No.359280

Lunatic

平岩隆さん

某サイトのコミュの2011年9月のお題が「月」ということでして。
今回は最初に頭に浮かんだのが曲のほうだったんで、
最初にベートーヴェンありきでして。
「月」で「月光」といえばですよ。
そりゃぁ勿論、「狼男」という怪奇な世界の大スタアが居てですよ。

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2012-01-06 19:35:38 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:765   閲覧ユーザー数:765

 

http://www.youtube.com/watch?v=TypjyVmVxU0&feature=related

Ludwig van Beethoven- Moonlight Sonata

 

いにしへの昔から月は、ひとの心を狂わせるという。

月が蒼く見えたことはないが、夜空にポカンと浮かぶ白く輝くその姿は

私の目を奪い、知らぬ間に時間が経つのを忘れさせる。

脳裏を空白にした時間を経て、次に浮かぶのは

ゆっくりとしかし脈々と流れる自らの血流の拍子。

あぁ、魔性の女にも称えられる満々に満ちた月よ。

潮の満ち干きを与え給う魔性の星よ。

寄せては返す波の裂ける音を聞きながら

我が身の血潮が徐々に早まり高まるのを感じる。

 

ぼんやりと眺めていたはずなのに、目を凝らして望んでいる。

ゆったりと流れていたはずなのに、肺が浅く早く動いている。

そのとき改めて気がつくのだ。

我が一族の血統について。

高貴にして高潔。

純粋無垢にして切なく悲しい。

人に罵られようが疎まれようが我らの結束は固い。

固いがゆえ、この場所でしか生きてゆけない。

 

それをひた隠しに隠し、世間にまぎれて暮らしてはいるが。

自分を騙しつづけることは、果たしていつまで可能なのだろうか。

だからこの場所に集い、満ちた月を見上げるのだ。

そして本当の自分の姿を思い出すのだ。

差別も、偏見も無いこの場所、このひとときに。

虚飾に彩られない自分自身の姿を、解き放つのだ。

 

いにしへからの獣の野性を。

ひとの皮を脱ぎ去り、包み隠さず、曝け出すのだ。

長く伸びた爪を。

体毛に覆われた体を。

鋭く見開いたまなこを。

ピンとたった耳を。

 

なにも恥じることは無い。

それが我らの姿なのだ。

志高く貪欲なまでに鍛え上げられた感性を。

 

そして嘆くのだ。

失われた愛に思いはせて。

さめざめと熱い涙を流すのだ。

誰に遠慮も要らない。

声をつまらせ、むせび泣いても笑うものなどここにはいないのだから。

伝えることが出来なかった熱い思いを、雄叫びに変えるがいい。

突然なんの前触れも無く我らの前から去っていった

あのひとのことを思い出して。

高らかに月に向かって、あのひとの名を叫ぶのだ。

 

 

“夕子ォーッ!”

 


 
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