小狼はさくらの髪を、指で絡め取り弄ぶ。
息の掛かりそうな距離に彼女の顔がある。
「もう一度、言ってくれ。俺とどうしたいって?」
表情を引き締め、けれど口元に優しさを残しながら、小狼はまっすぐさくらの瞳を見つめる。みるみる彼女の頬が染まっていく。
「…………////」
さくらは恥ずかしさの余り、色付いてしまった頬を意識しつつも、瞳を逸らす事が出来ない。吸い込まれそうな小狼の瞳に見惚れてしまったというか。心の奥底まで射抜かれてしまったというか。
前髪が絡み合うほどの距離から見つめられ、さくらはそれ以上、動く事が出来ないで居た。
さくらが座っているのは、小狼に誘われるまま腰を下ろしてしまった彼の太股の上。制服の向う側にしなやかな筋肉と彼の体温がある。
彼女の左手は最後の抵抗を示すよう、小狼の右腕に添えたまま止まっていた。
身体を支えようとさり気なく伸ばした右手は、彼のもう片方の太股に触れている。それがどれほど彼を誘惑しているか、さくらは気が付いていない。
「さくら……」
恋人の名前を優しく紡ぎ、柔らかく微笑む。
時折見せる小狼のズルい顔――。
「あ…………」
ようやく吐き出した声は言葉にならず、彼の口元を掠めただけで空気に解けていく。さくらの右手に、わずかに力がこもる。
「…………じゃぁ、こうしよう。さくらがちゃんと言ってくれたら、キス、してやるよ」
「!!」
さくらの顔が一気に茹で上がる。
彼の口元に悪戯っぽい笑みが滲んでいたから。
(ズルイよ……。本当に、ズルイ…………)
大好きな気持ちで窒息しそうな心をなんとか解きほぐしながら、さくらは心の中でそう呟いた。
真剣な目差しよりも、優しい微笑みよりも、さくらにだけ見せてくれるそのちょっと子供っぽい表情は、さくらのわずかばかりの抵抗力を容易く崩してしまう。
「キス……。……してく」
さくらはそのセリフを最後まで言葉に出来なかった。
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某サイトのトップページを見た瞬間にムラムラと来たので、つい頑張って出してしまったお話し。
▼2012/02/28:作品を公開するアカウントを変更しました。