帰り道ふっと空を見上げると満月が空を照らしていた。
どうりでこんなに明るいわけだ、沈んでいる自分とは大違い。
沈んでいる理由なんてあってないようなくだらないもの。
そんなことを思いながら空を眺めていたら視線を感じた。
視線を感じた方向を向くと一人の女性が同じように空を眺めていた。
普段ならそのまま通り過ぎる所を、何を思ったのかいつもと違う行動にでた。
彼女の隣まで歩き「こんばんは」と僕は彼女に挨拶をした。
そしたら「こんばんは」と彼女は空を見上げたまま返してくれた。
そのまましばらく二人で夜空を見上げていた。
広がる星空はどこまでも深くそして遠い気がした。
すると彼女がポツリと言葉を漏らした。「ねぇ、貴方も空からの声が聞こえるの」
何のことだかよくわからず僕は聞き返した。「声?」
「そう、声よ。貴方も聞こえる」彼女はもう一度聞いてきた。
耳を澄ましてみた聞こえるのは時々なく蛙の声や車の音だけだった。
「いいや、何にも聞こえない」すると彼女は空を見上げ手を耳に当てた。
「ほら、聞こえる。星同士が会話している声が」彼女を目を閉じながらいった。
とりあえず僕は彼女のマネをして耳に手を当て目を閉じてみた
けど、彼女の言う声とやらは何も聞こえない。
「ごめん。僕には聞こえないや。けど本当に聞こえるの」目を開け彼女を見る
すると彼女の体か震えていた。何やら笑いを堪えているみたいだった。
「どうしたの」今のやりとりに面白いとろこはなかったはずだけど
「ごめんなさい。貴方は他の人と違うみたいね」彼女は笑いを抑えながら答えた。
よくわからないが、彼女にはさっきの会話の流れは面白いに分類されるみたいだ。
そんなことを思いながら視線を星空から満月にむける。
「いい空よね。切り取って持ち帰りたいな」彼女は指で枠を作り腕を空にむける
彼女が手をむけた空を僕も眺める。
「もったいないな。切り取ったら」僕は小さく呟いた。
「切り取るだけの価値はあると思うけど」呟いた声が聞こえてたみたいだ。
「切り取ったら味気ないよ」簡単に言葉として紡がれた。
「そうかな。いい部分だけ切り取った方がいいと思うけど」と彼女は続ける
「一つでも欠けたらこの空は完成しない、まぁ人それぞれだけどさ」
満月と一面に広がる星空を見ながら彼女に伝えた。
再び彼女から笑い声が聞こえ「ねぇ」っと声をかけられ初めて彼女の顔を見た。
隣にいたのがすごい美人だったことに今更ながらに気づいた。
ほんの数秒だったと思う。二人とも無言のままお互いを見つめていた。
その沈黙を破るように彼女から口から言葉が紡がれた。
「ナンパじゃないんだよね」そう言った彼女の表情は柔らかく感じた。
もともとそんなつもりもなかったので「違うよ」と短く答えておいた。
その答えに彼女は「そう」と短く答え、再び視線を夜空にむけ話しはじめた。
「気分が落ち込んだり、迷ったりすると無性に空が見たくなるんだよね」
僕も同じように夜空を眺める。少しだけ彼女の事を気にしながら。
「そうだね。なんだかそれはわかる気がする。」僕は今日の事を思い出しながら返事をした。
彼女は「そう。」とまた短く返事をし続いて「今日はなんで空を」と聞いてきた。
「まぁ色々とあってね。」僕はありのままを答える。本当色々ありすぎだ。
「仕事かな。それとも人間関係?」彼女は続ける。
質問されるだけは面白くないのでちょっと考えて答えた。
「質問されるばかりじゃアレだから交互に一個ずつね。」そう彼女に話しをふる。
「交互に?」彼女はキョトンとした顔をこちらに向けた。
「そう、さっき一個答えたからこっちの質問ね。君は何で空を見てたの」
「あれ、最初に言わなかったけ。声が聞こえるって」彼女は笑いながら言った。
「でもあれは冗談でしょ。もしかして本気」実はすごく気になっていた。
でも答えはすぐには聞けなかった。彼女の表情はすごく楽しそうだった。
「質問に答えたから今度はこっちの番ね。仕事?人間関係?どっち」
ああなるほどね。自分で言いだしておいてもう忘れていた。
「仕事は人間関係とセットだから両方だよ。」本当たまんない。
さて、彼女にもう一度訊き直そう。
「はい、答えたよ。声は冗談、それとも本気?」
「本気……。」沈黙がしばし続く。そして彼女が僕を見る。
しばらくすると「うそよ、あれはナンパ対策」と彼女が可笑しそうに言った。
「ナンパ対策、あれがどうして?」僕はよくわからなかった。
「だめだよ。次は私の番だよ。ねぇ、人間関係に恋愛ないの?」彼女は面白そうに聞く。
「恋愛はしているけど、コレだから」そう言って僕は左手を見せる
すると彼女はすごく怖い顔をした。「それで恋愛ってまさか不倫。最低。」
なぜそうなる。よくわからないが説明がいるようだ。
「違うよ。不倫じゃない。」僕がそう言っても、彼女の目は疑いの眼差しだった。
「じゃ、どういう事。」表情だけでなく彼女の声も怒っていた。
「結婚は節目、恋愛は互いに死ぬまで続くって思っているけど」
初対面の人に何を語っているんだか。なんだか顔も体も熱い。
たぶん赤くなっているんだろう。でも気づかれてはいないだろな。
何せ彼女は色々な表情を浮かべ空を見ていた。
それは見ていて何だか可笑しかった。
そして彼女の表情は最後にはなんだかすっきりした表情に落ち着いていた。
「そうだよね。続くんだよね。」彼女は自分に言い聞かせるように呟く。
「あくまでも僕はそう思ているよ。」そう言えばと思い時計に目をやる。
もうこんな時間か、もう寝ているよな。幸せそうな寝顔を思い浮かべる。
「この時間だともう寝てるな。今日も寝顔だけか。」たまには早く帰りたい。
「なに、待っていてくれないの。奥さん」彼女が揶揄する。
「いや、子ども。たぶんもう寝てる。まだ小さいからね。」
「ぇ、子どもいたんだ。」驚きの表情だった。子どもがいるように見えないのかな
そう思ったので「そう、いるんだよね。これでも、」と僕は答えておいた。
「じゃもうお開きだね。」彼女はそう言って空を眺めるのを止める。
「そろそろ帰りますかね。」僕もそう言って空を眺めるのを止める。
そして二言三言わかれの言葉を交わし二人はそれぞれの帰路についた。 fin
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どこかに転がっていそうでいない日常【短編】