No.384029

真説・恋姫†演義 仲帝記 第二十九羽「雛鳥は欲を見せずに事を収め、臥竜は再び地に臥す、のこと」

狭乃 狼さん

どうにか書き直せました。

というわけで、仲帝記の続編、久々のうpです。

ども、似非駄文作家の狭乃狼ですw

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2012-02-27 18:06:05 投稿 / 全9ページ    総閲覧数:9130   閲覧ユーザー数:7315

 歴史には必ず、大きな流れの分岐点、というものが存在する。

 

 日本で言えば、織田信長が死んだ本能寺の変や、第二次世界大戦で日本が勝っていたら等、結果が少し違えばその後の歴史は今とはかなり、その様相を異なる姿のものにしていたかもしれない。

 

 そうしたIFの先に生まれるのが、外史を含むパラレルワールド、というやつである。

 

 そして、この外史における反董卓連合と董卓陣営の戦い、所謂陽人の戦いもまた、その内の一つに数え上げられるといっても、過言ではないと思う。

 

 戦いそのものは、細かなずれこそあれど、概ね袁紹率いる連合軍が勝利を収め、彼女らは意気揚々と、目的地である漢の都、洛陽へとたどり着くことに成功した。

 

 連合参加諸侯それぞれが、それぞれに様々な思いを胸中に秘めつつ、都にて、皇帝を保護した後のことを、その後に来るであろう乱世へどう対処するかを、その脳裏にこそ密かに描きつつもけして表には出さないまま、表面的にはただ粛々と、一向は洛陽の門前へと到達した。

 

 しかし、そこでは思っても見なかった事態が、彼女らの事を待ち受けていた。

 

 虎牢関の戦いにおいて、董卓軍の虜囚となっていたはずの袁術が、漢の十四代皇帝劉協を伴って連合軍の前にその姿を現し、さらには、その袁術の手によって連合軍の最大の大義であった、“逆賊”董卓の討ち果たしを、彼女が行なったと。

 劉協から自分たちへの賞賛の言葉とともに聞かされた連合諸侯は、その思いもよらなかった出来事に、揃ってその言葉を失ってしまった。 

 

 袁術の手によって、高々と掲げられている“董卓”の首を、ただ呆然と、そして愕然としつつ、遠目にて眺め続けながら……。

 

 

 

 第二十九羽「雛鳥は欲を見せずに事を収め、臥竜は再び地に臥す、のこと」

 

 

 

 「諸侯よ、顔を上げい」

 『は』

 

 上座より聞こえた劉協の声に従い、その前面にて膝を着き頭を垂れていた連合諸侯が、言葉少なにそれに応えて正面へと、それぞれにその顔を上げる。

 その彼女らの視界に入っているのは、上座に設置された玉座に、龍の直垂を身に纏って座る、漢の今代の皇帝劉協と、その彼女の少し手前、一段下の左側に立つ李粛。そしてその李粛とは反対側の位置に立つ、袁術の姿があり、さらにはその袁術の配下である張勲と紀霊、諸葛玄の姿もまた、袁術のその直ぐ傍らにあった。

 

 「まずは諸侯よ。先にも述べたが、此度の義挙のほど、朕はいたく関心しておるぞ?特に、その発起人である袁本初よ」  

 「は、ははっ」

 「……そなたのその、悪を憎み善を真っ当せんとする“義の心”、まことに感服した。……褒めてつかわすぞ」

 「も、もったいなきお言葉にございます!」

 

 皇帝が自分の行動を認め、さらにその上で褒め言葉までかけてくれた事で、袁紹の思考は完全に舞い上がっていた。

 そんな袁紹のことを、空々しい顔をして見ている、他の連合諸侯。だが、その中で唯一、曹操だけが今の状況をいぶかしんでいた。

 

 (……まさか、ね。こういう状況になるなんてこと、完全に予測の範疇外だったわ。董卓が暴政なんて“していない”のは、こちらでも“初めから”分かってはいたことだったけど、いざ蓋を開けてみれば、董卓を逆賊として皇帝が認めてしまうなんてね……。……舞い上がってる麗羽はともかく、さて、ここからどう手を打つべきかしら)

 

 今回の反董卓連合が、袁紹の私欲を発端とした単なる茶番劇でしかないことぐらい、曹操とて始めから百も承知の上のことだった。

 だがそれでも、彼女はその真実を諸侯に黙殺し、自身が名声を得るそのために利用することを選んだ。そしてその思惑通り、曹操は汜水関への一番乗りという手柄を得、一応、その目的も達成することが出来はした。

 とはいえ、その為に彼女は、秘蔵の手段であった数え役満姉妹こと張三姉妹を表に出すという、下策に近いそれを使ってしまった為、諸侯に対して少々後ろ暗い所を抱えることにも、なってしまってはいたが。

 

 (……天和たちの事を差し引いたとしても、私的には十分な戦果と言えるし、ここはこれ以上、でしゃばらない方が得策かしら、ね)

 

 今この場で下手なことを言って、役満姉妹の事を蒸し返されたら、それはそれで都合が悪い。“例の首”が本物かどうかは分からないが、わざわざ藪を突付いて蛇を出す必要も無い、と。上機嫌に晴れやかな笑顔を浮かべている袁紹の後ろで、無表情で畏まった態度を、彼女はその後も終始、貫き通してたのであった。

 

 

 

 「ところで陛下。この袁本初、一つお尋ねしたき儀がございます」

 「うむ。何か?」

 

 また何を言い出そうとしてるんだ、この馬鹿は、と。諸侯が自分の背後でそんな事を思っていることなど露とも思わず、袁紹は劉協に対し一つの問いかけを始めた。

 

 「美羽さん…いえ、我が妹である袁公路にございますが、どのようにして逆賊の首をお取りになられたのでしょう?確か美羽さん?あなたは先の虎牢関で、情け無くも虜囚の身になってしまったはずですわよね?」

 「……っ!」

 

 虎牢関にて袁術が名目上董卓軍の捕虜になったのには、自分にその大きな責任があったことなど、最早一切その記憶の中に残っている様子も無しに口にした袁紹に、他の一同は思わず愕然とした表情をその顔に浮かべ、その彼女の方へと一斉に視線を集める。

 しかし、当の袁紹本人はその事にまったく気付く様子も無く、周囲から浴びせられる白い視線の中、淡々と台詞を吐き続けていく。

 

 「まあ、どうせ美羽さんの事ですから、棚からぼた餅的な“偶然”が、たまたま!重なって、首を取れただけなのでしょうけど。そのあたりの過程、一応!聞いておいて置きませんとね。他の皆さんも、そのあたりはお気になられるのではなくて?」

 「……それはまあ、確かに」

 「気になることは、なりますけど……」

 「そうでしょう?というわけで美羽さん?私は別に、あなたの活躍なんかどうでもいいのですけど、一応、連合の総・大・将!として、聞いておいて差し上げますわ。おーっほっほっほ!」

 

 あまりに機嫌が良すぎるために気付いていないのか。皇帝の前だというのに、その事を気にもする事無く、例の高笑いをしながら袁術に事の次第を話すよう促す袁紹。

 その袁紹の台詞が続いている間、袁術当人は小さくその体を震わせながら、必死になって自分を抑えていた。今この場で、怒りに任せて全てを明かしたくなるその衝動を、両の拳をぎゅっと握り締める事によって何とか堪え、その顔に無邪気な笑顔を無理やり作ると、姉の問いかけに対し、“普段どおり”の言動でもって返し始めた。

 

 「……虎牢関から連中が撤退する際、何でかここまで一緒に連れて来られた妾達じゃったが、その妾達の前に、のこのこと、董卓めの奴がその姿を現したのですじゃ」

 「はい~。お嬢様の仰るとおり、私達もどうしてここに連れこられたのか不思議だったんですけど~、董卓さんが言うには、『名門の袁家の伝手を使って、なんとか穏便に、ことを済ませて欲しい』、とそう持ちかけてきたんですよー」

 「そうだったんですの?まあでも、董卓さんのそのお気持ちも分からなくも無いでもないですわ。三公を四度も輩出した名門、袁家の名にすがりたくなるのは、人として当然ですもの。おーっほっほっほ」

 「全くもって、麗羽嬢の言うとおりですね。いや、さすがは袁家の“御当主”。良く分かっていますねえ」

 「そうでしょう、そうでしょう。秋水さん?貴方こそ良く分かっていらっしゃいましてよ?おーっほっほっほ!」

 

 諸葛玄の袁家を、特に袁紹を讃えるその言葉を聞いて、ただでさえ良かった機嫌を更に良くし、袁紹は諸侯の中でただ一人、満面の笑顔で笑い続ける。

 

 「……ですが、そこで逆賊に慈悲を与えてしまっては、それこそ袁家の名折れ、と。七乃…張勲の進言によって、表面上はそれを呑む振りをし、相手が油断して我々の戒めを解いたその瞬間に、この私が董卓の首を落として見せました」

 「つまり、今回の功は巴、紀霊にあるのじゃ。そしてそれは、その主君である妾の功となるわけなのじゃ。つまるところ、此度の連合の第一の功は、このわ・ら・わ・という事になるわけなのじゃ!分かって頂けましたかの?麗羽姉様?ぬはははー!」

 「……っほっほ……って、え?」

 

 ぴた、と。袁術の最後の言葉を聞いたその瞬間、ぽかんとした顔で固まる袁紹。そして、徐々にその事を彼女の脳が認識し始めると、先ほどまでの上機嫌は何処へやら、苦虫を噛み潰したような顔になって歯噛みをし、まるで先ほどの袁紹の様にけたけたと笑う袁術のことを、ぎっ、と睨みつけるのであった。

 

 

 

 「さて、諸侯よ。今聞いたように、此度の義挙の第一の功は、この袁公路にある。だが、その袁公路。これに関する報酬は何も要らぬ、と。そう申しておっての」

 『なっ』

 「それは当然の帰結、というやつですよ。……僕たちは今回、陛下のため、漢の為、ひいては民の為に、事を起こしたのですから、こうしてそのお役に立てた以上、それだけで十分なはず……ですよね?美羽嬢」

 「……妾は別に、くれるという物は何でももら、むぐっ?!」

 「はいはーい。お嬢様ー?これ以上駄々こねちゃあ駄目、ですよー?……向こう一年間、蜂蜜禁止にされたくないですよねー?」

 「……むぐ」

 

 コクコク、と。自分の口を押さえる張勲に、袁術は渋々といった目をしながら頷く。

 

 「そういうことで、じゃ。その分の褒賞は残りの諸侯に、均一に振り分けることに」

 「お待ちください、陛下」

 「む?何かの……っと、そちは」

 「平原にて相を務めます、劉玄徳に御座います。陛下のお気持ちはありがたく思いますが、私も、公路さんと同様、今回のことについての褒賞は全て、辞退させていただきます」

 「……ほう」

 「……玄徳、貴女」

 「おい、桃香。それでいいのか?」

 

 袁術同様、自分も褒賞を受け取る気はさらさらない、と。そう劉協に向かって発言をした劉備に、その場の誰もが驚きを隠せず、拱手をして劉協の顔を真っ直ぐに見つめる彼女のことを、ある者は不信、ある者は驚嘆の視線を、それぞれに向けて凝視した。

 

 「……愛紗ちゃんたち、あ、いえ、私の仲間たちとも話し合って決めたことなんです。それに虎牢関では、いくら董卓さんが悪い人だったかもとは言っても、その将兵さんたちにとっては主君である人の事を馬鹿にして、あそこに居た人達を怒らせてしまいましたし。……ただの自己満足かもしれませんけど、それも含めて、今回の事は私達にとっての良い教訓となりましたから、これ以上は何も、望むつもりはありません」

 

 長々と。饒舌に自分の想いを熱く語った劉備の顔は、どこか清清しさすら感じさせる、何かを振り切ったような、そんな真摯な表情をしていた。

 

 「……なら、あたしらもそれに乗っからせてもらうかね」

 「文台殿もか。……なら、私も賛成するしかないか」

 「ま、母上には怒られるかもしれないけど、ここであたしらだけ褒美を貰っちゃあ、居心地が悪くなるし。……はあ~、母上の怒鳴り声が耳に聞こえてきそうだ……」

 

 劉備のその発言を機に、孫堅に公孫賛、馬超までもが、この戦いでの恩賞の辞退を口にし、最後には曹操までもがそれに賛成を表明した為、最後に残された袁紹も、それについて不満を言うことなど到底出来様はずもなく。

 結局、諸侯に振舞われるはずだった恩賞については、今回の戦で家族や身寄りを亡くした者達、その全てに対する基金とすることで、全員が承知をしたのであった。

 

 

 

 「そういえば陛下。董卓の旧臣たちは如何したのでしょうか?」

 

 会合の終了間際、ふと、曹操が思い出したように劉協に対してその事を問いかける。確かに、董卓自身は死んだのかも知れないが、その配下だった将兵達はどうなったのか、と。

 特に、董卓軍、いや、大陸最強の武人である呂布の今後、それが彼女にとってはもっとも聞きたかったことだった。

 後の世に、人材コレクターとしてもその名を残している曹操である。呂布を配下にと欲しがるのも、道理といえば道理であったが、劉協の返事はその彼女を落胆させるものでしかなかった。

 

 「おお。そういえばまだ話していなかったな。まず、董卓の参謀であった賈文和という者だが、主君の死を知ると同時に、自らその首を斬り、主の後を追い居った。……董卓のこと、あれは本気で慕っておった故、誰も止められなんだそうだ……」

 「それから、董卓軍随一の剛の者であった呂奉先だが、虎牢関からは戻らず、その姿を途中で消してしまったと、そう報告が来て居る。……何処に行ったかは分からぬが、あれほどの者、そう長くは世が放っておくまい。いずれ、どこぞの将としてまた再び、表舞台に出てくるであろうな」

 「そして残る張文遠と華雄だが、華雄将軍については本人の強い意向により、ここに居る袁公路の下に降ることになった。……主君を討った者に仕える等、正気の沙汰ではないと思ったが、あれ曰く、『自分はただ、より強い者の下で、自分の武を振るえるのであれば、その相手が誰であろうと構いはしない』……と言うことだそうだ。張文遠については、朕の下に残ってもらい、禁軍の将として朕を助けてもらう手筈となっておる。……以上が、旧董卓軍諸将のそれぞれである」

 「……そう、ですか」

 

 劉協と李粛から返されたその返事に、曹操は大きく嘆息を吐いて肩を落とす。しかしそれと同時に、呂布が在野の士となったのであれば、まだ自分にも、彼女を登用できるチャンスはあると、そう自分に言い聞かせる事で、納得することにしてもいたあたりが、曹操らしいといえばらしいのかもしれない。

 

 こうして、劉協と連合諸侯らの会談は無事、滞りなく終了し。その日の夜には、諸侯を讃えるための宴席が、劉協の名の下に盛大に行なわれ、恩賞を断ったその代りにと言われた諸侯には、それへの参加を断る事など出来ることも無く、宴は深夜遅くまで続けられた。

 

 それから二日後。

 

 最終的には思わぬ形になってしまったとは言え、一応の目的を果たすことに成功した連合軍は、袁紹の解散宣言を受けてその場で解散。

 各諸侯はそれぞれの領地へと次々に戻って行き、こうして、陽人の戦いはその幕を下ろしたのである。 

 

 そして、諸侯の全てが洛陽の地を離れた、同日の夜。

 

 

 「……なんとか、上手い事収まった……かな?」

 「そうだな。……ま、月と詠がこの世から居なくなってしまった形になったのは、計画の範疇のことだったとは言え、ちょっとばかり悔しいけどよ」

 「千ちゃんの気持ちも~、分からないではないですけど~。陛下と~、月ちゃんの決断~、間違っては居なかったですよ~」

 「それはそうなんだけどよ……でもやっぱ、なあ?」

 

 洛陽の街の、とある一件の宿。

 その一室において、これまでのことを振り返っている人物達が、そこにその顔を揃えていた。

 

 「千州の気持ちは嬉しいけどね。……そりゃあ確かに、最初に陛下と月の話を聞いたときには、ボクも反対はしたけど。……でもまあ、終ってみれば、これが一番、良い方法だったかも知れないわ」

 「詠ちゃんの言うとおりですよ、千州さん。……やっぱり、私には相国の座は分不相応なものだったと思うし、それに、詠ちゃんと一緒に居られるなら、地位なんて私には関係ないですから」

 「月ぇ……」

 

 とても朗らかなその二人、今は既にその本来の名を捨ててしまった、董卓こと月と、賈駆こと詠のやり取りを、微笑ましく見つめる一刀、陳蘭、雷薄の三人。

 

 「けどよ。やっぱびっくりしたぜ?最初はよ。陛下と月から、董卓仲頴を死んだことにして、しかもその上で、偽善者どもの集まり、いや、阿呆と馬鹿の集まりでしかない連合の連中を、褒め称えて迎え入れる、なんて言われた時にはさ」

 「そうだな。そしてその為に、死んだ王允の首まで使うんだから、あの皇帝陛下、可愛い顔してとんだ狸だな」

 「へぅ。そ、それは流石に言い過ぎじゃあないかと……」

 

 要するに。

 汜水関も虎牢関も破られ、後が無くなってしまった董卓軍を、誰一人死なせる事無く、同時に、洛陽の街を戦火に晒さずに済ませるためには、董卓が既に討たれてしまっていることにするのが、もっとも確実で手っ取り早い手段だと、連合勢が洛陽へ到達する前、劉協と董卓本人の口から、全員にそう提案された、と言うわけである。

 

 もちろん、一刀や袁術は当然の如く、董卓配下の張遼や呂布達は猛反発した。自分達にしても、兵たちにしても、さらには民達ですら、最後の一人になるまで戦い続ける、そんな腹積もりで居た所に、その主君がもうこれ以上の犠牲は出したくないから、自分を公的に死んだことにしてくれと、そう言ってきたのだから。

 劉協と李粛、そして董卓の三人以外では、その策を推したのは張勲と諸葛玄そして一刀のみ。残りの面子は揃って反対し、ぎりぎりまで彼女らを説得し諌言したのであるが、最後には董卓自身が床に頭をつけてまで、全員に生命を大事にして欲しいとまで言った以上、最早誰にも、それを覆す事はできなかったのであった。

 

 「まあ、なんにしても、だ。万事丸く収まったわけだし、一応、めでたしめでたし、っても良いんじゃねえの?」

 「……だな」

 「あ~、そ~いえば~、陛下はこれから~、どうなさるんでしたっけ~?」

 「……美紗、あんた……聞いてなかったの?……陛下はここに残って、李粛殿の補佐を受けて洛陽とその周辺の政を、相国といった間の臣下を置く事無く、自らなされるそうよ」

 「……皇帝の親政、か。上手く行くと良いけど、な」

 「それは大丈夫でしょ。李粛どのは有能だし、都の守りについても、霞が居れば何の心配も要らないでしょうしね」

 「そうだね、詠ちゃん」

 

 都周辺のみとは言え、皇帝が親政を行うのはまさに久方ぶりの事ではあるが、その補佐を行なう李粛は優れた能吏であるし、治安を預かる禁軍の将には張遼が就いている以上、そちらにも何の問題も無い。

 そして近々、劉協から大陸全土の諸侯に対し、とある勅命が下されることにもなっており、それが滞りなく運びさえすれば、大陸は再び漢の名の下、安定した時代へと入って行く事が出来るはずだから、今は何の心配もせず、自分達のこれからのことを考えたほうが良い、と。

 最後に賈駆がそう閉める事でその場は解散し、明日の汝南へ向けての出立に備え、身体を休める事にした一刀達だった。

 

 

 

 そして翌朝、長安経由で汝南の地を目指し、洛陽を出立する一刀達の姿があった頃。

 

 「……良い天気、だな……。……桃香さまや雛里ちゃんたち、もう、平原に戻った頃、かな……?」

 

 南へと、隊商を組んで進む商人たちの中に混じり、荷を満載した荷車の空きスペースに乗って、空を仰ぎ見ているベレー帽の少女が居た。

 

 「……今度会うときには、桃香様の慈悲に今度こそ応えられる、本当の意味での軍師になって居ないと……」

 

 手に持った羽扇で空を指し示し、流れ行く雲の群れをじっと見据える、彼女。

 

 「……あの雲の様に、時は無常に流れていく……。それが、平穏な流れのまま、流れ続けるのなら良いけれど、雲は時に嵐を呼び、大地に無慈悲なまでの爪痕を残す……」

 

 それが、何時、如何なる形で訪れるかは、未だ少女にも分からない。だが、ただ一つだけ、はっきりといえることがある。

 

 「……その時が来た時こそ、私が本当の意味で、桃香さまの、世の中の役に立てる、その日となる……」

 

 彼女にそう予感させる確信めいた何か、それは、少女の中に確かに存在している。

 

 「……地に臥せる竜。それが私だと、水鏡先生は仰っていられた。……その私が、今こうして、もう一度勉強しなおすために先生の下に戻る。今一度、地に臥せて力を蓄えるその為に」

 

 地に臥せた竜は、己一人の力では、天に昇る事は出来はしない。魚が、水無しに生きられないように、竜は雲を必要とする。

 

 それが、大地を破壊する荒れ狂う雲か、はたまた、恵みをもたらす静かな雲かは、まだ分からない。けれど、と。彼女は思う。

 

 「……次に出会う雲。それこそが、私を天に昇らせてくれる、真の雲となるだろうな……。それが、桃香様ならいいんだけど……」

 

 己の贖い難い罪を許し、建前上は追放と言う形を取りながらも、再出発のための機会をくれた主君、劉玄徳。

 

 少女は思う。

 

 願わくばもう一度、世に大徳と呼ばれたあの方に、お仕え出来ますように、と。

 

 伏竜、もしくは臥竜と、世に呼ばれたその少女、諸葛孔明。

 

 彼女の願いは、果たして、天へと通じたのだろうか。それとも……?

 

 蒼き空は黙して何も語らず、ただ、中天に輝く日輪と、白き空の旅人を、見守るのみであった……。

 

 ~続く~

 

 

 

 狼「やっと書きなおせたあああああっっ!!と言うわけで、久々更新、仲帝記の第二十九羽です!」

 輝「おひさ~♪後書き担当、輝里でーす」

 命「皆元気にやって居ったか?後書き担当その二、命じゃ」

 狼「いやあ、手違いでデータが全部消えたときはどうしてくれようかと思ったけど、何とか出来るもんだねえ」

 輝「まあ、今後はちゃんと、別にバックアップ、取って置くようにね」

 狼「いやもう、全くもって仰るとおりで・・・・・・・以後、気をつけます」

 

 命「ま、なんにしても、じゃ。これで反董卓連合編は終わりじゃな?」

 狼「そうです。月と詠以外の将の行き先も決定したし、諸侯のことも何とか上手く収められた・・・と、思う」

 輝「美羽ちゃんが褒美断っちゃったものだから、誰も自分だけが褒美を貰う、って言うわけには行かなくなっちゃった、ということね」

 命「そうじゃな。結局、今回のことで少しでも得をしたのは」

 狼「華琳と堅ママ、それと美羽だけ」

 輝「蜀組も損しかしてないし、朱里が陣営から離れたし。でもさ、なんだか朱里一人に、責任全部負わせた感がないでも」

 狼「んー。文中には書いては居ないけど、一応、愛紗も雛里も、それなりの罰は受けてるんで、その辺は・・・次から始まる拠点の中の一つに、組み入れる事にしますので、お許しいただけたら幸いです」

 

 命「で?次はこれの拠点と、例の親父殿の厨二全開なアレと、どっちを書くのだ?」

 狼「いや。その二つの前に、企画物を少しの間挟みます。題して」

 輝「第二回!どきっ!?笑ってはいけない二十四時in恋姫!」

 命「・・・またやるのか、アレを」

 狼「おう。ようつべで本家を見てたらまた書きたくなったんでな♪と言うわけで、既に出演者さんたちから許可も頂き、ある程度ネタも集まったので、そろそろ開始と行こうかと、思っております」

 輝「ですので、暫くそんな遊びに、付き合ってやったってください」

 命「では、今回はここまで!」

 狼「それではみなさん!」

 

 『再見~!!』

 

 

 

  


 
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