No.360794

超空の恋姫01

真・恋姫無双のSSになります
某小説との間接的クロスオーバーです

2012-01-09 03:01:55 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:3596   閲覧ユーザー数:3151

 

地平線の彼方から日が昇る

遮る物のない大地に太陽の光が降り注ぎ、彼は眩しそうに目を細めた

今日も来るだろうか、と頭の片隅で考えて息を吐く

未だに先の見えない戦いではあるが、彼の率いる軍勢は良く戦っている

 

「それもこれも優秀な軍師達がいるお陰かな」

 

彼自身はそう言って小さく笑う

城壁の上で彼がそう考えている間にも、隷下の軍勢は出撃準備を整え、整然と待機している

過度の緊張は毒だが適度の緊張は士気の維持には不可欠である、という言葉を思い出して頭を降る

まさか自分がこんな事になろうとは思いもしなかった

しかし、学んだ技術と知識はしっかりと彼を支えており、今では大きな支柱へと成長していた

少し足下を見つめていた視線を上げて、地平線を望む

清純な澄み切った空気と、手つかずの大地

正にここが古代中国であると実感せざるを得ない

 

「お兄さん、そろそろ時間なのですよ」

「ん、わかったよ、風」

 

いつの間にか後ろへやってきていた少女に人好きのする笑みを返して、彼ーー北郷一刀ーーは再び大きな息を吐く

黄巾党を名乗る武装集団、まだまだその数は膨大だった

 

 

 

 

 

超空の恋姫~1・その名は天の御使い~

 

 

 

 

「遅いですよ、北郷殿」

「ごめんごめん、稟に任せておけば万全だと思ってさ」

 

少しだけ不機嫌そうな顔をした少女に、一刀は頭を下げてみせる

やれやれといった表情の少女――稟は、一刀の後ろを歩いていたもう一人の少女――風にも視線を向ける

 

「そちらはいいのですか、風」

「はいー、風の方は万事宜しいですよ」

 

どこか眠たげな返事を返す風だが、稟も一刀も慣れたものだ

三人の目前には整然と整列した兵士達が並び――数はおよそ8000程だ――じっと三人を見ている

 

「では北郷殿」

「うん」

 

稟に促されて、一刀は整列する兵士達を見渡せる台の上に立った

毎度の事ながら、これは学校の集会風景を思い出すなぁ、と頭の片隅で思いながら、視線を巡らせる

自分に視線を向ける兵士達の顔をぐるりと見渡し、おらび筒(メガホンのようなもの)を手にとり、言葉を発した

 

「諸君、黄巾党との戦い、本当に御苦労様。こうして、この地において平穏が維持できているのは、真に諸君の奮戦があっての事だと思う」

 

普段の一刀を知る者であれば違和感を感じるだろうが、これは意図的なものである

自身を『天の御使い』と呼ぶ配下の兵士達に対して、一刀は士気を鼓舞する場合にこういった口調を使うように心がけている

 

「先の見えない戦いに不安になる者もいるとは思う。だけど、俺を信じて、もう少しだけ付いてきて欲しい、頼む」

 

そう言って、頭を下げる

すると感極まったのだろうか、整然と並んでいた隊列のあちこちから歓声が沸き上がる

『天の御使い』様が自分達を頼りにしてくれている、その事実に、士気は否応なくあがる

時ならぬ鯨波の声に、複雑そうな表情を浮かべる一刀が台から降りると、稟と風がそっと近づいてくる

 

「お見事です、大分慣れたようですね、北郷殿」

「士気の維持は重要だからね、燃えすぎない程度には」

 

そう言って、周囲を見渡す

自分を『天の御使い』として慕ってくれる兵士達、そして自分を支えてくれる二人の軍師を見つめながら、一刀は半年前の事を思い出していた

 

 

 

聖フランチェスカ学園へ通う学生であった北郷一刀は、気が付いたらこの大地へ立っていた

何があった訳でもない、本当にふと気が付いたらこの古代中国の地に立っていたのだ

初めは何が起きたのか、全く分からなかった

そして、そのまま出くわした野盗に始末されそうになって、初めてこれが現実なのだと思い至った

 

「大丈夫か?」

 

たまたま通りかかった三人組に助けて貰わなかったら、間違いなく死んでいただろう

正に天の助けというやつだ

もっとも、助けてもらった三人の自己紹介を受けてからはなお驚いたが

 

「我が名は趙子龍」

「戯志才です」

「程立仲徳なのですよ」

 

聞いた瞬間には呆然とした

その名は――少なくとも1800年以上前の英雄達の名前に相違なかった

生憎と戯志才という名前には聞き覚えはなかったが、一刀とて三国志の時代の人物をすべて知っている訳ではない

(後に「この世界」では郭嘉奉孝の偽名で、程立は程昱の改名前の名だという事を知ったくらいだ)

そこまで思い至って、一刀はおずおずと疑問を口にした

 

「あのさ……今って漢王朝だっけ?」

「?何を当然の事を言っているのですか?」

 

さも当たり前だと言わんばかりの稟の返答に、一刀は盛大に頭を抱える

考えたくはなかったが、客観的事実を積み重ねてみれば結論に達する

ここは恐らく西暦180か190年代の古代中国である

しかも、俗にいう三国志の英雄達が『少女』として存在する世界だと

 

「マジか……」

 

そこから先は大変だった

風が一刀を、世間で噂になっている『天の御使い』であると考えて、稟と共に一刀に仕えると言い出し

稟もそれを止めようとしなかったので、なし崩し的に主従の契りを結んだ

一月ほどは四人で旅をしながら、大陸を見て回った

その際に、来るべき戦乱の時代の幕開け、つまりは黄巾の乱に備えて義勇軍兵士を募っていった

 

『天の御使いが兵を募っている』

 

その噂の広まる速度は想像以上に速く、北荊州中部辺りをうろついているうちに戦力は8000程にまで大きくなった

趙雲――星はもう少し世の中を見て歩きたいという事で、その後に分かれたが星に練兵された兵士達は高い連度を示している

そして、今

一刀達は遺棄された砦を修復し、近隣の都市からの要請に応じる形で黄巾党との戦いを繰り広げていた

 

 

 

「どう見ますか、北郷殿」

「……向こうはまぁ、4000くらいか。動きを見る限りは陣形運動には慣れてなさそうだし、何時も通りでいこうか」

「分かりました、では私は」

「頑張って下さいね~、稟ちゃん」

 

馬を操り、前線へと駆けていく稟の後姿を眺めながら、一刀は少しだけ悔しそうな顔をした

出来れば自分が最前線で指揮を取りたい、稟や風には後方に居て貰いたい、それが本音だ

しかし、一刀が持つ軍事知識は所詮は座学であり、実戦でそれが上手く使えるという保証はない

 

『国防軍の前身である旧帝国陸軍』出身の祖父から、一刀は数々の話を聞いた

古くは島津家の軍法から『第二次北米戦争』の時の実体験まで、それこそ耳にタコが出来るほど、だ

一刀自身、軍事に興味が沸き、あらゆる時代のあらゆる軍事知識を読み込んだ

変な所で凝り性であった一刀は、それに付随する他の知識も同時に学び、立派な「軍事マニア」に育っていった

それがまさかこんな所で役に立つとは思いもしなかったが、今はまだ戦場を見ながら頭の中でシミュレートするに留めている

 

「一丸になって攻めてきているなら、中央の備えで受け止め、左右の備えで包囲する。適切な陣形は鶴翼だな」

「わかってますねぇ、お兄さん」

 

無意識の呟きに、風が感心した様子で頷く

照れたように頬を掻く一刀の耳に、聞きなれた音が聞こえてきた

大勢の人間が手を叩くような、乾いた音

それを聞いた風も、本陣を置く高台から手をかざす様にして眼下の戦場を見る

 

「それにしても凄いですねぇ、天の国の武器は」

「あれは天の国じゃ400年以上前の武器だよ」

 

そう言いながら、一刀は手にした「双眼鏡」で戦場を見渡す

黄巾党の軍勢を受け止める中央の備えから連続した発射音が聞こえて、敵の兵が倒れていく

猛威を振るその武器は、かつて「種子島」と呼ばれていた兵器だった

 

 

 

 

『それ』が起きたのは、遺棄された砦を本拠地とした最初の朝だった

 

「そ、総隊長殿!」

「何事ですか、騒々しい」

 

転がりこむように部屋へと入ってきた義勇軍兵士に、稟が口を開く

因みに兵士達は一刀の事を「総隊長」と呼んでいる、というか一刀がそう呼ぶように頼んだ

「御使い様」や「北郷様」とよばれる事に言いようのない気恥ずかしさを感じた一刀が、苦肉の策で呼ばせている訳だ

 

「も、申し訳ありません。ですが、あの、奇妙な事が起こりまして」

「奇妙な事?」

 

一刀は不思議そうに首を傾げて稟と風を見る

 

「……ぐぅ」

「寝てんのかい」

「……おぉ、まだ朝早いですので、うっかり」

 

一刀のツッコミが入ると、風は悪びれもせずに答える

このままじゃ埒が明かないと、一刀は二人を連れて、兵士の先導でその「奇妙な事」を見に行く

城壁の上に立ち、兵士の指差す方向を眺めると、そこには確かに「奇妙な事」が起きていた

 

「何です、あれは……」

「風も見た事ないですねー、聞いた事も無いです」

 

そこには、雲が立っていた

正確に言えば、渦を巻いた円柱状の雲が、大地から立ち上っていたのだ

当然ながらこんな物を見た事のある人間は一人も居ない

兵士達も、騒ぎはしないまでも興味と不安が半分の表情で、その光景を眺めていた

ただ一人を除いては

 

「……次元積乱雲」

 

ぽつりといった一刀の呟きに、稟と風が驚いたように一刀の顔を見る

だが、一刀はそんな視線に気がつかないかのように目の前の超常現象に目を奪われていた

 

『次元積乱雲』

それは半世紀以上前、太平洋戦争の時代に東京湾に出現したと言われる謎の超常現象だ

その雲からは「自衛隊」と名乗る未来の軍隊が現れ、太平洋戦争の勝敗に深く関わった、と祖父が言っていた

祖父の親戚は海軍に籍を置いており、そこでこの『次元積乱雲』の調査にも同行したと言う

終戦後に「自衛隊」はまた『次元積乱雲』を通って元の世界に帰って行ったというが、原理は未だに不明のままだ

祖父から聞いた話通りの光景を見て、冗談だろうと思っていた現象が実在する事に、一刀は深い驚きを見せていた

 

「っ見てください、雲が!」

 

一人の兵士が指差す

『次元積乱雲』は数分だけその姿を見せ付けると、次第に薄くなり、最後には何事も無かったかのように消えていった

呆然とする義勇軍の中で、一刀の反応だけは早かった

祖父の話ではあの『雲』の中から「自衛隊」というのが出てきたという事だった

だったら、同じように何かが出て来ないとも限らない

身を乗り出すように『雲』が消えた辺りを探す一刀の目に、飛び込んできたのは、呆れるほど大量の木箱だった

 

「これは……種子島か。こっちは抱え大筒に、火薬に……こっちのは小粒金か、凄いな」

 

兵士全員で砦に運び込んだ木箱は大小合わせて100以上、それには様々な物が満載されていた

火縄銃に火薬、長短各種の弓に強化スチール製の盾、抱え大筒と呼ばれる大鉄砲に様々な弩弓

武器以外にも双眼鏡、信号弾、各種医薬品に大量の小粒金など、驚くほど大量の物資が砦の中に溢れていた

それもご丁寧にマニュアル付だ

 

「北郷殿、これは……」

「あ、あぁ。この武器とかは天の国で昔使われていた武器だよ」

 

しかし、この世界で言えば未来の武器になるのだろう

興味津々といった様子でそれらを眺めていた風が一刀の方を振り返る

 

「お兄さんは、あの雲が何だったのか、知っているご様子でしたが」

「実際に見たのは初めてだけどな。……天の国にも昔、あの雲が現れた事があるんだ」

 

そう答えて、手元の種子島に視線を落とす

かつての『次元積乱雲』は日本に味方する存在であったと言われる

その『次元積乱雲』が今、自分の手元に大量の(この時代では)最新鋭武器を置いていった

これは何を意味するのだろうか?

考えてみても答えは出ない、それに今はやるべき事がある

 

「稟、風、皆を集めてくれ。今から、これらの武器の使用方法を教える」

 

 

 

「只今戻りました、北郷殿」

「お帰り、稟。怪我とかしてない?」

 

心配そうに問いかける一刀に、稟は僅かに顔を赤らめて首を振った

 

「ご心配頂いて有難う御座います、ですが怪我などしておりませんよ」

「お兄さんは心配性なのですよ」

「いや、こればっかりは……ねぇ」

 

照れくさそうに頭を掻く一刀に、二人は好意的な視線を向ける

この人柄に、二人も惚れ込んだのだ

 

「で、今回はどれくらい降ったかな?」

「3000弱……といった所でしょうか、流石に噂が広まっているようですね」

 

隊列を組んで本陣の元に戻ってくる主力部隊の中に、大勢の捕虜が見える

実に全体の75%程が捕虜になった訳だが、これには勿論理由がある

 

黄巾党の主力というのは実際の所、食い詰めた農民がほとんどだ

で、あれば飯が食えてさらに賃金が貰えれば、そちらに行く

一刀達がとった方策と言うのは、乱暴に言えば「雇ってやるから降れ」という事だ

方法は簡単、適度に戦力差を見せ付けてから投降を促す

その際に「兵士として働けば三食飯が食えて賃金を出す」と言うのも忘れない

実際にこの手法を取るようになってからは、一部の狂信者を除いてはさっさと投降するようになってきた

また、噂が噂を呼び、「北郷軍にいけば兵士として雇ってもらえる」「しっかりと飯も金も貰える」という話があちこちで聞こえてくる

結果として「盗賊紛いの事をやるより北郷軍の捕虜になろう」という者まで出てくる始末だ

 

「これで1万か……風、予算はまだあるよな」

「はいはい、まだまだ十分あるですよ」

 

軍を維持する資金は、『次元積乱雲』から出現した小粒金等を使用している

だが何せ膨大な量を手に入れた訳だから、まだまだ予算は豊富だ

具体的は全体の数%程しか使用していないだろう

そこで、現在はこの資金を周辺の都市に投下して地盤作りにも利用している

元々『天の御使い』の軍勢として好意的に見られていた所に、大量の資本投下をしたお陰で、評価は急上昇だ

 

それと平行して一刀は、情報機関の設立も考えている

今は周辺都市の商人に資本を投下して行商の際に情報を集めてもらう、という形をとっている

しかし、今度は自分達で商家を作り、大陸全土を結ぶ情報ネットワークを作ろうと考えている

商家として利益を生みながら、裏では情報ネットワークを結ぶ情報機関

その設立も間近に迫っている

 

「よし、それじゃ帰るか」

 

一刀の声に、軍勢全体から歓喜の声が沸く

北郷軍の士気は、未だに高いままだった

 

 

 

「総隊長、宜しいでしょうか」

「ん、何?」

 

砦内に設けられた、通称「指揮所」で今日の戦いの情報を整理していた一刀の元に、親衛隊の兵士がやってきたのは、その日の夕刻だった

親衛隊と言っても特に何があるわけでなく、要は身辺護衛部隊だ

 

「総隊長にお会いしたいと言う方が見えられているのですが」

「俺に?誰?」

「さぁ……旅の軍師のようにも見えましたが」

 

軍師、と小さく呟いて少し考える

この時代の軍師に関してはあまり明るいとは言えない一刀だが、やはり適当な人物が思い浮かばなかったようだ

小さく唸った後に、別室で作業をしている稟と風を呼びに行かせ、自身は面会の為に机の上を片付け始めた

丁度綺麗になったくらいに、稟と風が現れ、三人が椅子に座って待っていると、兵士に先導された人影が部屋へと入ってきた

 

「お初にお目にかかります」

 

すっと頭を下げたのは、見た目は風と同じくらいに見える少女

銀色の髪を膝の辺りまで伸ばし、その旅塵に汚れているものの、その顔は秀麗といって差し支えないものだった

ただし、瞳に感情の色は少なく、まるで陶磁器で作られた人形のような印象を、一刀は受けた

見蕩れていた、と思ったのか二人の指すような視線に、こほんと小さく咳払いをして一刀は口を開いた

 

「あぁ、うん。えと、君は……」

「私は司馬懿仲達、『天の御使い』様にお聞きしたい事があり、参上仕りました」

 

その名を聞いて、一刀が唖然とする

今度は司馬懿か、と複雑そうな顔をする一刀を3人は3様の視線で見つめ続けていた

 

 

 

 

 

 

次回予告

北郷一刀の元に現れた司馬懿仲達、彼女に対して北郷が語る言葉とは

そして大きく動き始める黄巾党の軍勢に対し、本郷軍は初めての積極攻勢に出る

一方、黄巾党を追い詰めつつあった董卓軍に予期せぬ災いが降りかかる

 

次回、超空の恋姫~2・北荊電撃戦~

 

 
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