「正直な話、別にあたし達学生って、年が明けてもなんか実感ないというか、四月が来てやっと年が変わった、って感じだよね」
「……フィーアにしてはちょっとまともなこと言ってるわね」
「あたしにしてはって、どういうことよ!結構あたし、鋭いトコもあるじゃん!」
「単純だから、直感だけは鋭いということだにゃ」
「単純で悪いかー!純真無垢で良いでしょ!可愛いでしょ!」
『………………』
「なんで黙るのよー!」
うぐぅ、ちょっと叫び過ぎて喉が痛い……空気が乾燥してるしね。
そんなこんなで大晦日、年明けは勿論、それぞれの家で祝うことになっているんだけど、昼間の内はあたしの家に集まって、忘年会的なことをすることになっている。
といっても、お酒は飲めないし、愚痴愚痴言うこともあんまりないから、いつも通りのうだ話。
「まあ、フィーアが可愛い云々の話は良いとして、確かにクラス替えは四月にあるんだから、私達からしてみればカレンダーが替わって、西暦が一つ進む程度のイベントよね。三学期のスタートが近付くという意味では、確かに憂鬱かもしれないけど」
「寒さが本格的になって来るのも一月からだにゃ」
「シャロンには辛い季節、ってことだね」
猫娘(ワーキャット)族が火に弱くて、猫舌というのは種族として皆共通のことだけど、シャロンは特に寒さにも弱い。
何故かといえば、同年代だというのが信じられないぐらい小柄で、こう言うとアレかもしれないけど、物凄く肉が薄くて、体の作りがまず冬には適していない。
かといって、温かいものを飲んで暖を取るのも難しいのだから、後は厚着するしかないんだけど、シャロンは厚着をしたがらない、という謎のプライドがある。
どういうものかというと、本人いわく「厚着をするとボディラインが隠れる=甘え」。十六歳の現在でつるつるぺったんなんだから、もう巻き返しは難しいと思うんだけど、本人は絶対に豊満な体になってやるつもりらしい。
あたしは、今のまま合法ロリ路線で行くべきなんだと思うんだけどなー。
「だからさ、いまいちおめでたい感じもしないよね。というか、今のお祝いしている感じも、昔からやってるからなんとなーく続けてるだけだよね」
「……なにこのフィーア。私の知っているフィーアじゃないわ」
「あたしだよ!正真正銘、あたしだよ!」
「じゃあ、スリーサイズを言うにゃ」
「上から83、57、80!Dカップよ!どう!」
「……今初めて知ったわね。ファンクラブにいくらぐらいで売れるかしら」
「リサーチ班が盗撮と盗聴で既に掴んでいるから売れないと思うにゃ。それよりは、今日の下着の色の方が良いにゃ」
「なるほど……フィーア、何色?」
「みずい……って、そんなの言う必要ないでしょ!」
……というか、あたし、盗撮とかされてんの!?
い、一応家のセキュリティとかは、大丈夫だと思うんだけど……服とか下着も全部オーダーメイドだし……。
まさか、そっちに内通者が!?いやいやいや、女の人だし……はっ!そっち系の人!?
で、でも、そういうのはプライバシーの侵害というか、著作権の問題というか、最近の法律改正で妖魔界に時効はなくなったというか……えっと、兎に角その、なんというか、その、アレだよ!アウトだよ!
セーフに限りなく近かったとしても、アウトなものはアウトだよ!許されないんだよ!許されざるんだよ!
「……いつものフィーアね。安心した」
「いつまでも、馬鹿なフィーアで居てほしいものだにゃ」
「だから、馬鹿じゃないもん!ちょっと抜けている所があって、天然さんで、天真爛漫で破天荒なだけだもん!」
「……要約すれば、愚直?」
「愚直ダッシュにゃ」
ぁーぅー。
フィーアです。年の瀬に来て、なんか友達が冷たいとです。
フィーアです。あたしは一応、主人公とです。
「話を大幅に戻して、と。フィーアは、年末だからって新年を温かく迎える様な気が無い訳ね?」
「ま、まあ、そうなるかな。ふーん、来たんだ?的なノリで」
「中々に悪魔的思考だにゃ」
「でしょ?だからあたしは今日、カウントダウンもしないし、年越しの瞬間にジャンプしたりもしない!ついでにバイクもヘルメットしないで乗るから!」
「……免許ないでしょ?」
「無免許!しかもそのバイクは盗んで来たので!」
「ついでに校舎の窓ガラスを割って、軋むベッドの上で優しさを持ち寄れば上出来にゃ」
「う、うん!善処する!」
「ここで自信満々に啖呵を切れないのが、フィーアの良さよね……」
「ただのヘタレとも言うにゃ」
「にゃ!?」
「……人のお家芸を取らないで欲しいにゃ」
いやいやいや。全然、無意識だったよ。今。
というかシャロン、にゃって言うのが嫌いだって言ってたし、そこに態々ツッコミを入れなくても良かったんじゃ……。
うん、そういえば、シャロンの語尾って可愛いよね。というか、シャロンって可愛いよね。ネコミミだし、ロリいし、しっぽとか引っ張りたくなるし!
ということで、引っ張ってみる。
「えい」
すかっ。
シャロンのしっぽを掴んで、引っ張ろうとした瞬間、にゅるりと手の中からしっぽが逃げて行った。
「えいっ」
今度はしっぽに巻いてあるリボンを掴もうとしたけど、やっぱりするり、と逃げて行く。
「なんで引っ張らせてくれないのよ!」
「痛いからに決まってるにゃ。あたし達獣魔にとって、どれだけ尻尾が大事か知ってるのかにゃ?」
「切ったら、死んじゃうって言うよね」
「……それ、迷信にゃ」
「ええっ!?」
そ、そんな。十六年間信じて来たのに……!?
そういえば、歴戦の猛者と言われる様な軍人の人には、しっぽの切れてる獣魔も居た様な……。
「けど、命に関わるぐらい大変なことであるのは確かにゃ。そもそも、獣魔は動物の化身。本来ならば四足で立っているべき生き物にゃ。それが何故、二足歩行出来ているのか。それは、尻尾でバランスを取っているからにゃ。あたし達獣魔は何気なく歩いている様に見えて、尻尾を細かく動かし続けているんだにゃ」
「へぇー。大変なんだねー」
「……完全に他人事かにゃ。だから、尻尾が切られると、物凄く歩くのが大変になるにゃ。若い内はそれでも、足腰が強いから何とか歩けるけど、老人ともなると杖か車椅子に頼る必要があるにゃ。ついでに言えば、尻尾さえあれば獣魔は死ぬ直前まで元気に走り回れるというにゃ。まあ、他の悪魔に比べると、百年生きるか生きないかの命だがにゃ」
……そうだった。獣魔というのは、どうしても他の悪魔より短命で知られている。
元々が十年ぐらいしか生きない動物なんだから、十分長生きしているんだけど……どうしても、あたし達と同じ時間は過ごせなくて、老化も早い。
「……シャロン」
「今更、何浮かない顔をしているにゃ。だから、フィーアは馬鹿なこと言って笑っていれば良いんだにゃ。あたしはそれが好きだし、楽しんでいるんだから……にゃ!?」
気が付くと、あたしはシャロンを抱き締めていた。
本気で力を入れてしまうと、壊れてしまいそうなぐらいに華奢なその体を。
「……キマシタワー」
「う、うっさいなぁ!別にそんなんじゃないよ!……ただ」
年末ぐらい、シャロンと濃密な時間を過ごしたいな、と思った。
ちっちゃくて、だけど生意気な毒舌家なこの子と、離れたくないと思った。
「うぅん……!離すにゃ!胸、当たってるにゃ!嫌みかにゃ!」
「うん、シャロンも早くこれぐらい育ってね」
「ふ、ふん!勿論にゃ!今に吠え面をかかせてやるにゃ!」
こうして、大晦日の数時間は過ぎて行った。
明日は、初詣。来年の幸福を祈るのも良いけど、素敵な友達と一年間過ごせたことを、感謝しても良いかな、と思う。
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安定の百合。キマシ・タワー(妖魔界歴2012年6月30日完成予定)