No.381162 Light of lovecpfizzさん 2012-02-21 01:46:46 投稿 / 全1ページ 総閲覧数:2361 閲覧ユーザー数:2361 |
中庭へと続く広い窓から夕日が斜めに差し込んでいる――。
茜色に染まって室内で小狼は、ジッと一点を見つめていた。
(やっと向こうでの事が片づいたんだ……)
彼は優しい微笑みを浮かべながら、"さくら"に向かって心の中でそう告げた。
顔の赤みは果たして夕日のせいか、それとも。
「……だからこれからはずっとい、一緒だ」
どもりながら"さくら"の目を真っ直ぐに見つめて訴える小狼。いつまにか心の中で呟いていた声が空気を震わせていることに、彼はまだ気が付いていない。
一方、彼の必死の訴えが当の"さくら"には届いていないのか、一切反応を示さない。黙って彼の顔を見つめ返している。
「それで、あの」
「小狼さま、お話し中に申し訳ありません。間もなくお時間となります。御支度は宜しいでしょうか?」
突如、扉の向こうから聞こえた声が小狼を現実に引き戻した。
――いつの間に声を出していたのだろう。まさか聞かれたのだろうか? 自分の失態を理解するや否や、彼は口を手で塞ぎキョロキョロと周囲を見渡す。当然、その顔は口元へ手を伸ばすよりも早く、瞬時に沸騰していた。幸い自室の窓や扉は閉め切られており、誰かに直接見られたり、聞かれたりされる心配は無かった。だが――。
(…………いや、確認をすれば却って怪しまれる)
下手をすれば墓穴を掘りかねない。小狼は瞬時にそこまで思考を巡らし、平静を装って返答した。
「……分かった。すぐ行く」
「お待ちしております」
間髪入れず、扉の向こうから声は返ってきた。やがて偉の気配が無くなったことを確認し、小狼はようやく胸を撫で下ろす。恐らく彼の事だから妙な詮索はしないだろうが。それにしたってさっきの自分の姿は客観的に見ると、その、正常ではないと思われるかもしれない。閉め切っていて正解だったと小狼は扉を一瞥する。
そして、目の前のベッドにボストンバックと並び、すました顔でこちらを向いているテディベア"さくら"を優しく見つめた。
日本を発つ際(きわ)に渡されたこのテディベアは小狼にとって、まさにさくらの分身であった。
彼女と電話を交わす時――。
彼女へ手紙を綴る時――。
ふとした瞬間、彼女を想う時には必ずと言っていいほど、彼はその"さくら"を見つめていた。それが明日になれば彼女自身と見つめられるようになる。李家親族、関係者全てをようやく説得し終え、手続きを済ませて日本へ"帰る"のはすべて彼女に会いたいから。ずっと一緒に居たいから……。
その想いが明日になればようやく遂げられるのだ。
彼女とやっと"再会"を果たせるのだ。
その瞬間を想像して事前に練習をしておこうと思ったのは事実。直接会うのは久しぶりだから絶対に緊張してしまうと思い、心の中で言葉を紡いでいたのだけれど、身体の抑えまでは利かなかったらしい。
小狼は先程の自分の姿を客観的に想像して、再び顔を沸騰させる。
それから照れ隠しのようにそっと"さくら"抱きしめた。頬の熱は引かないけれど、そうすると少年の心は不思議なほど落ち着いていく。
そう。本当に不思議なのだ。心が昂ぶるのも、静まるのも同じ"さくら"によって引き起こされるのだから。
いや、正確にはこの"さくら"を通じて感じられる彼女の存在そのものなのかもしれない。
小狼は深呼吸をするよう肺一杯に空気を吸い込み、ゆっくり吐き出す。仄かに香る彼女の残り香を感じて彼の頬はまたうっすらと染まり、反対にその心はどこまでも安らげるのだった。
「さくら……――」
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“さくら”に告白している小狼くんの図。
ちょっと“痛い”かもしれません。
▼2012/02/21:作品を公開するアカウントを変更しました。