No.359926

真・恋姫無双 三人の天の御使い 第一部 其の二

雷起さん

【この第一部には改訂版があります。初めて読まれる方がいらっしゃいましたら、改訂版をお薦め致します。こちらは比較対照用としてご覧ください。】

其の一を読んでくださった方、更にコメントを下さった方、本当にありがとうございます。雷起(かみなりおこし)です。

其の一のコメントに有った他のサイトとはpixivのことです。チキンなもので名前出すとまずいかな~と思いまして。

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2012-01-07 20:00:53 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:5638   閲覧ユーザー数:4707

陸    虎牢関

 

連合軍の集結地で待っていたのは案の定袁紹の高笑いと無意味な会議だった。

俺達は事前の打ち合わせ通り、さっさと袁紹を総大将に決め先を急いだ。予想通り俺たち劉備軍に先鋒を押し付けられたが、それも織り込み済みなので承諾。もっとも兵糧の供出と兵隊の貸与はしっかりさせてもらったが。

汜水関の戦いでは同盟を結んでいた俺たちの連携がみごとに決まり、それぞれが手柄をたてることができた。

敵将華雄をこちらに引き込めないかと策を弄したが、逃げられてしまった。

そんな手柄を立てた俺たちのことが気に入らない袁紹と袁術を上手く焚きつけ虎牢関の先陣を押し付けるのに成功。見事なぐらいケチョンケチョンにされた両袁家軍。そこでまた俺たちにお鉢が回ってきた。

 

訳だが・・・。

「ちょっと、やりすぎたかな?」

俺の両脇に控えているはわあわ軍師に苦笑してみせる。

「そうですねぇ。向こうに勢いを付けすぎてしまいました。」

「でも、これで董卓軍を虎牢関から引っ張り出しやすくなったと思います。」

「それで出てくるのが飛将軍呂布と神速張遼か・・・しかも、今回こそ二人をこっちの仲間にしたいんだけど・・・厳しいな、どう考えても。」

「そうですね・・・張遼さんの方は曹操さんが気に入ってるって事ですから相手をしてくださると連絡が来てますが・・・呂布さん一人でも大変ですよ。」

「愛紗たちには必ず三人以上で対峙するように言っておいたけど・・・・やっぱり心配だ!俺、愛紗たちのところに行って来るよ。」

「だめですよ!ご主人様!」

「危険すぎましゅ!」

朱里と雛里の二人がかりで俺の腰にしがみ付いて止められた。

「二人とも、ご主人様が心配なのはよっっっっっっっく判るわよん。でもわたしと卑弥呼が護衛に突いてイクから心配しないで。」

「うむ。ワシらが突いてイケばご主人様に毛ほどの怪我もさせぬと約束しよう。」

貂蝉と卑弥呼が説得してくれた。

「何故か『付いていく』の部分に違和感がありましたけど・・・わかりました。でも、ご主人様ホントに無茶しちゃだめですよ!」

「わかった、ありがとう朱里、雛里。」

俺は二人の頭をなでてやった。

「ふんぬぅぅぅぅぅ。うらやましいわぁ。」

「ぐぬぬぅ。ワシもご主人様になでなでしてほしいぞ。」

「貂蝉、卑弥呼、頼りにしてるぞ。よろしく頼む。」

「まかせてちょうだぁい!ご主人様のそんな優しいお言葉を戴けたらパワー百倍よぉぉぉぉぉぉん!」

「うおおおお!漢女心がガッチガチに滾るぞ!」

「ほ、程ほどにな・・・・二人とも・・・。」

 

 

「つ、強い・・・聞いてはいたがここまでの武か、呂布の強さとは・・・。」

「・・・・・・・お前らちょっと強い・・・・・・でも恋のほうがもっと強い。」

呂布は奉天画戟を構え、関羽、張飛、趙雲の三人を見据える。

「愛紗!鈴々!もう一度三方から当たるぞ!!」

「応!なのだ!!」

「わかった!星!!」

「何度やっても無駄なのです!呂布どのの武は天下無双なのです。」

離れたところから陳宮が野次を飛ばしているが、関羽たちの耳にも目にも入っていない。

一瞬でも気を抜けば自分の首が宙を舞う。

そんな映像が常に脳裏で容易に思い浮かぶ程の気が全身に襲いかかる。

しかし強い敵と相見える事に歓喜する己の武も自覚し、自然と口の端があがる。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・来い。」

 

 

「星ちゃん、愛紗ちゃん、鈴々ちゃん、無事かしら~。」

俺がその姿を捉えたとき、対峙した四人の間にはギリギリと音が聞こえそうなほど緊張感が張り詰めていたところだった。

しかし、そんな中で俺と恋・・・呂布の目が合った瞬間、唐突に呂布から殺気が消えた。

「え?なんだ?」

戸惑う愛紗。

そんな愛紗たちを無視して呂布は手にしていた方天画戟をその場に落とし俺に向かって文字通り飛んでくる。

「ご主人さま!」

それは俺が知っている恋の声、そして笑顔だった。

「れ、恋殿ぉぉぉぉ!!」

ちびっ子が叫んで恋を呼び止めるが聞こえてはいないようだった。

そのまま恋は俺の胸に飛び込んできた。

「ご主人様だ・・・・・・・・・・・・・あれ?ここは?・・・・・・・・・?????」

「りょ、呂布・・・・?」

恋、まさか・・・。

「・・・・ご主人様・・・恋のこと真名で呼んでくれない・・・・・恋、悪いことした?」

「恋、お前記憶が残ってるのか?」

「・・・・・・きおく?」

恋は小首をかしげ、子犬のような目で俺を見つめている。

「う~ん、普通こんなことないんだけど・・・恋ちゃんだしねぇ。アリかもねぇ。」

貂蝉にも予想外だったらしく恋の行動に驚いているようだ。

「・・・・あ、貂蝉・・・・と、しらないひと・・・・でも、恋わかる、いいひと。」

「ワシの名は卑弥呼だ。呂布奉先よ。」

「・・・・・恋でいい。」

「では、恋よ。よき恋敵(とも)となろうぞ。」

「・・・・・うん。」

なんかトモの部分に寒気を感じたが気のせいか?

なんてことをやっていると、背後に気配をかんじた。

「あ~~~~、うん。ご主人様。これはどういうことですかな?説明していただけるのでしょうな!」

愛紗が畏まりつつも笑顔で訊いてきた。こめかみに血管が浮いてるけど・・・。

「え?いや、これは俺も予想外というか・・・」

「まあ、主の気の多さを考えれば納得がいくというものでしょうな。流石はちOこ太守の異名を馳せるだけはある。」

星がしたり顔でうんうんと頷いている。

「い、いやちが・・・・!」

「ぐ・お・しゅ・じ・ん・さ・ま~~~~~~!」

愛紗が自慢の青龍偃月刀を構え、俺が知るかぎり最強の殺気を放っている。

きゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ

「あれ?もう恋を仲間にできたのか?」

「いくらなんでも早すぎないか?」

絶体絶命のピンチを救ってくれたのはなんと魏と呉の俺だった。

「???????・・・・・ご主人様・・・三人?・・・にせものじゃない・・・恋、わかる・・・・あ、ご主人様三人いれば恋と遊んでくれる時間ふえるって考えてた・・・・・それ叶った?」

愛紗の相手は二人の『俺』に任せて、今は恋の混乱を解いてやらないと。

「い、いや、まだ完全に叶ったわけじゃないな。」

「?」

「恋、ここがどこか判るか?」

「・・・・・ここ・・・虎牢関?・・・あれ?・・・・・・・・・・月と詠つかまってる。助ける!」

「ああ、月と詠、それにセキトたちも助けなきゃな。」

「ん!セキトたちもたすける!!」

どうやら恋の中で記憶が整理できたようだ。

ほっとしているところに何やら騒いでやってくるちびっ子かいる。

「こらーーー!そこの変な格好した男!呂布どのから離れるです!って、おんなじ顔がみっつ!?おまけにさらに変なのが二人もいるのです!さては五胡の妖術使い!?・・・よりも更に妖しい気がするのです・・・・。」

「こら、ちんきゅ・・・みんないいひと・・・そんなこといっちゃだめ。」

「り、りょふどの~~~。」

恋にこつんとやられて涙目になるちびっ子に俺は自己紹介をすることにした。

「あ~、代表して俺が挨拶するな。俺の名は北郷一刀。天の使いなんて呼ばれてる。」

「・・・き、聞いたことがあります。平原の相劉備の旗印、でも曹操のところにも居るときいたこともあるのです。」

「あ、それはおれのことだ。」

「・・・・・・・・で、その天の使いがなんの用なのです?」

「天の使いの目的は董卓と買駆、そしてセキトたちを助けること。」

「助けるって、お前たちは連合軍ではないですか!攻め込んでおきながらどの口が言うですか!」

「それは俺たちの立場上連合軍側から洛陽を目指すしかなかった。てのがあるけど、董卓を脅して操っている連中を一掃し、袁紹たちを牽制するのにもいい立ち居地だと思える。」

「・・・・本気で董卓殿を助ける気ですか?そんなことをしてお前たちに何の得があるのです?」

「困っている女の子を助けたいだけさ。それはキミたちも同じじゃないかな?ただ命令されたから戦ってる訳じゃないだろ。」

「ぐ、そ、その通りなのです。・・・恋殿がお前たちを信用している以上、この場は矛を収めそちらに下るのです・・・・」

「ちんきゅ、いいこ。」

「しかーーーし!さっきからお前は恋殿にくっつきすぎなのです!さっさとはなれるのです~~~!!」

いつの間にか恋は俺たち三人をまとめて抱きついていた。

「そうなのだ!お兄ちゃん三人を独り占めなんてズルイのだ!」

そう言って鈴々も抱きついてきた。

「みんないっしょ。」

恋は陳宮を引っ張って抱きつかせ、更に愛紗、星も巻き込む。

「え?おいなにを・・・」

「おお、これもまた一興、主殿は果報者ですな。」

「そっちも。」

なんと恋は貂蝉と卑弥呼まで引っ張り込んでしまった・・・・・。

「あらん。恋ちゃんってば!」

「こんな大胆なこと、漢女の瑠璃の心臓が破裂してしまいそうだわい。」

俺は天国と地獄を同時に味わいながら、俺の記憶の中にある洛陽での出来事が俺を不安にさせるのだった。

 

七    洛陽

 

俺たちが恋の相手をしている間に曹操たちは張遼を投降させることに成功していた。

しかしその際、夏候惇が流れ矢に当たり左目を失ってしまった。夏候惇は正史と同じくその目玉を食べてしまったというから魂消た。その治療は華佗がしてくれたので最悪の事態を免れた。食べてしまった左目は戻らないが、元気な夏候惇の姿を見て曹操は涙を流し華佗に感謝したという話だ。俺の中で曹操のイメージが少し変わった話だった。

虎牢関を抜けた俺達は今後の作戦について同盟内の意思統一を図った。

つまり、董卓を助け出すという、この連合の目的そのものを否定しかねない提案をだ。

現在の董卓の状況を張遼、陳宮、呂布の三人から説明を受けた桃香、華琳、雪蓮の三人は戸惑った。桃香は一も二も無く救出に賛成してくれたが華琳と雪蓮は思案顔だった。しかし、先に賛成してくれたのは以外にも華琳だった。ここで華琳は驚くべき事実を打ち明けた。黄巾党の首謀者、張三姉妹が曹操の領地で名前を隠して生きているというのだ。同じ事を董卓でもやればいいというのである。雪蓮もこれで納得し賛成してくれた。次に洛陽攻略の策だが、今回は他の諸侯に董卓の正体を知られるわけにはいかないので先陣をきって突っ込むことになった。俺たち三軍が先を争って一番乗りを目指しているように見せれば、袁紹、袁術の目は誤魔化せると華琳と雪蓮は太鼓判を押した。もう洛陽には大した武将は残っていないとのことだったので大きな戦闘はないだろうと踏んでのことだった。

 

「しかし、そうなってくると董卓の身が心配だな。」

冥琳が更なる懸念を指摘する。

「そうね、下手をすると下賎な輩がこちらに寝返るために董卓の首級を、なんて事になりかねないわ。」

華琳はそんなところにまで気を回してくれる。

「う~ん、そうだな・・・・」

冥琳と華琳の言う懸念は確かにある。しかし俺にはまた別の懸念があった。

今のところその気配はまるで感じられなかったがあいつらがもしや・・・。

何かいい案はないかと腕を組んで辺を見回すと・・・居た。俺のすぐ後ろに二人ほど。

「なあ貂蝉、卑弥呼。」

「あらん、なあにご主人様。」

「なにかの、ご主人様。」

「二人に頼みたいことがある。じつは・・・。」

「月ちゃんと詠ちゃんのことね。わたしたち二人が先行して二人を守ればいいのねん。」

「ふ、まかせておけ。我らふたりなら造作も無いことだ。」

「二人とも俺の考えてる事・・・。」

「ご主人様~。皆まで言わなくてもダ・イ・ジョ・ウ・ブ。」

「愛するオノコの考えを察するなど漢女道の初歩の初歩よ。ふっふっふ。」

「あ、ああ。これは二人にしかできない。俺はそう確信している。頼むぞ貂蝉、卑弥呼!」

「ご主人様の愛をビンビンに感じるわぁ~~~!まっかせてね~ん!」

「おお!ご主人様のその言葉でワシの勇気と元気は百倍だ!滾る!滾るぞぉぉぉぉぉ!!!」

「それじゃ、早速いってくるわねん。ご主人様たちもいそいでね。」

言うが早いか二人はあっという間に洛陽方向に飛んでいった。

それを見ていた張遼と陳宮が引きつった顔で囁く。

「なあ、ねね。あの二人見て月と買駆っち大丈夫やろか?」

「きっと卒倒するに違いないですね・・・・。」

 

そして数日後、連合軍は洛陽に到着。戦闘らしい戦闘も無いままここまで来てしまった。

「まさか、貂蝉と卑弥呼の二人が蹴散らしたわけじゃないよな・・・」

「さすがにそれはないんじゃないかな~。自信ないけど・・・」

俺と桃香は「あはは」と引きつった笑いで誤魔化した。

そこに朱里が走ってやってきた。

「ご主人様!桃香様!孫策さんの軍から伝令です!洛陽には敵軍の姿を認められず、すぐに進軍されたし、とのことです。」

「敵軍がいない?」

「まさか本当に二人が・・・」

「まあ、貂蝉と卑弥呼に会えば判るさ。行こう!」

こうして俺達は洛陽へ入った。

 

俺達は示し合わせていた通り、曹操は中央へ行き宮中を、俺達は董卓の処へ、孫策は街の様子を調べ、後で合流して復興作業を行うことにした。

「ご主人さま、こっち。」

恋の案内で董卓のところへ着いた俺たち。

「ごしゅじんさま~。おまちしてたわよ~ん。」

「予想よりも早かったではないか!流石ご主人様だ!がっはっは!!」

「貂蝉、卑弥呼ご苦労だったな。ありがとう。」

二人の頭をなでてやる。

「あ~ん、うれしいわん。」

「ワシもムネムネして今夜は眠れそうも無いわい。」

なんか猛獣使いの気持ちってこんな感じなのだろうか?

「さ、月ちゃん。詠ちゃん。こちらがわたしたちのご主人さまよ。」

「は、はい。その、董卓です。はじめまして・・・・」

「買駆文和よ。その・・・はじめまして。」

そう、二人にとっては初対面なんだよな。恋は例外中の例外でこれが普通の反応だ。

実は連合軍の中で翠の姿を見かけたとき思わず声を掛けそうになったからなあ。

気を付けて話をしないとな。

「はじめまして。俺は劉備軍の北郷一刀、天の使いなんて呼ばれてる。もっと早く助けてあげられれば良かったんだけど、遅くなってごめんね。」

「い、いえ・・・・そんな!」

「そう、それよ!そこの二人にある程度聞いてはいるけど、あんたたち月を助けるなんて目的は何?捕らえるなり首を刎ねるならわかるけど!」

う~ん、世界が変わっても詠の性格は変わってないか。

「だって、キミたちも被害者だろ。助けを求めるお姫様を救い出すのに理由なんてないさ。」

「そんな!だってボクたちは傀儡としてここに来させられて、ひどい風評を立てられて、正体も隠されていたっていうのに!どうやって真実を知ったっていうのよ!?」

「う~ん。それは天の使いの力って事で納得してもらえないかな?」

「はあ?なに馬鹿なこといってんの?」

「詠ちゃん、それは言いすぎだよ。この方は私たちのこと助けに来てくれたんだよ。」

「う、うん・・・」

自分でもひどい屁理屈だとは思うが今はこれで納得させなければ。

「で、その助けるためには悪いけど、二人には死んだことになって貰いたい・・・」

「え?」

「やっぱり!本性を現したわね!!」

「ちがうちがう!!本当に死ぬわけじゃなく、董卓と買駆はここで討ち取られたってことにしたいんだ。袁紹たち連合軍を納得させるにはそれが一番いい手だと思うんだよ。」

「そ、そういうこと。」

「確かにそうですね・・・」

「で、二人の安全は俺たち劉備軍が保障する。あと二人のことを知ってるのは曹操の軍と孫策の軍の上層部だから、後でみんなに会うことになると思う。」

「なんか、そんなに知られている人がいるんじゃ秘密って気がしないんだけど・・・」

詠にジト目で睨まれるがあえてスルー。

「俺たちのところには恋と音々音もいるから安心してくれ。」

「ええ?恋とねねが?」

そこに恋とねねがやってくる。

「月、詠、無事でよかった。」

「月殿、詠殿大丈夫ですか?特に精神てきに・・・」

「貂蝉と卑弥呼をはじめて見た時は驚いたけど、今はなんとか大丈夫よ。」(ところでねね、この人たち信用できそうなの?)

(劉備殿たちは信用にたる人物とみるです。しかし、その北郷一刀のことは・・・恋どのが何故か心酔してしまわれて・・・)

(恋が?意外ね・・・)

「それではこれからは私もご主人様ってお呼びしますね。私のことは月と呼んでください。」

「って!ゆえ~~~!!なんでこんなやつに真名を預けちゃうの!?」

「だって、もう名前を名乗れないし、恋ちゃんも真名を預けてるし、これからお世話になるのだから私もそのほうがいいかなって。」

「別に偽名でもいいじゃない。こんなやつに呼ばせる名前なんて!」

「だめだよ詠ちゃん。世間的にはそれでもいいけどご主人様には。そうだ、詠ちゃんもご主人様に真名を預けよう。ね。」

「え、ええ~~~~~~~!?」

(詠殿、その気持ちよく判るですよ。ねねも恋殿からこいつに真名を預ける事を強要されたです。)

こうして、月と詠は桃香たちとも自己紹介を終らせ俺たちの仲間となった。

俺はみんなから少し離れた所で貂蝉と卑弥呼から洛陽の現状を教えてもらうことにした。

「どうだ?左慈や于吉の影はあったか?」

「やっぱりなかったわね~。ここまでこんがらがった外史ですしあの子達も手が出せないか・・・」

「未だ復活できずにいるのやもしれんな。まあ、現れたところであのような孺子共ワシと貂蝉がおれば軽く蹴散らしてくれる。」

「そうか。ありがとう、二人とも。このこと魏と呉の俺のところにも伝えてもらえるか?」

「まかせてちょうだい。でも、早く三人のご主人様が揃った平和な世界が来るといいわねぇ。」

「うむ。ご主人様は一人でも充分魅力的だが三人揃った姿は正に眼福だからのう。」

俺は二人を送り出し、一人思いに耽る。

平和な世界になったらか・・・今の人数でも身が持つか心配なのにこれから何人増えることやら・・・俺が三人いる世界ってもしかしたら俺が一番望んだんじゃないだろうか?

 

 

八  官渡の戦い

 

 

洛陽から撤退する間際に俺たち『北郷一刀』の三人は一つの布石を打っておいた。

まあ、あまり大した物ではないのだが・・・まず、白蓮に袁紹の動きには十分注意をしておく様に言い含めた。

更に華琳には袁紹が幽州攻略に動き出すとき桃香の軍と本格的な同盟軍を組んでその背後を攻める。

そして袁紹の進軍に併せ、袁術が援軍として軍を動かすように雪蓮がそそのかし、その隙をついて呉が独立の蜂起をする。

まあ、こんな所だ。

こんなことがそうそう上手く運ぶわけは無いと思うが、基本方針としてそれぞれの軍師も交えた話し合いの結果決まったである。

しかし・・・というか、やはりというか、予想外の事は起こるもので、俺たちが平原から徐州へと転封となったのだ。

地位が相から州牧に昇進したのは喜ばしいが袁紹から遠くなったおかげで情報を集めづらくなったのと、内政に追われるようになったのが痛手だった。

そうこうしているうちに『袁紹動く』の報がやってきた。俺たちは内政も中途半端な状態で出撃を余儀なくされたが白蓮を助けるために大急ぎで出陣した。

そして、ここでまた予想外な展開・・・いや、ある意味予想通りか?白蓮があっさり負けてしまい俺たちの陣に逃げ込んできた。

「なあ白蓮・・・あんなに口が酸っぱくなるまで言っておいたのに何やってたんだよ・・・」

「わ、私だって北郷から聞いたことを信じて準備してたさ!でも、麗羽のやつ数にものをいわせて攻め込んで来て・・・・・・・・・ごめん。」

「でも、白蓮が無事で良かったよ。」

俺は心の底から安堵して言った。

「・・・・北郷。」

と、いうわけで白蓮がかつての立場とは逆に劉備軍の客将として迎えることになった。

もっとも、この報告を聞いた華琳は呆れ返って溜息しか出ないようだったが・・・。

「できることなら麗羽を北と南から挟み撃ちにしたいところだったけどこうなってはしょうがないわ・・・・まさか、黄河を渡れず官渡で迎え撃つはめになるなんて・・・」

後で聞いた話だがあんなにぼやく華琳は初めて見たと秋蘭が笑って話してくれた。

それでも俺たちは袁紹を攻め立てて黄河の北に押し返すことに成功する。

そしてここでついに袁術がこの戦いに参戦してきた。

雪蓮たちは一揆の鎮圧を理由に江東から動いていない。当然これが事前に決めていた策で、一揆なんか起こってはいない。

空家同然の袁術の城を落とし呉はついに独立をはたした。

さらに呉軍はそこで止まらずそのまま北上し、こちらの戦に参戦。

俺たち同盟軍は袁紹袁術軍の撃破に成功したのだった。

 

 

「こんなに上手くいくとは思わなかった・・・・・」

俺は手の中にある杯に満たされた酒を見つめつぶやいた。

この余りにも都合良く進む展開に何か漠然とした不安を感じていた。

今は戦勝の宴の席(俺たち三人の一刀の提案で立食式)で、みんな程よく酔いも回ってきたころだ。

「そうね。計画の最初で躓いた時はどうなるかと思ったけどそんなもの無かったみたいに上手くいったわ。」

華琳の白蓮に対する厭味はいまだ続いていた。

「うう、あたしゃやられ損だっただけみたいじゃないかぁ・・・」

白蓮はいじけてちびちび杯を舐めている。

「しかし、袁紹と袁術を逃がしたままでよいのでしょうか?」

愛紗が杯を片手に問いかけてくる。

「う~ん、まああの二人が再起してくることは無いと思うし、俺的にはいいかな。」

「へえ、どうしてそう思うの?」

雪蓮が面白そうに訊いてくる。

「あの二人家柄はいいけど性格がアレだから地力を失った今じゃ助ける諸侯はいないだろうしな。自力で兵を集めても今の俺たちならすぐに撃破できるよ。」

「なかなか良い洞察力と状況判断力だ。さて、うちの北郷は同じ判断ができていたのかな?」

冥琳が意地の悪い笑みを浮かべ赤一刀に振る。

「そりゃ同じさ。同じ情報を同じ人間が考えるんだ、結果は三人とも同じになるよ。だけど雪蓮、おまえの気持ちはどうなんだ?かなり恨みが積もってたと思うけど。」

「まあね、最初は首を刎ねてやるつもりだったんだけど・・・あんなお漏らしまでして泣かれちゃその気も失せるわよ。」

「はじめて出会った頃の雪蓮さんならそれでも首を刎ねちゃってたんじゃないかなぁ。誰かさんの影響で優しさが溢れてる感じだもんね~。」

桃香が完全に酔っ払った様子で雪蓮にからむ。

「あらあら、それじゃ私は呉の王失格ね~。家督は蓮華に譲ってさっさと隠居しちゃおうかしら。」

雪蓮は茶目っ気たっぷりに笑って言った。

「そんな気毛頭無い癖して、大体世間がそれを許さないわよ。特にそこの軍師殿が絶対に許さないって目で睨んでるわよ。」

華琳も笑っている。彼女がこういう席であんな笑い方をするのを初めて見た。

「あら、私は結構本気なんだけどなあ。冥琳と一緒に三人の一刀のところを巡ってちょっかいを出して遊ぶの。面白そうでしょ。」

この時は気が付かなかったが、雪蓮のこの一言がこの場にいる女性陣(漢女含む)の思惑を一歩前進させた歴史的キーワードだったようである。

「は。ははは・・・遊びに来るのは大歓迎だけどべつに王様やめなくてもいいんじゃないかな・・・?」

「ん~~~~。国は違ってもやっぱり一刀ってば優しい~~~!」

雪蓮が俺に抱きつき頬ずりしてきた。

「ちょ、ちょっと雪蓮・・・」

「あ~~~~!雪蓮さんずるい~~~!!私も~~~~~!!!!」

桃香が抗議の声を上げて抱きついたのは・・・

「こらっ!桃香、それは私の・・・じゃない魏の一刀・・・」

華淋が慌てて桃香と紫一刀の間に割って入ろうとしたら。

「え~?じゃ、華琳さんも一緒に~。」

桃香は華琳も一緒に抱きしめだした。

「ちょ、ちょっと桃香?」

「桃香さま!いくら酒の席とはいえ羽目をはずし過ぎ・・」

今度は愛紗が桃香を諌めようと近づくと。

「じゃあ、愛紗ちゃんも~・・・えい!」

「きゃあ!」

桃香は愛紗をも一緒に抱きしめてしまった。

なんか向こうがカオスな様相を呈してきたな・・・華琳は怒りだすんじゃないか?

って、あれ?あんな幸せそうな華琳の顔初めて見たぞ。

「一刀に桃香に愛紗・・・・・・・こんな至福の時が訪れるなんて・・・こ、これはすぐにでも閨に!」

か、華琳さ~~~~ん!

 

しかし、ここで宴会場の扉が開き一人の魏軍兵士が駆け込んできた。

「も、申し上げます!五胡の軍勢が国境を越え侵略してきたと次々と早馬が!」

「五胡の侵略!?」

俺は驚きのあまり聞き返してしまった。

「落ち着きなさい、一刀。早馬の伝令をここへ!直接報告させなさい!!」

華淋の顔から酔いは完全に消え、『覇王の顔』になっていた。

そして、各地から集まってきた伝令の報告は正に驚くべきものだった。

「西涼陥落!馬騰殿討ち死!」

「涼州が制圧されました!宋建殿討死!」

「雍州もほぼ制圧され間も無く司州に到達!韓遂殿討ち死!」

「益州を越え荊州の一部に既に到達しているとのこと!劉璋殿、劉表殿、張魯殿討死!」

西側の国境全てを侵食するように、しかもかなり入り込まれてしまっているじゃないか!

最初の報告以降、頭の中が真っ白になっていたが、周りの武将たちの目が俺を正気に戻してくれた。

彼女たちの目には侵略者に対する怒りの炎が燃えていた。

「みんな!やるぞ!!」

『応!!!』

「すぐに出陣の準備!我ら魏は北の敵に当たるわ!!」

「では、呉は荊州の南に向かうわ!桃香たちは荊州北部をお願い!」

「わかりました!!みんな、襲われた人たちを助けに行くよ!!」

『うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!』

宴の会場にした城が雄叫びで揺れる!

「折角これから閨で楽しめると思っていたのに!この恨み五胡の連中を皆殺しにして晴らしてやるわ!!」

・・・華琳さん・・・・めっちゃ私情オンリィなんですが・・・

 

 


 
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