No.374476

『改訂版』 真・恋姫無双 三人の天の御遣い 第一部 其の二

雷起さん

大幅加筆+修正版となっております。

汜水関戦終了後から虎牢関戦途中までです。

ご意見、ご指摘、ご感想、ご要望、さらに「なんだか姉さまと冥琳ばかりが目立って私の出番が少ない気がするの」などのお嘆きがご座いましたら是非コメント下さいませ。

続きを表示

2012-02-07 21:14:03 投稿 / 全9ページ    総閲覧数:5148   閲覧ユーザー数:3849

『改訂版』第一部 其の二

 

 

汜水関の戦いでは同盟を結んでいた俺たちの連携がみごとに決まり、それぞれが手柄をたてることができたけど、それを面白く思わない人が二名ほどおりまして・・・。

 

汜水関内  袁紹居室

【緑一刀turn】

「いやあ、袁紹さんのおかげで立派に手柄を立てる事ができました。先陣をまかせていただきありがとうございます!」

なんて俺が言うと袁紹は顔を引きつらせていた。

 さあ、踊って貰うぜ。袁紹さん♪

 俺、桃香、朱里、雛里の四人で報告に来たわけだが、話は全て俺がすることにして三人には事の成り行きを見守ってもらっている。

「そ、それは・・・お見事でしたわ・・・ええと・・・」

(北郷さんですよ、麗羽さま。)

 顔良がなんか耳打ちしてる・・・・・どうせ俺の名前だろう。

「そうそう、北郷さん!」

 それじゃあ顔良が耳打ちした意味ないだろうが!

「これも全て袁紹さんに貸してもらった兵のおかげですよ。いやあ、流石袁紹さんの処の兵はお強いですねぇ!俺達の兵じゃ同じ数いても勝てたかどうか、それをあんな半日で勝ってしまうんですから!!」

「あ、あ~ら、よくお分かりじゃございませんか!お~~~~~~ほっほっほっほっほ!」

「それで、そのお礼といっては何ですが、今回鹵獲(ろかく )した物資を袁紹さんに差し上げようと思いまして・・・・」

「あら、良い心がけですわね♪」

 物あげるって言ったら急に目の色変わったよ・・・・。

「これがその目録になります。」

 朱里の持っていた竹簡を渡すと袁紹は早速開いて内容を確認する。

「♪~さて・・・・・・・ええと・・・何ですの?これ?」

 さっきまでの嬉しそうな表情とは一転、とても不機嫌になっている。まあ、あの内容じゃ当たり前か。

「は?何と言われましても、鹵獲品の目録としか・・・」

 俺がすっとぼけて言うとさすがに怒り出した。

「このお鍋とかお釜とかお箸とかまな板とかお玉とかっ!お台所の道具しか書いてありませんわっ!!」

「あ、最後の部分に洗濯板が書いてありますよ。」

 

「そんなことを言ってるんじゃありませんっ!!大体まな板や洗濯板ならそこに居るおチビさん二人で充分でしょうっ!!」

 

・・・・・・・・・・・・俺は恐ろしくて後ろを振り向けなかった・・・。

「わたくしが言いたいのは鹵獲品がなんでこんなに少ないのかって事ですわっ!!」

「あ~・・・それがですね、一番乗りをした孫策軍・・・というか袁術軍にほとんど持っていかれてしまいまして。」

「美羽さんの所に?」

「いやあ、ホント参りましたよ。孫策軍なんか俺達が袁紹さんの兵のお・か・げ・で・勝ってた処に有利と見たら突然乱入してくるし、曹操軍も最後の辺りでやってきて五百騎程度を追い返しただけで勝鬨あげちゃうんだから、やってらんないですよ。それもこれもえ・ん・しょ・う・さ・ん・の兵が居たからこそだってのに!」

(猪々子さん、この男の言う事は本当ですの?)

(ええ、まあ・・・・確かに報告に有った通りの戦況ですねぇ・・・なんかもう一軍いたようなきもするけど・・・・・・気のせいだな。)

「あっ!文醜将軍!!あんたもすげぇなぁ!あの兵はあんたが鍛えたんだって?」

 ここは文醜にも踊ってもらうか。

「え?あぁ、そうだぜ!あたいがみっちりシゴイてやったんだ!!あんたらんトコに貸した兵隊はウチじゃ一番弱いやつらだぜ!本隊のやつらならアレの三倍は強いぜぇっ!!」

 やっぱり一番弱い兵隊寄越しやがったな・・・・。

「な、なんだってー!借りた七千百十五だけで汜水関を落とせそうな勢いだったのに、その三倍も強い兵隊が・・・五万だっけ?」

「んにゃ、六万だよ。」

 そうか、六万か。前の会議で八万って言ってたよな・・・・吹いていたのか只単に数が数えられないのか・・・・・微妙だな。

「六万!それだけいれば虎牢関なんて一刻もたないだろうな・・・・・・あ、いや、なんでもありません。それで次の虎牢関攻めですけどまたウチが先鋒してもいいんですかね?」

「え、それは・・・・・」

 まだ一押し足りないか?

「虎牢関なら物資は汜水関の何倍も在るんだろうなぁ。」

「あ~北郷さん、あなた方の軍はこの戦いでお疲れでしょう?ここはお休みになってもよろしいですわよ。」

 

 はい!釣れましたー!!

 

「ありゃあ、ばれてましたか?ウチの連中は弱くてねぇ、半日闘っただけでもうヘロヘロだったんですよ。手柄と物資が手に入ればと思ってたんですが、しょうがない!今回は諦めて兵を休ませましょう。」

「えぇ、それがよろしいですわ!あなた方は最後尾でゆっくり休んでらしてください。お~~~~~ほっほっほっほっほ!!」

 最後まで高笑いで締めくくられた。

 

 

 袁紹の部屋を出てしばらく行ってから不意に朱里と雛里が俯きながら呟いた。

「ご主人さま・・・袁紹さんには地獄で踊ってもらいましょう・・・うふふふふふふふふ」

「そうだね朱里ちゃん・・・・地獄すら生温いけどね・・・・・えへへへへへへへへへへ」

 ・・・・桃香がさっきから黙ったまま震えてたのはこのせいか・・・・。

袁紹軍の未来はあの一言が決めたようだな・・・・・。

 

汜水関内   袁術居室

【雪蓮turn】

「なんか上手い具合に一番乗り出来たわぁ。あそこに配置してくれてあっりがとうね、袁術ちゃん♪」

 なんて私が言うと、袁術は困った顔をしていた。

さあ、踊って貰うわよぅ。袁術、張勲!

 私、冥琳、蓮華でこの部屋に来ていて、廊下に穏を待機させている。

「そ、それはなによりなのじゃ・・・」

「それでね、鹵獲した物資を渡そうと思って目録を持ってきたのよ。穏、お願い!」

「はいは~い♪こちらになりま~す。」

 私の合図で目録の竹簡を持って入って貰う。まずは第一の仕掛けよ。

「な、なんじゃ!その竹簡の量は!?」

「なんか・・・・・山になってますよ・・・」

 よしよし、二人とも驚かせることが出来たわね。こんなの書簡にすれば一本で澄むわよ。

「董卓軍の奴ら相当慌てて逃げたみたいでさ、殆んど手付かずで残ってたのよねぇ。火も掛けないなんて馬鹿な連中よ。」

「そ、そうなのかや?・・・七乃ぉ、聞いてた話と違うのじゃ・・・・」

「そうですねぇ、華雄さんはおバカさんでも、張遼さんは頭を使うって報告でしたのに・・・」

「その細作、騙されてたんじゃないの!?人の噂なんて尾鰭が付くんだからそれを鵜呑みにしたとか。少なくとも私らが戦った感じじゃ、もう弱すぎてお話になんなかったわ!あれなら黄巾党の方がまだましよっ!!欲求不満が溜まったわ!」

 なんか乗ってきちゃった♪あはははは、それじゃ、ガンガン行っちゃいますかっ!

「じゃが、曹操も参戦したのじゃろ。それに、もう一軍参戦しておったような気も・・・」

「あれぇ!?そうでしたっけお嬢様?私は記憶に無いんですけど・・・」

「そうか!七乃がそう言うのなら、そうなのじゃな!」

 不憫だわ・・・・・・公孫賛・・・・・・。

「その曹操!あったまにくるのよねぇ!!もう殆んど終わりかけてた戦で、最後に出てきた五百騎を追い返しただけで勝鬨上げて、手柄にしちゃったのよっ!!ま、あの場に私達がいたから一番乗りは阻止できたし、こうやって物資の鹵獲もできたしね。」

「それは良かったのじゃ!うわはははーー!」

 さあ、そろそろかしらぁ?

「でも、これなら虎牢関も大した事ないわねぇ。この汜水関の使い方もしらないで逃げ出すような連中ですもの、虎牢関でもまた逃げ出すに決まってるわ。『神速の張遼』なんて結局逃げ足の事だったし、飛将軍なんて言ってる呂布も一人で三万倒すなんて有り得る訳無いじゃない!法螺を吹くのもいい加減にしろって感じよねぇ!」

「・・・・・うむ、確かにそうじゃのう・・・・」

 お、餌を突っつき始めたわねぇ。

「あ、そうそう。大事な目録渡すの忘れてたわ。はいこれ。」

 そう言って取って置きの餌を見せてやる。

「ん?なんじゃ・・・・・・・・・こ、これはっ!!蜂蜜百壷じゃとおっ!?」

「えぇ、袁術ちゃん蜂蜜好きでしょう?折角だから特別に渡そうと思ってね♪」

「これがこの汜水関に在ったのか!?」

「そうよぅ、虎牢関にはこの倍は在るんじゃないかしら?」

 嘘に決まってんでしょ。わざわざこういう時のために仕入れておいたのよ。

「はちみつ・・・・・にひゃくつぼの・・・・わらわのはちみつ~・・・・」

 あ~らら、夢の国に行っちゃって。さあ、仕上げかしら?

「あ、そうそう。滞ってる補給だけど、今回の鹵獲物資から貰っといたわ。」

「ええ~~~!?」

「な、なんじゃとぅ!?」

 そんなに私達を干上がらせたいのかしら、こいつら!!

「運ぶ手間が省けて良かったでしょ♪」

「う、うむ。そうじゃな、よきに計らえ。」

 なあにがよきにはからえよっ!!

「あぁ、それから・・・・」

「ま、まだ何かあるのかや!?」

「ウチの細作の情報だと、袁紹が虎牢関攻撃の先鋒をやるみたいよ。」

「麗羽ねえさまが?」

「ほら、あの会議で劉備軍に先鋒をさせたけど、結局私達が一番乗りしてこの物資を手に入れたじゃない?そうしたらもう劉備には任せてられないって・・・・実際私も戦の状況見てたけど結局戦ってたのって袁紹から借りた兵だったしね。」

 実際はその反対だったけどねぇ。でも、袁紹軍の兵に対する態度は見事だったわね、ありゃあ劉備軍に寝返る兵がかなり出そうだわ。

「あの兵で袁紹軍のあの数だったら虎牢関もあっという間かもねぇ。もし今回みたいに私達が上手く一番乗りできたとしても袁紹相手じゃ『これは袁術軍の物だ』って言っても持って行かれちゃうでしょうしねぇ・・・・・・・」

 今回も差し押さえは全部袁術の名前でやったけどね、諸侯の恨みはあんたに任せた!

「それは・・・・・・確かに麗羽ねえさまならやるじゃろうな・・・・・」

 これでト・ド・メ♪

「次も私達は先鋒に張り付けばいいのかしら?上手く行けば手柄も物資も手に入るかもしれないし・・・・」

「いや、孫策たちは休んでおってよいぞ。」

 

 よしっ!!釣れたわねぇ♪♪♪

 

「あら?いいのぉ?」

「うむ、今回のはたらきに対するごほうびなのじゃ。」

「最後尾でゆっくり休んでくださいねぇ」

 ちょっとダメ押ししときますか。

「ええ~!?私、暴れ足りないんだけどなぁ・・・」

「こら雪蓮、折角袁術殿がくれた休みだ、客将の我々は袁術殿のいう事を大人しく聞くべきだぞ。」

「分かったわよう・・・・」

「それでは、ゆっっっっっくり休むがよいぞ。うはははははははは~~!」

 

 

「お見事でした姉さま。」

「雪蓮様すごいですねぇ~、あんなお芝居までできるなんて・・・・・」

「ちょっと前までのこいつには出来そうにもないがな。」

「なによぅ冥琳。ちょ~っと緑一刀の真似しただけじゃない!」

「それは・・・・・・・あの袁紹を相手にした時の事?」

 あ、蓮華と穏はあのとき居なかったっけ・・・。

「ええそうです蓮華様。北郷にこの話をしてみるといいでしょう。きっと『兵は詭道なり』と言う筈ですよ。」

「一刀が孫子を?」

 へえ、あの一刀がねぇ・・・・。

 

虎牢関を望む丘

【緑一刀turn】

俺のやった作戦を雪蓮もやったと聞いたので、どんな感じだったのか確認し合うと・・・。

「なによそれ!?袁紹と袁術の反応がほとんど同じじゃない・・・・・バカの一族とは思っていたけど・・・・・。」

 雪蓮が呆れていた。

「『兵は詭道なり』ってね、向こうも仕掛けてくるけどバレバレだからなぁ・・・・・なんで笑ってるの?」

 笑い方がどうも袁家を笑っているのとは違う気がして訊いてみた。

「冥琳がね、この話をしたら赤一刀が『兵は詭道なり』って言うはずだって。で、蓮華が話したらホントに言ったのよねぇ♪そして今も♪」

 成る程・・・・・・そういうことね・・・。

 意味は『戦争は所詮騙し合い』て事。

「冥琳に見透かされてるなぁ・・・・・・」

 そんな話をしている最中、人が集まってきた。

 同盟の仲間たち全員が。

 

 この場所は小高い丘になっていて他の場所より虎牢関の様子が少し見やすくなっている。

 今俺達の目には虎牢関を目指し進軍して行く銀と金の大軍団が見えている。

 云わずと知れた両袁家軍だ。

あの両軍が戦場に向かったので、全軍最後尾に集まった同盟はこの丘で戦の状況を見つつ、軍議を行うことになったのだ。

ここなら戦況を見る為たまたま集まったと言い訳できるからな。

「同盟を結んで以来、ようやく全員集まる事が出来たわね。」

 みんなが華琳に注目していた。そして、それを受けている本人は微笑んでいた。

「この同盟を持掛けた者として、初戦の戦果を非常に嬉しく思っているわ。孫策軍、劉備軍、そして公孫賛軍の皆に百万言の感謝を並べてもその意は伝わらないでしょう。」

 華琳が言葉を切りみんなを見渡した。

 

「私の意を伝えるのに取るべきは一つ・・・・・・私の真名、華琳を皆に預けたいと思う!」

 

 この言葉にみんなが驚愕していた。

俺も驚いてはいるが、みんなの反応は俺の比では無いのが一目瞭然だ。

 真名に対する認識が俺にはまだまだ甘いんだろう。

「そこまで言われちゃったら私も覚悟を決めるしかないわねぇ。私の真名は雪蓮よ。私もみんなに真名を預けるわ!これからもよろしくね、華琳。」

 まず雪蓮がそう言って華琳の横に立つと、桃香もそこに加わった。

「謹んで真名を預からせていただきます。私の真名は桃香です。私もみんなに真名を預けます!よろしくお願いしますね、華琳さん♪雪蓮さん♪」

 三軍の筆頭がみんなの前で手を握り合っている。前の外史では既にこの世には居なかった雪蓮、そしてその生死すら判らなかった桃香。そしてあいつらに操られ身を崩した華琳。

 正史とは勿論、三国志演義とも、前の外史とも違う新たな外史。

俺には平和な形での『天下三分』を見る事が出来るではと期待させられる光景だった。

 

「ほら、白蓮ちゃんもこっち来て!」

 

「わ、私もその中に入って良いのかなぁ・・・・・」

 あ・・・・・。

「何言ってるの!?軍の筆頭なんだから当たり前じゃない♪」

 桃香の言葉にオズオズと出てくる白蓮を華琳と雪蓮は笑って出迎えた。

「わ、私の真名は白蓮だ。みんなよろしく頼む!」

 ごめん白蓮・・・・・・『天下四分』だね・・・・・・・。

 

 みんなが真名を交換している中、俺達三人の『北郷一刀』は既にみんなの真名を呼ぶことを許して貰っていたので、少し離れた場所で話をした。

「こうして改めてみんなを見ると前の外史で逢えなかった顔が結構いるんだな。」

「ああ、逆に前の外史で会った顔でまだ逢えてない子もいるしな・・・」

「そういえばこの連合に翠が来てるぞ。話はしてないけど元気そうだった。」

「「翠か・・・・・会って話がしたいな・・・」」

 赤と紫が懐しそうに呟いた。

「あら~?どうしたのご主人さま~。」

「うむ、憂いを帯びたイイオノコの顔も悪くは無いが、やはり笑顔の方が御主人様には似合っておるぞ。」

「「「貂蝉、卑弥呼。」」」

 いつの間にか二人が側に来ていた。さすがに慣れてきたので驚きはしないが・・・・・人間何にでも慣れる事が出来るんだな・・・・。

「連合の中で翠を見かけてさ・・・。」

「あらぁ、翠ちゃん来てるのね~。」

「貂蝉は前の外史での知り合いに逢わなかったか?」

「紫苑に会ったわよぅ。」

「「「紫苑にっ!」」」

「ええ、元気にしてたから安心して、ご主人さまぁ。」

 そっか、紫苑も元気にしてるのか。良かった。

「御主人様よ、そろそろ皆の真名の交換が終わりそうだ。行って皆を鼓舞してやるがよい。」

「「「ありがとう、卑弥呼、貂蝉。」」」

「ふふ、私にはその笑顔が見られれば何よりのご褒美よ。」

「戦はまだまだ続くから頑張ってねぇん、ご主人さま~。」

 

みんなの輪の中に戻る途中で銅鑼の音が聞こえてきた。

「「「遂に始まったかっ!」」」

 俺たちは桃香たち軍筆頭四人と軍師たちの固まっている所に行き、一緒に虎牢関を眺めた。

「どんな感じ?」

 俺の問いかけに華琳が望遠鏡を覗きながら答える。

 望遠鏡・・・初めて見た時は『何でこの時代にこんな物が』とも思ったが、眼鏡が在るから不思議ではないのか?

「そうね・・・・・・我々の策が上手くいっているのは確かなんだけど・・・」

 なんだ?上手くいってるならいいじゃないか・・・・・。

 俺も自分の望遠鏡をポケットから取り出し覗いてみる。

「あれ!?董卓軍がまた砦の前に出てきたの!?」

 虎牢関の前にもう一つ壁を作るように横陣を組んで谷を塞いでいる。

「あれだったら虎牢関の中に居た方がいいのに・・・」

「連合軍側の陣形がこんなだから取れる策ね、私だって同じことをするわ。」

こちらの陣形・・・・・まあ、確かに・・・。

この虎牢関攻めの前に行われた軍議で袁紹が、

『今回は両袁家が先陣を努めますわ。名門袁家の華麗で、雄々しく、勇ましく、優雅な戦い振りというものをお見せいたしましょう!みなさんは指をくわえ・・・いえ、悠々と構えていて下さいな。おーーーーーーーーほっほっほっほっほっほっほ!!』

 なんて言ってたからな。

 おまけに先陣とその後ろの間がバカみたいに離れている。

 そんなに戦利品を他人に渡すのが嫌なのかよ。

 諸侯も袁紹の言葉とこの配置に呆れて「もう勝手にやってろ」って感じだ。

虎牢関側から見れば、確かに数は多いが完全に突出した先鋒、しかも総大将のいる部隊だ。

援軍が駆けつけるにしてもかなり余裕を持って対処できる。

そこに来て両袁家軍の陣形・・・というかただ単に大人数の塊。

出発したときは確か魚鱗の陣を組んでいたはずだが、たぶん袁紹軍と袁術軍が先を争って進軍するうちに崩れたんだろう。

これじゃあ黄巾党を相手にするのと変わらない。

「なるほど、こんな大将を討ち取って下さいと言わんばかりの状態なら出たくもなるよな。」

「それでも普通の将なら籠城戦でしょうね、数が馬鹿みたいに多いから。でも向うには『飛将軍』と『神速の曉将』がいるのよ。出ない方がおかしいわ。」

 話を聞いていた赤が振り返って冥琳を見た。

「この間言ってた面白い物ってこの状況の事だったのか。」

「ああそうだ。緑北郷と雪蓮が上手く焚きつけてくれたからな。」

 冥琳がいつものニヒルな笑で言うと雪蓮も笑った。

「ここまで上手くいくとは思って無かったけどねぇ。いっそのこと袁術を討ち取ってくれるとこっちの手間が省けるんだけど。」

「まあ、それはさすがに無理だろうな。最後尾に居る袁術までは届かんだろう。お、そう言ってる間に事態が動いたな。」

 冥琳の言葉で再び戦場に目を向けると黒い三角形が銀と金の中を動いて右半分の進行を押し止めている。そして左半分は・・・。

「ご主人さま、あそこだけなんで兵隊さん寄けてるんだろ?」

 

 桃香にはそう見たのだろうが・・・・・・あれは恋だ!

 

「あれは呂布だ・・・・・・」

「単騎で蹴散らしてるから・・・・・・」

「ここからだとあんなふうに見えるんだ・・・・」

俺たちの呟きにこの場の全員が息を飲んだ。

 それはまるで金と銀の水を満たし蓋をした水槽の中を一つの泡が漂い、時に水面に出て跳ね上がった飛沫を消していく様・・・・・遂には金と銀の水面は赤く染まり、徐々に水中に広がっていく・・・。

「これが・・・・・・・・呂布・・・」

 誰の呟きとも判らない声がみんなの気持ちを代弁していた。

 

暫くみんなが固唾を飲んで見守っていると俺の傍から妙な声が聞こえてきた。

「・・・踊れ・・・踊れ・・・うふふふふふふふふふふふふ・・・・・」

「・・・叫べ・・・喚け・・・えへへへへへへへへへへへへ・・・・・」

 あぁ・・・朱里と雛里が壊れていくぅう・・・・・。

「ちょっと、緑のあんた!」

 カップの天ぷらそばみたいな呼ばれ方だな・・・・。

 声に振り向くと桂花がいた。

「なに?桂花。」

「朱里と雛里に何があったのよ。さっきからあんな感じで・・・」

「汜水関を落とした後で袁紹に・・・・・・その・・・」

 口を開いてから気付いたが言っちゃっていいのかな?

「何よ、はっきりしないわね!あのバカ巨乳がどうしたのよ?」

 どうやらいいようだ。

 

「二人に向かってまな板と洗濯板って言って・・・」

 

「なんですってええええええええぇぇぇっ!!」

 桂花はそのまま朱里と雛里の前へ駆け寄った。

「朱里っ!雛里っ!我が同士よっ!!」

「「え?桂花さん・・・・・」」

「我ら貧乳を貶める巨乳は滅すべき敵よっ!!共に力を合せ地獄に送ってやりましょうっ!!!」

「桂花さん・・・いえ!同士桂花!!」

「共に戦いましょうぅ!!」

 ガッチリと握手を交わし、今度は三人で呪いの言葉を吐き始めた・・・・・・。

 

 こんな感じで極一部に困った子がいるが、全体的には呂布対策に思考をフル回転させているようだ。

「確かにこれは・・・・・・複数の将で当たるしかないわね・・・」

華琳の( つぶや)きが引き金となり議論が始まった。

「そうだな、兵を近寄らせては死体の山が出来上がるだけだ。こちらの戦力が下がるが止むおえまい。」

 さすがの美周郎もそれしか打つ手無しか。

「私は遣り合ってみたいなぁ。生き残れるかは五分五分だけど。」

 恋と五分!?雪蓮ってそんなに強いのか!?

「何を言ってるんですか雪蓮姉さまっ!お願いですからそんな危険な事お止めくださいっ!!」

「蓮華様の言う通りじゃ策殿、儂は呂布の戦い振りを見て文台様の全盛期以来の戦慄を覚えましたぞ。」

 祭さんの言った文台様って『江東の虎』って呼ばれた雪蓮達の母親か。

「母様並ってことか・・・こりゃ厄介だわ。」

雪蓮は思い止まってくれたみたいだけど、うちの子達はどうかな?

「愛紗はどう思う?」

「そうですね、こう遠目ではその戦い振りの詳細は解りませんが、私、鈴々、星の三人でようやく足止めが出来るぐらいだと思います。」

「ええ~!?鈴々は一騎打ちがしたいのだぁ!!」

「ダメだよっ!!鈴々ちゃん!!お願いだから絶対に一人で相手しないって誓ってっ!!」

 桃香が青冷めて鈴々に抱きついた。

「う、うん・・・・・桃香お姉ちゃんがそこまで言うなら約束するのだ・・・」

「うん!絶対だからね・・・」

 桃香は少しだけ安心したのか、優しく鈴々を抱きしめていた。

「ふん、どいつもこいつも情けない!呂布などこの夏侯元譲が相手してくれるっ!!」

 あ~、また考え無しなのが出てきたよ・・・。

「春蘭、あなたには大事な役目があるでしょう。」

 華琳に言われて春蘭は目を点にして頭の上に?マークを大量生産していた。

「張遼の事よ・・・・・」

「ああっ!!そうでしたっ!!」

「張遼はあなた一人に任せるからしっかり調略して頂戴。」

「御意っ!!」

 納得をした春蘭の姿を見て胸を撫で下ろす秋蘭にも訊いてみる。

「秋蘭はどう思った?」

「うむ、私もある程度は話を聞いていたが・・・・・百聞は一見にしかずとは正にこの事だな・・・・・想像以上だ。」

 さすが冷静な秋蘭は良く把握している。

「さてと、これ以上は訊いても違う意見が出無いだろ。具体的にどうする?」

 俺がそう言うと冥琳が答えてくれた。

「具体的な策か・・・・・董卓軍は今日の戦いでこの戦法に自信を持つはずだ。明日、我々が出ても同じ戦法でくるだろう。張遼は春蘭が相手してくれる事が決まっているから、張遼を見かけたら直ぐに伝令を走らせる。春蘭が来るまではその場に居合わせた将が引き止めておくしかないな。そして問題の呂布だが、兵には見掛けたら直ぐに後退するのを徹底させる。そして近くにいる将が最低三人で当たり呂布を足止めする。その隙に残っている将が兵を率いて横陣を突破し虎牢関を攻撃。という流れなんだが・・・」

冥琳の言葉が止まってしまった。

「だが?」

「ここでも呂布が問題だ。呂布を倒せれば問題ないのだが、それは望み薄だろう。調略も勝てなければ話を聞かんだろうし、縄や網で捕縛出来るかも怪しい。何処かに逃げ出してくれれば楽なんだろうがその為には虎牢関を落としておかねば駄目だろう・・・これでは本末転倒だな。虎牢関を簡単に落とせないから将を誘き出したというのに・・・・・呂布め、まるで動く虎牢関だ。」

 恋は『一人移動要塞』か・・・納得・・・。

 ん?冥琳がまた俺を見て・・・・・・その笑はまた変なこと思いついたな。

「いっそのことお前が調略してみるか?」

 やっぱり!

「俺の話を聞く状態とは思えないけど?」

「そこはお前の種馬としての本領を発揮してもらおう。一人が心細いなら三人でやればいい。」

 周りからどっと笑いが起こった・・・・・・。

「「「俺たちの事どういう目で見てるんだよっ!!」」」

「種馬将軍。」

「変態将軍。」

「チOコ将軍。」

さらに笑いが大きくなった・・・・・・いいよいいよ、みんなの重苦しい気持ちが少しでも晴れたならそれで・・・・・・・グスン。

「でもこれで当初の基本戦略そのものを変更する必要が出てきたわね。」

 華琳の結論が出たようだ。

「短期決戦を捨てて通常の攻城戦としましょう。初戦は冥琳の提案通りの作戦で呂布はこちらの将で動きを封じる。張遼を調略できるだけで敵の戦力は大幅に下げる事が出来るわ。今回はそれを主目的にしましょう。」

 華琳の案に冥琳が頷く。

「同感だな。だが万一虎牢関を落とす事ができたら、前に話した通り曹操軍が一番乗りをしてくれ。」

「心得ているわ。これでまた乱世の奸雄なんて評判が上がるのでしょうけど。」

言葉とは裏腹に笑って答えていた。

俺はここに至っては一つ重要な事を思い出した。

「なあ、明日は本当に俺達が出陣出来るのかな?」

「それは大丈夫だ。袁紹と袁術は負けた腹いせに、また我々に先鋒を言ってくるだろうな。問題は華琳殿の軍だが・・・・・」

「麗羽が戻って来たら挑発しておきましょう。緑一刀と雪蓮にだけ面白い思いをさせるのは不公平ですものね♪」

 ここでまた戦場から銅鑼の音が鳴り響き、遂に袁紹・袁術軍は潰走を始めたのだった。

 

連合軍軍議用天幕

【華琳turn】

「実に華麗で、雄々しく、勇ましく、優雅な撤退だったわ、麗羽。」

 私が笑顔で言ってあげると顔を真っ赤にして怒り出した。

「か、か、か、かりんさん・・・・・あ・な・た・・・・・」

「あら?なに?実際負けて撤退してきたのは本当でしょう。あなたが敵を舐めすぎたせいではないの?」

 これは確かに面白いわ♪

「そ、それは・・・・・北郷さんっ!!あなたが敵は弱いと言うからですわっ!!」

 最低ね!上に立つものが他人に言われた事を鵜呑みにして、失敗したらそいつのせいにする。成功すれば自分の功績だなんて!

そう言えば昔からこんな奴だったわ。思い出したらムカついてきた!

「おっかしいなぁ?汜水関の時は本当弱かったんですけどねぇ?」

 緑一刀ったらとぼけちゃって・・・ふふ、私もここは冷静にならないと。

「孫策っ!おまえもなのじゃっ!!おぬしが敵は弱いと言ったのじゃっ!!」

 こいつもか・・・・本当に馬鹿一族ね。

「おっかしいわねぇ?汜水関の時は本当に弱かったのに?」

(ぷっ)

 どこからか吹き出す声が聞こえたけど、この道化芝居を楽しんでくれているみたいね。

「そうねぇ、私も汜水関の時は全然手応えを感じ無かったわ。」

「そ、それは華琳さんがたった五百騎しか相手にしてないからですわっ!」

「それだけ見ておけば私には充分よ。あなたがあんな陣形も何も無いような形で突っ込むから負けるのよ。」

「キ、キイイイイイイイイイイイッ!!言わせておけばこのクルクル・・・」

 あら?言い掛けた途中で止まったと思ったら張勲が何か耳打ちしてるけど・・・まさかもう釣れてしまったの!?

(お嬢さま、麗羽様、この人たちはまだ虎牢関を舐めてるみたいですからやらせちゃえばいいんですよぅ。)

 張勲に耳打ちされたら麗羽も袁術も急にいつもの嫌な笑顔になったわね。

「わかりましたわ!それでは明日の攻略は汜水関と同じようにあなた達のでおやんなさいっ!これは総大将としての命令ですっ!!おーーーーーーーーーほっほっほっほっほ!!」

 もう少し楽しみたかったけど、まあいいでしょう。望む結果が得られたんだし。

 

虎牢関

【エクストラturn】

城壁の上で霞、恋、音々音が連合軍の動きを見ていた。

 連合軍は隊列を組んでいる最中で、虎牢関側もそれに合せ昨日と同じ横陣を組んでいる。

「連合軍の奴ら、懲りずに来よるな、って当たり前か。昨日の内に総大将の袁紹を討ち取れてれば楽やったのになぁ。」

「そうですなぁ。ですが昨日のあれはなんだったのです?あれでは装備が豪華になった黄巾党としか思えないのです。」

 ねねは腕を組んで頭を捻っていた。

「そうやなぁ。まあでもおかげでウチらは殆んど損害出さずに勝てたからええけど。いかんせん数が多過ぎるわ。」

「・・・・・・・敵の旗あがった。」

 呆と景色を眺める様に見ていた恋が指差す方向を、霞が望遠鏡で確認する。

「ん~と?お、曹操の牙門旗があるやん♪これで惇ちゃんとやれそうやな、後は・・・・・劉旗?ちゅう事はもしかしたら劉備軍か!?関羽の旗は・・・お、あったあった!汜水関では会えへんかったからな!こっちも相手したいなぁ!!ん?なんやあの旗?丸に十に北郷って書いてあるけど・・・・・。」

「・・・・北郷?」

「なんや恋?気になるんか?」

「・・・・・うん、なんでかわからなけど・・・・???」

「それは劉備軍が担ぎ上げてる天の御遣いとか言ってる男の旗ですな。」

「ふ~ん、関羽と一緒におる男か・・・・・・・ちょっと見てみたい気もするなぁ。」

 霞の目に宿る光がペテン師ならば叩き斬ると物語っていた。

「え~と、後は公孫賛と・・・・・・ありゃあ孫策やな・・・って汜水関の時とおんなじやないかああぁいっ!!」

 それを聞いた恋の殺気が溢れ出す。

「・・・・・・華雄のカタキ・・・とる。」

「おお!恋殿、弔い合戦ですなっ!!」

「ちょっと待ちやっ!華雄の首級が上げられたっちゅう報告は無いねんから、まだ行方不明なだけやっ!!勝手に殺すなっ!!」

 

【紫一刀turn】

「なあ華琳、何を怒ってるんだ?」

 恐る恐る聞いてみた。さっきまでは別にそんな素振りは無かったのに進軍し始めたら次第に眉間にシワが刻まれていくのだから気にならない方がおかしい。

「別に怒ってなどいないわ。ただ欲求不満なだけよ。」

「欲求不満?」

 それって・・・

「閨の話じゃないわよ。昨日の軍議の事を思い出したらちょっとね・・・」

「ああ、そういう事か。」

 秋蘭から聞いたけど、余りにあっさりとこの布陣が決まって華琳は緑や雪蓮みたいに遊べなかったらしいからな。

「こうなったら口上で()さを晴らすわ。」

 おいおい、いいのか?それ?

 

 お互いの軍が姿を確認出来る位置まで来た。

「全軍停止っ!!」

 華琳の命令が次々と復唱され同盟軍が停止する。

 現在華琳は先陣の指揮官となっており四軍を束ねていた。

 連携の調練などしているわけ無いからな結局は汜水関と同じように三つに別れて戦う事になるのだが、今回は総大将のご命令を戴いてるので連絡は人目を気にせずガンガン取りまくれる。

その点は前回よりはやり易いか。

 魚鱗の陣を組んだ同盟軍から華琳が、牙門旗を持った季衣と流琉を連れ三騎で前に出る。

 

「聞けいっ!張文遠!呂奉先!我が名は曹孟徳なりっ!!昨日の戦ではそちらに大変な失礼をした事をここで詫びておく!!」

 

「なあ秋蘭・・・華琳のやつ何言い出す気だ?」

 秋蘭もさすがに戸惑ってる。

「まさかとは思うが・・・先程華琳様が仰っていた憂さを晴らすとは・・・・・」

 

「武人の誇りを賭けて戦うべき戦場であのバカの袁紹とバカの袁術が本当にバカな私欲を出してバカな戦闘を行なった!!」

 

「な・・・・ホントにやりやがったっ!!」

「か、華琳様・・・・・・・」

 

 

【赤一刀turn】

「うひゃひゃひゃ!あーーーはっはっはっは!!ああぁおかしいー!!ひーーーっ!!く、苦しいぃ・・・」

 馬上で腹を抱えて笑い転げる雪蓮を尻目に俺は冥琳に話し掛ける。

「なあ冥琳、戦前の口上って相手を挑発することもあるんだよな。」

「ああそうだ。」

「俺にはどう聞いても袁紹と袁術を挑発してるようにしか聞こえないんだが?」

「ほう、奇遇だな。私もだ。」

 

「そんなバカ!そんな馬鹿っ!!そんな莫迦っっ!!!の為にこの私まで同じに見られては迷惑千万っ!!」

 

 

【緑一刀turn】

「ね、ねぇ・・・・・・ご主人さま?」

 桃香が引きつった笑顔で話しかけてきた。

「桃香・・・言いたい事は判るが・・・・・・・ここは華琳のやりたいようにさせてやろう・・・・後が怖いから。」

「そ、そうだねぇ~・・・・・」

 

「そのバカの袁紹とバかの袁術の為に連合軍が被った屈辱をこの我々が晴らしてみせるっ!!」

 

 

【エクストラturn】

「こらまたえっらい口上やなぁ・・・・・・曹操はよっぽど腹に据えかねとるんやなぁ。」

 霞は既に馬上の人となって華琳の口上を聞いていた。

「私も永らく戦場におりますが・・・・・いやはや、自分の総大将を()き下ろす口上とは初めて聞きましたな。」

 古参の中隊長が苦笑しながら言葉を掛ける。

「ウチかてそうやで・・・・・曹操か・・・ただの真面目くさった自信家とはちゃうみたいやな・・・・・おもろいでぇ自分。」

 

「今こそ武人同士の誇りを賭けた本当の戦を見せてくれようっ!!」

 

「おっちゃん、ほんならちょ~っと行ってかまして来るわ。」

「兵共に気合の入るやつをお願いしますぞ、将軍」

 おっちゃんと呼ばれた中隊長は笑って霞を送り出した。

「え~?ウチそないな事言われてもマジメちゃんやから困るわぁ~♪」

 おどけてみせる霞を周りの兵達が笑って見送った。

 

「返礼の口上や!しっかり受け取りぃ!!ウチが張文遠やっ!!確かに昨日のアレは酷かったわ!大将があんなんやったらならウチならとっくに逃げ出しとるわ!ほんでもウチんとこの大将董卓は兵共に大人気でな!将から一兵卒に至るまで逃げ出す奴は一人もおらんねんっ!!武人の誇り大いに結構っ!!しっかり受け止めたるから掛かって来いやあああぁぁぁ!!!!」

 

 口上を終えると華琳、霞、双方共に自陣に戻った。

「張遼将軍、あれでは我々は逃げ出すわけにはいかないではないですか。」

 おっちゃん中隊長は言葉とは反対にとても嬉しそうである。

「ウソは言うてへんやろぅ♪」

「全くその通りで。」

 

 

両軍から銅鑼の音が鳴り響き戦闘開始の合図を告げる。

その銅鑼の音と共に恋が自陣から飛び出した。

昨日は一人で駆け回った恋だが、今日はねねが馬に乗って付いて来ていた。

鞍とねねの小さな手で支えたれた旗竿に翻る深紅の呂旗。

「天下の飛将軍っ!呂布奉先殿っ!!参上なのですーーーっ!!」

 

【緑一刀turn】

「呂布が出たぞおおおっ!!」

 俺、桃香、朱里、雛里、そして貂蝉と卑弥呼は陣の後翼でその声を聞いた。

「こっちに出たか・・・愛紗、鈴々、星、死なないでくれよ・・・」

「大丈夫かな?大丈夫かな?・・・・・」

 桃香の握り締めた拳がふるふると震えて、その心配の強さを物語っていた。

「兵隊のみなさんは一度下がって隊を組み直してくださいっ!」

「弓兵のみなさん!今度は三斉射行きます!」

そんな中で朱里と雛里は兵隊に指示を出し続けていた。

「桃香ちゃん、心配なのは解るけどぉ、大将はもっと落ち着いて構えないとダ~メよぅ。」

「うむ、兵は皆おぬしの姿を見ておる。皆を安心させるのが今のおぬしの役目だ。」

 貂蝉と卑弥呼には俺達の護衛に付いてもらっていた。

 この二人の存在がここまで頼もしく感じられる日が来るとは思ってもみなかった。

「貂蝉さん、卑弥呼さん・・・・・・分かりましたっ!私頑張ります!」

 そう言って馬上で背筋を伸ばし戦場を見つめる。

 よく見ると小刻みに震えているが、これなら大丈夫だろう。

 しかしここからでは見えない最前線ではどうなっているのか・・・。

「・・・・・・・・・やっぱり心配だ!俺、愛紗たちの処に行って来るよ。」

「ダメですよっ!ご主人さまっ!」

「危険すぎましゅっ!」

俺が馬を降りて走り出そうとすると、朱里と雛里の二人がかりで俺の腰にしがみ付いて止められた。

「二人とも、ご主人様が心配なのはよっっっっく判るわよぉ。でもわたしと卑弥呼が護衛に突いてイクから心配しないで♪」

「うむ。私たちが突いてイケばご主人様には毛ほどの怪我もさせぬと約束しよう。」

貂蝉と卑弥呼が説得してくれた。

 そして馬上の桃香を見ると頷いてくれた。

「ご主人さまは愛紗ちゃん、鈴々ちゃん、星ちゃんの事お願い。私はここでみんなを応援してるから。」

 桃香、貂蝉、卑弥呼の言葉に納得・・・は、しきれてない様だが取りあえず手を離してくれた。

「何故か『付いていく』の部分に違和感がありましたけど・・・わかりました。でも、ご主人さまホントに無茶しちゃだめですよ!」

「わかった、ありがとう朱里、雛里。」

俺は二人の頭を撫でてやった。

「ふんぬぅぅぅぅぅ。うらやましいわぁ。」

「ぐぬぬぅ。ワシもご主人様になでなでしてほしいぞ。」

「貂蝉、卑弥呼、頼りにしてるぞ。よろしく頼む。」

「まかせてちょうだぁい!ご主人様のそんな優しいお言葉を戴けたらパワー百倍よぉぉぉぉぉぉん!」

「うおおおおぉぉ!漢女心がガッチガチに滾るぞ!」

ほ、程ほどにな・・・・二人とも・・・。

 

 

時間を少々戻し劉備軍先鋒

【エクストラturn】

「関羽隊、張飛隊、趙雲隊の兵共は下がれっ!!」

「みんな打ち合わせ通りに動くのだーーっ!!」

「以後は軍師殿と桃香様の指示に従えっ!!」

 愛紗、鈴々、星の号令で兵隊が後方に下がっていく。

「・・・・・・・・・にげる?」

 未だ動き出さず愛紗達を見つめる恋。

「兵はな。貴様の相手は我々三人がしてやろう、呂布っ!」

 恋は愛紗の言葉に微笑んだ。

「お前達優しい・・・そして頭がいい・・・・・・でも・・・」

 言葉が切れた途端、恋からすさまじい殺気が噴出す。

「・・・・・・・・・華雄を殺したのはゆるさない。」

「華雄は死んでないと思うのだ。」

 恋の殺気を受けても平然と鈴々は答えた。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ホント?」

「うん。華雄の相手は鈴々がしたけど急所は外したから自信はあるのだ。」

「・・・・・・・華雄・・・どこ?」

「う~ん、ホントは捕まえてお兄ちゃんに会わせるつもりだったけど、華雄の兵隊が命懸けで助けに来たから鈴々はこうやって・・・」

 手で目隠しをしてみせる鈴々。

「さっさとつれてけーって言ったら居なくなったのだ。」

「・・・・・・・・そうか・・・なら、お前たちも殺さない。」

 恋の殺気が幾分弱まった。

「今ので信じたのか!?」

 愛紗が驚いて訊くと、恋は鈴々の目を見る。

「目がうそ言ってない・・・・・・・だからお前たち・・・手足一本でゆるしてやる。」

「ふっ、そう易々( やすやす)とはくれてやれんな・・・・・・・いざっ!」

 愛紗の掛け声と共に放たれた一撃が戦闘開始を告げた。

 

 三人の次々繰り出す攻撃を全て外し反撃をする恋。

 二人同時、三人同時でも恋は難なく弾き返し、返す刀で剛撃を叩き込む。

 この戦いに敵も見方も固唾を呑んで魅入っている。

 戦の最中にも関わらず四人の周りは戦闘行為が中断していた。

 

「つ、強い・・・・・・解っていた心算(つもり )だが・・・ここまでの武か、呂布の強さとは・・・」

「・・・・・・・お前らちょっと強い・・・・・・でも恋のほうがもっと強い。」

呂布は方天画戟を構え、愛紗、鈴々、星の三人を見据える。

「愛紗!鈴々!もう一度三方から当たるぞ!!」

「応!なのだ!!」

「わかった!星!!」

「何度やっても無駄なのです!呂布どのの武は天下無双なのです。」

離れたところからねねが馬から降りて野次を飛ばしている。

しかし愛紗たちの耳にも目にも入ってはいない。

一瞬でも気を抜けば自分の首が宙を舞う。

そんな映像が常に脳裏で容易に思い浮かぶ程の殺気が全身に襲いかかる。

しかし強い敵と相見える事に歓喜する己の武も自覚し、自然と口の端があがる。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・来い。」

 

【緑一刀turn】

「星ちゃん、愛紗ちゃん、鈴々ちゃん、無事かしら~。」

俺が貂蝉、卑弥呼と共にその姿を捉えたとき、対峙した四人の間にはギリギリと音が聞こえそうなほど緊張感が張り詰めていた処だった。

しかし、そんな中で俺と恋・・・呂布の目が合った瞬間、唐突に呂布から殺気が消えた。

「えぇ!?なんだ!?」

戸惑う愛紗たちを無視して呂布は手にしていた方天画戟をその場に落とし俺に向かって文字通り飛んでくる。

 

「ご主人さまっ!!」

それは俺が知っている恋の声、そして笑顔だった。

 

「れ、恋殿ぉぉぉぉ!!」

ちびっ子が叫んで恋を呼び止めるが聞こえてはいないようだった。

そのまま恋は俺の胸に飛び込んできた。

「ご主人様だ・・・・・・・・・・・・・あれ?ここは?・・・・・・・・・?????」

「りょ、呂布・・・・?」

恋、まさか・・・。

「・・・・ご主人様・・・恋のこと真名で呼んでくれない・・・・・恋、悪いことした?」

「恋、お前記憶が残ってるのか?」

「・・・・・・きおく?」

恋は小首をかしげ、子犬のような目で俺を見つめている。

「う~ん、普通こんなことないんだけど・・・恋ちゃんだしねぇ。アリかもねぇ。」

貂蝉にも予想外だったらしく恋の行動に驚いているようだ。

「・・・・あ、貂蝉・・・・と、しらないひと・・・・でも、恋わかる、いいひと。」

「私の名は卑弥呼だ。呂布奉先よ。」

「・・・・・恋でいい。」

「では、恋よ。よき恋敵(とも )となろうぞ。」

「・・・・・うん♪」

なんかトモの部分に寒気を感じたが気のせいか?

なんてことをやっていると、背後に気配をかんじた。

「あ~~~~、うん。ご主人様。これはどういうことですかな?説明していただけるのでしょうな!」

愛紗が畏まりつつも笑顔で訊いてきた。こめかみに血管が浮いてるけど・・・。

「え?いや、これは俺も予想外というか・・・」

「まあ、主の気の多さを考えれば納得がいくというものでしょうな。流石はチOコ将軍の異名を馳せるだけはある。」

星がしたり顔でうんうんと頷いている。

「い、いやちが・・・・!」

「ぐ・お・しゅ・じ・ん・さ・ま~~~~~~!」

愛紗が自慢の青龍偃月刀を構え、俺が知るかぎり最強の殺気を放っている。

きゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ

「お~い!一体何が起きて・・・・・・・?もしかして恋を仲間にできたのか?」

「いくらなんでも早すぎないか?」

絶体絶命のピンチを救ってくれたのはなんと紫と赤の俺だった。

「???????・・・・・ご主人さま・・・三人?・・・にせものじゃない・・・恋、わかる・・・・あ、ご主人さま三人いれば恋と遊んでくれる時間ふえるって考えてた・・・・・それ叶った?」

愛紗の相手は赤と紫に任せて、今は恋の混乱を解いてやらないと。

「い、いや、まだ完全に叶ったわけじゃないな。」

「?」

「恋、ここがどこか判るか?」

「・・・・・ここ・・・虎牢関?・・・あれ?・・・・・・・・・・月と詠つかまってる。助ける!」

 そうか・・・・・やっぱり月と詠は囚われてるのか。

「ああ、月と詠、それにセキトたちも助けなきゃな。」

「ん!セキトたちもたすける!!」

どうやら恋の中で記憶が整理できたようだ。

ほっとしている処に何やら騒いでやってくるちびっ子かいる。

「こらーーーっ!!そこの変な格好した男!呂布どのから離れるです!って、おんなじ顔がみっつ!?おまけにさらに変なのが二人もいるのですっ!さては五胡の妖術使い・・・・・・・よりも更に妖しい気がするのです・・・・」

「こら、ちんきゅ・・・みんないいひと・・・そんなこといっちゃだめ。」

「り、りょふどの~~~。」

恋にこつんとやられて涙目になってるちびっ子に俺は自己紹介をすることにした。

「あ~、代表して俺が挨拶するな。俺の名は北郷一刀。天の遣いなんて呼ばれてる。」

「・・・・・お前があの胡散臭い天の遣いですかっ!!でも曹操のところにも居ると聞いた事もあるのです。」

「あ、それは俺の事だ。」

「・・・・・・・・れ、恋殿、どうしてこんな男達と親しくするのです?」

「?・・・・・・・ご主人さまだから。」

「しゅ、主人!?ゆ・・・董卓殿の事は・・・・・」

「月は月・・・・・・ご主人さまはご主人さま。」

なんか禅問答みたいになってきたな・・・。

「ご主人さまといっしょに月と詠とセキトたちをたすける。」

 さすがに俺が入らないと話が進まないよな。

「ええと、俺たち天の遣いの目的は董卓と買駆、そしてセキトたちを助けること。」

「助けるって、お前たちは連合軍ではないですか!攻め込んでおきながらどの口が言うですか!」

「それは俺たちの立場上連合軍側から洛陽を目指すしかなかった。てのもあるけど、董卓を脅して操っている連中を一掃し、袁紹たちを牽制するのにもいい立ち居地だと思ってる。」

「・・・・・・本気で董卓殿を助ける気ですか?そんなことをしてお前たちに何の得があるのです?」

「困っている女の子を助けたいだけさ。それはキミたちも同じじゃないかな?ただ命令されたから戦ってる訳じゃないだろ。」

「ぐ、そ、その通りなのです・・・・・・恋殿がお前たちを信用している以上、この場は矛を収めそちらに下るのです・・・・」

「ちんきゅ、いいこ。」

「しかーーーし!さっきからお前は恋殿にくっつきすぎなのです!さっさとはなれるのです~~~!!」

いつの間にか恋は俺たち三人をまとめて抱き付いていた。

「そうなのだ!お兄ちゃん三人を独り占めなんてズルイのだ!」

そう言って鈴々も抱き付いてきた。

「みんないっしょ。」

恋は陳宮を引っ張って抱きつかせ、更に愛紗、星も巻き込む。

「え?おいなにを・・・」

「おお、これもまた一興、主殿は果報者ですな。」

「そっちも。」

なんと恋は貂蝉と卑弥呼まで引っ張り込んでしまった・・・・・。

「あらん。恋ちゃんってば!」

「こんな大胆なこと、漢女の瑠璃の心臓が破裂してしまいそうだわ。」

俺は天国と地獄を同時に味わいながら、記憶の中にある洛陽での出来事を思い出して不安に駆られていた・・・・・。

そんなとき明命がこちらに走って来る。

 

「一刀様っ!!大変ですっ!春蘭殿が流れ矢にっ!!」

 

 俺達はその言葉に凍りついた。

 

 そして戦闘終了を告げる銅鑼もまだ鳴っていないのに、何処からも戦闘の音が聞こえない事に気が付いた。

 

 

あとがき

 

 

今回はこんな感じに

ヒキで終わりました。

 

4/5が書き下ろしですw

 

まな板と洗濯板

当初、麗羽の台詞にあの一言は

考えていませんでした。

いざあのシーンを書くときに

雷起の頭の中で麗羽が勝手に叫んだのです。

ゴメンネ、朱里、雛里。

 

次回は

霞vs春蘭から始まります

お楽しみに。

 

 

 


 
このエントリーをはてなブックマークに追加
 
 
21
2

コメントの閲覧と書き込みにはログインが必要です。

この作品について報告する

追加するフォルダを選択