことになったのかと、少女の人生を脅かすこととなった原因である『魔女』との出会いについて、白昼夢を見るように思い返していた。

 

 
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