No.360362

ある日、世界のある場所で。──1.日常と非日常

FNO 聖境伝説のアナザーストーリィです。出てくる登場人物は自キャラと相方、あとはNPCですが・・ゲームを知ってる人に読んでもらいたいものですね。

2012-01-08 13:05:41 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:486   閲覧ユーザー数:485

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 エターナルチルドレン──

 その名がついたのは、果たしていつのことだったか。

 伝説だと思っていた事象が現実となったとき、人々は賞賛と畏怖を覚えたという。

 それは当たり前だろう。エターナルチルドレンの伝説を知る者なら……

 古い昔の文献から取ってみれば、彼らは何処からか現れ、種族同士の抗争を抑えるべく、人々が知らない不思議な力を使い、その醜い争いを瞬く間に抑え大陸全土に遅すぎる平和をもたらした者達だ。

 つまり彼らが再びこの世に現れるということは、すなわち血が流れる戦争か、はたまた再び種族同士の争いが勃発するのかもしれない……

 そう思っても仕方の無いことだろう。

 しかし人々はそれと同時に安心もしていた。

 彼らがいれば、どんな戦であろうと、再び平和が訪れるに違いないという……単純とも取れる確信が、勲の話となって残っている以上は。

 かくして伝説が動き始め、グレイロックの鉱山洞から「青きクリスタル」から数多のエターナルチルドレンが生まれはや数ヶ月。

 新聞に載ったとしても大衆からは数日も経てば忘れ去られるような事件が、とある港町から外れた郊外の一角で起きた。

 その時エターナルチルドレンが活躍し解決に至ったことを知る者は少ない──

 

「……これで10個、交換か。ったく全然でやしねぇじゃねえか。この機械、壊れてるんじゃねェのか?」

 愚痴りながらガツンと機械にげんこつをくれてみるが、鋼鉄でできた機械に拳が敵うはずもなく、叩いてから数秒後じん、と鈍い痛みが腕と拳全体を襲った。

 自然と口からいててと声が漏れる。痛みを紛らすために殴った手を広げ上下に振った。

「堅い機械に手が敵うはずないじゃない。ジュリアンもバカねぇ。叩いていいものが出るなら誰だってそうするわよ」

 傍らで相方が含み笑いを浮かべながら俺に向かって慰めとも呆れとも取れる言葉を放ってきた。

「確かにそうだな。殴り損だ。ヒールかけてくれないか、ローザ……じんじんして仕方がねぇや」

 言うなり右手を差し出すやいなや、ローザと呼ばれた女性は手を俺の右手にかかげ、言葉を放った。放ったと同時に彼女の掌から光があふれ、直後自分の拳にじりじりするような痛みがすっと和らいでいく。

 ほっと一息ついて、手持ちのコインがもう交換数に至らない枚数しか残ってないことに気付く。やれやれ、また明日以降コインを貯めてこなきゃならないな。

 

 俺はジュリアン。

 数ヶ月前にグレイロックの「青きクリスタル」から生まれた。世間一般じゃそれを「エターナルチルドレン」と呼ぶらしいが、自分はチルドレン(子供)だとは思ってないし、れっきとした大人──この世界の常識からして──だ。生まれたときからそう思っていた。

 生まれる前の記憶はない。そりゃあるはずはないが、生まれたときから体が大人の体なのだから何か残っていたっていいと思うが、自分の名前以外はまるっきり記憶がなかった。けれど、傍らにいる俺の相方、ローザのことは覚えていた。覚えていたというより潜在意識というものだろうか。グレイロックで共に生まれ、そして現在に至るまでずっと一緒に行動している。

 ローザとは世間では恋人というべき間柄だろう。

 すらりとした細身の女性で、彼女も勿論エターナルチルドレンである。俺とは対照的に人当たりがよく優しいので主な職は神官だ。

 長いピンク色の髪と大きな茶色の瞳が特徴。一目見るからには極普通の女性と変わらないが、彼女もまた秘めた力を持っている。俺の主な職は聖騎士だから、彼女のサポート無しでは戦闘は務まらない。主な、というのには理由があるのだが、これは後述するとしよう。

 俺もローザも、他の者とはあまり関わろうとはしない。手伝いや助けを求めてくるなら別だが、自ら接触を持とうとしたりはしない。エターナルチルドレン、と一口にいっても色んな奴がいる。それほどまでに膨大なエターナルチルドレンを青きクリスタルは生み出したのだ。俺みたいなとっつきにくい奴が生まれても何てことはない。

 もっとも、ローザはその容姿と性格の良さが手伝って、世間の評判じゃかなりモテるらしいのだが──

 ここは中央大陸の北東部、レゼの丘とよばれる長閑な平原の真ん中に位置する小さな港町、カモメ町。

 その町外れにアルパカを放し飼いにしている中程度の牧場がある。

 そこの一角に牧場には不釣合いな機械が三台、置かれていた。その機械に特殊なコインを入れるとカプセルが一つ飛び出て、そこからさまざまなアイテムが出るという……世間一般ではガチャガチャ、と呼ばれるものらしい。

 アイテムは日用品からレアアイテムと呼ばれるものまでの幅広いラインナップ。勿論レアが出るのは低確率だから、俺達はさっきからここでコインを手に握り締めながらカプセルと交換し、中身を見てはため息をついていたのだ。

 出ないからって機械を殴ったのはまぁ……やりすぎだったと思うが。

「とりあえず交換できる枚数は使い切ったみたいね。私もあんまりいいもの出なかったし。……また仕事してアルパカコインもらって再挑戦しましょ」

 ローザもまたいいものが出なかったらしい。相当確率を絞ってるな、これは……

「あっはっはっは! 出ないからって機械を壊さないでくれよ、ジュリアン! その機械は政府から支給されたものなんだからな!」

 低い声に振り向くと、笑いながら近づいてきたのは、この牧場でアルパカの繁殖、飼育の全てを担っているがたいの大きい牧場主のブルートだった。

 俺が機械を殴った音が、どうやら牧場主の住んでいる家まで届いてたようだ……。

「今日もきてくれてたのかい? 毎日殊勝に来てくれてるのはあんた達くらいだな。余程ツキに見放されてるんじゃないのか?」

 気さくに話しかけてくる。俺達がほとんど毎日ここに足繁く通っては機械とにらめっこしているからか、彼の方からいつしか声をかけてくるようになった。それ以来時折、世間話をしたりする関係になっている。

「……ああ、今日もスカだったね。本当にいいもんなんて入ってるのかコレ?」

 顔をわざとらしくしかめて、コレといいながら機械に向かって指をさす。主人はまだ何かおかしいのか笑いながら、

「さあねえ。ただ時折、セヴィル城の役人かなんかがそこの機械にどかどかカプセルを入れてる姿はみるけどな。その大量のカプセルの中にレアが少ししか混じってないんだろうから、引き当てるのは大変っちゃ大変じゃないのか?」

 にかっと歯を見せてしゃべるブルートを他所に俺はげんなりしていた。今の話から察すると大量のカプセルがこの機械に詰め込まれてるらしい。その中からレアが出るなんて砂粒から砂金を見つけ出すほど大変なことなのかもしれない。

 このガチャガチャ──正式名はアルパカプセルマシン、というのだが──は中央大陸からほど少し離れた場所に浮かんでいる島、そこに大陸の中で有数の人口と知識、技術が集合するセヴィル城とその城下町があるのだが、そこの中央政府が冒険者となっているヒム(人間)リト(マウスリング)リル(子供)フログ(リザードマン)ベアル(ベアリング)に役立つものを手に入れてもらおうというねぎらいのため、突如そういう政令を流し、レゼの丘──つまりここだ──とクドス高地という、レゼの丘から数百キロも離れた、南西の山間の高地にあるアルパカ牧場にのみ、カプセル交換機を置いた。

 どちらにも三台設置されているのだが、グレードがあり金・銀・銅のいずれかの機械と同じ材質のコインを一定量、投入すればカプセルがぽろりと出てくる具合といったところだ。勿論、グレードによって出る中身も違う。便利道具から生産品、はては豪華な衣装まで。コインは民間から出てくるさまざまな依頼──モンスター掃討から荷物配達のお使いまで──をこなせば、依頼者から支払われる仕組みとなっている。福引と似たような感覚だと思っていい。

「そんなにたくさんこの機械の中にカプセルが詰まってるんじゃ、レアアイテムなんて発掘するのは大変ね。何度かやればいずれは出てくるんじゃない?」

 ローザがとりなすように俺に慰めとも諦めとも似つかないことをこぼした。俺も苦笑を浮かべながら彼女に返す。

「そうだな……。まあ、そん中からレアが出ればそれこそありがたい限りだ。また来るよ、ブルート。また依頼をこなしてコイン集めて──ん?」

 不自然に俺が言葉を切ったので、ローザがおや、とこちらを向くとすぐに、

「かわいい!」

 俺の思っていたことと同じ事を口に出した。かわいいといったものは勿論俺ではないし、俺と向かい合って突っ立ってるブルートでもない。彼女がかわいいと言ったものは──ブルートの住んでる家の扉から勢いよく彼に向かって走ってきた小さなアルパカ。

 ローザの声にブルートも振り向くと同時に、小さなアルパカが彼の足に突撃──勿論小さいから衝撃は殆どない──した。じゃれつきたいのか、キューキュー声を出している。

「ああ、何がかわいいと思ったらこいつのことか。ジュリアンたちに見せるのは初めてだったよな。つい先月生まれたばかりの子アルパカだ」

 にやにやしながら足元でじゃれつく子アルパカをひょいと持ち上げ、胸元で抱え込む。小さなアルパカは満足なのか、じゃれていた時と違い足をばたつかせるのをぴたりとやめ、じっとこちらを見つめていた。

「へぇ……なんかこのアルパカ、目がきらきらしてかわいいな。毛並みもつやつやだし。……生まれたてのアルパカってのはみんなこんななのか?」

 興味にかられて、アルパカ頭をそっとなでてみた。なでられるのが嬉しいのか嘶いてみせる。ローザもそんな俺の姿を見て「私も触りたい~」と言いながらアルパカに近づき、やさしく毛並みを撫でた。二人の知らない人間に触られてもアルパカはびくともしない。ずいぶんと人懐っこい性格のようだ。

「そらそうだろうよ。こいつはアルパカの中でもサラブレッドさ。将来大きくなれば、ゴールデンアルパカになるかもしれないぞ! あっはっは!」

「ゴールデンアルパカだって? あの、希少種に設定されてる光り輝くアルパカか?」

 撫でながら俺はブルートのほうに顔を向ける。

 ゴールデンアルパカといえば、世界にも数頭居るか居ないかといわれてる希少種の一つで、毛並みが金色(亜麻色と言ったほうがいいかもしれない)で輝いていることから、ゴールデンアルパカといわれるようになった。

 そんな金色に輝くアルパカになるには代々そういう血統があるからそうなるのだとか、別種からでも突然毛並みが輝くアルパカが出来るとか色々な説が飛び交っているが、新生児が生まれたなどということは聞いたことがない。もし、今俺の手をぺろぺろ舐めている人懐こいアルパカが将来ゴールデンアルパカになるのだとしたら、それはすごい発見だ。新聞や全世界に報じてもおかしくない話になるだろう。

「血統のいいアルパカで交配させたらこいつが生まれたんだ。ゴールデンアルパカは幼少から毛並みがゴールドという訳ではないという説もあるらしいからな。成長して毛が生え変わればゴールドに輝くアルパカになるかもしれないぞ。もしそうなったらウチはアルパカのトップブリーダーになること間違いねぇやな! クドス高地にある牧場よりウチに依頼してくる業者が増えること間違いねぇぞジュリアン! ローザ!」

 嬉しさがとまらない、といった様子のブルート。

「それがもし本当ならすごい話よね。この子、人懐っこいし……将来が楽しみだね、ジュリアン」

 ローザが傍らで目を輝かせながら言った。彼女の手にじゃれている小さなアルパカを見ていると本当にこいつが将来アルパカの頂点に立つ存在になるのだろうか、といささか疑問にも思うのだが……

「もしそれが本当の話になったら俺達も鼻が高いな。……頑張ってくれよブルート。陰ながら応援させてもらうよ」

 言って、俺は彼から離れた。そろそろ行かなければならない。日も頂点からわずかに西に傾いている。長居をしているとこれからやろうとしている依頼の一部が日没までに遂行できなくなるのは明らかだった。

「おうよ! あ、そうだジュリアン、ローザ。今度セヴィル城でアルパカの品評会があるんだ。子供のアルパカだけを集めて、ブリーダーのクラスを競う奴なんだよ。まあウチが一番になること間違いないけどな。もし暇なら見に来てやってくれよ。一週間後だからよ」

 アルパカの品評会なんてあるんだ。知らなかった。

「そうだな。仕事がなかったら寄らせてもらうよ。期待してるぜ、あんたも、そしてその腕に居るアルパカも」

 言いながら、俺は左傍らに差している剣を抜いた。

「ローザ、そろそろ行くぞ。次の依頼に間に合わなくなる前にな」

「あ、うん。じゃあブルートさん、また今度。アルパカちゃんも元気でね」

 手をひらひらさせて別れの挨拶をすませ、ローザは俺の傍らに来た。俺は心の中で呪文を唱え始める。

「ああ、またな! ……ああそうだこいつの名前、ビートって言うんだよ。仲良くしてやってくれよな!」

 彼の言葉に反応したのか、両手に抱えられている小さなアルパカは、名前を呼ばれ嬉しそうにキューキュー声を上げて嘶いた。

 その直後俺の唱えていた呪文が完成し、剣先に力を集め解き放つ。ぶわっと紫色の光が俺とローザを包み込んだ直後、俺達の姿はレゼの丘から消えていた。

 

 天を貫き、一線の光が大地に降り立つ。光が収まると同時に俺とローザはレゼの丘から随分離れたクドス高地に居た。

 山間部に位置するクドス高地は空気が勿論丘と違って若干、薄い。ひんやりしている気温も海沿いの暖かな気候のレゼとは大違いだ。辺りには針葉樹が生え、岩肌むきだしとなった山道が続く高地にはレゼの丘にはいない屈強なモンスターもごろごろいる。

 一息つきたいところだが、依頼主の所までいかなければならない。日が暮れれば周りに居るモンスターも凶暴さを増す。それまでには終わらせないと。

「ローザ、行くぞ」

 言ってから、口笛をピィッと吹く。

 と同時に何処からか緑色の毛を生やしたアルパカが俺の前に現れた。呼んだか、と言わんばかりにファー、と気だるそうな──気だるそうといってもこれがアルパカの声なのだから仕方がない──声を鳴らす。

 ひらりとアルパカの背中に乗ってから、ローザの手を取って抱きよせ、俺の前に横向きで乗せる。手綱を持ち、鐙に足を乗せ腹を蹴ると、二人を乗せたアルパカは勢いよく走り出した。

「それにしてもあのアルパカかわいかったね。本当にあのアルパカ、ゴールデンアルパカになるのかな」

 ローザが当然の疑問を口にする。ブルートの前では遠慮して言えなかった事だろう。

「そうだな……本当なら今までの説がいっぺんに覆されてもおかしくねぇ事だよな。本当の話ならブルートも一躍時の人になるだろうし、そうじゃなくてもあのアルパカ……ビート、だっけ? なら賢そうだし人懐こいからいいアルパカになるんじゃねぇかな。ま、今後に注目、ってやつだ」

 アルパカは騎乗用──俺達が今乗ってるのもそうだ──になるし、もちろん馬の代わりとしても代用が利く。この大陸には馬はあまり居ないがアルパカは多い。荷運びや畑仕事にもアルパカは大いに活躍している。

 確かにあのビートという子アルパカは他の子アルパカとは違うものがある。もしゴールデンアルパカになるのだとしたらすごいことだ………?

 その時何かが俺の心に引っかかった。

 何だろう、あの場所で何かあったような気がする。俺がまだひよっこだったころ、何かが……

 

 その引っかかった事が、数日後に自分に降りかかってくる事など、そのときの俺にも、ローザにも予想すらしていなかった……

 

つづく。


 
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