No.378675

ハーフ・ボイルド・リトル・ウルフ

cpfizzさん

今回は李家の裏仕事のお話し。 某所の設定で言う所の酷小狼だと思います。普通に血を流すし。 小狼くんが虐められるのが嫌いな方は読まない方が賢明かと。▼2012/02/15:作品を公開するアカウントを変更しました。

2012-02-16 01:07:06 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:2133   閲覧ユーザー数:2132

 

「くっ……」

 少年は銃弾が擦った左腕を押さえる。溢れ出る鮮血が道着をあっという間に赤黒く染めていく。明らかに皮膚だけでなく筋肉の部分にまで、傷の深さは及んでいるのだろう。痛みと言うよりは熱さが二の腕全体を覆い始めた。

 両足、右腕に続き、左腕にも傷を負い、とうとう少年は追い詰められようとしていた。

「くそっ……! 動いてくれ……」

 悲鳴を上げる四肢に無理矢理力を込め、少年は何とか立ち上がり、相手に対峙しようとする。しかし彼の身体は既に限界に達しようとしていた。

「まだ抗うか? さすがは李家の次期当主といった所か。この魔都の裏の顔役と言われるのも分かる気がするぜ」

 少年と似たような中華風の道着を着た男が、ゆっくり近づいてくる。彼の手に握られているのはおおよそ拳銃と言うには巨大すぎる銃。四十四口径のその弾はまともに命中すれば確実に死を与えられる程の威力を持つ。

「しかし、俺と同じような術を使えるヤツが居るとは思わなかったが……」

 男は嫌らしい笑みを浮かべつつ、少年から一メートルほどの距離にまで近づいた。

「俺ほど完璧ではないらしいな」

 言いながらゆっくりと片手で銃を構え、少年の脇腹へ向けて弾倉の中の最後の一発を放つ。発砲する。

 銃弾はそのまま少年の脇腹へ一直線、ではなく寸前で軌道が逸れた。銃弾は少年に命中することなく、地面に穴を空けただけで終わる。普通に考えるとまずあり得ない弾道をその銃弾は描いたのだ。

「ほぅ、この距離でも曲げられるとは大したもんだぜ」

 男は短くピュウと唇を鳴らすと、弾倉から空薬莢を捨て、スピードローダーで素早く銃弾の再装填を済ませた。

 そのまま撃鉄を起こし、二連射。

 一発目は先ほどと同じように少年の身体を逸れたが、二発目は少年の脇腹を掠めた。

 少年の顔が大きく歪み、苦痛を訴える。

 今度は脇腹で痛みが着火した。再び生まれる赤黒い染み。道着を鮮紅が染め上げていく。

 擦っただけなのにその弾は確実に肉までも削り取っている。恐ろしいほどの破壊力。

「やはり、連射には対応できねぇな。そこが俺との違いか」

 にんまりと唇の端を持ち上げる男。相手より有利に立てた事がよほど嬉しいらしい。

「なら、これで最後。だろ?」

 男は最後の一歩を踏み込み、少年の額に銃口を突きつけた。

 距離が近づけば弾が逸れにくく、また連射をすればその確率は高まる。確実に相手を仕留めようと思えば当然辿り着く帰結。しかも殺しを生業としている者ならば、仕留め損なう事は許されない。男が少年の四肢を狙い撃ち、動きを封じたのは最初から今の状況を作り出すためだったのだ。

「…………」

 金属の冷たさと火薬の熱が同時に伝わってくるのを物ともせず、少年は男を睨み返している。

「いいねぇ、往生際が悪いヤツは好きだぜ」

 意地の悪い笑みを顔に貼り付けて、男の指がトリガーに掛かり、ゆっくり力が込められる――。

「…………一つ聞きたい事がある」

 少年は男の目を真っ直ぐ見据えて静かな声を発した。言葉の端に滲む種火のような怒りの声色が男を挑発しているようだ。

「冥土の土産ってヤツか? 生憎と俺はそう言うのは嫌いでね。先の事考える暇があんならこの状況何とかしてみな?」

「…………」

 少年の顔が悔しそうに歪む。

「ヘッ……。だがお前のその目に免じて一つだけ教えてやろう。そんな獣の目は滅多に見られないからな」

 男は少年の額から当てていた銃を離し、彼の言う「獣の目」を嬉しそうに見下ろした。

「サクラ・キノモトと言ったか、未来の花嫁は? 彼女もお前と同じ標的(ターゲット)の一人だ。上のな」

「ッ!!」

 少年の顔が一気に青ざめる。男の手回しの良さからすると既に彼女にも……。彼の頭の中に最悪の想像が巡る。

「……青いな。だが焦る必要はない。彼女の力は上にとっても魅力だそうだ。洗脳してでもあの力を手に入れたいらしいぜ」

 それは少年が想像する以上の最悪のシナリオだった。彼女の力がどんな事に利用されるのか、想像するだけでも背筋が寒くなる。もし少女が洗脳され、人殺しの道具として力を行使させられたら……。虚ろな目で血に染まった自分の手を見つめる彼女の姿が思い浮かび、少年の心に言いしれぬ悲しみと憎しみが湧き上がってきた。

「……貴様」

「恨むなら自分を恨め。大きな組織は得てして変化を嫌う。ましてや身内に異物を入れるのはなおさらだ」

 身内だと――? 少年の心がわずかに掻き乱されたが、彼の怒りが揺らぐ事はない。男を視線だけで殺そうとするかのように厳しい目で睨み付ける。

「ヘッ。良い目だ」

 男は嫌らしい笑みを浮かべながら、再び少年の額に銃口を押し当てた。

「殺すには惜しいが、これも仕事だ。死にたくなきゃ死ぬ気で足掻いてみな」

 男の指がトリガーに掛かり――。

 

 銃声が新月の空を震わせた――……。

 

 
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