No.360572

2011年の春の妖精たち

平岩隆さん

「イーストウィックの魔女たち」
MADMAXで当てたジョージ・ミラーがハリウッドに上陸を果たした!
ジャック・ニコルソンの悪魔と対決するは三人の熟女の魔女シェール
にスーザン・サランドンにミシェル・ファイファー。
ウィリアムスの音楽、ジグモンドのキャメラ。

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2012-01-08 20:55:54 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:967   閲覧ユーザー数:967

 

「ヴィヴァルディ:ヴァイオリン協奏曲集《四季》:《春》~第1楽章」

http://www.youtube.com/watch?v=fyQDU9knERA

 

 

 一足先に駆け抜けて行ったのは酸味を帯びた香を漂わせた

色白の女の子だった。

ちょっとだけおとなびたその女の子は、南から足早に駆けてきたが

他の仲間たちの歩みが遅いので、このあたりで暫し足を停め仲間達

が来るのを待つことにした。

少々気の早い女の子は、いつもより歩みの遅い仲間達に女の子は焦

れはじめた。

 

 次に一番人気のある薄紅色の女の子が、気品を漂わせながら、

たおやかに、西からゆっくりと歩いてきた。

彼女を目当てに子どもたちは、新たなランドセルを背負って学校に行き

おとなたちは彼女の到来を待ち侘びて、酒を酌み交わす。

彼女が一番の人気者。

 

 だが、今年はいつもとは違った。

彼女が遅れてきたのには勿論、わけがある。

北から押し寄せる冷たい風が彼女の到来を遅らせた。

しかしそれだけでなく、いつになく彼女の到来を待ち望んでいたひと

は少なかった。

薄紅色の女の子は愕然としてしまった。

 

 決して彼女に魅力がなかったわけではない。

人々が彼女を待ち望んでいなかったわけでもない。

いや寧ろ、遅れてきた彼女を皆、心待ちにしていた。

だが素直に悦べないことが、人々の心を暗い影で覆っていたのだ。

 

 自らの幸福を虎の仮面に隠して恵まれない子供達に分け与える

勇気をもった人々は、その気質から、いつもながらに彼女たちの

到来を表立って祝うことを心良しとはしなかった。

大きな不幸を背負わされた人々を前に、浮かれた気分を人前に出

すのは如何なものなのか?それは仲間を思う尊い気持ちである。

色白の女の子は「それが美徳と云うもの」と説明しても、

薄紅色の女の子は気落ちしてしまった。

 

 一番脚の遅い三人目の桃色の女の子がやっと辿りついた。

里山を明るく染め上げて、甘い香を漂わせて、やってきた。

彼女は比較的、遅れることなくやってきた。

焦らされつづけた色白の女の子は待ちくたびれていた。

なにか自信を失ってしまった薄紅色の女の子はしょげ返っていた。

しかし、生来の明るさと色香を湛えた桃色の女の子は元気にふたりに

「お待たせ」と声をかけると、他のふたりも笑顔を取り戻した。

 

「さぁ、行きましょう!」

色白の女の子が指差すと、三人の女の子は微笑みながら頷いた。

寒く冷たい辛かった冬の終わりを告げに。

例え何があろうとも、春は巡り来ることを知らせに。

そして大切なものを失い、疲れきった人々の心を少しでも明るくするために。

人々に少しでも希望を持ってもらうために。

彼女たちは満面の笑顔で、北の方角に歩みだした。

 


 
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