ここ最近私は空を見る事が日課になっていた。
一人で見ていると何故か、よく声をかけられる。
たいていがどうでもいいナンパだった。
私ってそんなに軽そうに見えるのかな。
でも私は一人で考え事がしたくて眺めている。
だからいつも適当にあしらい。自分の空間を確保する
私の中で芽生えはじめた不安を紛らわすために。
その不安は友達にしてみれば考え過ぎって笑われるぐらいの不安。
でも私にとってはそれは時期が近づくたびに大きくなっていった。
昔から空を見るのが好きだった。それが元で彼とあうことができた。
そして、プロポーズもきれいな星空の下でされた。
空は何かをくれる。そんな気がして私は空を今日も眺める。
でも今日は変な人がいた。道の真ん中で空を見上げている。
確かに車の通りもすくないけど。ど真ん中はないんじゃないかな。
そんなことを思いながら再び空を見上げる。
するとさっきの変な人はこちらに近づいてきた。
そして私の隣まで来て「こんばんは」と挨拶をしてきた。
私は空を見上げたまま「こんばんは」と返しておいた。
彼はそのあと何も言わずに私の隣で空を同じように眺めていた。
人がいるのは何だかやっぱり落ち着かない。
またナンパだと嫌だな。どうしようかな。
私は取りあえず変わった女を演じてみる事にした。
「ねぇ、貴方も空からの声が聞こえるの」彼は怪訝そうに「声?」と聞き返した。
うまくいったかな。もう一度聞いてみた「そう、声よ。貴方も聞こえる」
しばらくすると「いいや、何も聞こえない」と返ってきた。
「ほら聞こえる。星同士が会話している声が」私は一度目をつぶり彼に言った。
どうしているかなと思い薄めをあけて横を見る。
すると私と同じように彼は耳に手を当てる。
すごく変な人だ。でも面白いかも。
ここまで真剣に声を感じてくれた人はいなかったな。
だいたいは変な奴と思って何処かに行くか。
話を適当にあわせて誘ってくるかどちらかだった。
話を合わせてきた時は「バッカじゃない」と切り捨ててその場を動く。
笑ってしまうのは何だか失礼な気がしたので必死に笑いを堪える。でも体が震える。
そんな私に「どうしたの」と彼が不思議そうに聞いてくる。
そうだよね。わかんないよね。だけどまだ上手く言葉がでない。
「ごめんなさい。貴方は他の人ちがうみたいね」私は何とか声にしてそれだけ伝える。
彼はなにやら納得したかのように再び空を見上げる。
私はこの変な人ともう少し話がしたく普通の話をしてみた。
「いい空よね。切り取って持ち帰りたいな」私は写真のとるかのように指をかたどる。
もう少し月は右側にあるといいかな。そんなことを思っていたら彼が呟いた。
「もったいないな。切り取ったら」あれ、ベストショットだと思うんだけどな
だから私は「切り取るだけの価値はあると思うけど」と彼に返した。
そしたらあっさりと「切り取ったら味気ないよ」と返された。
「そうかな。いい部分だけ切り取った方がいいと思うけど」
「一つでも欠けたらこの空は完成しない、まぁ人それぞれだけどさ」
何だか格好がいいこと言うのね。でも何かおかしい。また笑いがこみ上げてきた。
「ねぇ」と声をかけると彼の視線が私の視線をとられた。
とらえられた瞬間なんだかドキッとした。イケメンってわけでもないのに
「ナンパじゃないんだよね」何とか沈黙を破る為に声に出たのはこんな言葉
彼は短く「違うよ」と答えた。
私は「そう」としか答えられなかった。何だか変な感じだ。
「気分が落ち込んだり、迷ったりすると無性に空が見たくなるんだよね。」
私は彼がどう反応するのかちょっとだけワクワクしていた
「そうだね。なんだかそれはわかる気がする。」
あれ今度は肯定された。しかも、当たり障りもなく。
だから私は素っ気なく「そう。」と短く返事をし「今日は何で空を」っと続けた。
なんだろう、なんとなく話をもう少しだけしたくなっていた。
彼は空を見上げたまま「まぁ色々とあってね。」と答えた。
色々かなんだろうな。男の人だから仕事かな。私と同じぐらいだから恋愛かな。
そう思い。「仕事かな。それとも人間関係?」と彼に尋ねた
すると彼は変なことを言いだした。
「質問されるばかりじゃアレだから交互に一個ずつね。」
「交互に?」何だかよくわからない。
「そう、さっき一個答えたからこっちの質問ね。君は何で空を見てたの」
あぁやっぱり気になっていたんだ。ちょっと遊んでみよう。
「あれ、最初に言わなかったけ。声が聞こえるって」私は隠しもせず笑いながら言った。
「でもあれは冗談でしょ。もしかして本気」。
私は答えようとしてがやっぱり遊びたいので焦らしてみることにした。
「質問に答えたから今度はこっちの番ね。仕事?人間関係?どっち」
彼はそうだったって感じの顔をして渋々と答えた。
「仕事は人間関係とセットだから両方だよ。」そんなもんかしらね。
「はい、答えたよ。声は冗談、それとも本気?」そんなに気になってたんだ。
もうすこしだけいいよねだから私は「本気……。」と軽く答える。
少し吹きそうになったので顔を下にそらし、気持ちを落ち着かせる。
そして顔をあげて彼の顔をみて「うそよ、あれはナンパ対策」と告げる。
彼はよくわからないといった表情で「ナンパ対策、あれがどうして?」と聞いてくる。
でもこれは説明しようがないので次の質問をしてみることにした。
「だめだよ。次は私の番だよ。ねぇ、人間関係に恋愛ないの?」
「恋愛はしているけど、コレだから」そう言って彼は左手をみせる。
見せられた手には月明かりを受け微かに光るリングがあった。
薄暗いがアレは間違いなく結婚指輪。でも恋愛をしているって。アレ、あれ…
えっともしかして、もしかしなくて。最低な奴だ。
私は彼を睨み、「それで恋愛ってまさか不倫。最低。」と言い放つ。
彼は一瞬?っという表情をみせ否定した。
「違うよ。不倫じゃない。」そう言うがすごく疑わしい。
「じゃ、どういう事。」私の声が震えていた。
「結婚は節目、恋愛は互いに死ぬまで続くって思っているけど」
思ってもみない言葉が返ってきた。
その言葉はいままで私が抱えていた不安に光をともした。
男の人って結婚すると相手をみてくれないと思っていた。
結婚前は結婚してもみてくれると言ってくれてもその内にみてくれなくなる。
そんな話を聞いたり見たりして知っている。
私は再び空を見上げる。私は結婚が怖かった。相手が怖いわけじゃない。
私にはもったいないぐらいのいい人だ。
でも、ちゃんと結婚後も私を女として見てくれるのだろうか。
私の両親はうまくいかなく離婚していたから余計に強く思う。
あの人にかぎってそれはないと信じたい。けど、どうしても不安になってしまう。
結婚して綻びはじめるならしなければ綻びない。そんなことすら考えた事もあった。
もし結婚後も恋愛が続くのなら。
そしてそれが死ぬまで続くとしたら私の不安は杞憂におわる。
彼の言葉を頭の中で繰り返す。恋愛は互いが死ぬまでつづく
私は「そうだよね。続くんだよね。」と言葉にして呟いた。
「あくまでも僕はそう思ているよ。」彼は静かに答えた。
ここにそう思って実践している人がいる。
だから私も大丈夫。根拠なんてないけど、不安はもうどこにもなかった。
そんなことを思っていると彼がボソッと呟いた。
「この時間だともう寝てるな。今日も寝顔だけか。」
なんだかごちそうさまって感じがしたので、ちょっぴり皮肉ってみる。
「なに、待っていてくれないの。奥さん」
「いや、子ども。たぶんもう寝てる。まだ小さいからね。」
何だかとんでもない事を言いだした。
外見は私と同じもしくはちょっと下ぐらいなのに。
「ぇ、子どもいたんだ。」それでも恋愛は続いている。
これは本物なんだ。私はさっきよりつよく信じる事にした。
「そう、いるんだよね。これでも、」照れているような感じがした。
いつまでも引き止めてたら子どもにも奥さんにも悪いから
「じゃもうお開きだね。」と私から切上げる事にした。
「そろそろ帰りますかね。」彼はそう呟き空から視線をはずした。
「もしかしたらまた会うかもね。この時間は楽しかったよ。さよなら。」彼が言う
彼はこの道を通って家に帰る事がこの先もあるかもしれない。
でも私がここで空を眺めていた理由は今日なくなったので会う事はないだろう。
だから私は「もう会うことはないよ」といい「さよなら」と短く答えた。
帰って行く彼の背中に私は「ありがとう」と呟いた。fin
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夜空の戯言の女の人視点です