No.367507

Night, night, sweetie.

Ryo_Sさん

以前、サイトのブログにて公開していたSSです。本編終了後15年以上のちの、あるひととき。子守歌、と王ルセ。

2012-01-23 20:18:16 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:1493   閲覧ユーザー数:1491

 どこからか、優しい子守歌が聞こえる。

 それは懐かしい、母の声のような、叔母の声のような、心に染みいる歌だった。

 暖かな光が降り注ぐ、まるで日だまりのようなぬくもりだ。

『ははうえ? ……おばうえ?』

 幼い声が聞こえる。

 応えるように、彼の名を呼ぶ懐かしい声が聞こえた。

 

「ん……」

 唐突に、低い男の声が自分の口から紡がれたので、彼ははて、自分は今どこにいたのだろうと疑問を胸に抱いた。首を傾げたくなったけれど、どうしたことか、力の抜けた体はいうことをきかない。ううん、と、うなるような頼りない声だけが、意識とは無関係に漏れるだけだ。

「アスフェリートさま?」

 歌が途切れ、同じ色をした声が彼の名を紡いだ。ああ、歌っていたのはルセリナだったのかと、今更のように思い出して、撫でてくれる優しい動きに淡く微笑んだ。

「ゆっくりおやすみなさいませ。お疲れなのですから」

 そうだ、と、頼りない記憶をおぼろげながら思い出す。ここのところ、様々に続いた仕事のせいでろくに眠れず、屋敷に帰ることさえできなかった。これが久しぶりの安らかな睡眠だ。

 

 寝室にふらふらになりながらたどり着き、寝台に倒れ込んだ彼を、ルセリナは優しく迎え、こうして付き添ってくれている。

 『子守歌を歌って』というわがままにもつきあってくれた。

 ……夢を、見ていたのだ。懐かしい懐かしい子守歌の夢を。

「……思い出してたよ。その歌、母上や叔母上に……歌ってもらったのと……よく似てる」

「そうですか。私は母や姉によく歌ってもらいました。懐かしい歌です」

 やわらかにしなやかな彼女の手が、そっと彼の頬と髪を撫でる。かき分けた額に口づけを贈られても、まるで子どものようだと拗ねる気は不思議と起こらなかった。いまはただ、この幸せに包まれていたい。

「おやすみなさいませ、アスフェリートさま。ゆっくり、ゆっくり……」

 再び流れ出した子守歌をどこまで聞いていたか。それはまるで呪文のように、彼を眠りのやわらかいぬくもりへと導いていった。

 

Fin.(初公開:2008/6/1)


 
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