No.365098

【BSR】嘆きの人【宴天海ルート】

techi33さん

 宴天海ルートから妄想した、山崎追討戦も街道黎明戦も発生せず金吾さんと出会う天海様のIFルート。
 真人間になる明智さんネタ。
 天海様を幸せにするべく宴天海ルートを主観的にハッピールートに変換してます。
 信長公のされこうべが普通に登場しますがグロくないです。
 ある意味、妄想接点なしキャラの出会いなので注意。

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2012-01-18 20:00:02 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:1235   閲覧ユーザー数:1232

 

 

 

 

 

 

 とっても可哀想な人が僕のお城に来た。

 嵐の夜に『されこうべ』を連れて。

 

 それは何時の日だっただろう。

 小早川秀秋、通称金吾は道に迷っていた。自分の住んでいる烏城で迷うなんてどうかしていると部下は呆れてるだろう。

 きっと、誰も探しになんてこない。泣きべそかきながら秀秋は雨の中を走っていく。

 

 その時偶然、秀秋は”彼”と出会った。

 まるで雨を呼ぶ蛇神の様な白い人影が雨の向こうに見える。

 雨の中ただただ無言で佇む彼に声をかけたのが全ての始まり。

 

 「君は……誰なの?」

 「私は」

 

 その時、落雷で名前を聞きそびれてしまった。

 でも名前を質問し直せなかった。

 名前を聞き直すより重要なモノを彼の手に見てしまったからだ。

 ソレは腐乱し、肉は大分削げ落ちていたが、特徴的な頬当てですぐ分かった。

 あれは恐怖の象徴。豊臣の狙う首級。

 

 「あ、あああっソレ、それ……もしかして魔王のっ!!」

 「ええ信長公ですよ。」

 

 そう言うと彼はかつて魔王だったモノにほお擦りする。

 ぞっとした。理解出来ないおぞましさにひっ、と秀秋の喉がひきつる。

 

 「君は…織田信長の部下だったの?」

 

 彼の愛おしげな様子に怯えながらも秀秋は問いかけてしまった。

 

 「ええ。あの殺戮の日々は忘れられません。」

 

 目を細めて笑む姿はとても穏やかで、彼が魔王軍に属していた人間とは思えなかった。

 しかし彼は鎌をその手に持っている。

 僕は殺されるかもしれない。そう考えた瞬間、ただただ怖くて仕方がなくなり秀秋はみっともなく命乞いをした。

 泥に頭をこすりつけ、わぁわぁと泣きわめき殺さないでと懇願する。

 

 「私は……もう誰も殺しませんよ。」

 

 彼はそう言うと、怯えて縮こまった秀秋の手を取り立ち上がらせ、迷子ならお家を探してあげましょう。と微笑んだ。

 

 それが彼とひとりぼっちの小早川秀秋の出会い。

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

 

 ぱちゃぱちゃと泥水がはねる音がする。

 二人で歩きながら烏城に戻る道筋を探し、なんとか目に見える所に烏城が見えてきた。

 

 雨音を背景に秀秋はおそるおそる彼に現状を伝えてみる。

 

 「その、えーと僕はいらないけど…魔王さんが亡くなってから、その首級が欲しいって人はいっぱいいるんだよ。」

 

 秀吉様とか。

 僕にすら『明智光秀を見つけ次第連絡せよ。』なんてお達しを出すくらいに欲しがってる。

 反応をうかがう様に秀秋は長身の彼を見上げる。

 

 「わたしませんよ。」

 「うん。だろうねぇ。」

 

 彼からあのされこうべを引き離すのは難しそうだ。

 秀秋は彼の手に持った首級に目をやり、ため息をつく。

 

 一緒に烏城に帰る途中、秀秋は彼の事をじいっと観察し、銀の髪が長いなあだとか背が高いなあだとか人相がきの明智光秀にそっくりだなあと思ったが結局なにも聞けずじまいでいた。

 

 ああでも、彼の髪色や背格好は明智光秀そっくりだけど表情は穏やかで隣を歩く彼の雰囲気は優しい。

 

 僕が彼に君は明智光秀なのって聞いたら違うならとっても怒るだろう。

 織田残党の人が謀反人だと思われるなんて嫌だろうし。

 

 それに、あんなに怖そうな人と一緒にされるなんて彼が可哀想だ。

 

 でももし、ないだろうけど……彼が明智光秀なら聞かなかったせいできっと秀吉様に叱られる。

 きっと毛利様も怒る。

 

 秀秋は色々と考えていたがどれも選べないでいた。

 なにかして怒られるのは嫌だった。

 

 でも首級をそのまま晒して城に戻るのはまずい。

 きっと皆して彼を討ち取ろうとする。

 

 「ねえ、これ使ってよ。

 そのままだと色々とまずいよ。」

 

 赤い陣羽織を差し出す。彼はきょとんとした表情でそれを見つめると優しげに目を細める。

 

 「ああ、私とした事が信長公を濡れるがままにしてしまった。

 お借りしますね。ええと……。」

 「ぼっ、僕は小早川秀秋、金吾でいいよ。」

 「ありがとうございます。いい子ですね金吾さんは。」

 

 そっと秀秋の頭を彼の長い指が撫でる。

 

 「え…あ、うん。ど、どういたしまして。」

 「フフ。」

 

 彼は片手で陣羽織を受け取ると首級を優しく包み、抱き寄せる。

 されこうべが布で見えなくなり、愛おしげな彼の眼差しや優しげな手つきばかりに目がいく様になる。

 秀秋は命乞いをした少し前の自分が恥ずかしくなった。

 

 「……ごめんなさい。」

 「どうしました?」

 「な、なんでもないよ。そ、それよりお腹すいてない?

 君も鍋…食べる?」

 

 秀秋は、彼に一緒に帰り道を探してくれたお礼と勝手に怖がったおわびに、鍋をごちそうしようと声をかける。

 

 「そうですね。ずっと歩いていましたから……。」

 「食べるてくれるんだね!」

 

 彼の為に頑張って作ろう。秀秋は久々に誰かの為に腕を振るった。

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

 

 「……おいしいです。」

 

 ほかほかの鍋の湯気ごしに見た彼は控えめな表情のごく普通の人間だった。

 秀秋は、小さく笑った彼にほっと安心のため息をつく。

 どこの出身か分からないし、好みも知らないから不安だったが喜んでくれているみたいだ。

 

 「本当?よかった。」

 「信長公にも召し上がっていただきたかった。」

 

 そう言って、彼は赤い布を撫でる。正確にはその中にある魔王のされこうべを。

 秀秋は悲しげな彼の姿に何とかしてやりたいと願い、考える。

 

 「お供えしよう!一生懸命供養すればきっと君の気持ちだって伝わるよっ…あ、えと僕の鍋なんかじゃダメかな?」

 「いいのでしょうか……。」

 「え?」

 

 思い詰めた表情で彼は片手に抱えたされこうべを見つめる。

 

 「私が供養してもいいのでしょうか……。」

 

 どうして彼はそんな事を言うのだろう。

 こんなに魔王が亡くなって悲しんでいるのに、首級を愛おしげに抱えている彼に弔う資格がないなんて僕には思えない。

 三成君なら、主を死なせた従者に供養の資格を認めないかもしれないが、弱いのは彼のせいじゃない。

 秀秋はつい先程まで、謀反人明智光秀だと疑っていた彼の男にすっかり同情していた。

 彼があんまりにも悲しげで可哀想だったからだろうか。

 

 「信長公は死んじゃったけど君のせいじゃない。」

 「しかし私は……」

 「どうしようもなかったんだよ。」

 「これは運命だったと貴方はおっしゃるのですか?」

 

 惚けた様な表情で彼が見つめてくる。秀秋はこっくりとうなずき肯定をしめす。

 彼は顔をあげ何処かうつろな眼差しで秀秋を見つめてくる。

 

 「私が……静かな暮らしをおくる…。

 そんな事が可能でしょうか。」

 

 秀秋は彼の言葉に『僕が助ける。』と決断できず、ただ思った事を口にした。

 

 「僕は……君がとっても優しい人に思えたんだ。

 だから幸せになって欲しいよ。」

 

 何も出来ないけど。秀秋は内心でそう付け加え、目をそらした。

 可哀想な彼を助けたい。

 だけど豊臣は怖い。毛利も怖い。

 何も選びたくない。僕は何て酷い人間だろう。

 主の首級を守ってずっと彷徨っていた彼と比べる事すら恥ずかしい。

 

 秀秋の懊悩を感じ取ったのか彼は困惑した表情で見つめてくる。

 

 「金吾さん……、一晩考えさせてください。」

 

 そう言って彼はすっと立ち去っていった。

 去り際に、ごちそうさま。と呟いて。

 

 その夜、秀秋は眠れなかった。

 僕は彼に何も出来ていない。悔しい。苦しい。

 

 どうか彼が救われますように。

 秀秋は初めて誰かの為に祈った。

 

 

 翌朝、秀秋がさんざん悩んで眠れぬ夜を過ごしていたというのに彼はさっぱりとした表情で挨拶にきた。

 やっぱり小脇に赤い布に巻かれたされこうべを抱えて。

 

 「おはよう、えーと名前……ごめん。」

 

 むくりと寝床から上半身を起こし挨拶しかえす。

 彼はこれからどうするだろう。

 そっと枕元に座る彼の銀髪が朝日に照らされ輝く。

 

 まるで秀秋の心を読んだかの様に彼が答えた。

 

 「天海と名乗ろうと思います。」

 

 そういって彼は天井を遠い目をして眺めた。

 遠い雲の向こうを見つめる様だった。

 

 秀秋は何も言えず、そんなどこか遠い彼を見つめる。

 そんな困惑ぎみの秀秋に彼……天海が笑いかけ言葉を足す。

 

 「ああ、出家して僧になろうかと。」

 「そっか。」

 

 どうやら彼は自分を赦せたみたいだ。

 秀秋は彼の再出発にほっとため息をついた。良かった。

 そんな我が事の様に嬉しげな秀秋に天海は目を細める。

 

 「信長公を弔えるのは私だけですから。

 公には諦めてもらいましょう。」

 「…っ、きっとその人も喜んでくれるよ!」

 

 秀秋の言葉に天海は意味ありげに笑った。

 此処で私は人となる。そんな確信を胸に天海はそっとされこうべを抱き寄せた。

 そう、私は優しい……幸せになるべき人間になる。

 

 「見ていて下さいね、信長公。」

 

 されこうべは答えない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 おわり

 

 

 

 

 

 
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