No.355370

真・恋姫無双  ある冬の日

y-skさん

溢れんばかりの愛を感じ取って頂ければ幸いです。

関東の人間にはどうしても関西弁は難しいですね……

2011-12-31 02:39:08 投稿 / 全6ページ    総閲覧数:2894   閲覧ユーザー数:2518

朝である。

何処かの誰かは、冬の素晴らしさは早朝にありましょう、と言っていたが冬の朝ほど苦手なものは無かった。

 

 

寒い。ただひたすらに寒い。

 

現代っ子であり、科学の産物である文明器具とともに育った北郷一刀には大陸の冬は優しくはなかった。

クーラーや扇風機のないこの世界での夏も厳しくはあったのだが水浴びができるだけ幾分かはマシである。

それに比べ冬は服を幾重にも着込むか、度数の高いアルコールを摂取する以外に暖を取れる術はなかった。

湯浴みでもできればいいのだが、この世界では風呂に湯を張るにも多大な労力と費用を必要とするために、

いくら寒いからといって連日のように湯船につかることはできない。

 

非番とはいえ蒲団に包まりガクガクと震えている自分を見れば、剣術の師でもある実の祖父は、弛んでいる、だとか、

軟弱者だとかと言いそうなものだが祖父自身、冬場は炬燵でぬくぬくとしているのを俺は知っている。

 

そう、炬燵である。

こちらの世界に馴染みすぎたせいか、冬期における最終兵器の存在を今の今まで思い出せずにいたのは中々に不覚であった。

ならば、一刻も早くあの温もりを求めようと、寝巻きを脱ぎ捨て、頼れる発明家の元へと赴くことにしよう。

 

 

 

 

「真桜。起きろ、真桜。」

 

本来、朝一番に女性の部屋を訪ねることほど失礼なことは無いが、緊急時である。もはや、頭の中は枯野よろしく炬燵に潜り込む自分で一杯なのだ。

 

「なんや、たいちょ~。こないな朝もはよからに……朝駆けでもしにきたん?いくら非番だからって、ちょっと元気すぎやあらへん?

 悪いんやけど、ウチ、まだ寒くて床から出たくないんねん。出直してもらえへん?」

 

「色々と言いたいことはあるが、その寒さを打開するための絡繰を作って欲しいんだよ。」

 

俺の国のね、と真桜にとっては止めになるであろう言葉を続けると、興味を惹かれたのが丸判りな程に目を輝かせる。

 

輝かせているのだが、自身の格好と状況を思い出したのだろう。

眉を顰めながら

 

「取り敢えず後で話は聞かせて貰うんで、隊長、着替えたいから出てって貰えん?」

 

そう言われると俺は退室する他に無かった。

 

 

 

 

着替えを済ませた真桜と朝食を取りながら、炬燵、恐らく電気炬燵は無理なので掘り炬燵についての説明をできる範囲で伝えていく。

 

いくら真桜でも流石に電気炬燵は無理だよね……?

何でも有りなこの世界では出来そうな気がしてちょっと怖い。

 

 

「簡単に言うと卓の下の床を掘り下げて、底に火鉢置く。後は卓に布団を被せて天盤を載せる。といった感じなんだけど……」

 

どう、出来そうかな?と続ける前に真桜が口を開く。

 

「構造自体は何となくやけど理解はできたわ。」

 

じゃあ、と口に出し、喜びを露わにしようとする俺に、真桜は、待て、と言わんばかりに掌を突き出すと中々の無理難題を投げてきた。

 

 

「隊長が言うコタツっちゅうもんは屋内で使うもんなんやろ?」

 

 

あぁそうだ、俺は掘り炬燵を説明する時、何と言ったのか。

 

 

床を掘り下げてと言ったのだ。

 

 

「庭ならまだしも、建物の中に穴掘るん言うなら、まずは華琳様に許可貰わな、ウチにはどうにもできんねん。」

 

隊長が使いたい言うんなら、華琳様の説得は隊長に任せたで、そう言い残して去っていく真桜を恨めしめに眺めながら、

俺は普段以上に頭を回転させるのであった。

 

 

 

 

目的の場所に近づくにつれ背筋が伸びてくるのが自分でも分かる。

結局、華琳を頷かせるほどの理由が見つからず、出たとこ勝負にする他なかった。

 

華琳付きの侍女に在室かを訪ねたのち扉を軽くノックする。

 

「華琳、俺だ。ちょっといいかな?」

 

入りなさい、という返事を待ってから室内へと歩みを進める。

 

 

 

落ち着いた調度品の中で物憂げに頬杖を突く少女の姿は一枚の絵画を思わせた。

冬特有の、仄かな温かみを感じさせる日差しは、彼女の髪を金紗織りのように美しく見せる。

少々、だらしなさをも見受けられる姿勢は、普段纏っている覇気を消し去り、何処にでもいる唯々、美しいだけの少女へと変えていた。

 

最も、何処にでもいる、というのは彼女の容姿を顧みてみるに、大いに語弊があると言わざるを得ないが。

 

 

 

「さてと、今日は貴方に仕事は回していなかったはずだとは思うのだけど。」

 

居住まいを正し、口元にシニカルな笑みを浮かべながら、また何か問題でも起こしたのかしら、と覇王様は仰る。

 

それでは、まるでいつも俺が問題を起こしているみたいじゃないか。

確かに騒動になることは多いけど、大抵は春蘭だとか桂花が原因であって、俺は自発的に問題を起こしたことは無いぞ。

 

多分……、きっと……、maybe…

 

 

 

 

 

ともかく、彼女に来訪の目的を告げることにする。

 

 

「なぁ、最近寒くはないか?」

 

問いかける俺に、そんなもの、冬なのだから当然でしょう、と呆れたように返す彼女。

 

「世間話をしたいのなら、またにしてはくれないかしら?」

 

貴方は休みでも私は忙しいのよ、とでも言うように竹簡の束を顎で示す。

 

「まぁ、もうちょっと話を聞いてくれ。ここの所冷え込んできたから、天、俺がいた国の暖房器具を作ろうかという話を

 真桜としてたんだけど、設置するのに幾つか問題があってね。そのあたりのことを華琳と話し合いたいんだ。」

 

「天の国の……興味深いわね。続けなさい。」

 

華琳に促され本日二度目となる炬燵の説明を終える。

 

 

「成る程。話はわかったわ。いいでしょう、許可します。」

 

あっさりと出た許可に耳を疑いながらも聞き返す。

 

「えっと、城の中に炬燵を作って良いってこと?」

 

「貴方は何を聞いていたの?それとも、その顔の横に付いている物は飾りなのかしら?」

 

「いや、華琳ってこういう物には反対しそうだったから。」

暑さ寒さなんて気の持ち様でどうにでもなるものよ。

道具に頼るな、とまでは言わないけれども、何でも便利な物に縋るのは良くないわ。って言いそうだしね、と続ける。

 

よく分かっているじゃないと微笑んだ彼女は一つ、息をついてから幼子に説くように語り始める。

 

「確かに物に頼りすぎるのは良くないわ。でもね、私は民にまで同じ気概を持てと言うつもりはないの。

 今回の……こたつ、だったかしら?

 それが上手くいけば庶民にも回すつもりよ。話を聞く限りだとある程度安価で手に入りそうな物ですしね。

 穴を掘ることだって一定の水準以上の家屋ならば相応の職を手に着けた者でなければ倒壊の恐れもあるのでしょう?

 新たな職種が増えるのならそれだけ経済は回るわ。」

 

それとも……貴方はただ自分が楽したいだけだったのかしら?と悪戯っぽく微笑む彼女は実に魅力的であった。

 

「わかった。それなら有り難く作らせてもらうよ。それで設置する場所なんだけれど……」

 

「それならもう決めてあるわ。一刀、あなたの部屋に作りなさい。」

 

 

 

 

 

無事、華琳から許可を取り付けた俺は真桜ともに炬燵の設置に取り掛かった。

 

 

 

そして、ついに、この時が来たのだ。

 

「お、おぉぉ、温い。」

 

感激だ 懐かしき哉 この温もり (字余り)by北郷一刀

 

「はぁ~、こりゃ中々ええもんやなぁ。隊長が作りたい言うんも分かるわぁ。」

 

完成した炬燵を堪能している俺と真桜。この時はまだ幸せだった。

 

 

それからはどこから聞きつけたのか、次々と炬燵の魔力に魅入られた魏の面々が俺の部屋に集うようになった。

霞は炬燵に入っての晩酌。

季衣と流琉は、時折連れ沿って炬燵で寝ている所を見かける。

風邪を引くぞと言っても聞かない二人は、そろそろ炬燵で寝た後の頭痛という洗礼を味わうことになるだろう。

春蘭は足を入れた途端に、妖術かと叫びながら七星餓狼を取り出し炬燵を断ち切ろうとした。

君は炬燵とはどの様な物かという俺の説明を聞いていなかったのだろうか。

桂花も一度味わった温もりから脱するのは難しいらしく、ありとあらゆる趣向を凝らした罵声を、

発案者である俺にプレゼントしてくれながらも炬燵から出るつもりはないらしい。

罵声を聞かされる度に呆れながらお茶を啜っている稟の身にもなってやれ。

 

そして特に風。俺は君の顔を見てない日は無いんだが。

 

「お兄さんがこんなにも良い物を独り占めするのがいけないのですよー。」

 

「俺は声に出した覚えはないんだけど。」

 

普段なら眠たげに開けているはずの目を完全に閉じたまま、風は何かと一流なのでお兄さんの心を読むくらいは訳ないのですー、

と宣った。

 

こうなるのがきっと分かっていたのだろう。

なぜ彼女が炬燵を俺の部屋に、と言った本当の意味がようやく理解できた。

 

それでも、いくらかの不満、会う度に酒を勧めてくる霞とか、技ならぬ罵詈雑言のデパートと化した桂花だとかはあるものの、

皆が楽しめているのなら炬燵を作った甲斐があったというものだ。

 

それから炬燵のおかげで珍しいものを見ることもできた。

 

ある夜、政務を終えた俺が自室へと戻ると、すぅすぅと可愛らしい寝息を立てている覇王様がいた。

予め人払いでもしてあったのか、珍しく俺の部屋には華琳以外の闖入者を見ることはなく、すやすやと眠る彼女を眺める

一人幸せなひと時を堪能するに至ったのだ。

目を覚ました華琳の、貴方が帰ってくるのが遅かったせいよ、と背けた顔が赤く染まっていたのは何も炬燵の熱のせいだけではなかっただろう。

 

 

 

 

 


 
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