『待ってよユッキィ~~~』
『ダメだよ由乃、日本刀なんて持ってちゃ危ないよ~! うわぁ~ん!』
「これが最近のヒロインの形なのか、ヒロイン道は奥が深いな…」
テレビに映されるサスペンスホラー(多分)アニメを見ながらうなるトモキ。
このアニメの主人公は殺人ゲームに巻き込まれながらヒロインと仲を深めていくという、それだけ聞けば王道的な展開なんだけど…
『私がユッキーを守ってあげるね』
『気持ちは嬉しいけど僕を拉致監禁してどうするのっ!? 家に帰してよ~!』
さっきトモキが言ったように、このヒロインが色々と曲者だったりする。
ちなみに私はこのアニメが嫌いじゃない。耽美な男の子が主人公をめぐってヒロインとの三角関係になる展開は大好きだ。
「家にこんな女の子がいなくてよかったぜ…」
甘いわねトモキ。そのセリフはフラグというやつよ。
「………感動しました」
一緒にアニメを見ていたアルファーがすっくと立ち上がった。さて、適当なところに避難しよう。
「これが、愛の形なのですね?」
「いや違う。多分違う」
じりじりとトモキに接近するアルファーと、同じくじりじりと後退するトモキ。
トモキはアルファーが何をしだすのかを悟ったみたいだけど、もう手遅れだろう。
「マスター」
「違う違う! あれは愛の形なんかじゃねぇ! 絶対に違うんだっ!」
『大好きだよ、ユッキー』
『ゆ、由乃~~~!』
必死に否定するトモキをあざ笑うかのようにアニメはヒロインと主人公のラブシーン(?)で終わった。
「マスター、拘束させていただきます」
「イヤァアァァァァァ!」
そしてトモキの平穏も終わった。
アルファーが縛ったトモキを連れて空高く飛んでいく。多分さっきのアニメに倣ってトモキと星でも見に行ったんだろう。
さて。トモキがいなくなるのは丁度いいので、私もさっきのアニメを見て思いついた事をしてみよう。
「デルター、いるー?」
「むぐむぐ。なんですかニンフ先輩」
「ちょっと手伝ってほしい事があるのよ」
台所でつまみ食いをしていたデルタを連れてトモキの部屋に向かう。
「あいつの部屋で何やるんですか?」
「大したことじゃないんだけどね」
さっきのアニメの見どころとして、『未来を予知する日記』というギミックがある。
私が着目したのはその日記という存在だ。
「トモキって日記つけてるのかなって」
まあ要するに。
そこにトモキの本音でも書いていれば見てみたいなー、という実に単純な思いつきなのだった。
そらのおとしもの 智樹日記
「あいつが日記なんて細かい事してますかねぇ?」
「ああ見えて気が回るのがトモキよ。可能性は低くないわ」
トモキは人の感情の機微に結構鋭い。他人の悩みや葛藤に陰ながら気づいている時がある。
それはアルファーの自身が兵器であるという苦悩を見抜いた時や、私がカオスに痛めつけられた時。そしてヒヨリを助けた時等からも明らかだ。
………どうしていざという時だけ鋭くて、普段私たちの好意には鈍感なのか。一度徹底的に問い詰めてみたい。閑話休題。
さて。トモキの部屋に入ったはいいけど、どこから探すべきか。
「とりあえず、押し入れからよね」
「どーせエッチな本しかありませんよー」
でしょうね。ただ、これには他にも重要な意味があるのだ。
「デルタ、ちょっと開けてみなさい」
「ええ~? なんで私がやるんですか?」
「これで何もなかったらアンタは帰っていいから、とにかくお願い」
「それならいいですけど…よっと」
デルタが押し入れのふすまを引っ張ると―
ドガンッ!
「ひきゃあああぁぁ!?」
予想通り、強力な爆発がデルタを襲った。ちなみに私はしっかりと避難済みである。
「はうぅぅ… なんで爆発が…?」
「おそらくアルファーの仕業でしょうね」
最近のあの子はバイオレンス度に磨きがかかっているというか、実にはた迷惑である。
「大方、トモキのプライベートを守ってるつもりなんでしょ」
「押し入れごとエッチな本も吹っ飛びましたよ?」
「アルファーが守る気があるのは『プライベート』よ? 『エロ本』じゃないわ」
「なるほどー」
あと、アルファーも最近になってトモキのエロ本趣味に思う所ができたんだろう。
でないと、こんなに派手に吹き飛ばすとは思えない。
「さ、別のところを探すわよ」
「え!? まだやるんですか?」
「当たり前よ。むしろこれでトモキが日記らしきプライベートな私物を隠していることが判明したのよ」
アルファーが守ろうとするという事は、つまりそういう事実の裏付けなのだ。
トモキの部屋には間違いなくトモキのプライベートを記した何かがあるはずだ。もちろんエッチな本は除く。
「次はあの本棚ね。いけっ! デルタっ!」
「人をポ○モンみたいに言わないでください! っていうかニンフ先輩が行けばいいじゃないですか!」
「私? それは無理よ」
「なんでですか!?」
「私はか弱いヒロインだもの。お馬鹿でネタキャラなデルタじゃないんだから、爆発なんて受けたら死んじゃうじゃない」
「………オレガノに容赦なく吹っ飛ばされてたくせに」
「…何か言った?」
「い、いいえ! なんでもありません! ニンフ先輩はか弱いから仕方ないですよね!」
私がにっこり笑って尋ねると、デルタはぶんぶんと首を振って頷いてくれた。
うん、デルタは素直でいい子だ。オレ何とかという生意気で小癪な能面女とは違う。
「というわけで、ゴー! デルタ!」
「うわぁーん! ニンフ先輩の鬼ー!」
失礼な。むしろこんなトラップを配備するアルファーこそ鬼畜だと思う。
さっきのアニメに感銘を受けていた時点で、元からそういう素質はあったのかもしれない。
「きゃわぁぁーーー! なんで電流爆破デスマッチー!?」
そんな事を考えながら、私はデルタがバチバチと感電しているのを眺めるのだった。
「うーん、見つからないわねぇ」
それから20分後。トモキの部屋を探せども日記らしきものは発見できなかった。
捜索時間に比例して増えるのは部屋の損壊と―
「………も、もうダメ。がくっ」
―デルタの蘇生に要する時間だった。
一応訂正しておくけど、本当に死んでるわけじゃない。蘇生といっても単に倒れたデルタを揺り起こすだけである。
「ほらほら、これで最後だからしっかりしなさい」
「それ、さっきも聞きましたよぅ…」
むう、さすがのデルタも遂にいじけ始めた。
仕方ない、最後の捜索場所である机の引き出しは私が開けよう。
「ま、最後くらいは責任取りますか」
一回くらいアルファーのトラップに吹き飛ばされるのも受け入れよう。どちらにしろここに無かったらお手上げだし。
「…っ!」
思い切って引き出しを開ける。そこには。
「あったわ!」
「ええっ!?」
遂にそれらしいノートを発見した。ちょっと汚れてるところも実にそれらしい。
「うわー。本当にあったんですねー」
「そうね。ここまで苦労した甲斐があったわ」
「………」
「………何?」
「いえ、なんでもないです」
苦労したのは私なんですけどって視線で訴えるデルタを黙殺し、私は表紙をめくる。
「ちょっとドキドキするわね…」
「そ、そうですね…」
はたしてトモキは日々何を考えているんだろう。
もしかして私の事とかも書いてるんだろうか。私が可愛くて毎日が理性を総動員させる連続だとか。きゃ、恥ずかしい。
「ニンフ先輩ってば、早くしてくださいよー」
「え、ええ。わかってるわ」
私達は遂にトモキの秘密のページを目の当たりにした。
○月×日
今日もそはらの胸が成長していた事を確認する。
いったいあの凶器はどこまで成長するのか、最後まで見届けたいと思う。
それにひきかえ、ニンフの胸は全く成長していない。
どこまであの大平原は世に存在し続けるのか、こちらも最後まで見届けるべきかもしれない。
△月?日
アストレアの胸は相変わらず特大ボリュームだ。
しかし悲しいかな、エンジェロイドは成長しないらしい。素晴らしい逸材だというのに実に残念だ。
そしてニンフの胸は全く成長していない。
なるほど、ニンフもエンジェロイドだからこの先成長する機会もないわけか。実に痛ましい事だ。
×月▽日
会長の胸が大きくなっている事を確認した。
あのケバ、もとい成長しきったと思われる会長でも日々成長しているらしい。
お仕置きで月旅行(片道のみロケットで、帰りは自力)をするハメになったが、いい経験だった。
ところで、ニンフの胸はいつまであのままなのだろうか?
会長ですら成長しているというのに、あいつの未来には絶望しかないのか。真に遺憾である。
?月○日
衝撃の情報を入手した。なんとエンジェロイドであるはずのカオスは成長できるらしい。
なんでもパンドラが自己進化プログラムで何とかかんとか。
理屈はよくわからないがカオスの未来は明るい。本当に良かった、あいつには幸ある未来を歩んでほしい。
ニンフの件は…もう、諦めるべきなんだろうか。
いっそ貧乳というキャラを極める事でステータスとするしかないのか。あまりにも悲しいが、それを受け入れるしかないのだろう。
合掌。
「酷い目にあった…」
やっとの思いで玄関に上がる。
イカロスの誤解を解くのは毎度ながら疲れる。あいつはもう少し融通をきかせる事を覚えないといけない。
そのイカロスは名誉挽回するとか言って珍しい食べ物を探しに行った。また地球の裏側で珍獣という名の食材と格闘しているのかしれない。
「トモキ~~~♪」
「ん? ニンフ?」
廊下からニンフが出迎えに来てくれたようだ。
まるで花のように綺麗な笑顔だけど騙されないぞ。あいつ、さっき俺をイカロスから助けないで見捨てたからな。
ここは一つ物申しておかなければ。
「おいニンフ、お前さっき―」
声をかけようとした俺に対してニンフは―
「死、ねええぇぇぇぇぇ-----!」
―絶殺の意思をもって襲いかかってきた。
「あー、ありゃ死ぬかもね…」
桜井家の庭先で行われている凄惨な私刑風景を見ながら、アストレアはため息をついていた。
桜井智樹が怒れるニンフの暴虐にあがなえるはずもなく、あのまま命を落とすか奇跡的な確率で早々に帰還したイカロスに救われるかのどちらかだろう。
「ま、どうでもいっかー」
アストレアにとってはどちらでも関係のない話である。ギャグパートにおいて桜井智樹という少年の命は何よりも軽いことを彼女は正しく理解していた。破り捨てられた智樹の日記をゴミ箱へ捨て、台所に食べ物を探しに部屋を出る。
「…あれ?」
その途中、開いたままになっていた机の引き出しの奥にもう一冊のノートがあるのを見つけたが…
「…やめとこ。やっぱりこういうのは良くないわよね、うん」
イカロスのトラップによってこりたのか、それとも元から漢字が読めなかったせいか。アストレアはそのままノートを置いて今度こそ部屋を立ち去った。
「トモキを殺して私も死んでやるーーー!」
「馬鹿やめろ! さっきのアニメのヒロインですらそこまでしてねぇぞ! ギャアアアアアァァァ!」
智樹の断末魔の声によるものか、残されたノートのページが開く。
それはパラパラと少年の真の本心を語っていたのだが、それを目にする者は誰もいなかった。
そのノートの表紙のタイトルは、日記(カモフラージュ版の奥に厳重に隠すこと!)と書かれていた。
~了~
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『そらのおとしもの』の二次創作になります。
今回のテーマ:ニンフさんとアストレアさんの漫談。
二人は全エンジェロイド中でも屈指の名コンビだと思います。