No.36538

ウツツ

hioronmiさん

奇妙なはなし

2008-10-19 03:22:14 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:410   閲覧ユーザー数:397

日も暮れそろそろ近所の子供達も家に帰る時間だった。

 

耳を澄ませば大声で別れの挨拶をする声が聞こえる

 

そこへ

 

「おーい!兵士!」

 

 

家の外から俺を呼ぶ声がした。

 

「ああ~ちょっと待ってろ~!」

 

急いで玄関まで降り扉を開ける。

 

 

「よう!調子はどう?」

 

ニッと笑う顔は尚美だった。

 

「ああ、まぁぼちぼち塗れてるよ」

 

「そうか、じゃぁさっそく見させてもらうよっと」

 

おじゃましまーすといって慣れた道を歩くように俺の部屋に消えていった。

 

 

遅れること3分

 

お茶とお菓子を持って部屋に戻ると

 

尚美が居なかった。

 

 

「あれ?おかしいな、かくれんぼか?」

 

といっても6畳しかない俺の部屋に隠れるスペースなど無い。

 

「おーい!尚美!でてこーい」

 

ふとパソコンに目をやると尚美そっくりの絵が描いてあった。

 

「なんだあいつ、こんなデータパソコンに入れやがって、あいかわらずナルシストな奴」

 

しばらく家中を探し回ったが見当たらなかった。

 

命の次に大事と言っていた画材道具が部屋にある以上、

 

これを置いて何処かに行くということは考えにくいのだが……

 

「そうだ、靴を見れば一目瞭然じゃないか」

 

玄関へ駆ける

 

靴はあった。

 

ということは裸足で家の外に出たのだろうか?

 

いやいや、ありえないだろう。

 

探し始めて30分が経過した。

 

携帯に電話しても応答なし

 

一体何がしたいんだろうあの女は。

 

探す気力を失い、メールだけ送っておくことにした

 

「今どこ?帰るなら連絡ぐらいしてから帰れよ」

 

急な用事で我を忘れて飛び出すことでもあったのかもしれないしな…

 

頭の隅へ尚美の事を追いやり

 

フェスティとの約束を思い出して

気を取り直し作業を続けることにした。

 

 

 

 

 

陽が落ちる、父と母、姉が帰宅し団欒という名の情報交換が始まった。

 

「母さん、例の事件捜査はどうかな」

 

「はい、あなたの言う通り犯人はヤスさんでしたよ」

 

「そうだろう、俺の推理は外れないからな」

 

がはっはっはと豪快に笑声を上げる父

 

「ところで父さんの方はどんな具合なの?」

 

姉が父に追求する

 

「いや、ここ2,3日調べているがなかなか隙らしい隙がなくてね、全く厳重な屋敷だよ」

 

「ふふ、あなたまたそんな素人ぶったりして、どうせまた私の配属待ちにする屋敷でしょ?」

 

「ああ、確かにそうだが事前調査も重要だ、直前になると何かと目立つからね」

 

「まぁ斥候は私に任せてよ」

 

「おお!行ってくれるのか?さすが我が娘だな!」

 

「………」

 

俺は押し黙っている

 

「おい、兵士」

 

「なんだ、くそ親父」

 

「お前明日も暇だろ?姉ちゃんの手伝いしたいだろ?」

 

「いや、おれは断じてせんよ」

 

へんな日本語になってしまった

 

「車を回すぐらいなら技術も根性もいらんだろ、それくらい手伝え米潰し」

 

「良くそんなこと言うな、毎月金は入れてるぞ」

 

「なんでもいい、暇だろ!」

 

眉間に皺が寄る

 

「母も姉も笑顔の下に恐怖と威圧を備えている」

 

ここは従うべきだろう

 

「分かったよ」

 

密談は終わり、食卓はテレビの話題へ移った。

 

 

深夜0時飲み物を買いに町へ出た。

 

闇に染まった世界は妖しさと安静を兼ね備えた景観であった。

 

近くのコンビニまで徒歩5分、最近増加し続ける店舗数は町が必要とする量を遥かに超えていた。

 

有り余る物、人、時間。

 

静寂を歩く人々は皆他人であり孤独だった。

 

この日本では皆安全に生き、凡庸に暮らし、そして死ぬ。

 

戦争なんてものは、もはやおとぎ話か小説といった類に分類されるべきじゃないのか?

 

というくらい平和で、映像と知識で知っているだけである。

 

一体誰が決めたのだろうルールいう言葉に人間という生き物は支配される

故に闘争本能、殺人衝動と呼ばれるものは常に抑制されている。

 

だから安全。暗闇は俺にとって安静な景観だ。

 

袋小路で痩せたネコが鳴く

 

それは生の渇望であり心の空洞であった。

 

 

 

 

 

ーーー

 

コンビニで牛乳とアンパン、紙皿を買い袋小路に舞い戻る

 

「いた」

 

良く見ると猫は一匹ではなく3匹居た

 

「よし、纏めてこっちへこい!」

 

何とか拾い上げ公園に連れて行く。

 

皿に牛乳を空けパンを添える。

 

戸惑う様子もなくがっつく猫達。

 

「はぁ、かわゆい」

 

野良猫に餌を与えるのはエゴな行為であると知っている。

 

ネコを一生面倒を見るか、見ないなら捨て置くのがいい。

 

なんとも極論だと思うのだがそれがペットという物に対する人間様の責任である。

 

しかし俺は盲目である事のほうが生きている実感があると信じている。

 

 

フェスティは生きる手段が仕事だと言った。

 

だが俺はそうは思わない

 

生きる手段は仕事ではなく生きる実感である。

 

 

富も名誉も知識も飲めば飲むほど自分を蝕む毒であることを知っている。

 

なら要らないのは当然だろう。

 

求めるべきは人間という動物の本能の充足に他ならない。

 

 

それを教えてくれたのはフェスティに他ならないのだから。

 

 

―――ゴミを片付け公園を去った

 

 

結局飲み物を買えなかったが値段以上の物を買えたと思う。

 

パソコンを起動するとCGの彩色を再開した。

 


 
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