三人の天の御使い「街で噂の皇帝陛下」
【赤一刀turn】
一
ここは房都。新帝国晋の都。
そして俺は皇帝なんて呼ばれている。
まあ、俺以外に後二人皇帝がいるが、その二人も俺『北郷一刀』だから話がややこしくなる。
俺はある日突然21世紀の東京からこの『外史』の世界に跳ばされてきて孫策率いる孫呉に拾われた。そしてその頃から俺は妙な違和感を覚えていた・・・デジャヴと言ってもいい。そのデジャヴの正体が分かったのは曹操と劉備に拾われた『俺』そして貂蝉に出会った時だった。
俺は過去に『外史』を経験している。しかも、それは一度や二度ではない。いや、俺が何度も外史を繰り返しているのか、それとも他の外史にいる「北郷一刀」の記憶を共有しているのか、その判別が自分自身できないから断言でないが・・・。
とにかく、この外史には俺が三人いて、しかも三人揃って晋の皇帝になってしまったのだ。
そして今、俺たち「北郷一刀」がとある重大な問題を話し合っていた。
「なあ、最近街の様子が変じゃないか?」
俺は城の中庭にある東屋で紫と緑に問いかけた。
「え?赤もそう感じるか?」
紫の冠を着けた『北郷一刀』が答えた。
「二人とも気付いていたか。実は俺もなんだ。」
緑の冠の『北郷一刀』もそう答える。
「やっぱり気のせいじゃ無かったか。昨日街に出たら女の子にまるで出会わなかったんだ。」
「俺もだ、ばあちゃんと赤ん坊しか女性に会わなかったぞ。」
「俺なんか男にしか会ってないぞ。」
「一体どうなってんだ?報告書で見る限り人口比率はほぼ半分のはずだよな。」
「なんか嫌な予感がするな・・・」
「調べるか?俺たちだけで。」
俺たち三人は頷いて早速行動を開始することにした。
緑が普通に街へ出かけ、俺と紫は兵隊に変装してその後を少し離れて観察することとなった。
そして俺たちが目にした物は・・・
「帝がいらっしゃったぞ!」
「女房と娘を早く隠せ!!」
「帝に目を付けられたら・・・・・あああ!」
「城に連れて行かれてあんなことやこんなことを・・・・おおおお。」
「年頃の娘は絶対近寄らせるな!」
「子供も熟女も危ないぞ!!」
「将軍様や軍師様たちを見てみろ!」
といった感じで、あっという間に街中は男だけの世界に変貌・・・・おいおい!
「な、なんだこりゃ・・・」
俺は唖然とその光景を見つめているしかなかった。
「なんでこんなことになってんだ?」
紫も同じように唖然としている。
これは直に聞いてみるしかなさそうだぞ。
「俺ちょっと話を聴いてくるよ。」
「あ、おい素顔じゃさすがにまずい。顔は隠し行け。」
「オーケー。」
頭を兜、顔を布で隠してっと・・・あそこの屋台の親父さんに訊いてみるか。
「なあ、親父さん。俺はこの街に赴任したばかりでよく分からないんだが何の騒ぎだ、これは?」
「おや?兵隊さん、あんた聞いてないんだね。これは帝から女達を守るために隠しているのさ。」
「い、いや・・・まあ、それは見ていてなんとなく分かったけど・・・なんでそこまでするんだ?」
「いやあ、それがお城から『帝に女達を近づけると喰われぞ』ってお達しが何日か前にあってな。」
「し、城から!?」
「ああ、若い娘たちは帝に憧れてるのが多いからな。城勤めの募集も定員の十倍以上は集まったって話しだし、まあ、帝がそれだけ魅力的だってことだろう?女房や娘が帝を見てその気になっちゃたまらんって危機感もあってこれ幸いと隠してるのさ。」
「そ、そうなんだ。ありがとうよ、親父さん。」
俺はすっ飛んで紫のもとに戻って今聞いた話を伝えた。
「城からそんな御触書が出てるだって?」
「ああ、これは一度城に戻って対策を検討したほうが良くないか?」
「そうだな。」
そうして緑と合流しこのことを伝えた。
「こりゃあ下手に相談できないな・・・」
「やっぱりこれって浮気対策なんだろうな・・・」
「こんなことやりそうなのって・・・・だめだ、心当たりが多すぎる。」
「逆にこんなことしない上に相談できそうな相手は・・・・・・・・・・・」
「桂花か!」
で、俺たちは早速城に帰って桂花を探し廻った。
「なんで私がそんな相談に乗らなきゃいけないのよ!?」
う~ん、予想通りの返事が返ってきたぞ。しかしここで引き下がる訳にはいかない。
「そう言わずに頼むよ。頼れるのは桂花しかいないんだ。」
「ふん。あんたたち精液三獣士に天罰が下ったのよ!いい気味だわ!」
・・・・・・精液三獣士って、また新たな呼び名を付けられたなぁ・・・じゃなくてっ!
「だけど、あんまり俺たちの評判が下がりすぎると華琳にも迷惑が・・・」
「・・・・・・う~ん、確かにこのままではさすがに華琳さまにまで風評被害が及びかねないわね・・・」
「そうだ、相談に乗ってくれたら華琳に桂花をもっと側に置いたほうが良いってそれとなく言っとくからさ。」
紫が懐柔策をとり始めたので俺たちも一緒になって華琳がらみで桂花が喜びそうな事を言いまくった。
「そ、そう?そこまで言うんなら知恵を貸してあげるわ。」
つ、疲れた・・・が、やっとのことで桂花を説得することができた・・・なんか人としてしてはいけない約束もしたような気もするが・・・まあそこは俺たちも必死だったと言うことで。
「いい?この房都であなた達が立て札や文書程度で噂になるのは庶人があなた達のことを良く知らないからよ。だから実物のあなた達がそうじゃないという処を見せれば噂は覆せるわ。」
「成程、百聞は一見にしかずって訳か。しかし、どうしたもんかな?噂を払拭する為には女の子に会わなきゃいけないのに街に出ても会えないんじゃどうしようもないぞ。」
「それにはいい場所があるわ。最近出来た茶店で給仕が全員女の子、結構お洒落な感じだから女性客も多い。まずはその店まで誰にも見つからないようにして行ってきなさい。そしてあなた達はお茶を飲んで帰ってくる。いい?くれぐれも変なことしちゃだめよ!なにもしないで帰ってくる事が重要なんだからね!」
「あ、ああ。分かった。」
そうして俺たちは桂花に教えてもらった茶店に今度は三人揃って変装して向かった。え?慌ただしいって?それだけ必死だったんだよ!
「いらっしゃいませ・・・え?皇帝陛下!?」
変装を解いて俺たちは店内に入る。おお!久々に街の女の子たちを見たぞ。
「こんにちは、ちょっと休ませてもらうよ。」
俺たちは入り口に立っていたウエイトレスの子に声を掛けて卓についた。
店内はちょっとしたホールのようになっていて、俺たちは敢えてその中央にあるテーブルを選んだ。もちろん良く目立つ為。
「帝よ!」「陛下よ!」「北郷さまよ!」「一刀さまよ!」と店のあちこちから黄色い声が聞こえてくるが俺たちは何食わぬ顔で聞き流し「今後この国をもっと良くするにはどうしたらいいか?」なんてちょっと格好つけて真面目な話をし始めた。
さて、後は適当なところで帰るだけだな。
ん?なんか入口の方が騒がしいぞ・・・なんだ?あの柄の悪そうな男たちは?
「おう、酒だ、酒!はやく持って来い!」
「へへへ、きれいなネエちゃんじゃねえか。隣に座って酌しろよ。」
「ぐふふ、おんなのこがいっぱいでいい店みつけたんだな。アニキ。」
「あ、あの・・・ここは茶店でお酒は・・・・その・・・」
「なんだと、ゴルァ!客が酒って言ってんだから持ってくりゃいいんだよ!」
なんてベタな連中だ!ここは俺たちが永らく求めてやっとたどり着いたパラダイスだぞ!
「おい!貴様ら!店を間違えてるぞ。酒が飲みたければ酒家へ行け!」
「なんだとぉ!この優男が!おい、チビ、デク。」
「へい、アニキ!」
「かっこつけたこと後悔さてやるんだな。」
殴りかかってきたゴロツキ三人を俺たちは軽くスウェーしてたたらを踏ませる。
俺は蔡さんに鍛えられ、紫は元警備隊長の上に春蘭に鍛えられているし、緑も鈴々や愛紗に鍛えられているのだ。将軍たちには敵わないけど、この程度のゴロツキ相手ならどうということはない。
大人しく帰ってくれれば言うことは無かったのだが、頭に血が上った奴らは手近な椅子を振りかざして襲いかかってきた。
「死ねヤァ!ゴルァァァ!」
椅子で殴られた程度で死ぬんだったら、春蘭の七星餓狼で千回は死んでるよ!
緑と紫は椅子をよけてカウンター一発で相手をノした。
だけど俺は背後にいた女性客を庇うため、その子を抱いて椅子を躱すのが精一杯だ。
俺が女の子を守っている間に緑と紫が最後の一人を倒してくれた。
「ふう、ごめんね。怪我はなかった・・・か・・ナ?」
俺は自分が助けた女の子の姿を見て言葉が出なくなってしまった・・・なにせその女の子は・・・。
「・・・大喬・・・?」
そう、あの大喬だったのだ。
「…あ、ありがとうございます…北郷さま。」
大喬は顔を赤らめている。
「・・・ですけど・・・どうして私の名前を?」
「それは・・・」
俺が言いかけたところで店内に歓声が巻き起る。
「さすが帝だわ!」
「かっこいーーーっ!一刀さま~~~!」
「うわ、やばい!」
「やっちまった・・・」
「ど、どうする?」
我に返った俺たち、大喬の事は気になるが今は現状をどうにかしなくては・・・
「なにごとだっ!・・・・・陛下!?何をなさっているのですこんな所で!?」
俺たちがおろおろしている所へ警備の兵隊を連れた凪が現れた。
「将軍様!帝が私たちを助けてくれたんです!」
ウエイトレスの子たちが口々に俺たちの活躍を凪に言い始め、俺たちは何も言えなくなってしまった。
「な、なるほど。分かりました。ではこいつらは陛下に危害を加えようとした罪により即刻首を刎ねましょう。」
「うわあぁあ!やりすぎっ!やりすぎだって凪!」
「なにをおっしゃいます。これは当然の罰です。ですが、この者たちが哀れとお思いでしたら今後は必ず警護の人間を付けてお出かけください。」
「わ、わかりました・・・・」
俺たちは凪に頭を下げて許してもらい、ゴロツキたちも一晩牢屋で反省させて無罪放免とすることにしてもらった。
そして気が付いたときには大喬の姿は見えなくなっていた。
「この馬鹿!間抜け!あれほど何もしないで帰ってきなさいって言ったでしょうがっ!」
「本当に面目しだいもございません・・・」
城に帰ってきた俺たちに待っていたのは桂花の罵声だった・・・・。
「これでお兄さん・・・あっと、帝に接近できる街の女の子はぐっと減りましたね~。」
風が口に手を当ててニコニコしている。
「ですが、陛下が少々お気の毒では・・・」
亞莎が眉尻を下げて呟いた。
「これも陛下のためを思えばこそです!」
朱里がその小さな拳を握り締めて力説している。
「そうです、もう麗羽さんたちがこの房都に近づいていると報告も入っています。準備はいくらしてもやりすぎということはありません。」
雛里も朱里の後に続き力説した。
「は~、成都での馬鹿騒ぎがここでもはじまるのね・・・・」
「あはは・・・」
がっくりと肩を落とす詠に月は力なく笑って誤魔化すしか出来ないのだった。
二
「大喬と小喬の情報はどこまで掴んでるんだ?」
紫が俺(赤)に訊いてくる。緑も当然教えろって顔だ。
「う~ん・・・どこから話したらいいのか・・・まあ、とにかく順を追っていったほうがいいか。」
俺は記憶を整理して話し始める。
「まず俺が大喬小喬のことを思い出したのは俺たち三人が初めて集まったあの時だ。雪蓮と冥琳を見てなにか違和感を覚えていて、その違和感の正体が大喬小喬のいないことだと気が付いた。」
「ああ、確かに・・・」
「あのとき感じた違和感はそれだったのか。」
「連合集結の直前だったからあの時は詳しく調べられなかったが、雪蓮と冥琳に面識は無かった。だけど二人の名前は知ってたよ。」
「面識は無いけど名前は知ってる?」
「噂でな・・・『江東の二喬と呼ばれる美しい姉妹が建業にいる』・・・兵とかにも確認したら結構有名な噂だった。」
「なるほど、この外史の雪蓮と冥琳ってかなりラブラブだから大喬小喬を嫁にとる必要が無かったってことか。」
「まあそうだろうな。で、俺が建業に戻ってから調べ始めたんだが・・・」
「「だが?」」
「小蓮に見つかって『浮気だ!!』って騒がれて・・・あまり調べられなかった・・・」
「・・・・・あ~。」
「・・・小蓮じゃしょうがない・・・」
「それで肝心の二人の状況なんだが・・・あまりよろしくない。」
紫と緑が眉をひそめる。
「大喬が引きこもりがちであまり外に出たがらず、塞ぎ込んでることが多いらしいんだ。小喬はそんな大喬を励ますのに奔走してる。」
「・・・原因は・・・アレだろうな。」
「だろうな、たぶん・・・」
俺たちが思い至った塞ぎ込んでる原因は大喬の身体的特徴・・・『ふたなり』だって事だろう。世間に知れたら酷い噂になるのは火を見るより明らかだ。只でさえそうなのに大喬小喬は『江東の二橋』と呼ばれるほど評判が高い、貶められたらその落差は・・・・・。
「でも大喬がこの都に来てるってのは小喬が元気付けるために連れて来たんだろうし、折角だから俺たちも大喬を元気付けるのを手伝いたいよな。」
他の二人も俺と同じ気持ちなのは目を見れば分かる。
俺たちの記憶に在る他の外史の大喬小喬の笑顔がこの外史では曇っているかと思うとどうしても行動せずにはいられない。
「だけど具体的に何をしてあげたらいいんだ?」
気持ちばかりが先走っていいアイディアが浮かんでこない。
「とりあえず大喬小喬が都のどこに滞在してるか調べたほうがいいんじゃないか?」
「それはそうなんだが、さっきも言ったとおり俺らが直接調べに行ったら小蓮とか愛紗あたりに何言われるか・・・」
「凪にも怒られたしなぁ・・・」
「ここは魂の兄弟たちに頼むか?」
「そうだな・・・やっぱりそれしか・・・」
言いかけたところでこの部屋の扉をたたく音が聞こえ、俺たちは会話を中断して仕事をいていたふりをした。実は今俺たちは昨日の街での騒動の罰として三人揃って書簡の山と格闘させられていたのだ。
「おう北ご・・・ではない、陛下。儂じゃ、入るぞ。」
「え?祭さん?」
返事をするより先に扉が開いて祭さんが執務室に入ってきた。
「雁首そろえて三人ともおるな!あっはっはっはっ!聞いたぞ、悪漢共を伸してやったそうじゃな。うむ!よくやったな北郷!」
「・・・祭さんはほめてくれるの?」
「当たり前じゃ!よく考えても見ろ、おぬしらのやったことは策殿とたいして変わらんじゃろう?」
「う~ん・・・見方によっちゃそうなんだろうけど・・・」
なにしろ桂花の立てた作戦中だったので雪蓮と比べられるのは申し訳なく思えてしまう。
「大体軍師どもの考えが気に食わん。他の女を遠ざけるよりも自分らがもっと積極的に近づいて行けばいいではないか!!」
いやぁそう言うところがまた可愛いと思えてしまうからなぁ
「・・・何か言ったか?」
「いえ、別に・・・ところで祭さんは俺たちを励ましに来てくれたの?」
「おおっと!そうじゃった、実はおぬしらに会いたいという者がおってのぉ。儂の旧知の者の娘でな、なんでも昨日の礼を言いたいそうじゃ。向こうに待たせてあるので会ってやってはくれんか?」
昨日の礼ってもしかして大喬?
「あ、ああ。今なら時間もあるし大丈夫だよ。」
「おおそうか!では早速呼ばせてもらおう、小喬!入ってきてよいぞっ!!」
ええっ!?小喬??大喬じゃないの!?
「あの、昨日は・・・助けていただき有難うございました!孫文台様にお仕えした喬玄の娘、小喬と申します。」
「えぇと・・・小喬。・・・・・・俺たちが昨日会ったのは君のお姉さんの大喬で、君と会うのは初めてだよね。」
俺たちにとっては本当の意味では初めてではないけどね。
小喬は驚いた顔で俺たちの顔を順番に見ていくと・・・
「本当に分かるみたいね。それは天人の力ってこと?」
さっきまでのしおらしい態度とは一転俺たちのよく知る小喬の声だった。
「まあそう・・・かな?」
「ふんっ!昨日はお姉ちゃんを助けてくれて有難うございましたっ!!でもその天人の変な術でお姉ちゃんをたぶらかすのはやめてよね!」
「ほう、北郷よ。大喬を誑かしたのか?」
祭さんがにやにや笑ってるよ・・・分かってて言ってるな。
「祭さん!面白がってないで助けてよ!」
「おぉそうか?では小喬、こやつらのは術ではなく才よ。なにしろ下半身で物を考えるやつらじゃからのぅ。」
「それじゃ只の変態じゃないっ!!」
祭さんの変な一言のせいで小喬が祭さんの後ろに隠れちゃったよ・・・しかも睨んでるし・・・。
「さておぬしら、本当のところどれだけこの姉妹のことを知っておるんじゃ?」
「え?祭さん・・・二人とは親しいの?」
祭さんは知っているのか?大喬の秘密を。
「小喬の母の喬玄が儂の昔なじみと言ったじゃろう。あやつに頼まれて大喬小喬のおしめをよく変えさせられたものじゃ。」
なるほどね、おしめを変えてたんなら知らない筈はないか。
「・・・うん・・・俺ら三人とも大喬のアレのことを知ってる。」
「な、なんで・・・?」
小喬が真っ青な顔でつぶやいたのが聞こえた。
「い、いや小喬!別に俺たちは大喬を追い詰めたいわけじゃないんだっ!!」
「俺たちは今も大喬の秘密をどうやったら守ってあげられるか、元気付けられるかって話合ってたんだ。」
「なあ小喬、俺たちが大喬にしてやれることを教えてくれないか!?」
俺たち三人で小喬の手を握って訴えかけると、小喬の顔に血の気が戻ってきて・・・そして微笑んでくれた。
「ふふ、変わらぬな北郷。帝となってもやはりおぬしらはそのままじゃ。」
祭さんが優しい目で見てるよ、ちょっと照れくさいな。
「しておぬしら、大喬のことをどう思う?」
「「「かわいいっ!!」」」
三人の声が完全にシンクロしたな、今。
「・・・・・・・・・・・昨日はお姉ちゃんと都を見物してて・・・」
小喬が唐突に話はじめた。だけどそれを遮るような野暮はしない。
「お姉ちゃんが疲れたみたいだからあの茶店に入って・・・そのときお姉ちゃんを喜ばせる物が思いついたんで一人で買い物に行ったの・・・すぐに戻るつもり、いえ、ほんとにすぐ戻って来たのよっ!そうしたらあんなことになってて・・・でも、どさくさにまぎれてお姉ちゃんを連れ出すことが出来てほっとしてたんだけど・・・」
小喬の声が止まったかと思うと俯いてしまった。
「お姉ちゃん・・・顔赤くしてぼぅっとしてたかと思ったら急に泣き始めちゃって・・・どうしたのかって訊いてもなかなか話してくれなくて・・・なんとか聞き出したら・・・陛下のことが頭から離れない、でも自分の体のことを知ったら陛下に・・・き、嫌われるって・・・」
嫌われる・・・本当はもっと酷い表現だったんだろうな、小喬が一瞬躊躇したのを気付いてしまった・・・。
「あんなちょっとの間に心を奪われるなんて変!だから陛下がお姉ちゃんに怪しい術を掛けたんじゃないか?とか考えて、とにかくお姉ちゃんに諦めさせなきゃって思って・・・今日ここに来たのも・・・」
「自分の目で北郷がどんなやつか確かめるため、じゃろう。まぁおぬしが北郷に会わせてほしいと儂のところに来たときからそんなところじゃろうと思っておったわ・・・して北郷よ、具体的に何か策はあるのか?」
「そうだなぁ・・・・・・とにかく一度大喬と話をしないことには・・・よし!今から大喬に会いに行こう。」
そう言って俺たち三人が立ち上がると祭さんが眉を顰めた。
「どうしたの?祭さん。」
「あのな北郷・・・焚き付けといて言うのもなんじゃが、おぬしら昨日の罰を受けとる最中じゃろ。ここは『一人だけ抜け出して後の二人が誤魔化す』というところではないのか?」
いかん!大喬のことで頭が一杯ですっかり忘れてた。
「それじゃあ赤、行ってこい!」
「俺たちの分も大喬を励ましてやってくれ!」
紫と緑が親指を立てて俺に託してくれる。いいのか?とは訊かない。二人の考えてることは良く分かる、なにせ俺たちは同じ『北郷一刀』なんだから。
「オッケー!任せてくれ、今度の飲み代は俺持ちだ!!」
俺も親指を立てて返事をしてやる。
「それじゃぁ小喬、連れて行ってもらえるか?」
「う、うん。お願いします。」
なんか素直な小喬ってのも新鮮だな。小喬に見えないように苦笑して俺は祭さんと一緒に大喬の元へと向かったのだった。
それから数分後、執務室に愛紗がやってきた。
「ご主人さま、仕事はいかがお進みですか?」
「よう愛紗、ご苦労様。」
部屋を確認した愛紗が一人足りないことに気が付き眉を顰める。
「あの、紫のご主人さまは何処にいかれました?」
「厠だよ、ああでも少し長くなるかも・・・そうだ愛紗、紫を手伝ってきてやってよ。」
「は?」
俺が言った事の意味が理解できず頭の中で反芻することしばし。
「・・・・・・か、厠を手伝うって!な、ななな、何をどう手伝うんですかっ!!」
顔を真っ赤にして怒鳴っているが怒りではなく羞恥からなのは一目瞭然。
「そうか、愛紗が行ったら逆に帰って来るのが遅くなるかも・・・」
更にセクハラの追い討ちを掛ける。
「そっ!そんなことは致しませんっ!!わ、私は他に行かねばなりませんので失礼いたしますっ!他の者も見回りに参りますから怠けないでくださいっ!」
そう言って執務室から逃げ出して行った。
普段凛としている愛紗だからああやって恥ずかしがる姿が可愛いんだよなぁ・・・・・・・なんかこれセクハラ親父思考か?
まぁとにかく、俺たちは冠をとっかえひっかえして誰か一人がトイレに行っている芝居をして、見回りにきた娘を誤魔化し続けた。
あと余談だが、このときあちこちのトイレで愛紗が顔を赤くしながらうろうろしてるのが目撃されていた・・・・・・もし手伝ってって言ったら本当に手伝ってくれるか・・・・・・・?
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このシリーズを読んで下さっている方、更に支援して下さった方、コメントを下さった方、コレクションに加えて下さった方、本当にありがとうございます。心からの感謝の言葉をお送りさせていただきたいと思います。
第三部 「街で噂の皇帝陛下」其の一をお送りします。
今回の主役は「呉の北郷一刀」通称赤一刀ですね。
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