No.37658

慟哭の日、約束の丘

遊馬さん

「ひぐらしのなく頃に」「綿流し編・目明し編」より、園崎魅音の生涯最後の反撃開始。

2008-10-26 13:38:03 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:1188   閲覧ユーザー数:1111

慟哭の日、約束の丘

 

 

 

 

 

 それでもあんたを愛している。

 

 

 

 

 

 詩音。我がよき片羽。水面に映る半身。

 

 

 

 梨花が死んだ。沙都子も殺された。

 ボロくずのように、井戸に捨てられた。

 そして今。

 圭ちゃんがその手にかかろうとしている。

 

 なぜだ。なぜそこまでする、詩音。

 あんたが憎いのは私のはずだ。私だけのはずだ。

 なぜ。

 

 もう私には泣きじゃくる以外のすべはない。

 

 そうさ、詩音。我がよき片羽。水面に映る半身。

 圭ちゃんを殺し、私を殺し。

 「園崎魅音」の顔で君臨し。

 血塗られた手で、帰ってきた悟史を抱きしめたいんだね。

 

 もう私にはそれに抗うすべはない。

 

 どこで間違えたのか。何が間違ったのか。

 ぬいぐるみ? そんな些細な問題ではない。

 全てはあの日から。

 詩音。我がよき片羽。水面に映る半身。

 あの日、私たちは分かたれた。

 ずっと、二人が一人でいられれば良かったのに。

 それは、語ることのできない、ものがたり。

 

 

 

 もう、何も。何もできない。

 

 

 

「……魅ぃ、部活をするのですよ」

 

 ――背後に声がする。今となっては懐かしいあの声が。

 

「……まったく。ツメが甘いのは悪いクセでしてよ、魅音さん」 

 

 思わず振り向く。錯乱したのか、と自分でも思った。

 

 私の背後に――梨花! 沙都子!!

 ぼんやりと、蛍のように。姿が、見えた。

 

「魅ぃ。闘わずして敗北を認めるのは魅ぃのもっとも嫌うことではないのですか?」

 

「そうですわ、魅音さん。やれやれ、普段の威勢はどこへやら、ですわね」

 

 ……あ、あんた達……それが言いたくて……

 

「魅ぃ。知らぬ存ぜぬも策の内。ボクの闘い方を忘れましたか?」

 

「トラップは最後に一つだけ。美々しく華麗に鮮やかに、ですわよ、魅音さん」

 

 あ、あんた達あんた達あんた達あんた達、

  そ、そんな事をそんな事をそんな事をそんな事を、

   わ、私なんかのために私なんかのために私なんかのために私なんかのために――

 

 あ。

 声が聞こえる。

 あああ。

 すぐ近くに声が聞こえる。

 ああああああああああああああっ!

 私の声だ。

 

「……では、ごめんあそばせ。毎日毎日、たのしゅうございましたわ、魅音さん」

 

「魅ぃ。また会えるいつかを楽しみにしているのです……」

 

 ――梨花!沙都子!!

 

「あ! ああっ! あああああっ! ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!」

 

 もう抑えきれない。

 慟哭するのは私の声だ!

 

 

 

 詩音。我がよき片羽。水面に映る半身。

「園崎魅音」の顔で君臨し。

 血塗られた手で、帰ってきた悟史を抱きしめたいんだね?

 

 

 

 そうはいくか。そうはさせるものか。

 

 

 

 詩音。我がよき片羽。水面に映る半身。

 「園崎魅音」の名を騙るな!

 悟史を助けようとしなかったのは、確かに私だ。

 だが、詩音。あんたは闘ったのか? 悟史を助けるために死力を尽くしたのか?

 

 闘ってやる! 圭ちゃんを助けるためなら何だってやってやる!

 圭ちゃんを好きなのは「園崎魅音」!

 詩音、断じてあんたじゃない!!

 そのツラで「園崎魅音」の名を騙るな!

 梨花に教わった。沙都子に教わった。

 最後のカード、切り札はまだ私の手の内にある。

 詩音。

 あんたの黒く煮凝った魂を打ち砕いてやる!

 

 

 

「あ! ああっ! あああああっ! ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!」

 

 もう抑えきれない。

 慟哭するのは私の心だ!

 詩音。我がよき片羽。水面に映る半身。

 この慟哭はあんたを哀れむ歌だ!

 

 

 

 詩音。我がよき片羽。水面に映る半身。

 私は先に逝く。

 あんたを打ち砕いて、先に逝く。

 そして、あの丘で待っている。

 もし、あんたの魂が白く融けたのなら。

 あの丘でまた会おう。

 二人で遊んだあの丘で会おう。

 ずっと、二人が一人でいられた、あの丘で。

 ずっとずっとずっと待っている。

 

 詩音。我がよき片羽。水面に映る半身。

 それでもあんたを愛している。

 

 

 

 牢の扉が開く音がする。

 遠くに気配。かすかに声。

 

「――詩ぃと遊ぶのも楽しそうなのですよ☆」

 

「――ねーねー、と呼ばれたときのお顔が楽しみでなりませんわ。うふふ」

 

 その声に背中を押されて。

 目を開け、歯を食いしばり、拳を握り締め。

 私は傲然と立ち上がる。

 

 


 
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