「お前、父ちゃん誰だかわかんないんだってぇ~? かわいそぉ~にぃ~」
「母ちゃんがビッチだと大変だな。あはははは」
学校のクラスメイトがそう言ってきた。
<そう、私は自分のお父さんが、誰だかわからない。
……だから、もしかしたら、私のお父さんは町の芝居劇場で一番人気の役者さんかもしれないの!
世にいる全ての素敵な殿方が、全て全て私のお父さんかもしれない、そんな素敵な可能性、夢を見れるの!
……どう? うらやましいでしょう?
あなた達のお父さんお母さんはもうわかっていて、決まっていて、全然夢がないわね。
……かわいそうに! >
貧相な弁当を馬鹿にされ、それをひっくり返された。
女の子は床に落ちた弁当を犬のように食べた。
<まぁ! 床の掃除も出来て一石二鳥だわ! ありがとう! お友達!>
感謝の念を込めて友人の靴を舐めるも、女の子は顔面を蹴り飛ばされた。
血の鉄の味は、卵焼きに合わないと知った。
何もしていないのに、女の子はよく母親に殴られた。
八つ当たりが大半で、時折「あの男に顔がそっくりね!!」とも怒鳴られた。
<お母さんには、私くらいしかこうやって心の内を吐き出す人がいないの。
私が、お母さんを受け止めてあげなくちゃ>
女の子は、ニコリと微笑みながら暴れる母親を抱きしめた。
顔面を石床に叩きつけられた。
雪が舞い散る寒空の下、外に追い出された。
<お母さんは私の体を鍛えようとしているの>
ひどい凍傷にかかり、指を4本失った。
タバコの灰を食べさせられた。
<好き嫌いせずに、なんでも食べれるようにならなきゃ>
女の子は嘔吐し続け、死にかけた。
年頃になり、初めて異性に優しくされた。
<あぁ、この人はこんな醜い私になんて優しいの!
ついてく、私はこの人に一生ついていくわ!>
男が興味あったのは、彼女の性器だけだった。
しかし、体だけとはいえ求められたのが嬉しくて嬉しくて、彼女は男から離れようとしなかった。
呼ばれたらすぐに彼の元へ飛んで行った。
男は自らの友達にも彼女を紹介した。
その友達と仲良く、彼女の体を玩弄した。
<彼が楽しそうなら、私も楽しい! >
彼女は誰かの子供を身ごもった。
嬉しかった。相手が誰でも嬉しかった。
<私なんかと遊んでくれた人達の誰かの子供……。ウフフ、すごく嬉しい! >
もうその頃には、誰も彼女と“遊んで”くれなくなっていた。
皆、どこかへ行ってしまった。
1人で子を産み、1人で育てた。
母が私にしてくれた事を、子供にもしてあげた。
いきなり顔面を殴ったり、外に締め出したり、タバコの灰を押し付けたりした。
でも、母のようにうまく“不機嫌な表情”が作れなかった。
彼女は今、とても幸せで満ち足りているので、ついつい笑顔で接してしまった。
子供は、彼女の事が大嫌いに育った。
早々と家を出て行った。
彼女は1人になった。
狭く、暗い家の中でぼんやりと今までの人生を思い返してみた。
話しかけてくれる友達。
よく構ってくれたお母さん。
初めて好きになった殿方。
そして、かわいい子供。
<やだ。今までの私の人生、楽しい事ばかりじゃない! こんなに幸せでいいのかしら!>
微笑むと、唇の端に止まっていたハエが飛び立った。
数週間後、彼女はネズミの糞となり地面に散らばった。
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