No.384117

剣の魔王+後編+

ぽんたろさん

暴力描写にご注意ください。とりあえず終幕。前編→http://www.tinami.com/view/301067

2012-02-27 20:21:34 投稿 / 全11ページ    総閲覧数:446   閲覧ユーザー数:432

鐘の音が響く。

 

 

「くそ」

包帯を持って来て巻き直したが、出血でアルヴァーンの腕が血まみれになる。傷が塞がらない。

「お前、魔王なんだろ。もっとがんばれよ。こんなに簡単に…っ」

ささやかな体温さえ流れ出しているように感じる。

アルヴァーンは魔王の剣を見た。

魔王自身が握っていた剣は彼女の気絶と共に消えてしまったが、アルヴァ—ンが借り受けた剣はまだここにある。

まるで魔王の心臓と連動するかのように仄かな金燐をまき散らす。

 

「今。俺に出来ることを…」

 

「魔王。待ってろ」

 

剣を握り。感覚を研ぎすませる。

儀式場の中心を探さなければならない。

音。風の流れ。違和感。

「あそこか」

剣だけ携えて勇者は駆け出す。

魔王が最後に頼んだ仕事。果たさなければならない。

 

黒い影がその後ろ姿を見ていた。

 

「俺、やっぱりもう人間じゃねーのかな」

走りながらアルヴァーンは独り言をこぼしてしまう。

「おかしいよなー。体力とか」

瓦礫を一息で跳び越える。

「見かけはそんなに変わってないけど」

こんなに跳べなかった。あんなに力も強くはなかった。

「やっぱりなんか、ちがうよな」

かといってあの場で人生を閉じて良かったとは思わない。

アルヴァーンはまだ勇者になっていないのだ。

「うじうじしてもどうにもならんな」

 

城の中ではない。裏手の城壁と城の間に「それ」はいた。

 

「なんだよ…これ」

アルヴァーンはそれにゆっくり近寄る。

見かけは巨大な宝石だった。薄く発光する透明度の高い青い石。

鼓動を刻むように光は揺れる。

「生きているのか…」

 

「おやおや…見つかってしまったのか」

「!!」

背後にベルセイスがいた。

豪奢な服には血の一滴も見られなかった。勿論リヴェリアに刺された跡も見当たらない。

アルヴァーンはとっさに壁際に後退した。

「もう攻撃はせぬよ。それよりどうだ?美しいだろう」

ベルセイスはゆっくりと青い石の傍らに歩み寄る。

「なんだ…それは…」

「ふふ」

ベルセイスが石の表面に触れる。

「長かった…。長い30年だった」

嗤う。

「我が目的は果たされた。勇者。さらばだ」

「な」

何のことだと口を開きかけたままアルヴァーンは固まった。

石は、大きくひしゃべるとベルセイスを飲み込んだ。

何かが砕ける音が、すり潰される音が聞こえる。

「なんだ…なんなんだよ…」

石ではない…魔物の類いか。

アルヴァーンは剣を握る手に力を込める。

同時に攻撃力強化の呪文の重ねがけ。

「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおん」

石が鳴いた。

 

瀑布

轟音をあげて石の周囲が吹き飛んだ。

防御態勢を取ったままアルヴァーンもその流れに巻き込まれる。

美しい景観を作っていた城が、城壁が、脆くも崩れ落ちる。恐ろしい衝撃だ。

加護をかけてあったからとはいえ体に大きなダメージを受けたことを感じアルヴァーンは歯噛みした。

「くっ」

ぱらぱらと上空から破片や砂が落下して体に当たる。

「城から聞こえていた声はコイツだったのかよ…」

石の表面が泡立っている。

 

『救いだ』

 

声。

「!?」

『これだけが救いだ』

声は石から聞こえた。くぐもった声はベルセイスに似ている。

石は人の形になった。

「石と融合したのか!?」

『融合などではない。我はようやく神となったのだ。』

言っている意味が理解出来ない。石が神だというのか?

「神?何の事だ。お前はなんのために」

『予てより犠牲を享受して初めて人間は神の戸を叩いた』 

「俺にはお前の言っていることが分からない」

剣を握り直す。大丈夫。まだ、戦える。

『そうか…残念だが、再生なのだ。これは』

「だからそれは何なんだよ!!!」

アルヴァーンは駆けだした。産毛が逆立つ感覚が気持ち悪い。

よく分からなくても一つだけ確信する。これは「倒さなければならない」ものだ。

手の中の剣が熱い。燃え上がるように。

「こんにゃろおおおおおおおおおおお」

石を切りつける。

大きな音を立てて石が損なわれた。

瞬時に再生する。しかし石は大きく揺らいだ様子だった。

『魔王の剣能とは…面倒な』

アルヴァーンは右に大きな衝撃を受けた。

気付くと土に顔を埋めていた。しかし剣は放していない。

横なぎにされたことにさえ気付かなかった事にアルヴァーンは戦慄する。

『残念だよ勇者。君を殺さなければナラナイナンテ』

石の動きは人間的ではなかった。無論最早人間であろうなどとは思ってもいなかったが。

腕が伸び足が伸び、液体のようにゴムのように石は形を変える。

かろうじて救いだったのは剣が有効な攻撃手段となり得ることだった。

石は剣の軌道を避けアルヴァーンを執拗に攻撃してくる。

「くっそ」

打撃が何発か入ってしまった。

一撃が重い。

身体の再生力も驚異的にはなっているが追いつく速度では無い。

「ぐ、あ」

『オマエモ』

「な」

剣を持った腕に石が巻き付く。反射的に振り払おうとしたががっちりと押さえられ離れない。

アルヴァーンはもう片手で剣を取ると石の首を切り払った。

『あぎおあ』

痛覚はあるようだが直ぐに再生が始まる。そして腕からじわじわと石に取り込まれる。

激痛。

「うわあ、このっ」

咀嚼音が聞こえる。ベルセイスのようにアルヴァーンをも食おうというのだ。この石は。

「何をしているか。ゴミ虫が」

 

声は背後から聞こえた。

次の瞬間石からアルヴァーンの腕が抜けた。ジュゥと音を立てて皮膚の再生が始まる。

逆に石は大きなダメージを受けたようで地面にべしゃりと崩れた。

「!?」

「カス、何故貴様がそれを持つ」

振り返ると女がいた。

否、ただの女ではない。頭には立派な角を生やし目は赤く煌々と輝いている。片腕には幅広い緑の剣

「魔族…?」

「口を利くな虫め」

質問を投げてきたお前が言うのか。とアルヴァーンは若干非難の眼差しをむける。

『マばまままま』

「大分壊れておるか。人間の分際で分をわきまえぬからそうなるのだ」

女は剣を構えた。アルヴァーンには一別もしない。

『コロスコロスコロスコロスコロス』

「はははははははははははは!!あはははは!!そうだ。お前達はそうあるべきだ。来い!!」

石と女の戦いが始まった。

剣と石が当たる度火花が散る。石から苦悶の叫びが上がった。

しかし、何発女の剣が石を刺し貫いても叫びが上がるだけで石は崩れない。

「おい、効いてるのか」

「口を利くな虫。殺すぞ」

物騒な女だ。アルヴァーンはなんとか膝をついて立ち上がる。

「お前と良い魔王といいなんなん「殺す」

「…」

アルヴァーンはこれ以上は無駄と悟り無言で加勢することにした。

黄金の剣で石の身体をこそぎ落とす。剣を見ると女は目に見えて狼狽した。

「祝福を受けたのか?貴様」

女は軽く目を見開く。

「祝福?」

石が放射状に鋭い腕を発射する。

アルヴァーンはそれを切り落とし、女は弾く。

「人間如きを…何をお考えなのだ…」

声には憤りが混じっている。

二人は石本体から距離を取りながら腕を殴り、切り落としていく。

しかし、何故か攻撃の手は一度止まり音も無く石は元の形に戻る。

大きな一撃を射って来るか。

アルヴァーンは強化魔法をつぶやく。

精神力もそろそろ限界に近い。額の汗が垂れる。

「虫にしてはそれなりにやるようだな」

女が石を見据えたまま呟くように言う。

「そりゃどーも」

どうやらもう口をきいてもいいらしい。

「わたくしの剣にはひめ…陛下のお力で強化してある」

「今姫「黙れ…性質は触れた対象に”痛み”を与えるものだ」

「だから切れなくても悲鳴あげてんのかあいつ」

「しかし、剣自体はただの剣にすぎない。ただの剣ではアレは切れない」

「…あいつ自体が魔剣に近いってことか」

「そうだ。貴様は何故かひ、陛下の剣を持っているがアレを殺しきるには魔王陛下のお力が必要だ。理由は言わぬ」

「!!魔王は満身創痍だぞ!?戦闘に参加させられる状態じゃ…」

「わたくしの同族が到着している。お命さえあればどうとでもする。治療が終わり次第陛下は必ずいらっしゃる」

「つまり?」

「時間稼ぎを手伝え」

「了解」

女は軽く目を見張った。即答が予想外だったのだろう。

普通にしていれば角の生えた美人なのになとアルヴァーンは明後日な感想を思い浮かべる。

「お前は変な人間だな」

「お前も饒舌な魔族だな」

「なるほどこれ以上なれ合う必要もなし。不本意ながら援護はしてやる」

「あ、ただし」

「なんだ」

「終わったら名前教えてくれよ」

「気が向いたらな。…来るぞ」

石が地面に落ちた。そのまま地面に吸い込まれるように消える。

次の瞬間足下が波打った。

「ぐあ」

「くっ」

ボロボロになっていた石畳が持ち上がる。

青黒い泥の剣がその下から次々と突き出して来た。

アルヴァーンと女は身体を捻って初撃をかわす。泥に石が混ざっているのだ。刺さればただでは済むまい。

「物量で攻めて来るのかよ」

地面からは新たな泥の剣が、突き出した泥の剣からは枝葉のように更に小さな棘が突き出される。

周囲はイバラの森の様に黒い棘に覆われていく。

「薙ぎ払え!!」

風圧で棘をもろとも吹き飛ばすが新たな棘が次々と襲いかかる。

「きりがない」

「耐えろ」

身体が悲鳴を上げる。服がぐっしょりと重い。

細かい傷が増えていく。傷口は治癒せずじわじわと広がる。

アルヴァーンはローレライと呼ばれていた騎士の最後を思った。

「術で一気に吹き飛ばす」

「頼む!」

女は地面に手をついた。

円形のサークルが大量に光り輝き地表に爆風が吹き荒れる。

「うあぉ」

とっさにアルヴァーンは跳躍し回避するがカマイタチのような風の刃が女を中心に地面を削り取って空に舞い上げる。

「お前これは巻き込まれたらただじゃ済まないだろ」

「警告はした」

しかし平地になった地面からまた剣が突出する。

「どんだけ染み込んでんだ」

「質量等もともとこいつらに関係ないからな。人間だった時の自意識が増大を抑制しているのを物質を取り込むことで無効化しているのだろう」

「こいつは一体なんなんだよ!!!」

「低級神だ」

「はぁ!?」

「お前程度の頭で理解しようとするな。お前の剣はこいつを削れるんだから集中しろ」

「意味がわかんねぇよ!!!」

「理解しようとするなと言っている。」

ガシャガシャと女の剣は泥のイバラを砕くが直接触れなければ意味が無いのか泥の勢いは衰えない。

流石に女の横顔にも疲労が伺えた。

剣を振るうと同時にアルヴァーンの強化魔法もかけているようだった。

お陰で体力は限界に近いがまだ剣を振るえる。

アルヴァーンの手の中で、少しだけ剣が輝きを増した。

「おい!!」

 

空の満月より明るい光。

 

「いらっしゃったか」

ごうん

崩れた城の方から一直線に黄金の鎖が飛来し、地面を破砕した。

鎖を起点としてアルヴァーンと女の周囲まで金の粒子が広がっていく。粒子に触れたイバラはさらさらと砂のように崩れ落ちていく。

「魔王…」

リヴェリアは巨大な鎧の肩に乗っていた。鎧は地面から突き出た泥のイバラを無いもののように破砕して歩く。

少女は座ったまま片手に鎖の端を握りしめている。

「アリア。アルヴァーン。ありがとう」

リヴェリアは身長より遥かに高い鎧の肩からひらりと飛び降りた。

少女の顔には疲労が色濃く現れていたがしっかりと鎖を握っている。

破れたドレスの上には黒い上着を羽織っている。

アルヴァーンはリヴェリアに駆け寄る。

「魔王。傷はもういいのか」

「本当に、あなたという人は…」

リヴェリアはアルヴァーンの手に握られた剣を見る。

『マオウ。殺しソコねたか』

地面を揺らし声がする。

「さっき程度の攻撃では死んでくれないわね。流石に」

リヴェリアは呟く。

物騒な独り言の応酬である。

『改変はオこナワレルべきだ。何故分からない』

「知らないわ。初代様にでも聞いてちょうだい」

リヴェリアは石…ではなく低級神に答える。アルヴァーンはやはりさっぱり会話の意味が分からない。

「アリア。援護をお願いします。ウォーロックも。お願い」

「心得てございます姫さま」

女、アリアがリヴェリアの前に膝をつく。

「御意」

鎧が喋った。

「ベルセイス。倒されてもらうわ」

鎖が消え去りリヴェリアの手に剣が生まれる。

黄金の片刃剣。

アルヴァーンは自分の手にある剣を見る。

「どうしてこれは消えないんだ?」

「私に聞かないで」

リヴェリアは首を振った。

地面から青い光が滲み出る。再び形を作るが大きさは最初の比では無い。青い巨人。

「やっぱりこの青いのは…ベルセイスなのか」

「だから喋るのでしょう」

人間が石に食われて神になるなど聞いたこともない。

アルヴァーンの知る限りそもそも神なんて祭壇の上にしかいないものだが。

「私達が保管していたものを使うとできるのよ。詳しく知ろうとしないで」

リヴェリアの剣と呼応するようにアルヴァーンに握られた剣も燃え上がる。

「貴方を殺したくないから」

「ひっ姫様!!それってどういう」

「アリア。姫はやめて」

リヴェリアは数ステップを置いて恐ろしい早さで神に肉薄した。

「確かに神には見えないわね」

『愚かな』

神は膨張してリヴェリアを飲み込む

「魔王!!」

いつの間にかアリアの姿もなかった。

「余裕がないから。あまり遊んであげられないわ」

神が片膝をつく。右足にあたる部分がごっそりとなくなっていた。

数歩離れてアリアがリヴェリアを支えている。

風の魔法で金の粒子を飛散させたのだろう。

完全に視認出来なかった。恐ろしい。

リヴェリアは剣を振るいアリアが風で刃を伸ばす。巨人はどんどん削られていく。

『我は認めない』

神が手にあたる部分を大地につく。

それだけで地面がえぐり取られ竜巻のように持ち上がった。

『そう…だsiahfoagdufiafaifgailufgfgafsifgydisaufgiabdauifadifugauifgaygsdyauveaaywvovbhzuobvuoeyyyyferwhfhygfyhsdfubfuksfyykdhbvusovuidbaviaoudbvioduvdyugfefiihvnulllkxvdvdy』

何を言っているのか分からなかった。

「なんだ。なんなんだ」

空からつぶてを降らすつもりか。それともまた足下を狙うつもりか。

しかし身がまえたアルヴァーン、アリア、リヴェリアの意に反して巻き上げられた土塊はぱらぱらと勢いに任せて落ちるのみだった。

「!????」

同時に巨人が霧散した。

「今度は霧にでもなるつもりか?」

アリアが剣を構える。

「いえ、自意識をそこまで拡散させては彼も精神を維持できないはず」

リヴェリアは剣を地面に刺し片膝をついた。身体が震えている。

「姫様!!」

「ごめんなさいアリア。弱い主で」

「ひ…陛下。ご謙遜はおやめくださいませ」

アリアがリヴェリアの背をさする。

鎧は空を見上げたままアルヴァーンに話しかけた。

「人間」

「なんだ…?」

「どうしてお前は陛下の剣に触れていられる」

「なんでだ?普通に持っているだけだぞ?」

「…」

鎧の中身は伺い知れない。

 

アルヴァーンは今は交戦状態ではないからとウォーロックと呼ばれた鎧に治療された。

アリアはリヴェリアにかかりきりだったので放っておく。

「すごいなあんた。魔剣の傷も治せるのか」

「傷を塞ぐまでだ。限界はある」

巨大な手のひらに緑のサークルが浮かぶ。暖かい風がアルヴァーンを包み込む。

「リヴェリアは大丈夫なのか?」

「陛下は大分消耗されておられる」

「魔剣の傷以外にも怪我してたみたいだしな…」

「応急手当をしたのはお前なのだろう?感謝する」

「…どうも」

アリアのように罵倒されるかとも思ったが、ウォーロックは冷静な様だった。

「治療はしたし気付けもしたが、戦場に立たせる状態ではない」

「俺たちだけでなんとかならないのか?」

「…」

ウォーロックは押し黙り、少しの沈黙を置いてぽつぽつと喋り始めた。

「低級といえど神を殺せるのは魔王様の力だけだ」

「神様っていくつもいるもんなのか?」

「一つではない」

「じゃあ何で全部効かないってわかるんだよ。やってみて」

「アリアが戦っているのを見たのではないのか」

「見たけど…剣が効かないだけじゃ」

「今まで何百回も神を殺して来たのだ」

「…」

「それが歴代魔王の責務だ。ただし」

ウォーロックはまた押し黙った。

「ただしってなんだよ」

「ただし、君なら陛下の代わりが出来るかもしれない」

「本当か!?」

「他の誰も、陛下の黄金の剣には触れていられない…。ただ、君は」

「確かに最初に握った時はちょっと熱かったけど。これ、すごいもんなのか?」

「………」

ウォーロックが手を下ろした。身体が軽い。傷の修復が始まっている。

「ありがとう。お前は良い奴だな」

「おれは…」

アルヴァーンは腕を回した。調子はいい。

「陛下に無理をさせないでくれ。頼む」

ウォーロックは頭を下げた。

アルヴァーンは固まって目をぱちくりさせた。

「お…おう…」

 

月が中天に来ていた。

 

とりあえず火を焚いてアルヴァーンはその隣に座り込んだ。

「もう逃げたとかそういうことはないのか?」

「あり得ないわ。私を殺さずにここから逃げるほどアホとは思えない」

リヴェリアは瓦礫の上に腰掛ける。顔色は悪いままだ。

「血、吸うか?」

「やめてちょうだい。嫌いだっていったでしょう」

アリアがもの凄い笑顔で殺意を放っているのでアルヴァーンはそれ以上続けるのをやめた。

「顔色、すごく悪いぞ」

「あなたは元気ね」

「応。おまえになおしてもらった腕も大分なじんで来たぞ」

「「!?」」

ウォーロックとアリアが息をのむ。

「陛下。このかs…屑野郎を眷属にされたのですか!?」

「眷属を作られたのですか」

「血は与えたけど正式に眷属にはしていないわ」

「何故!!縛りはどうされたのです??」

何故かリヴェリアが問いつめられているがアルヴァーンにはよくわからない。

「眷属っていろいろ種類があるのか?」

リヴェリアとアリアの代わりにウォーロックが答えた。

「通常眷属は吸血鬼が手下の生き物を強化したものだが、通常は強化する時に縛りという破ったら死ぬ条件をつけるんだが、君にはそれが無い」

「それってどういうことなんだ?」

「君から眷属の気配がないから不思議に思ったんだが君は強化されただけで契約が完了していない状態なんだ」

「なんかまずいのか?」

「凄くまずい。契約が完了して切り離されるまで君の再生には陛下の魔力が使われる。つまり君が傷を負うと陛下もその分の傷を負うんだ」

「…………」

「正式に眷属にしてさっさとおっぱらってしまえばいい」

アリアは額に青筋をうかべている。

「眷属には、しない」

「陛下!!」

「アルヴァーン。貴方は勇者になるのよね」

「ああ」

アルヴァーンは紅い瞳を真っ直ぐに見返す。

「じゃあ、私を倒したら死んでしまうと困ってしまうわね」

「…」

「だからよ。他にも同じ状態の子はいる。何の問題も無いわ」

「陛下…」

「今回は大けがをしないでくれると助かるわ。足や腕に受けた傷も結構痛かったのよ」

リヴェリアはふふ、と小さく笑った。

 

「そうか、では勇者を殺せばいいんだね」

 

アルヴァーンの後ろに人影があった。

アルヴァーンが回避行動に入る前にウォーロックの手が刃を押しとどめる。

金属と金属がぶつかる重い音。

「あーあ。」

ベルセイス王は残念そうに嗤った。

 

「今までも道行く先で動物に情けをかけるなとお諌めして参りましたが。今回ばかりは許せません。陛下。」

「許してもらうことでもないわ」

剣を構える。

「曲がりなりにも神を相手に君はどんどん自分を追い込むね」

けらけらとベルセイスは嗤う。

「今度こそ本物かしら」

「さぁ?」

ぱちりと炎が弾けた。

ベルセイスがリヴェリアの背後に回り込むが間にアリアが立ちはだかる。

「させぬ!」

ベルセイスの首めがけ剣を振るうが細い首には傷ひとつつかない。

「それは『覚えた』」

「くっ…痛覚を遮断したか!化け物め」

「君たちだって大して変わらないだろう?」

「どいて!アリア!!」

リヴェリアはアリアを押し退けベルセイスに剣を向ける。

びちゃ

「…か…は…」

「あはははは。残念。我が本物だ。それは偽物だよ」

ベルセイスは肺近くに突き立てた黒い剣を引き抜いた。血が吹き出る。リヴェリアが唇から血をたらし崩れ落ちる。リヴェリアの後ろにもベルセイスがいた。

アリアは呆然としている。

「リヴェリア!!!!!!!!ウォーロック!!」

アルヴァーンが叫び、固まっていたウォーロックが動く

「んー。何処を斬れば君は死んでくれるのかなぁ」

ベルセイスの上に影が出来た。

「おっと」

ウォーロックはリヴェリアを掴み上げた。

「アリア!!」

「逃がさないよ。木偶」

アリアははっと我に返った。

「陛下!!」

地面がせり上がる

「おや、これは知らないな」

ベルセイスは数歩とんとんと退がる。

「あはははは」

「クソ」

アルヴァーンはウォーロックの肩に飛び乗り、手のひらのリヴェリアに駆け寄る。

「あ…かは…ひゅ…」

首周辺が血まみれになっていた。

「ああ、う…あ…」

空が覆われる。ウォーロックが反対の手で蓋をしたのだろう。

手のひらの中が緑の光で満ちるがリヴェリアの傷口は塞がらない。傷口が大きすぎるし、まだ先程の傷も引きずっているのかもしれない。

アルヴァーンはリヴェリアの傷を縛る。

あまり意味は無いかも知れないが無いよりはマシだろう。

すると、ぎこちなくリヴェリアが手を握って来た。

[…アルヴァーン。きこえる?]

「なんだ?頭の中?リヴェリア?」

[黙って聞いて。私はすぐに動けそうにない]

手には殆ど力が入っていない。

[あなたを巻き込みたくなかった。でも、お願い。助けて]

「言われるまでもない」

[代わりに、私があなたの剣になる。貴方が持っていった剣を貸して]

リヴェリアの手に剣を握らせる。

[あなたの一番使いやすい剣を思い浮かべて。私の額に額を合わせて]

額をつけ目を瞑る。 変な感じがした。

使いやすい剣

15歳の時引き抜いた、ランカスターで封印されていた剣。

火竜を倒した剣。重さ、長さ、細工の隅々まで5年経った今でも詳細に思い出せる。

[わかった]

リヴェリアの手と剣の柄を握る。

つむったまぶたの向こうは

 

「ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」

「ウォーロック!!!!!姫様!!!!!!!」

アリアの悲鳴。

ウォーロックの手首が切り落とされた。

大きな音を立て手が落ちていく。

「さて、中身はつぶれてくれてないかなぁ」

ベルセイスは剣で落ちた手を貫いた。

しかし笑顔は怪訝そうな顔に変わる。

「おや、中身?」

ぶしゅ

ベルセイスの片腕が落ちた。落ちた腕は液体のように溶けて地面に広がった。

「あはははは、いたいなぁ」

欠片も痛くなさそうにベルセイスは嗤う。

 

アルヴァーンは片腕に意識を失ったリヴェリアを抱え、片手に白金に輝く剣を構えていた。

 

「くふふふ」

「剣を持つ手を狙ったんだが当たらんもんだな」

「ふふふふふ、おや」

ベルセイスの腕の後がぼこりと波うったがそれ以上の変化は起こらない。

「そうかぁ。聖剣かぁ」

ベルセイスはアルヴァーンに握られた剣を見る。

「魔王が聖剣を生成するなんて笑えるじゃないかぁ」

「首をとっても死ぬか分からないからな。全身切り刻む。覚悟してくれ」

アルヴァーンは真っ直ぐベルセイスの瞳を見つめる。

「あはははは。頼もしいねぇそのまま戦う気かい?」

「行くぞ」

片腕でもベルセイスの勢いは衰えなかった。

剣と剣がぶつかり火花が散る。

アルヴァーンは苛烈に攻め立てる。ベルセイスの頬を浅く裂き服に切り込みを入れる。

リヴェリアに攻撃をさせないために攻め続ける、その手はがむしゃらに見えた。

「攻撃で懐が留守になっておるぞ」

「だな」

ベルセイスがリヴェリアを斬るため一時的に動きを止める。

待っていたようにアルヴァーンは右足を軸に回転し剣を振るいベルセイスの魔剣を構えた手首を切り落とす。

斬られた剣は落下するがベルセイスは口でガチリと剣を銜えた。

そのまま下から顎を突き上げる。

アルヴァーンは振り抜いた剣を叩き付けるように刃にぶつける。

そしてのけぞったベルセイスの首を、切り落とした。

血は一滴も流れない。

[”人の形をしただけのそれ”は首を落としただけでは死なない。]

「あはははは」

まだ嗤い声が聞こえる。

落下した頭は消失し残った身体に新たな腕が生成され剣を握る。

アルヴァーンは脚を開いて一気に体高を落とすとベルセイスの足を切り飛ばす。

片足になってバランスを崩したベルセイスの胴を下から両断する。

崩れ落ちる半身を足で踏みつけ剣を突き立てる。

抉るように振り抜きもう半分から振るわれる剣撃を受け止める。

アリアはウォーロックの腕に処置をしながらそれを見ていた。

とても間に入れるものではない。

「なんなの…あれ…人間なの…」

「彼は、陛下が選ばれた人間なんだよ。アリア。」

 

斬っても斬っても血も内蔵も見えない。ただ黒いものが溢れ、染み出し、消えていく。

しかし執拗にアルヴァーンはベルセイスを刻み続けた。切り落とした腕も足も、消え去るまで何重にも切り刻んだ。

そして、最後に肉片が残った。

それは、黒い剣に這いよろうと蠢めいて

「ばいばい。王様」

アルヴァーンは、剣を突きたてた。

 

誰もいないオルガノは、とても静かになった。

 

「結局、王様は何であんなことしたんだ」

アルヴァーンは歩きながら、両腕で抱えたリヴェリアに訪ねる。

「若い頃に商人から売られた魔剣を手にしたベルセイスは魔剣で親兄弟を皆殺しにした」

ぽつぽつとリヴェリアは話した。

「本人の意思だったかは知らないわ。でも魔剣の影響はそれだけで済まなかった」

魔剣は罪悪感に悩む若者に全てを無かったことにする方法を教えた。

魔剣と共に手に入れた魔法の箱。

”箱の中身”は彼が神になれば誰も彼を裁くこと等できないといい、彼に神になる方法を伝えた。

ベルセイスは王になると箱の求めるままに妃を殺し、子供を生け贄に捧げた。

子供の名前はローラ。

勿論公では病死となっている。

魔法の箱は王様に一度に沢山に人間を犠牲にする必要があると言った。

そして王様は準備を始める。

必要な数の住民を国の中に囲い込み、生け贄に捧げる。

そのために王様は努力した。

改革もしたし水道や環境に気を配った。

税も可能な限り下げ、移住しやすい法律を整備した。

戦争は和平的解決。連合を上手く使い自国の犠牲は可能な限りゼロに近づけていった。

戦争では箱の求める犠牲に足りない。

ただそのために平和な国を作っていった。

30年…

ようやくそろった生け贄を使い王の願いはかなえられる。

箱は魔王の襲撃に備え罠とデコイを大量に用意し地下で儀式を始める。

街は火の海になり必要数の人間が死んだ。

 

「そして彼は願い通り神になったわ」

「魔剣と箱のための?」

「そう」

箱と剣は回収した。今はアルヴァーンの背負う荷物の中に入っている。

さくさくと土を踏みしめる音だけが聞こえる。

「王様は神様になれてどう思ったんだろうな」

「さぁ」

リヴェリアがアルヴァーンの服を握りしめた。

もうすぐ朝日が登る。

アルヴァーンはリヴェリアの頭のフードを下ろしてやった。

「おつかれさま。魔王」

「ありがとう。勇者」

それから

 

アルヴァーンは魔王の元にしばらく身を寄せることにした。

アリアは眷属の契約を果たしてさっさと出て行けゴミと喚いていたがアルヴァーンは聞かなかったことにした。

人間の国に戻った所でたった一人生き残った彼は責任を押し付けられて殺されるのがせいぜいだろう。

結局リヴェリアが城で雇うと決めたことで誰も反論出来なくなってしまった。

 

執務室に月の光が差し込んでいる。

ノックの音にリヴェリアはどうぞと答えた。

「リヴェリア」

アルヴァーンはお茶を二人分もって部屋に入る。

「名前で呼ぶの?」

「陛下てよぶよかこっちのほうが好きなんだが」

「そ、そう」

カチャカチャとティーカップの音がする。

砂糖とミルクを並べる。

「俺も」

「ん?」

「俺もアルでいいよ」

「そ、…そう。わかったわ、アル」

アルヴァーンは椅子を引いて来るとストレートの紅茶をすする。

「リヴェリア。ちゃんと、その、俺を眷属にしないか」

「しないわ」

即答にアルヴァーンは少し肩を落とす。

「別に魔王を倒さなくたって勇者にはなれるだろう」

「あなた、私と話したこと忘れたの?」

「なんだっけ」

「忘れたのね」

リヴェリアは紅茶に口を付けた。

食品を摂る必要は無いが嗜好品は好きだ。

そして噴き出した。匂いで誤摩化されたが血の味がする。

「アルヴァーン…」

「失礼しましたー」

リヴェリアが顔を上げるとアルヴァーンは食器を抱えて部屋を出る頃だった。

「はぁ…」

 

 

 

「俺、死ぬの?」

「貴様。生きたいか」

「ああ」

「私はリヴェリア」

「可愛い名前だな」

「高貴なる吸血種ヴァンパイアにして魔物の王。魔王リヴェリア」

「魔王か」

「勇者としてトドメを刺してやろうか」

「それは…断る」

「ではここで野垂れ死ね」

「じゃあ俺をきみの部下にしてよ、ゾンビ兵」

「なにそれ」

「でもって寝首をかいてやる」

「私にいいことないじゃない」

「んー。けほっ…じゃーなー。」

「なに」

「君を世界一幸せにしてから殺してあげるから、雇ってよ」

「………………」

 

 

 

「はぁ…私、アホね」

窓から外を見た。月が綺麗だ。

 

おしまい。


 
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