/霞
華雄はんの後に続いて暫く歩いとると、なんや結構城の奥っぽいとこまで来てもうた。
二,三度けったいな門とか、昔の家を思い出す様な扉番のごっつい兵士さんとかの横も通ったけど、皆華雄はんの顔見るだけで通してもうた。
もしかせんでも、ウチ、凄い人に連れられとるんやな。
でも、ちっとも緊張せぇへんのは、多分やけど何となく古巣に帰ってきたみたいな感じがする所為や。
何処となく、此処は友達もなんも居らんかったけど十一まで我が家やった城ににとる。
雰囲気は似ても似つかんけどな。
この城は、おっちゃん達と居った時みたいな感じが、なんちゅうか、安心出来る感じがする。
やからて、前の城が悪いっちゅう訳や無い。寧ろ、この城が異様や。
城ってもんは、戦の道具で、政の舞台や。血と智で争って、偶にどっちもが出張って酷い事んなる。
一刀がやった事もそうやし、その先にあった并州乗っ取りもそう。
そういう場所で、そういうモンや。なのに、ウチはここで安心を感じとる。
……かーっ、お天道様の元には、いろんな奴が居るんやなぁ。
ま、ウチ、この空気は大好きやし、何も問題あらへんけど。はよ主の顔見てみたいわ。
「む、どうしたのだ?」
「ほえ? あ、ウチなんかやらかしてもうたん? ましたか?」
「はっはっは、無理に敬語を使わずともよい。いや何、文遠が何やら嬉しそうに笑っておったのでな」
「ウチが、笑うて?」
「ああ。こう、ニコニコとだ」
言うと華雄はんはなんちゅーか、不器用な感じで、でも嬉しそうに笑うた。
それに釣られて……なんて思ったら、ホントにウチはもうにこにこしとった。
何となく気恥ずかしくなって、頬を掻いてその場を誤魔化した。
「ふむ、やはり文遠、貴様は城に慣れておるな」
「あ、やっぱ分かりますか?」
「うむ、普通初めて城に入った様な人間はもう少し恐縮したりするものだが、文遠には全くそんな様子が見られない
もしや何処かで仕官していた事があるのか?」
「いや、仕官っちゅうか……」
一城の主の娘でした、なんて言う訳にもいかんよなぁ……どないしよ。
こういう腹芸は一刀のお家芸やし……。ま、誤魔化せばええか。
「まあそんなようなもんです、はい」
「ふむ、語るに語れぬ事情があるのか」
アカン、二秒でバレてもうた。
華雄はんはなんやからから笑うとるし、ものごっつ恥ずかしい。
「まあ詮索しようとは思わんよ、っと。着いたぞ、ここだ」
「ほえぇ、ここは……闘技場?」
「うむ。さあ好きな得物を選ぶと良い。私は既に準備万端だ」
そう言うてごっつい斧を構える華雄はん。
ウチに差し出されたんはいろんな種類の得物が入った籠。
……成程なぁ。簡単で、手っ取り早くて、んでそいつがどんな人間か一発やもんな。
華雄はんからは強そうな奴の匂いがしとるし、おっちゃんが死んでから暫く誰ともしとらんかったし、にゃは!
俄然やる気が出てきたで。
「ほお、戦い慣れた奴の顔だな」
「にゃはは、ウチ、もう今の時点で楽しみでしかたないんやで」
華雄はん、アンタものごっつうええ女や。
「それは重畳。ふむ、戟とは無難な」
「無難上等。長物なら何でもがウチやけど、コイツなら、もう一段上も目指せるで」
「くくっ、期待させてもらおう」
「おう、アンタの期待は裏切らんで」
最後に一度、華雄はんと視線を交わした。
──剣戟が、始まった。
**
最初に跳ねたのは、張遼だった。
タンッ。
小気味の良い音を置き去りに。そして小さな足跡だけを残した。
一瞬の間が生まれ、華雄が冷静に一刀の元巨大な斧を事もなさげに振り切る。
轟音を立て地に斧がめり込んだ瞬間、張遼が砂煙の向こう側から現れた。
重量故に構えるまでに一瞬の間を要する華雄の斧。
その隙を張遼は、あろうことかその柄を走り抜ける、という行為に費やした。
初めて見る行動に面喰らうことで、もう一瞬生まれる華雄の隙。
コンマ一秒以下を争う戦闘にとって、大き過ぎる二瞬という隙で、張遼は必殺の戟を突きだした。
勝利の間合いに届いたのを確信した張遼。口元に笑みが浮かぶ。
肌に刃を潰された戟が届くその瞬間。華雄は斧から手を離し、そして目視すらまともに出来ないであろう速度で迫る戟を、殴りつけた。
ガィン、と鈍い音が鳴り、予想だにしない方向からの衝撃に張遼は必殺の一撃を外し、そして眼前の敵の前に無防備な腋をも晒した。
腋が徐に晒された張遼。無手となった華雄。
どちらもあり得てはいけない失態に、自身へ悪態の一つでも吐きたい心境を堪えながら後ろへと飛び跳ねる。
「……どうやら、貴様の事を侮っていた様だ」
「ウチもや。華雄はん、こない強いんなら一言言ってくれてもええやん」
「はっ、ほざけ」
二人は短く言葉を交わし、そして相手への認識を改める。
華雄が唾を吐き捨て、瞬間、次は華雄が先手をとった。
力のまま他者を飲み込む濁流と、ごうごうと流れ誑かす激風。
どちらがどちらか。矛先が煌き、閃光が弾く。
甲高い金属音が途切れることなく続いた。
交わした合数は既に十を超えただろうか。
響く矛音に釣られ、何処からともなく現れた城の侍女、武官、文官、兵卒……。
彼等は先ず華雄が斧を振っている姿に動揺し、そして対等に打ち合う見かけぬ少女、張遼に目を剥いた。
精強な董卓軍内でも、群を抜き武勇を誇るのは華雄、彼女に他ならない。
尤ももう一人、最早ものさしで測る事すらいやになる様な存在が居ない訳ではないが、今回は直接関係ない故話題には上げないでおく。
閑話休題。
そんな董卓軍内で、最高の将という看板を背負っていると言っても良い華雄。
それと、同等以上に打ち合う存在。武官と諸将は食い入るようにその立ち合いを見つめ、文官以下は一目した段階で凄いモノを自分はみているんだな止まりで思考を放棄していた。
決して見れないような人間として最高峰の戦い。それが今まさに眼前で行われているのだ。
戦士たちは我知らずに手を握る。自分達に訓練を付けてくれる中では決して見れない、自らの将軍の本気。
何度フェイントが入ったか、あの動作の意味は、斬撃、刺突の速度は。
届かない領域への熱烈な羨望を込め、言葉を交わし合った。
そして、打ち合いが二十合に届こうとまで達した時、勝負が動いた。
張遼が放った、突きからの横薙ぎ。
戟故に強力な殺傷力を持つその一撃を、華雄は半身を傾け、そして反らす事で回避した。
見切り、とはまさに今の様な動作の為にあるのだろう。そして華雄は、その見切りによって、一筋の勝利への可能性を手にした。
張遼が刃を引き戻すまでの数瞬、という決定的な隙だ。
数本、華雄の美しい銀髪が舞うのも気にせず華雄は頬を掠めた戟を弾き落とす。
そして並はずれた剛力で斧を振り抜いた。届け、と何処か祈りつつ、届かないのだろう、と何処か喜びながら。
果たして轟、と振り抜かれた巨斧は、やはりと言うべきか。
後方へ跳躍した張遼の袴に僅かな切れ目を入れることしか敵わず、目標を捉える事は無かった。
何と言う事は無い。張遼は、華雄の先程の行いを──武器を一瞬手放す──を模倣し、間合いから外れたのだ。
タン、タンと小気味の良い音が二度連続でした。最初の音は張遼のバックステップ、二度目の音は斧を振り抜かれた直後に跳ね舞い戻った張遼の跳躍音。
手を離された戟が、地に落ちる事無く主の手に戻る。
そして再び、華雄を討ち倒すべく跳躍する。
それを見た華雄は、一つ小さく微笑んだ。
会心の一撃をかわされた虚しさなどまるで感じない。ただ本能が喜んでいた。
己に匹敵する才が、此処にある。
観衆は、物音ひとつ立てず怒涛の行方を見守るのみ。
合数は最早、五十に達しようとしていた。
張遼と華雄は、互いに理解していた、限界が近いと。
だからと言って、こんなに楽しいことをしている最中に、矛を収めるなど今更にも程がある。
それは果てしなく無粋で、とんでもない侮辱だ。
試験だとか、互いを推し量るとか、そんなことはもうどうでもよくなっていた。
ただ、目の前の人物を倒したい。
二人の中には、純然な願いだけが残っていた。
「華雄はん……次で最後にしよや」
「……奇遇だな。私も丁度同じ事を考えていた」
「そか、なら……これで最後や。文句の言いっことか、無しやで?」
「当たり前だ」
華雄の一言を最後に、二人は互いの得物をきつく握り締め、確かめるように地を踏んだ。
誰も言葉を発しない。世界が音を忘れてしまった、そんな錯覚さえ抱かせるような静寂があり──。
“天才”と“天才”が、一瞬だけ交錯した。
遅れて地を跳ねる音が、戟と斧が煌く音が響き──
「新入りに、……負ける訳にはいかんのでな」
斧を掲げた戦士が、勝利を奪い取った。
華雄姐さんかっけええええええええええええええ!
という回です。
ちょいと中二臭いかもしれませんが、読者の皆様にも華雄姐さんかっけええええええ!と思わせられたら今回は成功だと思ってます。
こんにちわ、甘露です。
午後三時ってなんて微妙な時間帯なんでしょうか。
テレビは詰まらんですし、ネットも過疎ですし、MMOも割と人少なめですし。
尤も、そんな時間でがしがし執筆してる甘露なんですけどねー。
アンケート、多数の投票ありがとうございました。
多数決の原則、とか言う訳で、拠点は閑話的な形で途中に挟ませてもらう事にします。
2を投じてくださった方には申し訳ありませんでした。
と言う訳で(どういう訳だ
拠点のラインナップは次の様にしたいと思います。
一、一刀と霞と風、金城市内を散策するのこと(一刀×霞×風 甘甘いちゃいちゃ風味)
二、風、一人構われなかったことを拗ねるのこと(一刀×霞×風 甘甘いちゃいちゃ風味)
三、詠と一刀、書簡整理中に駄弁るのこと(詠×一刀 腹黒腹の探り合い風味)
四、一刀、上司に振り回されるのこと(月×華雄×一刀 苦労人一刀振り回され風味)
上記の様になる予定ですが、五章が終了した後にぽぽぽぽーんと投下すると思われます。
追伸:アンケの二番、ツッコミ待ちだったのに皆様のスルースキルに全僕が泣きました。
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・斧
・TUEEEEEE!
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