2月14日。
世の女性が意中の相手へ好意を表すことに努力をし、男性はその好意を受け取る瞬間を今か今かと待ち望む、そういう日。
もちろんこのカードキャピタルでも、そういった世間の風潮には逆らえなかった。
「ちくしょうぉ!」
いつもの店内で一際大きな声を出してわめくのは、大方の予想通りというべきか、一つも好意の証であるチョコレートを受け取れなかった森川だった。
勇ましい男泣きであるが、泣いている理由がなんとも情けない。
今年はいつも一緒にいるアイチや井崎までもらっていたようで、切なさも一押しと言ったところだろうか。
「アイチはともかくなんで、井崎まで……くそう……」
「森川、お前さりげなーく失礼なこと言ってるだろ」
「も、森川くんおちついて……」
そんなアイチと井崎が森川をなだめようとするが、森川の男泣きがこれでやめば苦労はしない。
「この裏切り者ぉ……!」
「うっさいよ! いい加減にしな!」
さらに泣き叫ぶ森川に、店員であるミサキの怒号が飛んだ。
「まったく、チョコ一つもらえなかったぐらいでめそめそしてんじゃないよ」
「あ、ミサキさんは、誰かにチョコ上げたんですか?」
ふと、アイチがそんなことをミサキに尋ねる。
そのこと自体には興味があるのか、騒がしくしていた森川と井崎の二人もさっと押し黙った。
「あぁシンさんと……あとは、はい」
「え?」
そう言ってミサキはアイチに包みを渡す。そのまま井崎と森川の二人にも包みを渡していく。
「ミサキさんこれって……」
「一応あんたたちには世話になってるからね。お礼も兼ねて」
ミサキはちょっとだけごまかすように微笑んだ。少し気恥ずかしさがあるのかどことなく頬が赤い。
「ありがとうございます、ミサキさん」
そんなミサキにアイチは満面の笑みを持って例を言う。
井崎もそれに続いて例を言ったが、森川だけはよくわからない奇声を発していたためもう一度ミサキに怒鳴られていた。
「ちぃーす!」
「……」
四人がそんな会話を続けていると、店の自動ドアが開き、二人の男が店内に入ってきた。
「櫂くん!」
「三和……」
もちろんその二人は、よくこの店に来る櫂トシキと三和タイシの二人である。
常日頃から女性にモテそうな雰囲気のこの二人は、当たり前のように紙袋いっぱいのチョコを持っていた。
「うわぁ櫂くんすごい量だね……」
「これでも前より少ない方なんだぜ。櫂はかたっぱしから断ってたからなぁ」
「面倒だ」
櫂の言葉を聞いた森川が、呪いそうな顔で櫂をにらみつける。
恨みで人が殺せたら、櫂は今頃死んでいるのではないだろうか。なんせ森川以外の客からも彼は恨みの目を向けられていた。
「ミ、サ、キちゃーん?」
「うわ、な、なんだよ」
櫂たちのやり取りを呆れながら見ていたミサキには、三和が自分のすぐ近くまで来ていることにまったく気づけなかった。
突然自分の近くまで来ていた三和に、ミサキは驚く。どことなく顔が熱いのは気のせい、だと思いたい。
「ミサキちゃんはくれたりしないの?」
「あ、あぁ、はい」
アイチたちにも渡した包みを三和に渡す。
ついでにもう一つの包みも渡し、櫂に渡しておくように頼んだ。
「うわぁもろ義理チョコ……」
「贅沢言ってんじゃないよ。大体あんたなら本命だってもらってるんじゃないの」
ちらりと三和の持つ紙袋に目をやる。
やはりこの男は学校でもモテてたりするのだろうと思うとなぜだか少し腹が立った。
「嫉妬してくれてるの? ミサキちゃん」
「! だ、誰が……!」
顔を真っ赤にして反論するミサキに、三和はにやりと笑う。
それがなんだかすごく悔しくて、思わずミサキは三和の足を蹴っ飛ばした。
「痛いよミサキちゃん……」
「うっさい! 誰のせいだよ」
そのまま、怒ったミサキは顔を赤くしたままカウンターへと戻り、そこから何かを取り出して、三和の方へと投げた。
あわてて三和が受け取ると、それはさきほどもらったのとは違う四角い包みで。
「! ミサキちゃ「うっさい。それ持ってさっさと帰れ」
耳の先まで真っ赤にして、ミサキはカウンターの中へと意識を集中させる。
そんな様子がまたとてもかわいらしくて、三和はふっと微笑んだ。
「僕たちなんだがお邪魔みたいな……」
「なんか完璧に二人の世界、だよな……」
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せっかくバレンタインだし!という勢いだけで書いた三和ミサ。
漫画版の二人をイメージしたはずがノリがみにヴぁんになってしまった……。