少年は臆病者なので死ねませんでした。
終わり。
太宰の人間失格を読んだ。
題名からして凄い作品だったが中身はもっと凄かった。
そしてようやくあぁ死のうと思った。
手近なところで睡眠薬を買おうと思い、マスクに帽子という恰好で自転車を走ら
せた。寒いのは嫌いだ。薬局に着いてから少し迷い睡眠薬を一箱だけ手に取る。
一気に買うと怪しまれるだろうから薬局を梯子した。静かに死にたいから騒がれ
るのは嫌だ。
家に帰りカーテンを締め切った。途端部屋が暗くなる。あぁ死ぬんだと思った。
死は無だ。怖くない。寧ろ嬉しかった。なんだ死んだ奴らはこんな良い気持ちだ
ったのか。少しむっとした。
どれだけ飲めば死ねるのか考えていると、がたがたと物音がした。何だろう? ま
さか……警察が……!? いやまて。よく聞け。音は【窓から】したぞ……?
「なっ何だよハハハ待てよ。死ぬことすら出来ないのかよ」
「「どうぞご自由に」」
綺麗な二重音。しかしそれはハモってはいなかった。
------全く同じ声だった。
「なっ! 何処から来たっ! ここ12階だぞ?!」
「「窓からです」」
呆然とした。目の前には全身黒尽くしの二人の……顔も身長も声も同じだ……子
供が立っていた。
真ん中だけ伸ばしてあり、あとはバラバラに切られた前髪に、髪同様漆黒の虚ろ
な目。息を飲む程白い肌。
------手に持った大きな鎌。
「なっなんだよ。死神か? はっぼっ僕が死ぬから駆け付けたって言うのかよ」
「非現実的です。兄様」
「そうだね。姉様」
そう言って二人はけだるそうにこっちを見た。
見た目はまだ10代になって間もない程なのに何だこの顔は?
「でも僕達はそれに似てますからまぁ僕達も非現実的なんですかね。姉様」
「そうだね。兄様」
刹那二人はぞっとする程美しく笑った。
「「フフフ。アハハハハ」」
それから……
「「貴方の記憶を盗みます」」
「僕達は世界の縮小図」
「兄様が悲しめば僕は喜び」
「姉様が悲しめば僕は喜び」
「「殴り愛、殺し愛、時に傷つけ時に傷つき。悩み苦しみ楽しみ笑い、貴方の為
に涙を流し、貴女の為に涙を枯らし、泣き叫び狂い惑い、騙し騙され同じ道を歩
く」」
「「貴方に大切な物は在りますか?」」
と。頭から何かが抜けた。
大量の睡眠薬。……なんだろうこれは。
何してたんだっけ……?
何したんだっけ……?
「兄様。どす黒い記憶だね」
「姉様。まずそうだ」
「「そうだね」」
大きな鎌をヒュンヒュンと回し二人は帰った。
「お疲れ様」
「「マスター。どうぞ」」
「あぁ。ありがとう」
そう言って一目見ただけで 死にたくなるような 美形の男はどす黒い玉を受け
取った。
「お言葉ですがマスター」
「「何の為に?」」
二人が同じ声を発すると、男は優しく微笑みこう言った。
「暇潰しだよ」
-------次のニュースです。たった今、沢橋連続無差別殺人の犯人が逮捕さ
れました。男は、大量の睡眠薬を持ち家から出た所をたまたま外に出た隣の部屋
の住民により捕獲、通報されたもようです。
尚、男は極度の記憶喪失に陥っており、事件解明には時間を要するようです。こ
のように凶悪犯が極度の記憶喪失に陥ったのは連続で13件に上り、警察は詳しい
事情を解明中との事です。
「「マスター。次の仕事は決まっていますか?」」
終わらない。終わらせない。
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双子の話。かなり昔のものですが、さらしてみます。