No.366122

たった一言

千歳さん

霊夢さんとこいしさんのお話。

2012-01-21 01:53:52 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:404   閲覧ユーザー数:397

 

 

 膝の上に一瞬、ふにゅりと柔らかい感触。普通なら、気のせいかと思うところだろう。だが霊夢にとって、それは既に何度も体験していることだった。そしてその原因も、ちゃんと分かっている。

 何も無いように思える目の前の空間に、霊夢は手のひらをぐいっと押しあててみた。

「あうっ」

「やっぱりあんたか」

 霊夢の行動に対して発せられたその声は、聞き覚えのある声。地底の異変を解決した直後から、度々博麗神社へと訪れるようになったこいしの声だ。

 こいしはくるりと振り返り、ジトっとした眼で霊夢を見る。

「なんで霊夢には私の存在が分かるのよー」

「初めてならともかく、さすがにもう分かるわよ。一瞬の感触やら、ふとした違和感やらでね。というか、気付かれたくないんなら、一々毎回私の膝の上に座るのはやめなさい」

「本当は気付いて欲しいっていう、私なりの想いだよ。可愛いでしょ?」

「お土産の一つでも持って来てくれるのなら、可愛いって言ってあげるわ」

「ぶぅー」

「頬を膨らませても、ただの変顔になるだけよ」

 わざとらしく頬を膨らませるこいしに、霊夢はその膨らんだ頬を指で押してやった。ぽふっと、空気が抜けたように元に戻る。

 そしてこいしは、何がおかしいのか、ふにゃっと笑った。

「あんたってさぁ、いつも楽しそうにへらへら笑ってるわよねぇ」

「そう? 霊夢と一緒に居るの、楽しいよ?」

「けどあんた、来るだけ来て、特に何もせずに帰ってくじゃない。そんなんで楽しいわけ?」

「私は地底一の暇人なんだよ」

「自分で言うな」

 えへへと笑うこいしの額を、ぺしっと叩く。それでもこいしは、楽しそうに笑っていた。

「全く……何が楽しいのやら」

「だって、霊夢って面白いじゃない。私、心を閉ざしたことを後悔したの、初めてだったのよ? もっと霊夢のこと、知ってみたいなぁって思ったんだよ?」

「んで? 知ることは出来たわけ?」

「ぜぇんぜんっ!」

「……」

 本当、こいつは何しに来ているんだ。霊夢がそう思い、こいしの顔をじぃっと見つめてみる。だが、そこにあるのはいつも通りの笑顔なだけ。何を考えているのかすら、よく分からない。

 霊夢はため息を一つ零した。

「知りたいって思うのはね、そこに興味があるからなの」

「そりゃまぁ、そうでしょうね」

「けどねーそれと同時に、もし嫌われたらどうしようとか、相手を不快にさせちゃったらどうしようって思っちゃうの。どんなに気をつけても、相手の心が分からないから、傷付けちゃうかもしれない。だから私は、霊夢を知りたいなぁって思っても、知ることが出来ないの」

「……何よそれ。別に何か知りたいことがあるなら、訊けば良いじゃない。私は何か訊かれたくらいで、不機嫌になったりしないわよ」

「霊夢が今はそう思っていても、数秒後には、例えば実際に私が何かを訊いたりしたら、不快になってしまうかもしれないじゃない。ねぇ、知ってる? 人の心ってね、秒速で変わってゆくんだよ。だからこそ、怖いんだよ?」

 過去に心が読めたからこそ分かる、こいしの言葉だ。

 常に変わる人の心が見えるというのは、霊夢にとって理解し難いものだろう。

「そんなもの、みんな同じじゃない」

 だが、霊夢にだって分かることはある。

「心なんて読めないのが普通なんだから、私たちはみんな傷付いたり傷付けたりして、そうやって生きてるのよ。そりゃ相手を気遣うことはそれなりに大切だけど、もし相手を不快にさせたらどうしようだとか、一々びくびく怯えながら誰かと接してちゃ何も出来ないじゃない?」

「でも、嫌われるくらいなら、初めから何もしない方が……」

「もし自分の何気ない言動で相手が傷付いたりしたなら、たった一言をちゃんと言えば良いのよ。」

「え?」

「ごめんなさい、ってね」

 こいしはぽかんと口を開いたまま、しばし固まる。

 そんなこいしの額に、軽くでこぴんを一つ。すると、あうっという言葉を発して、こいしが動いた。

 それなりに痛かったらしく、額を擦りながら霊夢をむぅっと睨む。

「ごめんごめん、あまりにもアホっぽい顔して固まってたからつい」

「霊夢に言われたくないなぁ、それは」

「ほう? 今何か言ったかしら?」

「何も言ってないよー無意識だよー?」

 霊夢は右手をグーにして見せるが、こいしはへらへらと笑ってそれを流した。

「全く……で? 結局私に何も訊かなくて良いの? 今なら特別サービスで、なんでも教えてあげるわよ?」

 にやっと笑う霊夢に、こいしはむーんと考える。

 軽く数秒考えた結果、一つ質問をすることにした。

「じゃあとりあえず一つ」

「えぇ、何かしら?」

「霊夢のスリーサイズでも教えてもらおうかしら。そのぺたんこのお胸、私よりも小さそうだし――」

「そぉい!」

「っと、危ないなぁ」

 突然の頭突きを、こいしは笑いつつ膝から降りてさっとかわした。

「これでも去年より大きくなってるのよ!」

「あはは、ごめんごめん」

「ごめんで済んだら博麗の巫女はいらないのよ!」

「さっき、ごめんなさい言えれば良いって言ったじゃないー」

「さっきはさっき! 今は今!」

「わーい理不尽だー」

 そう口では言いながらも、こいしは楽しそうだ。霊夢も口では怒っているが、攻撃が遅かったり単調だったりなのを見ると、そこまで怒ってはいないのだろう。じゃれあいのようなものだ。

「れーいむっ」

「あぁ? 何よ?」

「……えへ、やっぱりなんでもなーい」

「はぁ?」

 霊夢の攻撃を避けつつ、こいしは「あぁ楽しいなぁ」とかそんなことを思った。

 


 
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