No.357447

そらおと 新春スペシャル 智樹のお年玉

*選択肢4~7が追加となりました

みなさま、新年あけましておめでとうございます
本年がみなさまにとって良い年となりますことを心より願っております

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2012-01-03 16:13:19 投稿 / 全8ページ    総閲覧数:3165   閲覧ユーザー数:2759

そらおと 新春スペシャル 智樹のお年玉

 

 俺の名は桜井智樹。

 股間の超電磁砲(レールガン)を使えばイカロスのイージスさえも貫通して勝利できるごく普通の男子学生だ。

 そんな俺は普通の少年らしくごく普通に正月を謳歌している。

 そしてよく覚えていないが何かの爆発に巻き込まれて、全裸で頭から地面に突き刺さって気絶したまま山中で年越ししてしまった。

 が、こんなことは2人に1人は体験する普通の年越しだろう。

 まあそんな訳で俺は今、元旦の朝の空美町を全裸のまま闊歩している訳だ。

 まだイカロスたちには新年になってから顔を見ていないが、会った時にでも挨拶しておけば良いだろう。

 さて、もうしばらく正月の空美町を楽しむとするか。

 うん?

 俺の前方で急に人の波が左右に割れ始めた。

 モーゼでも現れたのかと思って前方を注視すると……いたっ!

 正月の寒空の下白い薔薇をくわえて全裸で優雅に闊歩する男の姿が。

 あの優雅な身のこなしは……

「高坂京介お兄さんじゃないですか!」

 お兄さんは俺の存在に気が付いた。

「やあ、智樹じゃないか」

 お兄さんは薔薇をくわえたまま器用に返事してきた。

 京介お兄さんとは以前全日本紳士連盟の総会で知り合った仲。

 妹さんをはじめとする年下の少女の為だけに紳士を磨いている妹に特化した紳士だ。

 お尻を引き締めながらもプリンと揺らしながら歩くその様は俺よりも遙かに紳士の領域に達している凄い人でもある。

「お兄さんは何で空美町に?」

 お兄さんは確か千葉に住んでいる筈。しかも高校3年生で受験に忙しいはず。

 何故、福岡にいるんだ?

「実は妹たちにビッグなお年玉をあげようと思ってな」

「妹さんたちに福岡名物を買いに来たんですか?」

「いいや、違う」

 お兄さんは首を横に振った。

「俺からの贈り物は俺自身の美しい裸身とこの光る汗さ」

 お兄さんは髪をかき揚げた。すると大きく玉のような汗が飛び散った。

 周囲の人々がビビリながら引いていく。

「紳士である俺は最も美しいこの俺を妹たちの眼福にみせてやることに決めた。で、より耽美になる為に千葉から歩いて運動している内にここに到着してしまったと言うわけさ」

「すげぇ。さすがは日本一の兄ですね」

「あんまり誉めるなよ」

 お兄さんはもう一度髪をかき揚げた。

「智樹も親しくしている女の子にはちゃんとお年玉をあげないとダメだぞ」

「ええ、わかりました」

 俺の目指す紳士にそう言われるとそんな気分になってくる。

「じゃあ俺は妹たちにお年玉をあげに千葉に帰るぜ」

「気をつけて」

 お兄さんはお尻を振りながら颯爽とターンしてモデル歩きで去っていく。

「待っていろよ、ブリジットちゃん、日向ちゃん、珠希ちゃん。まったく、小学生は最高だぜっ!」

 そしてお兄さんは視界から消えていった。

 お兄さんの妹の名前は桐乃だったと思うけれど、細かいことを気にしても仕方がないな。

 

「俺もお年玉をあげないとなあ」

 やはり俺も紳士として普段接している子たちにお年玉をあげない訳にはいかないだろう。

 だが、年末にエロいものに大量投資した俺に金銭的余裕はない。

 なので最初に会った子に最大限のもてなしを集中させることにしよう。

「よし、今日初めて会った子に俺の全力の愛を捧げよう」

 方針は決まった。

 さて、後は誰に会ってしまうかだが。

 考えている内に前方から見知った少女が1人歩いてくるのが見えた。

「あいつは…………よしっ!」

 俺は誠心誠意もてなす女の子を目の前の少女に決めた。

 俺はあの子だけの紳士になるっ!

 俺が出会った子。それは

 

 1. イカロス  2pへ

 2. ニンフ   3pへ

 3. アストレア 4pへ

(以下は後ほどアップ)

 4. そはら   

 5. 日和    

 6. カオス   

 7. 美香子

 8. 月乃

 9. 守形

 10.智蔵

 

 

 

 1. イカロス

 

 俺の正面から歩いて来たのはイカロスだった。

「おぅ。イカロス~」

 イカロスに向かって大きく手を振る。

 イカロスは俺に気づいたみたいだった。

「……マスター。……シュン」

 だが、俺の顔を見るなり俯いて落ち込んでしまった。

「お、おい。一体どうしたんだよ?」

 イカロスの元へと近寄る。

 イカロスは今にも泣きそうな顔をしていた。

「……私は、マスターを吹き飛ばしてしまいましたから。……シュン」

「あ、ああ。そうだったな」

 イカロスの言葉に思い出す。昨夜の真相を。

「でもまあ、あれは不幸な偶然が重なった結果だから、別にイカロスが悪い訳じゃないさ」

 俺は昨夜のことを思い出した。

 

 

『アストレア、テメェっ! 俺の海老天ぷらを取るんじゃねえっ!』

『へっへ~ん。油断する智樹の方が悪いんだもんね~』

 俺はアストレアといつものようにおかずの取り合いをしていた。

『アンタたちも毎日よく飽きないわねえ』

 ニンフの面倒くさそうな、あまり関心のない瞳が俺たちに向けられる。

 だが、そう言いつつニンフは自分の年越しそばが俺やアストレアに取られないようにしっかりガードしている。

 ニンフの鉄壁のガードは必然的に俺とアストレアの抗争を激化させた。

 そして抗争の激化が、悲劇を招いた。

『『あっ!?』』

 俺の箸とアストレアの箸がぶつかったショックで手元を離れて飛んでいき、テレビに思い切りぶつかった。箸が凄い勢いでぶつかった衝撃でテレビは台から落下した。

 そして、テレビの下には、配膳用にイカロスが一時的に置いておいたスイカがあった。

 スイカは、イカロスが夏ごろから食べずに大事にとっておいたものであり、外観はよく保存されているものの、中身はスカスカなものだった。

 重いものがぶつかる衝撃に耐えられる訳がない。

 後はもう話す必要もないだろう。

 俺とアストレアは逆鱗に触れたイカロスにミサイルで吹き飛ばされた。

 

 

「うん。考えれば考えるほどに俺とアストレアが悪いのだからイカロスは気にする必要がないぞ」

 イカロスの頭を撫でながら宥める。

「……でも、私はマスターに酷いことをしてしまいました。グスン」

 イカロスはまだ落ち込んでいる。

「そんな気にすることはないぞ。俺もアストレアも爆発には慣れているからな」

 イカロスに向かって白い歯を見せる。

 実際、俺たちにとって爆発に巻き込まれることなど日常茶飯事。気付いたら年を越してしまったのが普段と異なるぐらいで後は日常の出来事。

 だからイカロスが気にする必要は何もない。

「……でも、マスターと一緒に除夜の鐘をつく約束をしていたのに。グスン」

「そうかそうか。イカロスは俺と除夜の鐘をつけなかったことを悲しんでいたのか」

「……はい。マスターと約束しましたから」

 落ち込むイカロスの頭を撫でてやる。イカロスは義理堅い奴なので、些細なことでも約束違反は嫌なのだろう。

 だから代わりに新たな約束を提案する。

「確かに除夜の鐘つきは出来なかったが、初詣は一緒に行けるだろ? 2人で行こうぜ。俺からイカロスへのお年玉だ」

「よろしいのですか?」

 イカロスがパッと顔を輝かせた。まあ、傍目にはいつも通りの無表情なんだが、長い間一緒にいるので表情の微妙な違いはよくわかる。

「ああっ、全然オッケーだぜ」

 イカロスには料理や家事全般をいつも世話になっているからな。

 小さなご褒美ぐらいはなくちゃ嘘だもんな。

「では空美神社に今から初詣に行きましょう」

 イカロスの服装が私服から一瞬にして鎧へと早変わりする。それからすぐに俺を背後から羽交い締めにしてきた。

「おいっ! 何か凄く嫌な予感がするっぞ」

 そして残念ながらこういう時の俺の予感はほぼ100%の確率で的中する。

「……これからマッハで空美神社に向かいます」

 ほらっ。

「マッハってどれぐらいかな?」

 イカロスは最高速度マッハ24で飛行できる。つまり、この場合マッハとは全速力の比喩ではなく、実際に超音速で飛行することを意味する。

 そして個人的な体験に基づけばマッハ20を超えたら死ぬ。

「……全速力マッハ24でです」

 うん。死ぬな。

 完璧に。

 人生は意外と死に満ち溢れているものだなあ。

「イカロス、俺は神社に辿り着いたら是非言いたいことがあるんだ」

 死ぬ前にイカロスにはどうしても伝えておきたいことがある。

「……言いたいこと、ですか?」

 イカロスが首を捻った。

「俺の人生を賭けてどうしても言わなきゃいけないことだ。俺と、お前の未来の為に」

「……未来の、為?」

 イカロスの体が震え始めた。ホワイ?

「……そ、それは」

 声まで震えている。だから、一体何故?

「……マスターは私にプロポーズしようとしている。そう考えてよろしいのでしょうか?」

「えっ?」

 あの、イカロスさんは一体何を言って?

「……私は、いつだってマスターと共にあります。ポッ」

 イカロスは頬をポッと染めた。

 俺が遺したい未来への伝言は──

 

 俺のエロ本を自分の命よりも大事にしてくれる新しい所有者をみつけてください

 

 なんだけどなあ。

 まあ、イカロスが嬉しがっているのなら、それを伝言にしても良いか。

 悪い、気はしないしな。うん。それが正しい気がする。

 そうか、今まで気付かなかった俺はイカロスのことを……。

 何でこのタイミングで気付いちゃうかなあ。

「……それでは、出発します」

 イカロスが翼をはためかせ始めた。

 この命尽きる前に言うべきことはちゃんと伝えておかないとな。

「いつも、家の中のことをしてくれてありがとうな」

「……私は、マスターのお側にいられればそれで幸せです」

「本当に、ありがとうな」

 俺を抱きしめたイカロスの体がゆっくりと上空へと舞い上がっていく。

 どう見ても必要ないようなあと思うほど高く舞い上がっていく。それに伴ってスピードも高まっていく。真上に向かってマッハ10を超える速度で飛んでいる。

 マッハ15を超えた辺りで俺の意識は朦朧となり、20に迫った所で何がなにやらもう少しもわからなくなった。

20を超えて体がもう欠け始めた。次々に失われていっている。

 だから俺は、自分の意識と体が完全に消失してしまう前に言ったんだ。

 

「イカロス……俺、お前のことが大好き、だぜ……ずっと、側にいるからな……」

 

 俺は最初で最後の大好きをイカロスに告げた。そして俺は今から魂だけの存在となってずっと彼女の側にいることを最期に心に誓った。

 

 イカロス ずっと側にいるよエンド

 

 

 2. ニンフ

 

 俺の正面から歩いて来たのはニンフだった。

「おぅ。ニンフ~」

 ニンフに向かって大きく手を振る。

 ニンフは俺に気づいたみたいだった。

「智樹なんて……フンっよ」

 だが、俺の顔を見るなり横を向いて顔を逸らしてしまった。

「お、おい。一体どうしたんだよ?」

 ニンフの元へと近寄る。

 ニンフは腕を組んで怒っているポーズを全身で表している。

「智樹が昨夜私に何をしたのか忘れたとは言わさないわよ。まだ、許さないんだからね」

「あ、ああ。そうだったな」

 ニンフの言葉に思い出す。昨夜の真相を。

「あ、あれは、悪戯心がちょっとエスカレートしただけでいつもの悪ノリだったんだよ」

 俺は昨夜のことを思い出した。

 

 

『よし、年末の内に来年の抱負を考えておこう。実現不可能クラスな超ビッグな夢をな』

 年越そばを食べ終えて、俺はホッと一息吐きながら来年を迎えるに当たっての準備をし始めた。

 俺は空美町を代表するビッグな男。夢もそれに合わせてビッグじゃなきゃいけない。

そう、イカロスのカードを使えば全知全能にもなれるこの俺をもってしても実現不可能に思える超ビッグな夢をな。

『どうせエッチな誓いでも立てるつもりなんでしょ』

 しかし、俺が大望を掲げようとしている横でニンフは俺をジト目で疑っていた。

 その失礼な誤解は俺を苛立たせた。

『失敬なっ! 俺はエロいことなんて考えてないっての!』

『嘘ね。どうせ女湯を覗きたいとか、複数の女の子にモテたいとか、そんなことを考えているんでしょ!』

 ニンフの決め付けに腹が立ち、やり込めてやりたい衝動に駆られた。

『ヘンッ! 俺が例え女湯を覗きたいと願ったとしてもニンフだけは覗かないから安心しろ』

『どういう意味よ、それ?』

 ニンフの鋭い視線が飛んで来る。だが、俺はその怒りに屈しなかった。

『ニンフみたいなペッタンコな貧乳なんか頼まれても見たくないっての!』

『なんですってぇ~~っ!』

 貧乳はニンフにとって決して口にしてはならないタブーだった。ニンフは溶鉱炉の如く燃え上がりながら俺を睨んだ。

 だが、若さゆえに無謀だった俺は更に挑発を続けてしまった。

『そうだ。来年の抱負はニンフの胸を大きくすることにしよう。アストレア並に大きくする。それが絶対に実現不可能な俺の来年のミッションだぜ』

『ぷすすぅ~。ニンフ先輩の胸を大きくするなんてシナプスの科学力を全部使っても不可能なことなのに。桜井智樹は受けを狙いすぎ。ぷすすすぅ~』

『絶対に不可能なことを可能にするのがロマンってもんじゃないか。はっはっは』

 後はもう話す必要もないだろう。

 俺とアストレアは逆鱗に触れたニンフにパラダイス・ソングで吹き飛ばされた。

 

 

「なあ、謝るから機嫌直してくれよ」

 両手を合わせて謝る。

「フンッ! 智樹なんて知らないんだから!」

 ニンフはまだ怒ったまま。どうすりゃ良いんだ?

「どうせ智樹は胸の大きい女の子にしか興味ないんでしょ? フンっだ!」

 昨夜ニンフのコンプレックスを弄り過ぎてしまったらしい。頭がそれに集中している。

 ここで胸の大きさなんか関係ないと述べてみることは可能だろう。だが、俺のように前科があり過ぎるダーティーな過去を持つ男の言葉はなかなか信じてもらえないに違いない。

 となると、俺がやるべきことは……。

「初志貫徹。ミッションを遂行することのみ!」

「はぁ?」

 ニンフが訳がわからないという風に首を傾げた。

「ニンフっ!」

「なっ、何よ?」

「俺は、お前の胸を大きくするっ! それが俺からのニンフへのお年玉だぁっ!」

 大声で宣言する。

「な、何を言ってるのよ!? 私はエンジェロイドなのよ。体型が変わる訳がないじゃない!」

 ニンフが両腕で胸を隠しながら1歩後ろに下がった。戸惑っている。

「どんなに不可能に見える絶望的なミッションでも遂行してしまう。それがこの俺、無敵のキラさまと魂を同じくする桜井智樹さ」

 白い歯を光らせながらニンフに手を差し伸べる。そう、美声を持つ俺ならきっと覚醒するだけでどんな困難も乗り越えられてしまう筈なんだ。

 だが、ニンフは激しく首を横に振った。

「私の胸は……シナプスのカードでも、7つの玉を集めて呼び出した神龍でも、どんな望みでも叶える万能の願望器聖杯でも大きく出来なかったのよ」

「既に色々試してみたんだな……」

 ニンフも相当な努力を重ねてはみたらしい。でも、無理だったと。

 だが、それは俺がいなかった時の努力だ。

「俺に任せろ!」

 ニンフの手を握る。

「俺なら絶対にニンフの胸をでかくしてやれるさっ!」

「具体的にはどうやって?」

 ニンフのジト目が更に飛んで来た。

 さて、どうすれば良いだろう?

 ここはお決まりの胸を揉んでみるという方法を提案してみるか?

 いや、言った瞬間にパラダイス・ソングでぶっ飛ばされて今度こそ殺されそうだ。

 それに、胸を揉むと大きくなるというのは科学的根拠に乏しいらしいしなあ。

 じゃあ、何と提案する?

 どうすると胸は確実に大きくなるんだ?

「ママのおっぱい、大きいね」

「女はね、赤ちゃんが出来ると胸が大きくなるのよ」

 その時たまたま、以前嵐の際に超電磁砲を用いて雨雲を吹き飛ばして助けた母娘が通り掛かった。

 若い人妻はとても大事なことを喋りながら通り過ぎていった。それは、俺が捜し求めていた解に他ならなかった。

「そうかっ! 子供かっ!」

 ニンフの両手を硬く握り締めながら告げる。

「ニンフ、子供を作ろうっ!」

 俺は町中に響き渡る声で解決策を提言した。

「こ、こ、子供って一体何を言っているのよ!?」

「胸を大きくする為の唯一の方法だぜっ!」

 俺にはもうこれしかこのミッションを遂行する方法が思い付かない。いや、多分、神にさえ見捨てられたニンフの胸を大きくするには他に方法はない。

「さあ、俺と一緒に子供を作ろうぜ!」

 ダイダロスにでも一緒に頼みにいけばどうにかなるのかな?

「アンタ、来年の抱負って……最初から私に子供を生ませることが目標だったのね!」

「へっ?」

 あの、ニンフさんは顔を真っ赤にしながら何を言って?

「私のことが好きなら、私のことが欲しいならちゃんと最初から言いなさいよ!」

「あの、だから、ニンフさん?」

 ニンフは俺の背後に回って飛び上がり始めた。

「あんな遠まわしな告白をするなんて……智樹はツンデレ過ぎるわよっ!」

「え~と……ニンフさんが何をおっしゃっているのかよくわかりませんが、一体僕たちはこれからどこへ向かおうとしているのですか?」

「アルファたちに邪魔されない……パラダイスよ♪」

 こうして俺はニンフと共にイカロスたちが追い掛けて来られない地球より云十万光年の彼方にあるイスカンダルへと旅立っていった。俺の目標は地球に納まらないビッグだった。

 

 ニンフ 生まれた娘にすぐ胸の大きさで抜かれてコンプレックスはまた始まったエンド

 

 

 3.アストレア

 

 俺の正面から歩いて来たのはアストレアだった。

「おぅ。アストレア~」

 アストレアに向かって大きく手を振る。

 アストレアは俺に気づいたみたいだった。

「桜井智樹……た、助けてぇ~~」

 だが、俺の顔を見るなりその場にグッタリと倒れこんでしまった。

「お、おい。一体どうしたんだよ?」

 アストレアの元へと近寄る。

 アストレアは地面にうつ伏せで手足を伸ばしてエネルギー不足を全身で表している。

「昨夜イカロス先輩とニンフ先輩にぶっ飛ばされて何も食べていないからお腹が空いて死にそうなの」

「あ、ああ。そうだったな」

 アストレアの言葉に思い出す。昨夜の真相を。

「イカロスもニンフもやり過ぎだったよなぁ。俺たちが悪いのは確かなのだが」

 俺は昨夜のことを思い出した。

 

 

『その天ぷら、寄越せぇええええええぇっ!』

『何の猪口才なっ!』

 俺とアストレアは年越そばを巡って己の分も食べずに互いに激しく奪い合いを繰り広げていた。

 その時に悲劇は起きた。

『『あっ!?』』

 ぶつかった衝撃で箸が飛び、スイカを直撃。その衝撃でスイカは真っ二つに割れてしまった。

『ひぃいいいいいいいぃっ!! イカロス先輩に殺されるぅ~~~~っ!?』

 慌てふためくアストレア。

 確かにこの事態がバレれば俺たちは確実に消されてしまうに違いなかった。

『と、とにかくこのスイカを隠さなければっ!』

 台所に行っているイカロスがここに戻って来るまで時間的な余裕はない。

 スイカを遠くに捨てに行く余裕は俺たちになかった。

 そして、俺たちが当惑している間にイカロスの足音が近付いてきた。

『もう迷っている暇はねえ!』

『どうするの、智樹?』

『俺がスイカを隠す場所……それはこれだぁっ!』

 そう言って俺は……ニンフの胸にスイカをしまった。

『ふぅ~。スイカップという言葉もあるぐらいだからな。スイカを隠すには胸の中ってな』

『ナイスよ、智樹っ』

 安心して額の汗を拭う。だが……

『…………マスター、アストレア。スイカを、ダメにしましたね?』

 イカロスは怒りに燃えた瞳で俺たちを見ていた。イカロスは完璧にして巧妙な筈の俺の偽装を見抜いてしまったのだ。一体、何故?

『智樹……アンタ、覚悟は出来ているのでしょうね?』

 ペッタンコからスイカップへと進化を遂げたニンフも怒りに満ちていた。一体何故?

 改めてニンフを見る。何もなかった平地にそはらでさえ到達できない巨大な山脈を抱えるニンフ。……あっ!

『しまったぁ~~っ! スイカを収納する女の子を間違えたぁあああああぁっ!』

 完璧な筈の作戦に僅かに生じたミス。

 それは、ニンフの巨乳が有り得ない程の違和感を生むことだった。

 アストレアの胸に収納すれば良かったのだ。だが、気付いた所で後の祭りだった。

『……マスター、アストレア。死のお仕置きです』

『智樹っ、デルタっ! 死になさいっ!!』

 後はもう話す必要もないだろう。

 俺とアストレアは逆鱗に触れたイカロスとニンフの波状攻撃で吹き飛ばされた。

 

 

「だけどさすがにそろそろイカロスもニンフも怒りを解いている頃じゃないのか?」

 イカロスはスイカ、ニンフは胸のこととなると我を忘れて怒りに駆られる。

 けれども、アイツらは根が良い奴らなので、いつまでも引きずりはしない。そろそろ帰っても大丈夫な頃ではないだろうか?

「さっきこっそり桜井家を覗いて見たけれど、2人とも後1万年は許さないって。戻ってきたら私たちのことを殺すって」

「1万年とは長いなあ~」

「エンジェロイドにとっては一瞬みたいな時間の長さだけどね」

「わぉ~~」

 エンジェロイドと人間の時の流れの違いをこんなにも憎く感じたことはない。

「とりあえず、桜井家にはもう二度と戻れないな」

「せっかく手に入れた温かいお家での生活がぁ……」

 地面に手をついて落ち込んでみせるアストレア。

 ちなみにアストレアを正式な居候にした覚えはない。

「そして一刻も早くこの空美町から離れよう」

 アストレアの手を握る。

「えっ?」

「俺がアストレアを守り抜いてやるよ。それが、俺からお前へのお年玉だっ!」

 アストレアが今切実に欲しているものは身の安全に違いなかった。

 だからその安全を確保してやるのが俺からアストレアへの一番のお年玉なのだ。

「守るって……智樹に怒ったイカロス先輩たちを防げる訳がないでしょっ!」

 アストレアは顔を真っ赤にしながら吼えた。

「だから、2人でこの街を出ようって言ってるんだよ」

 俺はアストレアの手を硬く握り締めた。

「アンタなんかと一緒に逃げたら……私は本当にもう一生イカロス先輩たちに顔向けできないじゃないのよ。……バカ」

 アストレアは俯いて、俺にバカと何度も繰り返しながら首を縦に振った。

 こうして、俺とアストレアは空美町を去った。

 

『1年間旅をしていて俺はようやく自分の気持ちに気が付いた。好きだ、アストレア!』

『気付くのが遅いわよ! 私は旅に出る前から好きだったんだからね、バ~カ』

 

『俺と結婚してくれ、アストレアっ!』

『私は一緒に旅に出た時から智樹の奥さんになってるつもりだったんだからね、バ~カ』

 

『可愛い女の子を産んでくれてありがとうな』

『娘も私も両方幸せにしてくれなきゃ許さないんだからね、バ~カ』

 

 俺がアストレアと共に空美町を出てから20年ほどの月日が流れた。

 俺はとある地方の小さな町工場で働きながらアストレアと娘を養っている。

 エンジェロイドであるアストレアは旅に出る前と同じ若さを保っており、今では娘の方が年齢が上に見られることもある。

 その娘だが、バカな両親から生まれた子供とは思えないほどに頭が良く、何と今年の春からメガネエリート大学への進学が決まった。

「ねえ、あなた」

 仕事から帰り、風呂に入ってからビールで一息吐いていると、妻が話し掛けてきた。

「何だ?」

 妻は何だか神妙な顔をしていた。

「智樹はさ、後悔していないの?」

「だから何を?」

「だってあなたは空美町にいた頃、イカロス先輩をはじめ沢山の女の子に人気があったじゃない。私が奥さんになっちゃって良かったのかなって、時々不安になるんだ」

「空美町にいた時から、俺とアストレアは一番波長が合っていたじゃないか。その俺たちが結ばれたのは、別に不思議なことだとは思わないぞ」

 妻の手を握って目を見詰める。

「よしっ。なら、俺のお前への愛情を示す為に2人目の子供を作ろうじゃないか。娘も春から東京で2人きりで寂しくなるからな」

「別に、そういうことを言っていたんじゃ……智樹のバ~カ、エッチ」

 妻は昔のように俺を批難しながら目を瞑り俺と唇を重ねて来たのだった。どうやらベビー用品をまた一から集めないといけないようだ。

 

 アストレア アストレアお母さんは園児に混じって遊ぶのが大得意ですエンド

 

 

 

 4.そはら

 

 俺の正面から歩いて来たのはそはらだった。

「おぅ。そはら~」

 そはらに向かって大きく手を振る。

 そはらは俺に気づいたみたいだった。

「智ちゃ~ん。良かったぁ。無事に生きててくれたんだぁ」

 だが、俺の顔を見るなり地面に座り込んでしまった。

「お、おい。一体どうしたんだよ?」

 そはらの元へと近寄る。

 そはらは地面に女の子座りしたまま顔だけ上げて俺を潤んだ瞳で見ている。

「やっと……恋人同士になれたのに、いきなり未亡人なんて嫌だよ」

 そはらは泣きそうな顔で頬をプクッと膨らませた。

「あ、ああ。そうだったな」

 そはらの言葉に思い出す。昨夜の真相を。

「いつものことながら会長は無茶苦茶してくれるからなあ」

 俺は昨夜のことを思い出した。

 

 

『それで桜井くんは~一体誰を恋人に選ぶのかそろそろハッキリしないと会長お冠よ~』

『あのぉ~俺には何が何やらさっぱりなんスけど?』

 昨夜、俺は会長の家に呼ばれていた。いや、呼ばれていたという言い方は正しくない。

 外をちょっと散歩していたらいきなり車で拉致されて会長の前に連れて来られていた。

『桜井くんは今すぐ、見月さんか風音さんかカオスちゃんか。誰を恋人に選ぶのかはっきり告げてくれれば良いのよ~』

 いつものようにこの世全ての悪な笑みを浮かべる会長。そして会長の言う通り、この部屋にいたのは俺と会長だけではなかった。そはらと日和とカオスがいた。

 そはらと日和は戸惑った表情で俺を見ている。カオスはクレヨンでお絵かきして遊んでいる。ダメだ、このメンツじゃこの世全ての悪な会長には勝てない!

『あの、智ちゃんに恋人を決めてもらうって……イカロスさんたちを抜くのはおかしいんじゃ?』

 そはらが控えめながらも俺と会長を見ながら意見を述べた。

『3人がここにいないということは~桜井くんの恋人になる資格に欠けているということだから~別に構わないわ~』

『資格に欠けてるってどういうことですか?』

『詳しくは言えないのだけれど~イカロスちゃん、ニンフちゃん、アストレアちゃんは~スイカ、りんご飴、山盛りおむすびの誘惑に勝てなかったのよ~』

 3人の身に何が起きたのか大体理解できた。進歩ねえな、アイツらも。

『という訳で~桜井くんよりも食べ物を選んでしまった3人は除外して、恋人を今すぐこの場で決めてもらうわよ~』

 会長の目が俺を向く。それに続いてそはらと日和の戸惑った視線が続く。

 何だこれ? 何でみんなが幸せ一杯の大晦日の晩に俺は人生の重大決議をしないといけないわけ?

『え~と、選ばないという選択肢を取った場合にはどうなりますか?』

 会長はニヤリとこの世全ての悪な笑顔を見せながら答えてくれた。

『手始めに~桜井くんの家にあるエロ本を全て焼き尽くすわ~』

『アンタ、悪魔か!』

『そして止めに~福岡県中にある全てのエロ本を~焼き尽くして新規の流通も禁止させるわ~』

『そんなことになるならいっそ殺してくれ~~っ!』

 会長のことだから殺されることぐらいは覚悟していた。だが、会長の用意した残虐は俺の命を取るより遥かに恐ろしいものだった。

『じゃ~、桜井くんのお嫁さんをこの場で決定してね~』

『さっきよりグレード上がってる!?』

 残念ながら俺にはこの世全ての悪の言うことを聞くしかなかった。福岡中の全てのエロ本を人質に取られてしまってはもう他に方法はない。

 俺は考えた。

 3人の中で誰を恋人にするかを。

『わ~いわ~い。お絵描きお絵描き~♪』

 ガキンチョのカオスは選択肢から外す。となると、残りは……

『智ちゃん……』

『桜井くん……』

 不安げな表情で俺を見るそはらと日和。

 2人とも学校を代表する美少女。しかも性格は良い。面倒見もバッチリ。そしてこんな俺を好いていてくれる。

この2人から1人を選んで俺の恋人に指名しろだなんて。……やべぇ。これ、超難問じゃね?

 2人の内、どちらかを選ぶなんて俺には決められねえ。そんなこと、不可能だ。

『さあ~桜井く~ん。答えを出す時が来たわよ~』

 そはらと日和が顔を近付けてきた。

 俺は、俺はどうしたら良いんだ、エロ本の神様~~っ!?

 ハッ! エロ本?

 そうか、答えはエロ本にあったんだっ!

『日和っ! 話を聞いてくれ』

『はっ、はいっ!』

 日和が顔を赤くしながら背筋を伸ばした。

 そんな彼女に対して俺は深々と頭を下げた。

『俺は日和の気持ちに応えられない。いつかの告白に応じられないんだ。ごめん!』

 馬鹿でスケベでどうしようもない俺を好きだと言ってくれた日和。俺はあの時天にも昇る心地だった。でも、日和の気持ちに応えることはできない。

『…………私は、桜井くんの本当の気持ちが聞けて嬉しかったです』

 日和の瞳から涙が溢れる。彼女に酷いことをした自覚を持ちながらそはらへと向き直る。

『そはらっ!』

『はっ、はいっ!』

 今度はそはらが背筋を伸ばした。

『俺はそはらが好きだっ! 俺と付き合ってくれっ!』

『…………私で良いの? 智ちゃんの周りには私より可愛くて優しい子がいっぱいいるんだよ?』

『そはらじゃなきゃダメなんだ!』

 そはらはボロボロと両目から涙を流し、そして──

『不束者ですが、末永くよろしくね。智ちゃん……』

 俺の手をギュッと握ってくれた。

『アラアラ~予想外にすんなりカップルが誕生したわね~。桜井くん、見月さん、おめでとうよ~』

 会長は俺とそはらを見ながら微笑んだ。この人にも少しは良い所があったらしい。

『でも~、会長はまだ英くんと恋人同士になってないし~、振られちゃった風音さんも悲しんでいるから……ムカつくんで~死んで頂戴ね、桜井くん♪』

『へっ?』

 会長に一瞬でも気を許した俺がバカだった。俺は会長が手にしていたシナプス製っぽい、謎の光線銃でいきなり撃たれた。

『幸せ者には死、あるのみなのよ~』

『智ちゃ~んっ!?』

 出来たばかりの恋人の悲鳴を聞きながら俺は大空へと舞い上がっていった。

 

 

「それでさ、智ちゃん。日和ちゃんじゃなくて、私を恋人に選んでくれた理由って何なのかな?」

 そはらがモジモジしながら尋ねてきた。

「答えはエロ本、だぜ」

 俺はサムズアップしながら爽やかに答えた。

「何、それ?」

「いや~、そはらの前だとエロ本読んでいても気兼ねしないで済むからな~。日和の前で堂々とエロ本読むのは俺の良心が痛む」

「そんな理由で私を恋人に選んだなんて……智ちゃんのバカぁ~~~~っ!」

 そはらの殺人チョップで再び大空を舞う俺。

「そはらと一緒に居る時はいつも自然体でいられて心地良いんだよ」

 俺の呟きはそはらに届いたのかどうか定かではない。

 

 そはら 智樹のエロ本は怒った新しい恋人にみんな焼き払われたエンド

 

 

 

 5. 日和

 

 俺の正面から歩いて来たのは日和だった。

「おぅ。日和~」

 日和に向かって大きく手を振る。

 日和は俺に気づいたみたいだった。

「桜井くん。良かった。無事だったんですね」

 だが、俺の顔を見るなり胸に手を当てて息を撫でおろした。

「お、おい。一体どうしたんだよ?」

日和の元へと近寄る。

日和は俺の顔を見たと思ったら、顔中を真っ赤にして俯いてしまった。

「桜井くんと恋人同士で迎える初めてのお正月だなって思うと緊張しちゃって」

「あ、ああ。そうだったな」

 日和の言葉に思い出す。昨夜の真相を。

「タクっ。会長ももうちょっと俺たちの仲を素直に祝ってくれれば良いものをさ」

 俺は昨夜のことを思い出した。

 

 

『それで~、桜井くんと風音さんが会長に話ってなぁに~?』

 大晦日の夜、俺と日和は会長の自宅を訪れていた。

 会長の家にそはらとカオスがいたことは驚いたが、考えようによっては都合が良かった。

 1人1人別々に伝える手間が省ける。精神的な負担も減るし。

『この度、俺と日和は恋人同士として付き合うことになりました。それを報告しに参りました』

 日和と2人会長に向かって深々と頭を下げる。

『空美町のゴッデスである~会長に報告に来るのは良い心がけだわ~』

 会長は首を縦に振って頷いた。

『でも~報告すべきは会長じゃなくて~他にいるんじゃないの~?』

 会長が視線を横へと移動させる。その視線の先には、体を小刻みに震わせて俯いているそはらの姿があった。

『智ちゃん……日和ちゃんと付き合うことにしたんだ』

 そはらは俯いたまま尋ねた。

『ああ。日和とはクリスマスを契機に恋人同士になったんだ』

 そはらの放つプレッシャーが大き過ぎて顔をまともに見られない。でも、そはらの気持ちは鈍い俺でもさすがにわかっている。だから、伝えることは伝えておかないいけない。

『今日、イカロスたちに俺たちの仲を伝えて、それから出発前にそはらの家を2人で訪ねたんだがいなかったんだ。だから、報告が遅くなってしまってごめん』

 そはらに会長に対してよりも深々と頭を下げる。

 そのまま、数十秒の時が過ぎた。

 そして頭上から声が聞こえてきた。

『智ちゃんと日和ちゃんはさ……今、幸せ?』

 それは泣いているような、怒っているような、喜んでいるような、様々な感情が混じっているのが見て取れる声だった。

 でもきっとそれはそはらにとって一番大切な質問に間違いなかった。

 だから、俺と日和は精一杯の回答を伝えた。

『俺は、日和と恋人同士になれて本当に今、幸せなんだ』

『私も、桜井くんと結ばれて本当に幸せです』

 日和の手をそっと握る。

 この手の暖かさが幸せなんだと今の俺は確信を持って言える。

『智ちゃん……日和ちゃんのことを一生幸せにしてあげなきゃダメなんだから』

『お、おうっ』

『日和ちゃん……智ちゃんはだらしなくてエッチな男の子だけど、簡単に見捨てたりなんかしたら私許さないからね』

『勿論です』

 2人して顔を上げる。そこには指で涙を拭きながら笑っているそはらの姿があった。

『素敵な恋人が出来ておめでとう。智ちゃん、日和ちゃん』

 そはらはとても綺麗な顔で俺たちの仲を認めてくれた。

『会長は~血みどろの愛憎劇を期待していたのに~見月さんも~風音さんも良い子過ぎて~ちょっと残念だわ~』

 だが、この世全ての悪は惨劇を所望してやまなかった。

『というわけで~会長が~振られてしまったイカロスちゃんたちや見月さんのジェラスの怨念を桜井くんにぶつけるわ~。カオスちゃ~ん。桜井くんに全力の一撃をお願いね~』

『うん。わかった』

 そして疑うことを知らない第二世代型エンジェロイドは悪にそそのかされて、自身の持つ強大な戦闘力を遺憾無く発揮してくれた。

 後はもう話す必要もないだろう。

 俺はカオスの無邪気な全力攻撃を受けて大空へと吹き飛ばされていった。

 

 

「桜井くん、あれだけの攻撃を食らって体は無事なんですか?」

 日和は俺の体を心配そうにみつめる。日和はイカロスたちと違って俺が酷い目に遭っている場面をそんなに目撃していないから、こういう時に普通に心配してしまうらしい。

 その不安を解いてあげないとな。

「ああ。服が吹き飛んで全裸になってしまった以外は特に問題はないさ」

 全裸で外を歩き回るのは紳士にとっては当然の行為だから困ることは何もない。

「は、裸……っ」

 日和の頬が急に真っ赤になった。どうやら今になって俺が全裸でいることを強く意識したようだった。

「おいおい。裸ぐらいで真っ赤になってどうする? 俺たちが結婚したら、毎日のようにもっとすごい状態の俺を見ることになるんだぜ」

「結婚、したら……」

 日和は顔どころか全身を真っ赤にして体中から湯気を吹き出した。

「お、おい。大丈夫か、日和?」

 倒れてしまいそうになる日和を支える。

「桜井くんは、その……将来、私と結婚してくれるのですか?」

「付き合うって将来は結婚するもんじゃねえの?」

 結婚を前提としたお付き合いってのが男女交際じゃないのか?

「不束者ですが、桜井くんに呆れられないように精一杯頑張りますのでよろしくお願いします!」

 日和は勢い良く頭を下げた。日和は何ていうか、本当に真面目な女の子だ。

 と、その時になって周囲の視線が一斉に俺たちを向いているのが見えた。

 俺1人なら、この視線は俺の全裸に熱視線を送っているものと快感も覚えられるが、日和まで好奇の視線に晒させる訳にはいかない。

「初詣までだろ? 一緒に神社に行こうぜ」

 日和の手を取って歩き出す。

「あの、でしたら、初詣が終わった後にうちに寄って行ってもらえませんか? 弟たちに桜井くんのことを紹介したいので……」

「将来のお義兄さんって紹介してくれるんだな。行くぞ」

「桜井くんが……そう紹介して良いのなら……そうします」

 日和の顔がまた一段と赤くなった。

 本当に純情な女の子だよな、日和は。でも、だ……。

「今年からは俺に農作業のやり方を教えてくれ」

「えっ?」

 日和が驚いた表情で俺を見た。

「だってこれからは俺たちで風音家の生活を支えていかないとダメだろ? だったら、俺だって農作業が出来るようにならなきゃな」

 日和は誰よりも純情で初心な女の子。でも、彼女の背負っているものは、俺たちの中の誰よりも生活の重みを感じさせる。

 日和と付き合うにはメルヘンチックな気分だけじゃいられない。

「私、農業に関しては厳しいですよ」

 日和はまた涙を零しながら言った。この子は本当、涙もろいんだよな……。

「滅茶苦茶厳しいぐらいでないと、怠け者の俺はなかなか覚えないから丁度良いさ」

 日和の手を力強く握る。

 日和の横に立ち続ける為には、ただの中学生でい続ける訳にはいかない。日和と弟たちを支えてあげられる大人にならないといけない。

「俺、立派な大人を目指すから。だから、ずっと俺のそばにいて欲しい」

 俺は日和に今年の願いを小さな声で、けれどしっかりと伝えた。

 

 日和 全裸の智樹を紹介した所弟たちに微妙な引かれ方をしたエンド

 

 

 

 6. カオス

 

 俺の正面から歩いて来たのはカオスだった。

「おぅ。カオス~」

 カオスに向かって大きく手を振る。

 カオスは俺に気づいたみたいだった。

「お兄ちゃ~んっ!」

 カオスは俺の顔を見ると嬉しそうに両手をブンブンと大きく振った。

「おう、とっても嬉しそうだな」

カオスの元へと近寄る。

カオスは俺の顔を見て満面の笑みを浮かべた。

「お兄ちゃんが愛を教えてくれるって言ったから、会うの楽しみにしてたんだよ」

「あ、ああ。そうだったな」

 カオスの言葉に思い出す。昨夜の真相を。

「タクっ。会長もそはらも暴力的過ぎだっての」

 俺は昨夜のことを思い出した。

 

 

『桜井くんは今すぐ、見月さんか風音さんかカオスちゃんか。誰を恋人に選ぶのかはっきり告げてくれれば良いのよ~』

 大晦日の街を散歩しながら歩いていると、黒服のお兄さんたちに捕まり五月田根家へと連れて行かれ、こうして会長と対面することになった。

 俺の目の前にはそはら、日和、カオスが座っている。この3人から今すぐ恋人を選べと言うのか? 無茶ぶりにも程がある。

『ちなみに選ぶのを拒否すると~福岡中のエロ本を焼き尽くして今後この県はエロ本が流通しない土地になるから~』

『ひ、ひでぇっ!』

 俺にはもはや誰かを恋人と告げるしか選択肢は残されていなかった。

 だが、チキンな俺にはそはらと日和のどちらを恋人にするかなんて選べる筈がなかった。

『こうなったら……ええ~い!』

 俺は目を瞑ってその場でグルグルと回り出した。10周した所で回転を止めて前へ向かって歩き出す。このフラフラした状態で最初に飛び込んだ女の子を恋人にするぜっ!

 そして、俺の足は早速誰かの足にぶつかった。俺はその子を力いっぱい抱きしめながら大声で宣言した。

『俺の愛している子はこの子なんだぁああああああああぁっ!』

 ゆっくりと目を開ける。俺が抱きしめていた女の子は……。

『カオスもお兄ちゃんのことを愛してるよ♪』

 ……幼女エンジェロイドだった。

『桜井くんはカオスちゃんを選んだのね~。おめでとう~』

 会長がクラッカーを鳴らした。

『いや、これは何かの間違いでしてね……』

 そはらか日和かの二択のつもりだったのに、まさかお子ちゃまカオスを選んでしまうなんて……。

『でも~桜井くんがお色気ムンムン美少女見月さんでも、癒し系美少女風音さんでもなく一番幼いカオスちゃんを選ぶなんて~』

 会長は俺を見ながらニヤっと笑った。

『ロリコンペド野郎~ってヤツね~』

『ち、違うっ!!』

 俺は慌てて誤解を解こうとした。けれど、全ては遅すぎた。何故なら口論に熱くなった俺はずっとカオスを抱きしめたままだったから。

『桜井くんが……そんな幼い女の子が好きな人だったなんて……さようならっ!』

『ひ、日和~~っ!』

 日和は泣きながら駆け去ってしまった。

『さあ~見月さ~ん。この世に絶対に存在してはならないロリペド野郎が目の前にいるわよ~。正義の刃で引き裂いてやってね~』

 会長の言葉にはっとする。振り返ると、聖剣エクスカリバーと呼ばれるチョップを構えたそはらが立っていた。

『智ちゃんが選んだのが……日和ちゃんだったら私は諦めがついたのに。カオスさんを選ぶなんてあんまりだよ、智ちゃんっ!』

 そはらの右腕からは黄金、ではなく暗黒のオーラに満ち溢れていた。

 後はもう話す必要もないだろう。

 俺はそはらの殺人チョップを受けて大空へと吹き飛ばされていった。

 

 

「お兄ちゃん、大丈夫?」

 カオスが心配して俺を覗き込んできた。

 身長差があるので股間を覗き込まれているような体勢になって、何だか気分が盛り上がって来る。

「ああ。地面に墜落時に受身を心掛けていたからな。そんな酷いダメージは受けてないさ」

 こんなこともあろうかとユーキャンの通信講座で受身を習っておいて良かったぜ。

「良かった~」

 安堵の笑みを浮かべるカオス。

 コイツはガキンチョだが、その分根も素直で、このように人を心配する心も持っている。俺に躊躇いもなく暴力を奮って何とも思わない会長やそはらと大違いだ。

「お兄ちゃん。カオスに愛を教えてね♪」

「う~ん。愛か……」

 さて、この世の中の何たるかも知らないガキンチョにどう愛を教えるべきか。

 ガキンチョ? そうかっ!

「カオス、大人の姿に変身してくれ。そうすれば愛の何たるかも見えてくるに違いない」

 まずは形から入る。大人モードになっていれば愛が何かも自然とわかるかもしれない。

「うん。わかった♪」

 一瞬の後、カオスは俺よりも背の高いスレンダーな美人へと変身を終えた。胸の大きさこそアストレアやイカロスに及ばないものの、体から発せられる色気や大人の雰囲気は全エンジェロイドで一番だ。

「よし、この格好でデートに出掛けるぞ。愛を知る為の練習だ!」

 気分が盛り上がった所でデートに連れ出す。ガキンチョには興味ないものの、大人と化したカオスを連れ歩くのは十分ありだ!

「わ~い。お兄ちゃんとデ~ト、デ~ト♪」

 カオスも喜んでいる。これは楽しいデートになるかもしれなかった。

 と、前方から大量の警察車両が俺たちに向かって走ってきた。

 警官たちは一斉に聞き込みを開始した。

「この付近に幼女に愛を教えると嘘を吹き込もうとする悪質なロリペドが徘徊していると通報がありました。お心当たりのある方は至急警察までお知らせください」

 危ねえ所だった。俺がもしカオスを幼女のまま連れ歩いていたら、ロリペド絶滅条例に引っ掛かって裁判なしの死刑になる所だった。間一髪だったぜ。

「おい、そこの君。ちょっと立ち止まりなさい」

 警官の1人が話し掛けてきた。だが、今の俺は年上にしか見えない大人カオスを引き連れた健全カップルにしか見えない筈。職質された所で怖いことは何もない。

「君は手を繋いでいる女性とどういう関係かね?」

 フッ。今の警察は恐るるに足らず。俺は奴らを馬鹿にしてやることにした。

「見てわかんないっすか? 俺たちこれからデートに行く所なんですけど?」

 デートを強調して述べる。

「お兄ちゃんにね。大人の愛をいっぱいいっぱい教えてもらうんだよ♪」

 カオスも俺に援護射撃を送ってくれる。

 小さい手に似ず、既に大人の対応が出来るようになっているじゃねえか。

 うん? 小さい手?

「デート? 大人の愛?」

「そ~すよ。俺たちこれから大人のデートに向かうんですから邪魔しないでください」

 言いながら違和感を覚える。右手の感触に。

「本部へ緊急連絡。ロリペド野郎を発見。速やかに拘束に入る。抵抗する場合は射殺する」

「へっ?」

 警官の無線連絡に疑問を感じて横を見る。するとそこには幼女に戻ったカオスがいた。

「大人の姿は歩きにくいから、元に戻ったの」

 無邪気に微笑むカオス。害意はまるでないのがコイツの特徴だよな。

「10年後には出てくるから……その時には大人のいい女に育っていろよ」

「うん。いつまでも待ってるから♪」

 こうして俺は長い長いお勤めを果たすことになった。カオスの待ってるという言葉と笑顔を希望の糧にしながら。

 

 カオス 10年後出所してきた智樹は大人カオスと仲良く暮らしましたとさ エンド

 

 

 

 7. 美香子

 

 俺の正面から歩いて来たのは会長だった。

「会長うっす」

 会長に向かって頭を垂れる。

 会長は俺に気づいたみたいだった。

「桜井く~ん」

 会長は俺の顔を見ると嬉しそうにこの世全ての悪な笑顔を浮かべた。

「とっても嬉しそうっすね」

会長の元へと近寄る。

会長は俺の顔を見て含みがあり過ぎる笑みを浮かべた。

「さあ、桜井く~ん。恋人ごっこを続けて英くんをジェラスさせるのよ~」

「あ、ああ。そうでしたっすね」

 会長の言葉に思い出す。昨夜の真相を。

「タクっ。カオスもガキンチョだからって暴力的過ぎだっての」

 俺は昨夜のことを思い出した。

 

 

『桜井くんは今すぐ、見月さんか風音さんかカオスちゃんか。誰を恋人に選ぶのかはっきり告げてくれれば良いのよ~』

 大晦日の街を散歩しながら歩いていると、黒服のお兄さんたちに捕まり五月田根家へと連れて行かれ、こうして会長と対面することになった。

 俺の目の前にはそはら、日和、カオスが座っている。この3人から今すぐ恋人を選べと言うのか? 無茶ぶりにも程がある。

『ちなみに選ぶのを拒否すると~福岡中のエロ本を焼き尽くして今後この県はエロ本が流通しない土地になるから~』

『ひ、ひでぇっ!』

 俺にはもはや誰かを恋人と告げるしか選択肢は残されていなかった。

 だが、チキンな俺にはそはらと日和のどちらを恋人にするかなんて選べる筈がなかった。

『こうなったら……ええ~い!』

 俺は目を瞑ってその場でグルグルと回り出した。10周した所で回転を止めて前へ向かって歩き出す。このフラフラした状態で最初に飛び込んだ女の子を恋人にするぜっ!

 そして、俺の足は早速誰かの足にぶつかった。俺はその子を力いっぱい抱きしめながら大声で宣言した。

『俺の愛している子はこの子なんだぁああああああああぁっ!』

 ゆっくりと目を開ける。俺が抱きしめていた女の子は……。

『あらあら~桜井くんが会長を恋人に選ぶなんて~♪』

 ……この世全ての悪だった。

『智ちゃんは会長のことが好きだったのっ!?』

『そう言えば桜井くんのお母さんは、会長さんのことを彼女だと認識していましたよね』

 誤解は悪い方向に広がっていく。会長、この嫌がらせを仕掛けたのはアンタだろう?

だったら、この悪い流れをアンタの悪で断ち切ってくれ!

『ウフフフフ~。会長は桜井くんから求愛を受けているモテモテ美少女~。これは使い勝手が多いシチュエーションよね~。ウフフフフ~』

 ダメだ。この世全ての悪を人間が利用しようなんて土台無理な話だった。

『まず手始めに~イカロスさんたちを嫉妬に狂わせて世界の主要機関を壊滅~。会長が世界の頂点に立っちゃおうかしら~?』

『手始めに世界征服ってどんだけ悪なら気が済むんだよ、この人はっ!』

 悪に染まった会長を止められるのは守形先輩しかいない。こうなったら守形先輩を呼んでこようと思ったその時だった。

『でも~最優先目標は~桜井くんとのラブラブを見せ付けて~英くんを嫉妬させることよね~♪』

『『『えっ?』』』

 俺とそはらと日和は声を揃えて驚いた。いや、だって会長の最優先目標がそんな中学生の女子じみた行動だなんて……。いや、会長も自称15歳なのだけど。

『さあ~桜井く~ん。会長とイチャついて~英くんをジェラスさせるのよ~。そして英くんと会長を賭けて決闘して~敗れてお空のお星様になって会長たちを見守っていてね~』

『俺もう死ぬのまで確定なんすか?』

『英くんを手に入れる為には~安い生贄が必要なのよ~』

 会長の言葉には微塵も迷いも躊躇いも見られない。本気で俺を生餌にするつもりだ。

 勿論こうなったことに俺にも非があるのは認める。だが、殺されるほどのことかと言われれば断じて違う。こうなったら会長に反旗を翻すしかないっ!

『智樹お兄ちゃんも守形お兄ちゃんも渡さないもんっ!』

 だが、俺よりも先に怒りを露にした存在がいた。カオスだった。

『フッ。さすがはこの物語で唯一二股をかけているカオスちゃんね。モテモテな会長を消そうという訳ね~。合理的な判断だわ~』

 モテモテじゃない会長が少しも合理的でない分析を述べる。

『智樹お兄ちゃんも守形お兄ちゃんもカオスのなんだから~~っ!』

 カオスは最大級の火力攻撃を会長に向けて放った。この攻撃を受ければ会長といえども、本気で死ぬんでない?

 だが、会長は少しも慌てなかった。

『桜井くんバリア~』

『えっ?』

 会長が俺を迫り来るビームの盾とした。何の躊躇も一切の無駄なく。

 後はもう話す必要もないだろう。

 俺はカオスの謎光線を受けて大空へと吹き飛ばされていった。

 

 

「さぁ~桜井く~ん。会長と英くんの輝かしい未来の為に死んで頂戴ね~」

 会長は俺の首に縄を掛けた。

「会長はその黒い衝動を抑える術を身に着けないといつか痛い目見ますっすよ」

「桜井くんの遺言~確かに聞き入れたわ~」

「いやぁ~~っ! 俺はまだ生きている~~っ!」

 会長は縄をぐいぐいと引っ張りながら俺を引きずっていった。

 

 会長は俺を守形先輩が寝泊りしている川原まで引っ張ってきた。まったく、俺以上に自分の欲望に忠実過ぎる人だぜ。

 さて、その守形先輩はすぐにみつかった。

「守形お兄ちゃ~ん♪」

「へぇ~。メガネには魔道書10万8千冊分の知識が蓄えられているのね」

 ダイダロスとカオスというバリバリシナプス最前線組に囲まれていた。

「まったく、新大陸は最高だなっ!」

 先輩も心なしかいつもより艶々しているように見える。鉄仮面の癖に。

 だが、そんな楽しそうな風景を見た程度でどうにかなる会長ではなかった。

「英く~ん。私は桜井くんとお付き合いしようかな~なんて考え中なのよ~。英くんは~どうしたら良いと思う~?」

 会長は露骨な誘導に掛かった。守形先輩に嫉妬させる気だ。だが──

「まったく、新大陸は最高だなっ!」

 先輩は微動だにしない。さすが、あれだけ関係を噂されながら決して付き合うことがなかった2人。見事すぎるまでのすれ違いを見せてくれている。

「私はこのままだと~桜井くんに傷物にされちゃうかも~」

「まったく、新大陸は最高だなっ!」

 俺も鈍い鈍いとニンフやそはらによくバカにされる。そうなのだろうという自覚程度はある。だが、先輩のそれは俺以上なんじゃないかと思う。

「このままだと桜井くんを殺して私も死ぬ無理心中の道しかないわ~」

「何故、この展開で無理心中なんだよ!」

 会長の言葉に危険なものを感じて咄嗟に逃げようとする。だが、首に巻きついた縄は俺の逃亡を許さなかった。

「私は桜井くんのお母さんにも公認の彼女扱いされているのよ。桜井くんとの無理心中は歴史の必然なのよ」

「まったく、新大陸は最高だなっ!」

 く、苦しい。い、息が……。

「手始めに桜井くんを殺して私がどれほど本気なのか見せるわ!」

「へっ?」

 ボキッと何かが折れる音がした。命が折れる音だと気付いたのはそれから一瞬後だった。

「でも、私が死んだら英くんはきっと泣いてしまうから、私は生きることに決めたわ!」

 そりゃあねえよ。そう思いながら俺は意識が白く霞み、次いで黒に染まるのを最期に感じたのだった。

 

 美香子 明らかなバッドエンドもたまには来てみたくなるよねエンド

 


 
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