No.358851

DARK SOULS  ~すべての心折れた者たちに捧ぐ~ 第4回

投稿遅れましたが四話目です。
前回が特殊なイベントがありましたが、まだまだしばらくは原作進行です。
例によりまして、感想や誤字脱字などお待ちしております。ツイッターでもメッセージでもなんでもOKです。
このへんは制作進行のモチベーションに大きく関わってます。反応ないと結構寂しいですから。
次回投稿は一週間後ぐらいを予定してますが、例によって心が折れると遅くなります。

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2012-01-05 22:22:23 投稿 / 全4ページ    総閲覧数:1238   閲覧ユーザー数:1234

~不死教区~

 

 気がつくと目の前には篝火があった。

 金仮面の騎士に斬られた所までは記憶がある。しかし、どうしてこの場所にいるのかは皆目見当がつかない。まるで微睡みの夢から目覚めたような気分だ。

 斬られたはずの腹を触ってみるが傷は無かった。

 とはいえ全く無事というわけではない。再び肉体から精気が失われ、鄙びた亡者へと逆戻りしていた。

 起き上がり篝火に手をかざしてみるが、なにも起こらない。人間性を根こそぎ失ってしまっていた。

 どうしたものかと辺りを見回すと、そこは最後に休息した不死街の篝火だとすぐに分かった。

 また街を抜け城壁まであがり石橋を目指すのかと思うとうんざりせずにはいられない。

 しかし、いつまでもここにいてもどうしようもない。折れそうになる心を奮い立たせ腰を上げる。

 出口に向かおうと、振り向く視界の端に妙な淡い光を見つけた。

 近づいて見ると地面に橙色の文字で『近道』と書かれていた。視線を上げると以前は無かった梯子が降ろされている。

 金仮面の騎士の罠かといぶかしんだが、こんな手の込んだ事をする理由がない。助言に従い登ってみることにした。

 赤茶色に錆た梯子を登りきった先、さらに続く階段を上りきると、そこはまさに目指そうとしていた石橋の上だった。あの篝火があった場所は石橋の橋桁だったのだと今更ながらに気づいた。

 あまりの呆気なさに頬を緩ませながら、誰ともしれない助言者に感謝した。

 橋の上に金仮面の騎士はおろか、亡者も竜の遺体すらなくなっている。火炎で所々焦げ黒ずんだ石畳があの時のことを忍ばせていた。

 刃に倒れた場所には僅かばかりのソウルと人間性がこびりついていた。悔しさもあったが背に腹はかえられない。血痕に手を触れこれを回収した。

 石橋を渡りきると乳飲み子を抱く女の彫像が出迎えた。

 彫像の前には篝火があったので人間性を捧げ、生き生きとした肉体を取り戻すことができた。

 外へ続く右手を覗くと荒れた祭壇になっていて、多数の亡者たちが脇目もふらず一心不乱に何かに祈っていた。不用意に亡者たちを刺激しても仕方がないし、そもそも鐘楼の方向ではないと奥へと続く左の道を進む事にした。

 緩やかに曲がる階段をあがっていくと正面に一体の亡者が槍と盾を手に待ちかまえていた。突きをかわして回り込むか、盾ごと体勢をくずさければならない厄介な相手だ。

 距離を開けたまま出方を窺っていると、亡者の背後から地面を蹴立てる豪快な音が鳴り響いてきた。

 不穏な気配にすぐさま建物の影に身を踊らせると間一髪、亡者を弾き飛ばした銀色に輝く巨体がすぐ横を通過していった。

 正体を確かめるべく後ろを向くと、そこには一匹の荒ぶる牙猪が蹄をならしていた。躯を包み込む銀の鎧から覗く血走った瞳が、新たな獲物を見つけ笑っているように見える。

 亡者を一撃でしとめた突進を通路で相手にするのは無謀と言うものだ。一目散に駆け出すと拓けた場所へと逃げ込んだ。

 後を追い突進してきた牙猪を横っ飛びにかわす。急に曲がれない牙猪は、唯一鎧に覆われていない尻尾をはためかせ走り抜けると、ずいぶんと離れたところでようやくこちらに向き直った。

 突進しか頭にないなら……。

 狙いすますかのように石畳に蹄を突き立てる牙猪に向かい、自ら円を描くように接近する。それに合わせて牙猪も躯を回していく。

 目的の位置に到達したところで足を止め、牙猪に盾を振ってみせる。挑発が効いたのか牙猪は一声なき鼻息を荒げると、全身を躍動させ突進を開始する。

 狙い通りの動きに、後は上手く合わせるだけだ。

 鉄の鎧をも易々と貫くであろう二本の牙が迫りくる。

 牙猪が剣の間合いに入る直前で、瓦礫を踏み台に跳躍。飛び上がった股の下を牙猪の銀色の躯が通り過ぎていく。

 突然、目標を見失った牙猪の眼前には建物の壁が迫る。

 馬車が事故を起こしたような破砕音が空気を激しく打つ。

 着地と同時に振り向くと、牙猪は石壁に突き刺さった自慢の牙を必死に抜こうと足掻いていた。

 この好機に背後から近づくと唯一、鎧を纏っていない尻に遠慮なく剣を突き立てる。毛皮を抜けた刃がぶ厚い皮下脂肪を切り裂いた。

 いかな躯の大きな牙猪とはいえこれはたまったものではないようで、甲高く情けない悲鳴をあげた。

 そのまま切り裂こうと剣に力を込めたが、思惑通りに上手くいったのはここまでだった。

 牙猪が無理矢理な突進を壁にぶちかますと、負荷に耐えかねた壁と牙が砕けた。剣に刺された痛みが牙猪に限界を越えさせたのだ。

 衝撃は腕に伝わり弾みで剣が抜けてしまう。怒りと痛みでむやみやたらと暴れ始めた牙猪を前に、それ以上の攻撃を諦め距離をとった。

 完全に錯乱した牙猪は燃えさかる松明を敵と見定め突進してしまう。いくら鎧で覆われているとはいえ、炎を防ぐことはできない。すぐさま炎の舌に絡みとられてしまう。

 毛皮と獣油に引火し巨大な火の玉と化した牙猪は苦しみを紛らわすためか火を消すためか、正面の格子門に向かって突進を敢行する。強烈な衝撃を受けた木製の門は砕けちり、向こう側で様子を窺っていた亡者ごと激しく燃え上がる。

 ついに耐えきれなくなった牙猪は唐突に四肢を折ると、そのまま門の残骸の上へと倒れ込んでしまった。

 動かなくなった牙猪から肉の焼ける芳ばしい匂いが漂ってくる。本来なら食欲をそそられそうなものだが、全くとそんな気にはならなかった。

 そういえば不死人となってから空腹を感じない。空腹で気が狂うよりは良いだろうが寂しい気がした。

 妙な感慨に浸りながら焼ける牙猪を見渡すと、地面に鍵が落ちているのに気づいた。猪が鍵を使うわけはないので、巻き込まれた亡者が身につけていたものだろう。幸いにも火から離れていたので拾っていくことにした。

 辺りに敵の気配がないのを確認すると、天へと続く教会の威容を仰ぎ見た。

 

 赤いマントを纏った異国風の騎士を倒しながらなんとか教会を進む。二階で待ちかまえていた三つ叉槍の祈祷師とそれに従う亡者たちを全滅させた所で、遠くから聞こえる何かを叩く音に気がついた。

 あまり規則的ではない所に人間味を感じる。敵という可能性もあるが音の正体を確かめることにした。

 二階の吹き抜けを入り口とは反対方向にすすむ。隠すように立てかけられた木材を退かし階段を上がる。その先には納戸を作り替えたような牢があり、一人の騎士が囚われていた。

「ん? 貴公、まだ人だな?」

 こちらに気づいた騎士は座り込んだまま顔を上げる。まるで誰かに抱かれているかのような独特の胸部が印象的な鎧を着ていた。

「では話は早い。助けてくれないか? 見ての通り閉じ込められて、どうしようもないんだ」

 騎士が指さす先には錆の浮いた錠前がつけられていた。

「頼む。私も騎士の端くれ、それなりの謝礼も用意するつもりだ。どうだ? 貴公にとっても悪い話ではないだろう?」

 頷くとまずは先ほど拾った鍵を試してみることにした。鉄棒となんら変わらないような簡単な作りの鍵を錠前に差し込み回す。するとあっさりと開錠できてしまった。

 錠前を外し牢を開けると騎士が感謝の言葉を述べた。

「ありがとう、助かった。私はカリムの騎士ロートレク」

 手招きするロートレクに従い屈み込む。

「貴公には感謝している。これがその礼だ」

 そう言ったロートレクから受け取ったのは、比較的綺麗な鉄製の鍵だった。

「不満か? だが人の好意は素直に受け取るものだ。それに鍵の対価として鍵だ。理にかなってはいるだろ?」

 ロートレクのその言葉が冗談なのか本気なのかは分からなかった。

 先だって牢から出るが、ロートレクは座り込んだままで動こうとはしなかった。

「お互い明日も知れぬ身だ。すぎた馴れ合いはなしにしておこうぜ」

 もともと協力を無理強いするために助けたのではない。ロートレクを残し階段を下っていった。

「これで自由だ。使命を果たすこともできる……。クックックック……」

 呟きが淀んだ風に乗って、背中に届いてきた。

 

 梯子を上がり継いだ教会の最上部、屋根へと続く出入り口にそれはあった。

 太陽を思わせる輝くサイン。

 文字を読む前にそれが誰によって書かれたのかわかるほどの存在感だ。

 思わずこぼれた笑みをそのままに、ソラールのサインに触れる。するとサインが揺らめき、黄色に輝くソラールの霊体が両手を斜めに掲げた奇異な体勢で現れた。

 互いに一礼すると教会の屋根へと進み出る。

 広い屋根の上は見晴らしがよすぎた。緩い傾斜がついているのと相まって、十分な広さがあるにも関わらず一歩一歩に手に汗握る思いだ。屋根の両脇には守護者たるガーゴイルの石像が立ち並び、教会の外を威圧するかのように見下ろしていた。鐘楼にも二体のガーゴイル像が置かれていて、こちらは斧槍を持っている。

 そして正面の塔の上、これまで目指し進んできた鐘楼が手が届かんばかりの所に見えた。

 ここまで来ておいて足を滑らさ落下してしまってはあまりにも情けない。慎重に足下を確認しながら進む。

 屋根を半ばまで来たとこで、金属が軋むような音が聞こえ足を止めた。まさか屋根が崩れようとしているのかと思い、辺りを見回したが違う。それに音は鐘楼の方から聞こえてくる。

 見上げる視界の中で石像だと思いこんでいた鐘楼のガーゴイルが動き出したのだ。

 畳んでいた羽を広げ立ち上がると目覚めを告げる唸り声をあげた。そして羽を打ち鳴らし跳躍したガーゴイルは屋根の上へと降り立った。

 武器を構えるこちらに向かい、ガーゴイルは腹の底に響く威嚇の咆哮を発した。教会の守護者として何人たりとも、ここは通さないつもりらしい。

 こちらとしても引き下がるわけにはいかない。いくらガーゴイル相手とはいえ、幸いこちらは二人だ。上手く立ち回れば十分に戦える。

 先陣を切ったソラールに続きガーゴイルに走り寄る。ソラールが上手く誘導し、がら空きになった腹部に剣を振り下ろす。

 金属とは違うが、明らかに堅い手応え。加えて出血も苦痛を感じている様子もない。動きを止めるには致命的な一撃を加えるしかないようだ。

 横薙ぎの斧槍を後ろに飛び退ってかわす。この隙に死角に移動したソラールがガーゴイルの太股を大きく切り裂く。

 これは流石に効いたようで、ガーゴイルが大きくよろめいた。このまま連携し削っていけば、倒し切れそうだ。

 再び手番が回ってきたところで、両手に持ち替えた剣を振りかぶ――。

 次の瞬間、猛烈な衝撃を受けた身体が宙を舞っていた。混乱するなか機を逸したソラールが尻尾の一撃を受けて倒れるのが見えた。

 屋根に放り出された身体が勢いそのまま縁に向かって転がっていく。剣の柄で勢いを殺し止まった時には片足が空中へと飛び出していた。

 屋根の中央付近を見て、ようやくなにが起こったのか理解した。新たに現れたもう一体のガーゴイルに弾き飛ばされたのだ。

 さらに付け加えると、その新しいガーゴイルは今まさにこちらに狙いを定め大口を開けている。暗い口の奥で火種がくすぶって見えた。

 この体勢で転がってもたかが知れている。後ろは遙か地上で、盾を構える余裕もない。

 万事休すかと覚悟を決めたその時、光が視界を遮った。

 ソラールだった。

 ガーゴイルが吐き出す燃えさかる火炎は、ソラールの構える盾に阻まれこちらまで到達しない。それどころかソラールは自ら進み出て火炎を押し返すと、息継ぎの間を縫って剣を突き出した。

 大口を貫かれたガーゴイルが声にならない悲鳴を上げた。さらに口を横に切り裂こうとするソラールにもう一体の尻尾が迫る。

 一閃、立ち上がりざまに振り抜いた長剣がガーゴイルの尻尾を切り落とす。こちらの援護を信頼していたソラールは火炎ガーゴイルに止めを刺した。

 残る一体は形勢不利と悟ったか、背中の両翼を羽ばたかせ空中へと飛び上がる。

 剣が届かない所まで上昇し反転しようとしたガーゴイルにソラールの放った雷の槍が飛来する。

 ガーゴイルは回避しようとするが間に合わず翼を撃ち抜かれてしまう。痺れを負ったガーゴイルが落下する。

 地面に迫るガーゴイルめがけて、長剣を突き出し突き刺さる感覚と同時に振り抜く。

 倒れ込む胴体の横を斬り飛ばされた頭部が転がり落ちていった。

 戦いが終わり心強い協力者を見ると、例の両手を太陽に掲げる格好のまま自分の世界へと戻っていった。

 

 鐘楼を頂く塔の中は、ただ梯子が続くだけの拍子抜けするほどになにもない所だった。

 石の壁を目前に黙々と梯子を上り塔の最上階へと到達する。屋外にかけられた梯子を手に汗握りながら上りきると、ついに鐘楼へとたどり着いた。

 鐘楼からは牛頭デーモンのいた大城壁や金仮面の騎士に敗北を喫した石橋が一望できた。反対側には鬱蒼とした森や崖に立つ古城、その背後の山上にそびえる城壁。

 ここロードランの地はどれだけ広がり、どれほどの苦難が待ち受けているのだろうか……。

 鐘楼に設置されたレバーに手をかけ、全体重を乗せて引き倒す。

 それでもこうして一つ目の鐘にたどり着けた。

 頭上の大鐘がゆっくりと動き出す。

 

 きっと乗り越えていける。

 

 これからの旅路を祝福するかのように、鐘は鳴り響く。

 


 
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