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真・恋姫†無双 ~愛雛恋華伝~ 44:【動乱之階】 点をなぞり線となる

makimuraさん

どうすればいいか分からなかった。

槇村です。御機嫌如何。


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2012-01-27 08:15:09 投稿 / 全6ページ    総閲覧数:4031   閲覧ユーザー数:3144

◆真・恋姫†無双~愛雛恋華伝~

 

44:【動乱之階】 点をなぞり線となる

 

 

 

 

 

洛陽のある司州から、東を見て、袞州、豫州。更に向こうには徐州があり、海にぶつかる。

その豫州と徐州の南に位置するのが、揚州だ。

 

一刀が揚州へ向かうのは、商談及び食材の仕入れのため。もっといえば、新たな米の確保である。

他に商人としての連れがいたが、そちらはまた別途の用件が出来たために別れている。つまり護衛のみで単身赴くということになる。

そんな彼に従うのは、幽州の一騎当千、呂扶。

単身でも問題ないと判断した所以でもある。たかが商人の護衛には破格の存在だ。

 

またふたりに同行するのは、鳳灯と華祐。

彼女らは彼女らで、別件で揚州へ赴く用件がある。

西園八校尉のひとりである袁術に対して、"太平要術の書"についてと、それに対する近衛軍の方針などを報告するためだ。

 

「さすがに、なにも知らせないでいるわけにもいきませんから」

 

ということで。

使者として鳳灯が、その護衛として華祐が出張るということになった。

 

もっとも、そう決まるまでにひと悶着あったのだが。

 

先だって華祐が洩らした、孫堅のところへ出向いてみるか、という言葉。それに釣られるわけではないが、鳳灯は、"こちらの世界"の孫策や周瑜に興味が湧いていた。

孫家と袁術が不仲でないならば、彼女たちはどんな境遇にあるのかも気になる。

なら自分もついて行って確かめてみよう、と。

鳳灯は軽い気持ちで、袁術への使者役に立候補したのだが。

 

「鳳灯、あんた馬鹿?」

 

心底呆れたような口調で、賈駆にダメ出しをされる。

当然といえば当然のこと。現在の鳳灯は、洛陽における文武の"文"にあたる部分を統べる立場の人間といっていい。

普通に考えれば、そうほいほいと遠出を許すわけにもいかないだろう。

 

「内容はさておいて、やること自体はただの伝達役でしかないのよ?

そんなことに、上から数えた方が早いような立場の人間をやれるわけないでしょ!」

「でも、私は正式な地位を貰っているわけでもありませんし」

「そういう問題じゃないわよ!」

「不在にするのがまずい、っていうなら、私がやっているようなことはもう他の誰でも出来ますよ?」

 

これまで一部の人間がこなしていた様なことも、さすがにすべてとはいかないが、鳳灯は細かく解した上で分かりやすく体系化させている。既に同じことを幽州で実行済みなので、中身は違っても、形にするのはさほど苦になることではなかった。

これによって、実際に政務の効率化が成され、新しい人材の育成などにいい影響が生まれている。そして、洛陽の政務は大きな問題もなく回っている。

 

なら自分がいなくても平気じゃないですか、と、鳳灯は胸を張り主張する。

 

賈駆はそれでもいい募る。いいたいことは分かるが、やることはやったから出て行くわ、なんてことは許さないぞ、と。

同僚としての有能さを惜しむためか、それとも友人が離れようとする寂しさからか。

押したり引いたりのやり取りの末、「終わったらちゃんと帰ってくること」をしっかり約束させらて。鳳灯はやっとのことで、洛陽を出ることを許された。

 

鳳灯としても、太平要術の書の行方は気になっている。世の中がどのような流れを見せるか分からない以上、洛陽にいた方が動きやすい。

だから今はまだ、幽州へ戻るつもりはない。

賈駆だけではなく、哀しそうな表情を浮かべる董卓に対しても、そういった説明をする。

正直なところ、このように感情を先に出して接してくるのは、互いの心の距離というようなものの近さを感じて、嬉しい。

鳳灯はそう感じている。

 

「詠さん、月さん、ありがとうございます」

 

面映さを隠せないまま、彼女は久しぶりにふたりを真名で呼ぶ。

自分の役割を意識するために、許されてはいても敢えて口にしなかったそれ。

鳳灯の言葉に、賈駆と董卓は、自然と柔らかい笑みを浮かべた。

 

 

 

今生の別れというわけではない。そんなことは皆分かっている。

だがそれでも、不安になるのは仕方ないのかもしれない。

なにより、鳳灯と華祐は、正式には近衛軍の一員ではないのだ。

ふたりはあくまで、董卓軍の客将でしかない。それゆえに、状況次第でいつ洛陽を離れるか分からない。

 

にも関わらず、鳳灯は政務の裏方を統べる人材のひとりであり、華祐もまた軍部の指導役に等しい場所にいる。

名目上の地位ははっきりしていないが、実質的にはそれぞれ近衛の中核を成す人物と見なされているのだ。

 

これまでも幾度か真剣に勧誘されている。ふたりはその都度、やんわりと断っていた。

力になれるのなら、喜んで協力する。

けれど、自分たちの帰るところは幽州なのだ、と。

 

それを考えれば、一時とはいえ、鳳灯と華祐が、洛陽を離れるという知らせに動揺する者が現れるのも無理はないだろう。

 

「本当に戻ってくるんやろな」

「勝ち星を取れないままオサラバされるのは勘弁だぞ」

 

一番動揺しているのが、軍部の上位にあたる張遼と華雄だというのは、笑うべきか、笑えないというべきか。

まるで問い詰めるかのように、華祐に喰って掛かるふたり。

もっともこのふたりに関していえば、董卓や賈駆のような寂しさというよりも、勝ち逃げは許さないという気持ちゆえのものといえる。

 

結局のところ、戻ってくるまでに武のほどを上げ自分を驚かせてみろ、と。

煽りつつも帰還を約束することで収束を得た。

なんとも、色々な意味で愛されている。

そんな自身の境遇に、どうにも面映さを感じずにいられない華祐であった。

 

 

 

ついで、というと語弊があるが。

 

「恋も一緒に行く」

 

一刀と呂扶が洛陽を出ると聞き、自分も着いて行くと呂布が駄々をこねた。

さすがにそれは聞き入れられない、と。一刀は必死の思いで説得を試みる。

 

「また会うことも出来るし、なにかの際には洛陽に寄るようにする。逆になにかあったら、恋が幽州に立ち寄ればいい」

 

彼が丁寧に言葉であやし、呂扶が優しく頭をかいぐりなだめる。

外部とはいえ文武の大戦力が抜ける。そこに内部の最大戦力までいなくなるなど、許されるわけもない。

 

「懐いたな」

「懐きましたなぁ」

「胃袋から懐柔いうても、ここまでいくと驚きやで」

 

どこかで聞いたようなやり取りを、華雄陳宮張遼がしている。

呂布のいい出したことに驚きはしたものの、自分たちが動くよりも早く一刀が止めにかかったおかげもあり。

今の彼女たちは、目の前のやり取りをのんびりと見守っていた。

そして、しぶしぶながら彼の説得に応じる呂布を見て、ひそかに安堵するのだった。

 

呂布の引き留めに当たって、陳宮の、一刀の料理の幾つかを学び繋ぎとめてみせたという努力もあった。

彼ほどではないにしても、やはり胃袋からの懐柔が効いたといえるだろう。

陳宮自身は、呂布の喜んでもらおうという純粋な気持ちからだったが。

 

更に蛇足となるが。

このときのことが、陳宮が、董卓軍の将兵に対し"美味い食事"という"飴"をもって掌握を図ろうとした切っ掛けになったという。

前線で指揮を取る立場である張遼が、華祐らと会ったことで、軍勢の指揮よりも個人の武を優先し出していた。代わりに軍勢指揮の立場に置かれた陳宮が、なんとか効率よくまとめられないか、と、知恵を絞った末のこの考え。これが後々董卓軍に大きく影響を与えていくのだが。余談となるので置いておくことにする。

 

 

 

そんなこんなで、いろいろとありつつ。

目指すは一路、揚州。一刀ら四人は、洛陽を出立したのだった。

 

 

 

 

彼らを追う様にして、夏侯淵と夏侯惇も、洛陽を出る。

こちらも鳳灯らと同様に、西園八校尉たる袁紹への報告伝達が目的である。それなりの立場にあり、なおかつ袁紹と顔なじみであるという単純な理由から、夏侯淵と夏侯惇が選ばれた。

 

目指すは冀州・鄴。袁紹が拠点とする地であり、州牧として活動する政庁が置かれる治所。

黄巾賊の騒動も落ち着き、洛陽での大騒動は鎮火した。それらの只中で威を振るっていた将ふたりである。道中になにかが起きることなど毛ほどもなく、彼女らは鄴の町までたどり着く。

 

「夏侯惇さんに夏侯淵さん。わざわざこの袁家のお膝元まで、どうされましたの?」

 

到着早々、夏侯淵らは謁見を望んだ。さほど待たされることもなく、袁紹はふたりの目通りを許す。

政庁の中、謁見の間。自らの威を誇るように、袁紹が一段高い所に座し。二枚看板と称される将、顔良と文醜がその側に控える。さらに広間の外壁には護衛の兵が幾ばくか。

 

「態度は崩しても構いませんわよ。洛陽からの使い、というよりは、身内の話に近いのでしょう?」

 

ただの報告ならば、やって来るのは誰でも構わない。なにか意図したところがあるからこそ、見知った者が派遣されて来た。袁紹はそう捉えている。

そんな想像をしていたが。夏侯淵が告げた内容は、さすがの袁紹らにも驚きのものだった。

 

先に起こった民衆蜂起。

黄巾賊たちが膨れ上がった原因。

太平要術の書という存在。

書に対する近衛軍の対応。

といった内容のものが、淡々と伝えられる。

 

「……そんな裏があったんですね」

「うへー、おっかねーなー」

 

袁紹と共に報告を聞く、顔良と文醜がそれぞれに言葉を漏らす。

 

なによりも、太平要術の書。

他にどんな効果が現れるのかは分からないが、民衆を徒に扇動する手段になり得ることは理解出来た。放置しておくわけにもいかない。

 

「わたくしの華麗な統治が、無粋な書物一冊で乱されるのは気に入りませんわね。

気をつけておく、と、華琳さんにお伝えくださいな」

 

このとき、夏侯淵は、気になった平原の動向について深く触れなかった。

復興の進みが早くなった青州に対して、袁紹からなにか手を出したのか、またはその切っ掛けを知っているかどうかなどの意見を交わしたのみである。

袁紹と、政務に携わる顔良も、そのことについてはすでに知っていた。だが、あくまで現状について知っているのみで、その内情まで把握しているわけではない。

 

「早く元に戻りそうなら、それでいいじゃん」

 

文醜が口にしたその言葉の通り、復旧が進んでいるならなにもいうことはないだろう。袁紹らはそう考えているし、なにより他の州のことだ。それ以上関心を寄せるようなことではないこともまた事実だった。

仮にも州の頂点に立つ人物に対し、不確かな情報を伝えるわけにも行かない。

同様の理由から曹操は、董卓や賈駆、鳳灯らにも"青州の違和感"についてはまだ伝えていない。情報を集め、違和感がもう少し形になってから伝えるつもりであった。

 

どちらにしても、さほど遠くない内に、各州、県、郡その他地方を治める領主格の下へ通達が回ることになっている。

幽州で確保された張角ら三人に対し、書についての詳細や事情を聞くべく、洛陽から直々に官吏が派遣されている。詳細を得た後、盛大に捜索の手を広げようというのが狙いだ。

同時に、それら調査を取りまとめる役人として、またその地の治政に対する意見役として、人材を派遣することも視野に入れられている。これについては、「人が足りない」という、朝廷内の新陳代謝を進めたがための問題から難航していた。

優先順位を決めて、出来るところからやっていこう、というのが、今の漢王朝、そして近衛軍の方針である。

 

 

 

かなりの時間を要した、袁紹らと夏侯淵らの意見や情報の交換。

役割を終え、やっとのことでふたりは開放される。

 

「ぬ」

 

政庁を出ようとした、通路の先に。夏侯惇は見た覚えのある顔をみつけた。

 

「秋蘭、こちらに向かってくる奴を見たことがないか?」

「ん?」

 

覚えはあっても、名前を思い出せないらしい。こちらに向かってくる人影に、遠慮なく指を差す。

夏侯淵もそちらに目を向ければ、なるほど、それは彼女も知る人物であった。

 

「あぁ、彼女は」

「お久しぶりです! 夏侯惇さん、夏侯淵さん!!」

 

姉に向け名を告げるよりも前に、指を差されていた人物はふたりのことに気付き。声を上げ駆け寄ってきた。

ここ冀州に隣接する、青州。中でも冀州に程近い平原を治める、劉備であった。

 

「久しいな、劉備殿」

「はい! あ、黄巾のときは本当にお世話になりました」

 

そういって、劉備は、夏侯淵そして夏侯惇に向け頭を下げた。

 

なぜ、青州の一国・平原を取りまとめる立場にある劉備が、冀州の州牧である袁紹の下にいるのか。

 

曰く。

自分はまだ、人の上に立ち町を治めるには未熟である。

平原の統治にあたり、至らぬところを学ぶために教えを乞うことにした。

そこで、場所も近く、義勇軍時代に少なからず顔を合わせたことのある袁紹に願い出て、治世の術を学んでいるとのこと。

 

「もっとも、冀州に居っ放しっていうのもまずいですから。期間を決めて通わせてもらってるんです」

 

なるほど、と、夏侯淵は納得がいった。

地位に胡坐をかいて碌な治世をしようとしない輩もいた中で、自らの質をなんとか上げようとする彼女の姿勢は、なかなかに好感を持つことが出来る。

袁家という名前の強さもあるだろうが、冀州はよく治まっている地だ。隣接した地理的条件もあろうが、参考にする地ととしてはいい選択といえよう。

 

民のために尽くそうとするその心掛けと努力が、少しずつ実を結び、青州西部の復興と平穏に結びついた。

そう考えれば、辻褄も合うし、納得することも出来る。

 

だが、それでも。夏侯淵は、どこか腑に落ちないものを感じていた。

確かに辻褄は合う。劉備の努力と姿勢も好ましいものだろう。

だとしても、結果が出てくるのが早すぎはしないか。

 

夏侯淵は思い出す。荀彧の報告にあった、青州西部を中心として行われている復興具合を。

そう、"不自然なほどに良く治められている"ことを。

 

「劉備殿。つかぬことを聞くが」

「はい?」

「……太平要術の書、という名を聞いたことは?」

 

直接、直に、聞きだしてもいいものか。

しばし悩むも、夏侯淵は、渦中の地を治める領主に問いかける。

 

「たいへい、ようじゅつ?」

 

初めて耳にする名前、それがなにを意味するのか、まるで分からない。

表情にそんな色をありありと浮かべ、劉備は、夏侯淵の言葉を鸚鵡返しに口にする。

 

いくらか問いかけてみるも、結果として、劉備はその存在を知らなかった。

ひょっとすると、隠しているのかもしれない。

だが夏侯淵の目には、少なくとも、彼女が嘘をついているようには見えなかった。

 

無理もない。

事実、彼女はなにも知らなかったのだから。

このときはまだ、なにも知らなかった。

 

 

 

ところ変わり、揚州の治所、歴陽。

一刀ら四人はここまで、道中危険なこともなにもなく無事に到着した。

 

「さて。これからどうしますか?」

 

鳳灯と華祐は、袁術に謁見を求めるべく政庁ほと向かう。

対して、一刀と呂扶はまったくの部外者。それ以前に、顔を合わせたことすらない。

ゆえに、悩む余地など毛ほどにもなく。

この日の宿を決め、その後は別行動となった。

 

 

 

歴楊という町は、揚州の治所ということもあり、人の出入りも多く賑やかなところだ。治政においても、洛陽や、公孫瓉の幽州、袁紹の冀州、または曹操の陳留といった地に比べれば評価は低いものの、荒れていないという点では、良政が布かれているといって差し支えないだろう。

 

楊州という地は、州牧である袁術が細かいことにこだわらない分、旗下の者たちの裁量によって治められているといっていい。

そのさきがけとなったのは、孫堅を中心とする孫家の存在だ。

ひと昔前には、長江近辺を中心として、土着の宗教集団による暴動や、癒着した領主の暴政などが数多く見られた。それらをことごとく鎮圧してみせ、治政の再編を行い、広く民の生活に心を砕き奔走したのが、孫堅、そして孫家一派である。

このとき彼女が躍進する後ろ盾となったのが、袁術の伯父である、袁成。この誼が長く続き、その信頼の程は後に袁術の後見役を任されたほどであった。

袁成の死後、袁術は統治者として独り立ちすることを強いられる。たが孫堅や張勲といった面々の補佐もあったことで、なんとかこれまで彼女は一角の領主としてやってこれている。

実際には、物事すべてを出来る者に丸投げし続けることしかしていない。それでも、出来ない者に投げられることは多くないことから、人を見る目はそれなりにあるのだろうと判断できる。その辺りは、やはり袁家という名家の血が関係してくるのかもしれない。

 

さて。

この日、その孫堅は不在だった。他地方の巡回に出ているとのこと。

華祐は残念がったが、主な目的は袁術である。ひとまずやるべきことは終わらせよう、と、鳳灯は彼女を促す。

 

袁術への謁見、報告は、あっという間に終了した。

鳳灯の言葉をひと通り、大人しく聞き流した後。

 

「なんとなくは分かったのじゃ。七乃、あとは任せるからの」

 

袁術は丸投げする。

いつものこと、とばかりに。側近である張勲は軽く受け答えする。

 

「お部屋を用意しますので、後ほど詳しくうかがいますねー」

 

しばらくした後、通された別室にて、報告の詳細を告げたのだが。このときの応対も、張勲は一貫して軽い態度で受け答えをする。

とはいえ、聞くべきことは聞き、軽くはあっても御座なりではない。

鳳灯は、袁術と同様に張勲にもまた"以前の世界"とは違う印象を受けていた。

 

そして、まだ出会っていない知己たちのことを考え、胸が躍るような気持ちを感じるのだった。

 

 

政庁へと向かうふたりと離れ、一刀は、顔馴染みの商人に会うべく移動する。呂扶はそれについて行くかたちになった。

 

やることはなにも難しいことではない。

いつもの人に会い、いつものようにモノを用意してもらい、いつものように代金を払う。

それだけなのだが。

 

「あれ、姉さんは絡まないの?」

 

これまでとは違ったやり取りに、一刀は首を傾げた。

 

彼が口にした"姉さん"というのは、名前を出さないための隠語のようなもの。

なぜなら、名目上は"賊"に括られる人たちとの取引であるため、表立って口にすることが憚られるからだ。

 

揚州から幽州まで、大量の商品を運ぶのは大変だ。馬を用意するだけでも何頭必要になるか分からない。重量のあるものならなおさらである。

一計を講じた一刀は、長江を拠点とする江賊と渡りをつけ、海路から輸送してもらっている。その江賊の首領を差し、一刀は"姉さん"と呼んでいるのだ。

かの江賊らは、長江一帯では一種の義賊として、民に認知されていた。だがそれでも、賊は賊。討伐される側に立つ者たちとやり取りがあると分かれば、商人たちもただで済むとは思えない。ゆえに、名を公言することを避けているのだ。

 

これまでは、江賊の首領である人物と直接やり取りをしていた。

目の前の商人とも、その絡みで幾度も顔を合わせているし、交流もある。だが、一からすべて代わりに請け負う、というのはこれが初めてだった。

 

一刀の疑問に、笑みを漏らしながら彼は答える。

曰く、彼女はこのほど、さる有力者に召抱えられたのだという。

その人物の在り方も好ましいもののようで、身辺警護や諜報役としての任に就いているとか。

同時に江賊の面々もごっそり軍勢として引き入れたと聞いて、本当かよ、と、一刀は目を丸くした。

 

となると、だ。

権力者の私兵扱いとなったなら、商人相手の仕事なんて引き受けてくれなくなるのでは?

そんな不安に駆られたが、それはそれ。抜け目ないのが商人という人種である。

陸の上だけでなく、水上でも縦横に動いてみせる江賊の力量はそれなり以上に高い。それを維持するための調練になることやら、金銭的実利やらを仄めかし、取引その他を引き続きやっていけるようにしてあるらしい。

もちろん、後々のことかいろいろ損得を考えてのことだがね、などと付け加えるあたりは強かである。

これらについてはすべて自分が引き継ぎ、窓口役になったからよろしくな、と、彼は笑う。腹に一物あるような笑みで。

 

一刀としては、これからもきちんと取引が出来るのなら問題はない。

了解了解、と、負けじと商人くさい笑みを浮かべた。

 

一刀と共に笑い合うこの商人。名を魯粛という。

歴楊のみならず揚州全体に商いの手を広げているとまで噂され、彼自身もまたその有権者に眼をかけられていたりするのだが。いかんせん、商談と称して方々に自ら出向くことを好む性格をしているため、捕まえることが難しい。そんなところから、未だ抱え込まれることなく商売を続けていたりする。

 

そんな彼は、やることはやっとばかりに早々に姿を消した。

次の商談の場へと行くのだろう。相変わらずの商売熱心さに、感心するやら呆れるやら。

一刀はそんなことを考えながら、去り際に伝えられた言葉を思い起こす。

 

「まぁここまで来れば、少し足を伸ばすのも変わらないしな」

 

言伝を頼んだというのは、かの"姉さん"である。

彼女は現在、居を移しているため歴楊にはいない。

そして、一刀が来たら「一度顔を出せ」と言付けるようにいわれたらしい。

 

彼は、もう少し寄り道をすることにした。

 

 

 

「とまぁそんなわけで。俺は少し寄り道するつもりなんだけど、ふたりはどうする?」

 

一刀の言葉に、華祐は考える間もなく飛びついた。鳳灯もまた、渡りに船とばかりに了承する。

こうして彼ら一行の次なる目的地は、孫堅ら孫家の活動基点となる地、呉郡と相成った。

 

 

・あとがき

地味な展開を好む。今回は正にそれ。

 

槇村です。御機嫌如何。

 

 

 

 

 

あちらこちらの繋がりを示唆する回。

盛り上げる山場がまったくないのは自覚しています。

その上、なにか物足りない。

どう膨らませればいいか分からなくなったので、諦めて先へ進めることにした。

 

 

なぜか出来てきた、魯粛さん。しかも商人扱いってどういうことだよ。

これからまた出番があるかは不明です。

 

 

次回、新たに原作キャラが登場します。

"姉さん"って誰なんでしょう? 楽しみだなー。(棒読み)

 


 
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